第六話:恋文?→幽霊?→謎の少女?(前編)
六、
出会って間もないのに、あの三人がいないと心さびしいと思うのは、僕の勝手だ。だが、世の中にはそういうことが必然と起きるようになっているのだろう。今日は彼女たちは腹痛で休み・・・まぁ、僕もそのお仲間になることができたのだが・・・あんな苦しそうな顔をみると自分が卑怯であったのを誰が責めようか?まぁ、家に帰ったらあの三人に(実力で)攻められそうだ・・・・
放課後、シルバたちが学校を休んでしまっているので僕は一人で帰るために下足箱に向かっていた。教室を出るのが遅かったためか、先ほど女子生徒が一人ばかり脇を走っていったきりで誰とも会っていない。
「・・・はぁ、一人はやっぱり寂しいもんだな」
自分の下足箱を確認して扉を開けると・・・・一つの封筒が落ちてきた。
「?」
拾い上げてみると、
「田中 弘樹君へ(はぁと)」という文字が目に付いた。どうやら、弘樹宛のラブレターのようだ。
「・・・・僕は自分の下足箱に入っていたゴミをゴミ箱に持っていっただけだ・・・別に、悔しくなんてない!悔しくなんてないからな!」
捨てようとしたらその封筒に重なっていたのか知らないが、もう一つ封筒を発見した。
「ちくしょー!僕をそこまで悲しませたいのかよぉ!どうせ僕にラブレターが来たことなんて一度もないさ!」
どこのどいつだろうかと名前を見てみると、そこには
「白河 鏡輔さんへ」と書かれていた。これは・・・・・これは・・・・・
「僕宛だ!僕宛だ!でも・・・これはもしかしたら誰かのいたずらかもしれないな。この封筒のとおりに進んだら意外と不良に出くわすかもしれないし・・・」
あけるべきかどうか考えるべきなのだろうが、僕は・・・・別に不良なんてどうでもよかったのであけることにした。
「・・・午後七時この学校の屋上に必ず一人できてください。待ってます・・・こいつは来たぜ!」
僕はそのまま、足取り軽く・・・弘樹の下駄箱に彼宛の手紙を突っ込んで屋上へ颯爽と駆けていったのであった。ふ、小さな幸せのおすそわけさ。やっぱり、他人のラブレターを捨てたりしたらだめだよね。それは、彼女ができない奴の鬱憤晴らしさ・・・
屋上、夜空に輝く星たちを眺めていると背後で音がした。高鳴る僕の心と汗の吹き出てくる手・・・・振る向く僕の視線・・・そして、目の前に木刀を持っている少女・・・?
「・・来てくれたんですね、先輩」
「・・・君がラブレターをくれたの?」
「ラブレター?それは・・・何かの間違いでは・・・?」
そういわれ、僕は再び手紙のほうを読んでみる。
「・・・果し合いをしたいので午後七時この学校の屋上に必ず一人できてください。待ってます・・・」
どうやら、前の部分を読むのを忘れていたようだ。なんて、間抜けな勘違いだろうか・・・よし、今から弘樹のぶんのラブレターを破ってこよう!これが一番の鬱憤晴らしになることに違いない。くくく・・・あんな野郎に彼女はもったいない!
「・・・どこに行くんですか、先輩?」
「何って・・・鬱憤晴らし?残念ながら僕は女の子と拳について語り合いたいんじゃなくて愛を語り合いたいんだ。だから、他の暇そうな改造制服や奇抜な髪型をしているお兄さん方と遊んでほしいね。じゃ、ばいばい」
そういって彼女の隣を横切ろうとすると彼女の木刀が僕の首を狙ってくる。
「・・・な、なんてことするんだ!」
僕はぎりぎりでその攻撃をよけ、バックステップ。彼女も同じように僕から距離をとっているのだが、僕を逃がさないようにするためか・・・屋上の扉に立っていた。
「・・・先輩、逃げるなんて普通はしませんよ。それに、私はあなたを・・・」
彼女は少しだけ背を低くして腰の部分に刀を当て、目を閉じて右手を高らかに掲げる・・・何かのおまじないであろうか?
