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食堂

前回の終わりで、ヌルが恥をかきました。

その続きです。


 自己紹介をして落ち込むことになるとは思っていなかった、ヌル。

 そんな彼の気持ちには気付かず、アインスは案内を進めていた。

「こちらが、食堂になります」

 アインスは言いながら、扉を開けて中に入った。

 続いて、ヌルも入る。

 中に入ったヌルが見たのは、白いテーブルクロスがしかれた一卓の長いテーブルと二十近い椅子、それに壁に掛けられた絵や花瓶に入れられた鮮やかな花だった。

 食堂というと、ヌルの中では村の酒場のイメージが強く、どこか薄汚れていて誰もいなくても人気を残している、良く言えばにぎやかな、悪く言えば騒々しい場所だ。

 しかし、どうだろう。

 ここの食堂は、テーブルクロスや壁が白く清潔で、ヌルのイメージとかけ離れた高貴さを感じさせる。

「うわぁ~」

 部屋の内装に圧倒されていたヌルの眼に、「ん?」と人影が写った。

 誰かいる。

 白い短髪のいかつい男が、席についていた。

 なんか怖そうな人がいるとヌルが思っていると、こちらに気付いた男が口を開いた。

「よぉ、アインス」

「あら、ドライ」

 ドライと呼ばれた男は、肘をついて組んだ手の上にアゴを乗せ、何かを待っている様だった。

「ん、そいつは?」

「彼が、今日からここに住むことになっていたヌルよ」

「ほぉ、そいつが」

 ドライは、ヌルを見た。

 その眼は、まるでヌルの事を観察しているようだ。

 思わず、ヌルはゴクッと喉を鳴らす。

 そんな緊張しているヌルの前にドライが来て、「ドライだ」と名乗り右手が差し出された。

「あ、はい」慌ててヌルは、握手に応えた。「はじめまして、ヌルといいます」

「ふっ」ヌルの態度に、ドライが微笑した。「なにも取って食おうというワケではない。同じ館に住むのだ、これから何かと接点を持つだろう。気を張る事はない」

「あ、はい」

 ヌルは、ドライの落ち着きはらった態度に、スゴイな と感心していた。

 見た目は同じくらいの二十歳前後だというのに、妙に落ち着いた態度からは、もっと年上ではないかと錯覚するくらいの、紳士的な余裕を感じる。

 こういう風になりたいな、とヌルは憧憬の眼差しを向けていた。

 そんなヌルの視界に、おや、と思う物が入った。

 ここは、食堂。

 つまり、食事をする場所だ。

 そんな所に居たのだから、ドライが何かを食べようとしていた事は容易に予想付く。

 実際、ドライが座っていた所に食事が運ばれてきた。

 そこの前に、「待っていたぞ」とドライは座る。

 なにもおかしくはない。

 そこに置かれたのが、ワンプレートに盛り付けられたお子様ランチでなければ。

 チキンライスの横にハンバーグ、スパゲッティナポリタンにハッシュドポテト、海老フライやポテトサラダもある。

 まぎれもない お子様ランチだ。

 思わず目を疑うヌル。

 紳士然とした男の前に、お子様ランチ。

 その光景を信じられないでいた。

「おい」

 ドライが、どこか怒りを帯びた声で、料理を運んで来た人を呼び止めた。

 やっぱり、とヌルは思う。やっぱり間違いだよね、と。

 この人にお子様ランチなんて似合わないよ。

 しかし、

「旗はどうした?」

 ドライの不満は、チキンライスの上に国旗が無い事だった。



 先の割れたスプーンで、ドライはお子様ランチを食べていた。

 その様子を、唖然として見つめるヌル。

 そのヌルの視線に、ドライは気付いた。

「何か言いたげだな」

「い、いえ…なにも…」

 とてもじゃないが、心の中で小バカにしていたなんて言えない。

 しかし、ヌルの心の中を見透かすかのように、ドライは「バカにするな」と言った。

「お子様ランチこそ、至高。ワンプレートでどんな子供の心でも掴む為に、店の全てを、そして料理人が腕の限りを振るって拵えたモノだ」

「は、はぁ…」

 ヌルにはイマイチ理解出来なかった。

 だが、「これこそ、究極の贅沢だ」とドライが満足そうなので、それで良いことにした。



「食事は、基本的に自炊です」

 何事もなかったかのようにアインスが説明を進めた。

 実際、何もなかったのだろうと納得して、ヌルは話を聞く。

「ですが、料理好きの住人も居て、作ってもらえる事もままあります。事実、住人の中には料理が不得手の者もいます。無理にとは言いませんが、作ってもらえる時は遠慮せず、厚意に甘えるのもいいかもしれません」

「そうだ」

 お子様ランチを食べているヤツが口を挟んだ。

 スルーしたかったのに出しゃばるなよ、と少し思いながら、ヌルは話を聞く。

「何を隠そう、俺も料理は苦手だ。が、食にはうるさい方なので、料理人にアレコレ注文を付けることもしばしばある。たまには、それが文句のように聞こえるかもしれない。だが、口に会わないモノを『美味い』と自分を偽りながら食べるのは、果たして正しいことか? もっと美味しく作れる可能性を感じたのならば、それを伝えるべきだ。そして、食に対して真摯に向き合うのならば、食材となった命に敬意を払う意味でも、妥協は許されるべきではない」

「……はぁ」

「例えば、チキンライスは、具材を炒めてから、白米を入れる前にケチャップを入れ、軽く水分を飛ばす方が、俺はイイと考える。余談だが、オムライスは、薄い卵で包んである方が俺の好みだ。トロトロ卵もいいが、アメリカンフットボールの様な形に綺麗に包まれたオムライスを見ると、感動すら覚える」

「……はぁ」

 落ち着き払っていて寡黙そうな外見とは裏腹に、良く喋る。

 ヌルは、少し呆れていた。

「ヌルは、料理できますか?」

 アインスが質問した。ヌルが驚く程、ドライの喋りを無視して。

「あ、はい。少し。……アインスさんは?」

「私も、少し、ですね。」アインスのように綺麗な人の料理を食べてみたいとヌルは思ったが、「とても人にお出しするような物ではありません」とアインスが言うので、それは無理そうかなと諦めた。

「いや、アインスの卵焼きは、絶品だ」

「ありがとう、ドライ。では、次に行きましょうか…」

 笑顔で流したアインスを、スゲーとヌルは感心した。 


人物紹介

・アインス…ブロンドのロングヘアーがまぶしい大人の女性

・ドライ…紳士に御子様ライス


登場人物の現段階でのイメージを書きました。



続きます。


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