第十三話:図書館と地下、そしてラルド君
十三、
昼休み、僕は図書館にいた。別に、本を読みに来たのではなく図書館の先生が言っていたことをこなすためにきたのだ。ちなみに、一人では無理だったのでヘルプ人材・・・・・
「カオス、この本はもっと奥のほうにおいて欲しいだって」
「なるほど、わかりました・・・・」
カオスをつれてきたのだ。他の二人は今頃別の場所で仕事・・・いや、お仕置きをされているだろう・・・・大体、僕は図書委員でもなんでもないのに・・・・図書館の先生に捕まってしまったのが間違いだった。
図書館の先生は非常に人使いが荒いということを聞いたことがあり、この前だって不良生徒がこき使われているのを目撃した。生徒をこきつかうのは先生の特権・・・らしいので誰も文句を言っていない。それに、一週間に一度ほどは誰かが犠牲になったりするものだ。
「まったく、あの二人は・・・・」
「まぁまぁ、さっさと終わらせて私たちもここから逃げ出しましょう」
シルバとダークは僕と一緒にいたのだが・・・・逃げたのだ。途中、彼女たちの悲鳴が聞こえてきたのできっと先生に捕まったのだろう・・・・そのまま別の場所に連れて行かれて想像も絶するようなことをされているに違いない。
「ほら、手が止まってるぞ?」
「・・・はい」
僕も今となっては逃げていない・・・もとい、逃げることができない。先生はあれからずっとこっちを見ているし、途中歩いていたカオスを呼ぶくらいしか僕にはできなかった。
「・・・・その資料はこっちの棚に・・・・それで、お前が右手に持っているものはこっちの棚だな」
先生はてきぱきと野次を飛ばし・・・僕たちはまるで馬車馬のようにせっせと働いていたのであった。そろそろ、昼休みも終わりを告げそうで・・・・
キーンコーンカーンコーン!
「先生、予鈴がなったんで帰っていいですか?次、移動教室なんで・・・・」
僕は先生返事を待たずに隣を歩いていこうとして・・・・
「おいおい、何を言っているんだ?」
首根っこを掴まれてしまった。
「黒川先生・・・・あの、私たちはこれで・・・・」
同じように脇を通ろうとしたカオスも首根っこを掴まれる。先生はメガネの奥から不機嫌そうなまなざしをこちらに送っている。
「・・・次は何の授業だ?僕が連絡をいれておこう」
「え〜っと、次はなんだったけ?」
「確か・・・理科でしたっけ?」
「そうか、それなら僕が今から連絡を入れておく。それじゃ、二人は先に進めておいてくれ」
そういって僕らを放すと先生はあっさりといなくなった。走って去ったような雰囲気もなく、その場から消えてしまったようだ。
「・・・・あの先生さ・・・どことなくダークに似てない?」
「当然ですよ、あの人はダークさんのお父さんです」
「でも、ダークの苗字って『黒川』だったかな?確か、『黒山』だったと思うけど・・・」
そういえば下の名前はなんだったかな?まぁ、いいか。
「へぇ、じゃあ・・・・あの人も龍なのかな?」
「どうでしょうか?」
「・・・・あと、つけてみようか?」
「どこに行ったかもわからないのにつけることなんてできるんですか?あの人・・・かなりのやり手ですよ?」
さすがに強さの格が違うのに既にカオスは気がついていたようだ。
「まぁ、いいんじゃないかな?とりあえず、ここを終わらせて・・・・」
それから約一時間ほどだってこっちの仕事が終了・・・気がつけば先生が近くの椅子に座って読書をしていた。
「・・・・つけることもできませんでしたね?」
「そうだね、とりあえず終わったことを報告してこようか?」
二人でそのまま黒川先生のところまでやってきて終了したことを報告。
「ふぅ、まぁまぁだね・・・ああ、そういえば・・・」
そういって何かを取り出した。それは、メガネだった。
「・・・メガネ?」
「ああ、君のお父さん・・・輝にこのメガネを渡しておいてくれ。これはあいつが僕に注文していたものだからね」
「わかりました・・・・でも、父さん・・・いえ、保健の先生はもう帰ってきているんじゃないんですか?」
今日の朝、ようやく父さんたちは家に帰ってきたのだが・・・・僕らに挨拶をしてさっさと学校に行ってしまったのだ。
「いや、僕があいつの前に姿を現すと少々・・・いや、かなり厄介な奴がやってくるからね。僕としては今輝の前に姿を現すのは避けたいんだ。ここだって完全に安心ってわけじゃないからね」
「?」
「ま、君たちに言ってもわからないだろうけど・・・僕の従妹がちょっとね・・・やっかいな性格なんだ。ちょうど輝のところに来ているから会いたくないんだよ」
つまり、先生は苦手な従妹さんがきているので父さんに会いたくないのか・・・それより、父さんと黒川先生が知り合いなのを驚いたな・・・
「あ〜そうだった。ダークとシルバさんをこの学園の地下においてきたから予備に言ってくれないかな?ほら、これが鍵だからね」
渡された鍵の札には『図書館奥』と書かれている。
「道はほら・・・」
図書館にある謎の扉を指差す。今まであそこには扉がなかったような気がするんだが・・・・気のせいだろうか?