「・・・『奥義 霧潰し』・・・」
「・・・!?」
辺りに霧が立ち込めていき・・・そのまま僕の視界は霧でいっぱいとなった。そこまで離れていないはずの彼女の姿も見えなくなる。でもまぁ、名前がそのままの奥義でひねりがないもんだな・・・といったらきっと怒るに違いない。
「・・・・先輩、これで逃げることができなくなりましたね・・・まじめにやってほしいものです」
四方八方から相手である謎の少女の声が聞こえてくる。どれも耳に残るようでとても気持ち悪いもので冗談だと思ったのだが・・・・何かに見られている視線もまちがいなく感じるので相手は本気だということだ。
「・・・だが、甘い!そんなことで僕の鬱憤晴らしを邪魔できると思うなよ!」
僕は屋上の端が見えてくるまで駆け出した。目の前に彼女がいないことを祈りながら・・・そして、屋上の端まで来るとそこに結ばれている緊急用のロープを掴んで一気にしたに降りる・・・が、途中でロープがすぱりと切れていた。
「うぉっ!」
屋上から彼女の言葉が聞こえてくる。
「・・・・途中から今、切りました。これ以上逃げようとするのならばここから切らせてもらいますよ?」
僕は隣の窓の鍵が開いていることを確かめ、あわてて誰もいない教室に逃げ込む。
「冗談じゃない!こんなところでやられてたまるかぁぁぁ!」
「く・・・まだ逃げますか!」
そのまま教室を脱出し、かばんを屋上に忘れたことを後悔しながらも目指すは下足箱・・ではなく・・・とりあえず隠れることができる場所だ。ここにいてはいずれ居場所がばれてしまう。
廊下を全速力で駆け巡りながら隠れる場所をリストアップ。この付近にはあまり隠れる場所がないが・・・・
「・・・・ここは男子トイレに隠れたほうがいいか?いや、男子トイレではばれるだろうな・・・ならば、女子トイレだ!」
そのままトイレへと向かい、普段入ったら間違いなく生徒指導室という牢獄に連れて行かれる禁断の場所へと僕は入ったのであった。
「一、二、三・・・よし、ここは一番奥で三番目のトイレをチョイスだ」
そして、いわくがありそうな個室へと入った。別に何かいると聞いたことがないし、確認したこともないトイレへとはいってとりあえず誰かやってこないだろうかと耳をそばだてる・・・・
コツ・・・コツ・・・
どうやら、追跡者がやってきたようだが・・・あの凄腕の女の子が音をたてるだろうか?少しばかり疑問に思った僕だったが、こちらは音を立てないように細心の注意を払って再び耳をそばだてる。
コツ・コツ・コツ・・
女子トイレに間違えることなくやってきたらしく相手はすこしばかり歩調を速めたようだ。
ここで飛び出したら間違いなく切り捨てられるに違いない・・・だが、相手はそのまま僕のいるトイレを通過していき・・・僕から見て右のほう・・・四番目のトイレの扉を開けたようだ・・・・四番目?確か、三番目のトイレに入る前にこのトイレは三個までしかなかったような気がするんだけど・・・・ま、まさか・・・
「・・・・ここじゃな〜い・・・・」
「・・・・」
恨めしそうな声が僕の耳にこだまする。どうやら、あの子ではない『何か』が僕を探しに来たようだ・・・しかも、四番目から探している・・・出るなら今のうち・・・だけど、廊下であの女の子に出くわしたら切り捨てられるかも・・・
コツ・コツ・コツ・・・
いや、正直言ってこれは洒落にならん・・・・この高校に何も怖い話しがないとは言い切れないし・・・いや、確か聞いたことがある!そう、確か名前は・・・『ないはずの南棟の二階女子トイレ四番目の幽霊』という少しばかり名前の長い怪談だったと思う。
そういえば、この高校には七つ以上の『七不思議』があるんだったかなって・・・そこは今のところ関係ないな、うん。
話の内容はどこにでもあるような話しだったな。
『四番目のトイレは実は、幽霊がいるから姿を見せることがない。だが、この空間に元来、あってはならないことがおきるとその幽霊がそのトイレを開放する・・・』というものだった。意外とこの手の話を忘れやすいのは僕がそういうのが苦手だからだろうか?まぁ、それはいいとして『元来あってはならないこと』とは・・・つまり、『女子トイレに男子が入る』ことだったのではないだろうか?
コツ・・・
僕の入っているトイレの前で何かが止まる・・・これは正直言って見ることもできないので・・・僕は天を仰ぎ・・喜んだ。なぜなら、隣のトイレに移動できるスペースがどうやらこのトイレにはあるみたいだからだ。そう、そこから先ほどまで幽霊がいたトイレに向かえばもしかしたら助かるんじゃないかと思ったからである。
僕は迷わず実行した。両手を急いで壁に引っ掛けて普段は存在しないトイレに侵入!!
