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必殺の技


「ヌル! 聞いたぜ」

 ヌルがミッションを終えて帰ってくると、フュンフが声をかけて来た。

「何を ですか?」

「俺とヌル、戦闘スタイルが似ているってな」

 仲間を見付けたと言った様子で、フュンフは嬉しそうに笑った。

「ああ」そのコトか、とヌルは理解する。「たしかに、近いかもしれませんね」

 ヌルは、特に武器を持たず、己の肉体かその場にあるものを即興で利用して戦うという戦闘スタイルをとっている。その、特に武器を持たない、という点で、フュンフは仲間意識を感じていた。

「だろ!」

「でも、似て非なるものだと思いますよ」

 ヌルは、突き放すつもりはなく、思ったことを口にした。

 実際、アインスから聞いている、拳打を主として戦う徒手空拳の戦闘スタイルをとるフュンフとは、異なる点が多い気がする。それに、専用の武器を持たないヌルと違って、フュンフは、拳の所に鋼がついている手袋を持っている。

 だが、「細かいことは気にすんなよ!」と、フュンフは笑い飛ばした。

「そんなことより、訊きたい事があんだ」

「なんです?」

「お前、どんな技 持ってんだ?」

「技?」

 ヌルは、首をかしげた。



 わくわくと期待を込めた目で訊ねてきたフュンフ。

 しかし、なんのこと? と、ヌルは不思議そうにしていた。

「もしかして、持ってないのか?」ウソだろう、とフュンフ。

「持っているのが普通、なのですか? というか、必殺技って…」

 まるでマンガやゲームのようだ、とヌルは苦笑した。

 だが、信じ難いといった態度をヌルがとることが、フュンフは信じ難かった。

「マジか…」

「……マジ、かもしれません」とたんにヌルは不安に襲われた。「え、その、技っていうのは、他の方も持っているモノですか?」

「みんな持っているぜ。数や内容までは詳しくないけど…」

「アインスさんも…?」

「アインスも」

 その名前が出たことで、不安はどんどん強くなった。



 必殺技の存在の真偽を確かめたいヌルは、フュンフの技を見せてもらった。しかし、フュンフの披露した技は、ヌルの期待するような説得力、つまり派手さがなく、う~ん、とヌルは唸った。もっとわかり易い技を、これぞ必殺技だと納得するような技が見たい、そうヌルが頼むと、

「いいですよ」

 アインスが快諾した。

 手の内を晒すようなマネできるワケ無いだろうと突き返される覚悟を持ち、ダメ元でアインスの部屋に頼みに行ったら、すんなりとOKしてくれた。

「事情はだいたいわかりました。私でよければ御付き合いしましょう」



 さすがに室内では出来ないということで、アインスに先導される形で屋外に出た。

 アインスは、障害物の少ない広い土地まで足を運び、そこに直径十センチほどの丸木を突き立てた。

「準備が出来ました」アインスは、丸木から十メートル以上離れた位置で、既に鞘から剣を抜いていた。「それでは、恐縮ながら披露させていただきます」

 剣を構えたアインスは、気持ちを落ち着かせた。静かに体内の力を一点に集中させているように、ヌルには見えた。事実、アインスは剣の切っ先に意識を集中させていた。

「いきます」

 アインスが言うと、周囲にピンと張り詰めた緊張感が走った。



 結論から言うと、ヌルは必殺技の存在を認めた。

 アインスが剣を振るうと、まさに一閃、光が走ったような気がした。

 そして気付くと、丸木が斜めに斬られていた。

 斬撃が飛んだとしか、ヌルには思えない。

「いかがでしたか?」微笑を浮かべ、アインスが訊ねた。

「お、お見事です…」

 ヌルは、苦笑した。



「必殺技について知りたいそうですね」アインスが言った。ヌルが頷いたので、アインスは「ヌルにはまだ早いと思いますが、知っておくのもイイかもしれませんね」と続ける。「狩人となる人は、普通の人間と一線を画する存在になります。それは、危険な職に就くという意味だけではなく、肉体的な意味合いを持ちます」

「普通の人より強いってことですか?」

 ヌルが言うと、アインスは首をかしげた。

「あながち間違ってはいませんが、厳密には違います。狩人と呼ばれる人間は、全身の力を一気に爆発させる術を、全員ではありませんが、持っています。人間の中に眠っている力というのは未知数で、その力を全て解放しようとすると肉体が耐え切れず、己を傷つけることになります。よって、普段は脳が無意識に力をセーブしているのです」

「はい」その理屈は、ヌルも聞いたことがあった。

「そのセーブしている力を解放すること、それがほとんどの狩人が持っている力です」

「あの…」自分は持っていないのだが、とヌルは不安になる。

 そんなヌルを見て、アインスは「大丈夫」と微笑した。

「狩人の絶対条件というワケではありません」

「でも、みんな持っている…」

 悔しそうにヌルが言うと、優越感に浸った笑みを浮かべながら「子供みたいだな」とフュンフが言った。「みんなと一緒じゃないとイヤ、ってカンジ?」

「無視しましょう」アインスは、笑顔で「説明を続けます」と言った。「本来眠っている力を解放すること、それがいわゆる必殺技です。力の解放の仕方については、また今度説明しますね」

「訓練すれば、出来るようになりますか?」

「良くも悪くも、ヌル次第です」

 アインスにそう言われ、頑張ろうとヌルは思った。



 アインスに無視されたフュンフは、何かを練習していた。

 そして、何かを掴んだようだ、ニッと口の端を上げた。

「ヌル!アインス!」

「どうしたのですか、フュンフ?」

「アインスを見て、なあるほど、ああいうことをすればいいのかと学んだぜ」

「学ぶという言葉を知っていたのですね」

 意地悪っぽく、アインスが言った。

「学ぶぜ、俺は。日々常に学びだ」

「それで、何を学んだのですか?」

「どういう技を披露すればいいのか、をだ」



 ここでは面白くないということで、フュンフに先導される形で場所を移した。

 ヌルは、近くの村の特に人の多い所まで足を運んだ。

「準備いいぜ」フュンフは、人の多い通りの端で、拳を軽く握って腰を落としていた。「見せてやるよ、俺の必殺技」

 右手を引いた構えを取ったフュンフは、気持ちを落ち着かせた。静かに体内の力を一点に集中させているように、ヌルには見えた。事実、フュンフは右の拳に力を集めていた。

「いくぜ!」

 フュンフが言うと、ヌルとアインスは少し緊張した。



 結論から言うと、ヌルは呆れた。

 フュンフが正拳を放つと、まさに疾風、勢い良く風が走った。

 そして気付くと、村の女の子達のスカートがめくれた。

 くだらないとしか、ヌルには思えない。

「どうだ?」

 満足気に、フュンフが訊いた。



 拳を突き出した勢い、つまり拳圧で風が起こった。

 それは、すごい。戦いでまともに食らえば、間違いなく吹っ飛ばされるだろう。

 しかし、それで起きた結果は、しょうもない。

 ただのすごいスカートめくり。

 ヌルは、呆れた。

「どうだ?」フュンフは、得意気に訊いた。「あの右奥の子、可愛かったな」

 フュンフとしては、自分の力を誇示するつもりだった。

 スカートめくりは、そのおまけ。

 しかし、そのおまけが余計だった。

「フュンフ!」アインスに怒られた。「謝って来なさい」

「でも、アインス…俺じゃなく、風の悪戯だぜ?」

「言い訳はいいから、早く行きなさい」

「はいっ!」

 アインスに命じられ、フュンフは頭を下げて回った。

 その速さたるや、さながら疾風の如く。


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