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第九話:学ランと水着の関係

九、

 僕は今、とある道場の前に立っている。

「・・・『臙脂得琉道場エンジェルどうじょう』か・・・この町には意味不明な道場が沢山あるなぁ・・・」

 帰宅途中、運悪くばあちゃんにあってしまった僕は

「新しい看板がまた、見たくなった。鏡輔、とっておいで」といわれたからやってきたのだが・・・ばあちゃんの突発的看板欲求病にははたはた、困ったものだな・・・


「・・・失礼しまーす!」

 道場の扉を開けるとそこには一人の外国人が立っていた。

「ワット?」

「あ〜すみません・・・」

 しまった、ここは英語で話したほうがいいのかと悩んだところ・・・

「オット、コイツハイキノイイモンカセイガコロガリコンデキタZ!」

 完璧に間違えているのを感じながら僕は謎の外国人に話しかけた。

「ええっと・・・門下生じゃなくて・・・道場破りですけど?」

「ドージョーヤ、ブリーフ!?」

 変なところでいちいち言葉を切らないでほしい。読み取るこっちもそれなりに大変なのだ。

「ソイツハデンジャァナボーイダ!イキテハカエサンゾ〜ウサン!」

 某アニメの下ネタ(最近見てないな)を実際にやろうとしているのを見て取って僕はそれをとめる羽目になった。

「・・・イイデショウ!ワタシノカンバンホシイノナラ・・・・ショウブデェス!」

「はぁ、わかりました・・・」

 謎の外国人は指をぱちりと鳴らすと・・・なんと!道場が軋みをあげながら先ほどまで畳敷きだったところから25メートルのプールが姿を現す。深さは約1.8メートルってところだろう。

「・・・・では、あなたにはこれに乗ってもらいます!」

「うわ、普通に日本語しゃべれるならしゃべってくださいよ・・・」

 出してきたのは謎のたらいだった。金色をしていて、よくコントで使われたりしているあれだ・・・それが、この道場と何か関係しているのだろうか?

「・・・・これに乗るって?」

「もちろん、私とこのたらいに乗って・・・勝負するに決まってマース!勿論、その場合はこの漢の服・・・“学ラン”を着用することを義務付けます!」

「はぁ、そうなんですか?」

 どのようにして使用するのだろうか?この大き目のたらいならたしかに、僕が乗っても大丈夫だろうが・・・・ああ、このたらいに座って手で水を掻いて前に進めばいいのだろうか?

 早速やろうとする僕に謎の外国人はそれをとめた。

「ノー!それでは勝負になりませんし、“漢”ではありませぇん!」

「・・・それなら、どうするんですか?」

「・・・こうするのでぇす!カモ〜ン!マイフレンズ!」

 口笛を鳴らすと・・・・天井から二人の男が降ってきた。

「・・・・」

「・・・ボォーイ!見てなさぁい!こうするのでぇす!」

 静かな水面におそるおそるたらいを浮かべ、彼はその上に立って腕を組んだ。たらいが揺れるたびにこけそうになるところが面白い。

「・・・それで?」

「次に・・・マイフレンズたちに・・・押してもらうのでぇす!」

 指を鳴らすとその二人は本当に押し始めた・・・普通だったらたらいに乗っている外国人はバランスを保てずそのまま失墜・・・そして、彼はプールでおぼれるはずだと思っていたのだが・・・

「な、何だって!」

 あいつはまったく転げ落ちることなく、うまくバランスを保って二十五メートルを泳ぎきった。

「・・・ふふ、君にできるかな?」

「・・・・いや、普通に考えてそれは無理なんじゃないんですか?そんなことできる人がいるとは思えませんし・・・ほら、今僕には押してくれるマイフレンズ・・がいませんし」

「いや、先輩のまいふれんず・・・ならここにいますよ」

 どこから現れたのか・・・隣にミストが立っていた。

「・・・ミスト・・・」

「先輩、私に任せてください」

 どこで準備をしてきたのだろうか・・・彼女は胸元に『みすと』と書かれているスクール水着を着用していた。

「・・・でも、もう一人いるんじゃないかな?」

「いえ、私一人でかまいませんよ・・・・いざ、尋常に勝負です!」

「いいでしょう!この私にかかってきなさい・・・」

 こうして、僕とミストVS謎の外国人とそのマイフレンズの不毛な争いが始まったのであった。


「それでは・・位置について・・・よーい・・・」

 どこから現れたのか知らないが、一人のおじいさんが協議用の鉄砲を天に向ける。

「どーん・・といったら進むのじゃよ?」

 とんでもねぇ、爺さんだ。いきなりフェイントをかけてきたのだが・・・僕の乗っているたらいを掴んでいるミストは精神集中しているのかそのフェイントには引っかからなかった。

「く、フェイントにひっかからないとはやりますね」

 自分たちが仕掛けたのだろうが、自分たちでその罠に引っかかっていては意味がないだろう・・・彼らは僕らより先に進んでいた。

「・・・外国人チームフライング一つ目!」

 そう告げる爺さん。

「それでは・・気を取り直してヨーイドン!」

 こうして、僕たちの勝負は始まった・・・・

「ははは!私たちに勝てるものはひとりもいませーん!」

 輝くたらいに腕を組み、両の足をしっかりとつけて外国人は叫ぶ。したの二人がいつの間にか黒子の格好をしていることに驚いたのだが・・・よく、あんなものをつけて泳げるな・・・