「・・・あれ?」
うまくトイレに降り立つことができたと思ったらそこは校庭であった。女子トイレではないし、夜空には月が僕を照らしている。
「・・・どうやら、うまく脱出できたようだ・・・・」
命があることに感謝しないと・・・と思いながら僕は上履きのまま家を目指してランニングを始めたのであった。
次の日、シルバ、ダークと一緒に学校に登校していたのであった。
「・・・私たちが休んでいる間にそんなことがあったんですね」
「・・・まぁ、それも私たちにあんな化け物の肉を食べさせた鏡輔が悪いんだろうがな」
「確かに、罰が当たっていっても過言じゃないような・・・あれは本当に、こわかった。夢にも出てきたからね・・・・」
そんな話をしながら僕たちは学校の門をくぐっていったのだが・・・
「・・・でも、それが実は鏡輔さんの見ていた幻覚だった・・ということだったらどうするんですか?」
「・・・え、僕の言ったことが信じられないの?確かに体験しなかったらシルバは・・」
「いえ、そういうことを言ったんじゃないんですよ・・ええとですね・・・」
頭の中で言葉をまとめようとしているかのように見える仕草をとってシルバは口を開いた。
「・・・鏡輔さんが霧を相手にかけられた・・・といってましたね?」
「うん」
「そのときに相手が何かしらの術を使ったとしたらどうでしょうか?」
それならば、僕は無駄に怖い思いをしたということになる。
「・・・嘘・・・でも、僕が走ったのを証明する上履きという証拠だってあるし、それはどうかな・・・」
「・・・いえ、幻覚といっても鏡輔さんを徹底的に怖がらせて何かしらしようとしたのでしょう・・・ですが、鏡輔さんは相手が思いもしない行動をとった結果・・・助かったということですよ」
とりあえずあいての術を破ったということなのだろう・・・しかし・・・なんだか納得いかないな・・・
そう思っていたのがばれたのか知らないが、ダークは僕を見て安心させるようにこういったのであった。
「・・まぁ、鏡輔ならひっかかりそうだろうけどなぁ・・とりあえず、鏡輔が無事にその幻覚から抜け出してきたんだろう?それなら今のところは大丈夫なんじゃないか?」
気休めかもしれないが今はそれで十分だろう・・・これ以上、少しばかりはやい怪談を体験したくはない。
「・・・・もしかして、その木刀持った少女のほうがお化けだったりして・・・」
「え・・・」
「どんな服着てました?」
「・・・そういえば、依然この高校で着ていた制服だったような・・・」
「そのときに剣道部に所属していた女の子の幽霊に違いありませんよ!」
嬉々として持論を展開しているシルバだったのだが、僕のほうはそうとは思えなかった。
「・・・シルバさん、それはどうかと私は思いますよ・・・」
どうやらダークもその考えに待ったをかけたいようだ。これが、常識人の考えなのではないだろうか?
「・・・・きっと、居合い部の部長の幽霊に決まってます・・・」
どうやら、僕だけが常識人のようだ・・・まず、居合い部なんて聞いたことがないぞ。
「え〜きっと剣道部ですよ。」
「いえ、居合い部に違いありません。」
どこを根拠にそう話しているのか知らないが・・・僕はそれ以上くだらない話しをしている二人に付き合っているほど暇ではなかった。
放課後、今日もわけあって一人で下足箱にやってきた。自分の下足箱を開けるとそこには・・・・封筒が再びおいてあった。
「・・・まさかね・・・」
心の中で祈りながらも封筒を開けると・・・・『屋上で待ってます。ちなみに、私はゆうれいではありません』とだけ書かれていたのであった。
幽霊ならば怖くない僕は・・・昨日のお返しをしたいがために今日も一人で屋上へと向かっていったのであった。正直、あんな少女に馬鹿にされたという心が少しだけ、あった。
第六話・・となりました。この話ではお化けっぽいものが登場していましたが・・・その部分を書いていると背筋に何か冷たいものがはしったような気がしました。まぁ、気のせいであると信じましょう!ちょっと話は変わりますが・・・この作品が面白いのでもうちょっと続けてほしいと思っている方はぜひ、評価してください。読んでくれる方がいるならば続けていきたいのですが・・・それ次第です。もし、終わっちゃった場合は『人類の・・・・』を連載したいと思っています。では、こんなわがままな作者ですが今後とも、よろしくお願いします。




