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入浴

前回、御子様ランチを食べるヤツと会いました。

微妙にその続きです。


「こちらが浴室になります」

 ヌルは、案内されるままに男湯の脱衣所に入った。

 隣には普通に女性のアインスがいる。

 もし女湯に通されても困るが、これはこれでいいのだろうか思ってしまう。

「各部屋にはシャワーはありますが、浴槽はありません」淡々と説明を続けるアインス。「ゆっくりと湯に入って疲れを癒したい時などは、こちらを利用してください」

「は、はい」

 これでいいのだろうな、と説明そっちのけでヌルは納得する。

 だが、しかし、

「よお、アインス!」

 風呂場から現れた全裸の男に対し、平然と「フュンフ」と返事するアインスに、おいおい、と思ってしまう。

――お母さんか!

 その余裕な態度にヌルは、心の中でつっこんだ。



 風呂上がりの男は、身体から湯気を出していた。

 床が濡れている事に気付いていないのか、身体からは水滴がポタポタ落ちている。

 そして、女性を前にしているというのに、前を隠さない。

 保母さんと子供なら、なんら思う事はない。

 しかし、ここにいるのは年の近い男女だ。

 いいのか、これ?

「今日は早いのね」

「いや~実は、釣りをしていたノインの事をからかっていたら池に投げ落とされちゃって」

「はぁ…またですか…」

「ははっ。風呂上りの牛乳と同じで、風呂の前にノインをからかう。ある意味、避けられない人間のホンノウに近いな」

「共感しかねます」

「そうか~」

 いいのか、これ?

 いいのだろうな、きっと。

 二人の会話を聞いていて、ヌルは自分にそう言い聞かせた。



「ところで、そいつ誰?」

 パンツを履いたところで、男が訊いた。

 まだ充分といえる装いではないが、それでもやはり「彼は、ヌル」と平然とアインスは答える。「今日からここの住人よ」

「は、はじめまして」

 ヌルが言うと、「よろしく」と男は右手を出した。

「俺は、フュンフ」

 差し出された右手に応えると、思ったよりもガッシリとその手を掴まれた。

 半裸の男に圧倒された、ヌルだった。



 どこか子供のような、だが確実に身体は大人である、フュンフという小柄な男は、パンツ一枚で元気であった。

 風呂上がりのストレッチをしたり、牛乳を飲み干したり。

「げふっ」

 ゲップをしたフュンフは、「そうだ」と思い出したようにヌルに近付いた。

「新入り、あとで女湯の覗き方教えてやるよ」

 乳臭い口を近付けて、フュンフは言った。

「いや…」

 ヌルの中の良心とか体裁とかが、フュンフの言葉を遮った。

 それと同時に、

「聞こえていますよ」

 アインスが言った。

 声は柔和な感じがする。

 顔も笑っている。が、

「フュンフ。もっと大事なことも教えなさい」

 というアインスの放つ雰囲気から、殺気に近いモノを感じた。

「ヌル、大事なことだ…」声に緊張感を滲ませ、フュンフは言った。「ばれたら、殺される。やる時はS級任務と思って心しろ」

 言葉から、あれは恐ろしかった、とでも言うような鬼気迫るモノが伝わってくる。

 つまり、殺されかけた事があるのだろう。

 そんなフュンフに、同情は出来ないし、共感も出来ない。

――いや、やらないし…。

 心の中で呆れるだけのつもりだったヌルだが、アインスの何かを問いかけるような視線に気付き、「いや、やりませんよ」と声に出して宣言した。



 男湯から出たヌルとアインスは、次の部屋へ行こうとした。

 が、出た所で、長い黒髪で顔を隠した、寒そうにブルブルと小刻みに震えている女性と遭遇した。

「どうしたの、フィーア?」

 何事かありそうな彼女を心配して、アインスは声を掛けた。

「アインス…」弱々しい声で、フィーアと呼ばれた女性が答えた。「実は、部屋のシャワーが壊れていたみたいで、水しか出ないの…寒くて…死にそう…」

 言葉に違わず、フィーアは死にそうだった。

 暖をとる為に胸の前で構えている、ユラユラと頼りなく揺れるランタンの火が消えたら、本当に死んでしまいそうだ。

「早く温かい湯につかりなさい」

 アインスが優しく声を掛けた。

「アインス…今、男湯から出てきたわよね。……男湯、今誰かいる?」

「フュンフがいるわ」

「…じゃあ、女湯に入るわね」

 え?

 何か不思議な感じがしたヌルだが、何かを言う前にフィーアは女湯に入って行った。



 次の部屋へと案内するアインス。

 だが、どうしても拭いきれない疑問があり、「あの…」とヌルは訊いた。

「ここって、混浴もあるのですか?」

「いいえ。あるのは、各部屋のシャワーと男女別の大浴場のみです」

「で、ですよね…」

 なにか飲み込めないイガイガを感じながら、ヌルは、案内を進めるアインスの後に続いた。



 その頃。

「げふっ」

 フュンフは、まだパンツ一枚の姿でコーヒー牛乳も飲み干していた。


「っぐぁ~~~~」

 気持ちよさそうに湯につかるフィーアだった。


人物紹介

・フュンフ…小柄で元気な男

・フィーア…静かで不気味な女


各部屋のボイラーは、フュンフが故障させたという裏設定があったりします。あと、たまにフィーアは戯れに男湯に入ります。



続きます。

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