「・・・ぶくぶく・・・」

 そして、肝心の僕のほうなのだが・・・・

「ミスト!しっかりしてくれ!」

「せ、先輩・・・実は私、かなづちなんです・・・」

 そういって必死に僕の乗っているたらいを掴んでいる。

「・・・・」

 この子、本当に大丈夫なんだろうか・・・そう思いながら敵である相手のほうを見やると・・・彼らがゴールするにはもう時間がないようだった。

「・・・ミスト、悪いけど・・・耳を貸してくれないかな?」

「え・・何をするんですか?」

「いいから・・・」



「ははは!やっぱり我らの勝利のようでーす!彼らは既にご臨終DEATH!」

 そういって外国人チームは残り五メートルを後ろを振り返り・・・・

「いまだにスタート地点なんて想像もできませーん!なんで目をつぶっているのかもわかりませんねぇ」

 少しだけとまった。これが、彼らの敗北要因だった。

「ちょっと、待ってあげましょう。私は心のひろーい人間ですからね」

 あわてぬウサギは勝負に負ける・・・・彼らの隣を何かが通過した。

「は?」



 僕は向こう岸に着いた衝撃でそのまま前のめりに突っ込んだ。そして、顔をいやというほどぶつける。

「あいたた・・・鼻血が出てる・・・」

 血がぼたぼたと流れ落ちているのを確認しながら・・・僕はかなづちであるミストを助けに行った。

「こ、来ないでください!」

「ああ、そういえば水着を脱いだんだっけ?」

 それから数分後、なんとかたらいにつかまっているミストを引っ張りあげて僕はため息をついた。

「・・・ミスト、今回は助かったよ」

「今回は?」

「まぁ、君に助けられたのはこれで初めてだからね・・・」

 今度は外国人さんに近づく。黒子さんたちが悲しみに打ちひしがれている外国人さんを慰めることなく、ただ近くに立っている。

「・・・・・今日は完敗デー・・・京都のワインで乾杯デーです!」

 どこかのねじが外れたのかわからないが、彼はおかしくなっていた。

「あの・・・僕の勝ちでいいですよね?」

「え、ああ・・・好きなようにしてくださーい!私は実家に帰らせてもらいマース!」

 そういって彼と黒子さんたちは姿を消した・・・去り際に

「私は忍者になりマース!」といっていたのがなんとなく、印象に残った。

「・・・・ミスト、帰ろうか?」

「はい、そうですね・・・」

「でも、そのスクール水着で帰るの?」

「・・・・先輩、その学ランを貸してください。それを羽織って帰りますから・・・・」

 学ランを渡して、僕とミストは道場を出た。学ランを羽織ったミストだが・・・・なんだか、白い足が見えたりして逆になんだか・・・・よかった。

「はっ!いかんいかん・・・」

「先輩、早く帰りましょう?」

 カンバンを背負っているミストの後を追いながら僕はそんなことを考えたのだった。


「へぇ、ここが先輩のおばあさんの家ですか?立派な庭園もあるんですね・・・あのような池を我が家につけたいものです」

 目の前の光景に彼女は驚いて・・・・庭の近くにある池に近寄ろうとしたので僕はそれを止めた。その池がどれほど危険なのか僕は知っていたからだ。その池が危険だということを知っていれば誰も近づくことはあるまい・・・

「・・・あの、先輩・・なんで止めるんですか?」

「ミスト、信じてくれなくてもかまわない・・・僕はあの池に近づいて君がまるでめだかみたいに食べられてしまう光景が見たくないんだ・・・あの後、僕は夢の中で赤くてすばやく行動していたあいつに追いかけられているんだ!」

「・・・・・赤い○星ですか?」

「違う!」

 不思議そうな顔をするミストを引きずって僕はばあちゃんの家に入ったのであった。

「おや、今日も可愛い女の子を連れてきたねぇ?」

「・・・先輩、この人おばあさんにみえませんよ!」

 そうだろう、彼女は会うたびに微妙に変わっていく。聞いた話では僕の父さんよりちょっとだけ歳がうえだそうで・・・父さんはこの人の養子だそうだ。

「・・・そうだろうね、実際はすごく若いに違いないよ・・・すみません、この子は僕の後輩で名前は・・・霧月霧仔さんっていいます」

 隣に刺さったガラス片に自分の引きつった顔を映しながら僕はそう答えた。

「・・・・そうかい、それなら結構だが・・・・鏡輔、お前はその子をどうしたいんだ?」

「・・・ミストですか?僕は・・・・」

 考えた結果を答えようとしたのだが、ミストが先に口を開く。

「・・・いえ、どうしたいも何も、私はただ単に先輩が困っていたから手を貸しただけです」

「ほぉ、近頃の後輩はけなげなもんなんだねぇ・・先輩の頼みで水着の上に学ランか・・・鏡輔、お前の趣味があやぶまれるね・・・」

 まぁ、確かにこの組み合わせはなかなか・・・・ではなく!

「違います!僕が望んでこんな姿にしたわけでは・・・・」

「え?でもその学ランは鏡輔から渡されたものなんだろう?」

「え、そ、そうですけど・・・」

「それなら、似たようなもの・・いや、そのまんまじゃないのかい?」

 そういわれたら確かにそうかもしれない・・・・

「と、とりあえず・・・私はこれで帰ります。失礼しました」

 そういって彼女は僕の背中を通る途中・・・・

「また、何か困ったことがあったら呼んでください。その・・・こういう格好をしてほしいとのことでもかまいませんから・・・・」

 壮大な誤解を残して去っていったのであった。


 その後、僕は家に帰って三人の質問攻めにあった。理由は

「あまりに家に帰ってくるのが遅い」というものだったのだが

「ばあちゃんの家にいた」という一言で静かになった。


久しぶりの更新となりましたが・・・どうだったでしょうか?面白かったらこれ幸い・・・です。さて、これからの予定を報告していきたいと思っています。ちらほらと出てきているミストに・・・一応、一番初めに登場したシルバの関係を次に書きたいと思っています。

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