「気をつけていってくるんだよ?」
きっと地下だから暗いのだろうと思ったのだが・・・・
「何で、何で・・・なんで地下に化け物がいるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
階段を一気に駆け下りていく僕らの後ろから何かが追いかけてくる。その目は真っ赤で・・・・姿はラルド君(覚醒バージョン)にそっくり・・・いや、これは本物だろう。影に呑まれて消えたと思ったのだが、まさか学校の地下にやってきているとは知らなかった。
「どうします?この状況?」
「どうもこうも・・・ラルド君は強いからなぁ・・・・」
階段だって終わりを迎える。いずれ、僕らはこの階段を駆け上がらないといけないのだ。遅かれ早かれ、この化け物を退治する方法を考えないといけないのだ。
「ねぇ、カオスでもあの化け物を何とかできない?」
「ううん、分身を出してもぜんぜん通用しないと思いますよ♪」
楽しそうにしているところをみるとぜんぜんこの状況を飲めていないことに間違いはないだろう。
「どうしても倒したいのなら倒しますけど?」
「お願い!こんな地下でまだくたばりたくないんだ!」
「それなら、聞きますけど・・・・」
後ろから叫びながら追いかけてくる元ぬいぐるみ・・・・・を振り返ることなく、僕らはシルバとダークがいる最下層へと向かっている。
「死ぬならどこがいいですか?」
「死ぬなら・・・・死ぬならベッドがいい・・・もしくは・・・・」
僕の頭の数センチ上を何か危ないものが経過・・・・冷や汗が全身から吹き出てくる。
「女の子の膝枕♪」
「わかりました、そうなるように努力しますよ」
そういってカオスは隣を走っていた僕をいきなり・・・・
「お、お姫様抱っこ?」
「ええ、この状態じゃないと少々きついですからね」
そういってそのまま僕と・・・
「ん・・・」
辺りがとたんに静かになり、白と黒の何かがラルド君を強襲・・・
「動きが止まった?」
「ええ、さすがにあれを食らって動けるとは思えません」
何をしたのかはさっぱりと見当がつかないのだが・・・・まぁ、これで安心だということは理解できた。よかった、なんだかあっさり終わって・・・・この前はミストにもがんばってもらったんだけどね・・・・・。
「さ、早いところ二人を見つけましょう・・・・他にもここには何かがいます」
さらりと問題発言をしておいたまま、彼女は再び走り出す。
「そ、そうだね」
それに続いて僕も地下を目指す。
「一体全体、なんでこの学校に化け物が出てくる地下を作ったんだろう?」
「いえ、もとは地下なんてないんじゃないんですか?」
いまだに走っている僕たちはそんなやり取りをしている。
「先ほどからずっと全速力でかけているのに疲れていない・・・・それに、随所随所に扉はあるんですけど・・・私たちはその扉が自分たちがくぐるものではないと頭の中で不思議と理解しています」
この地下は初めのほうはきちんとした木製の階段で、辺りは誇り積もった場所だったのだが・・・・今では階段は石畳に変わっており、辺りは明かりが照らされることもないのにそこには何もない空間が広がっていることだけを理解できる。カオスがいうとおり、途中に扉があるのだが・・・そこにいくべきではないとなんとなく、頭で理解していた。
「・・・終わりはきっとあるでしょう。私たちはそこにいけばいいんですよ」
「そうだね、それしかないってわかってるんだけど・・・・」
時間の感覚がさっぱりなので腕についている時計を見るのだが、その時計はあれから一分ほどしか経っていないことを告げている。
「・・・ここはきっと、僕らが住んでいる場所と違うんだろうね?」
「そうですね、私の時計が壊れていないと信じたいものです・・・ほら、すごいことになってますよ」
カオスは自分のつけている時計を僕に見せる。それでは既に十時間以上経っているように示していた。
「・・・・・めちゃくちゃだね?」
「ええ、そのようですが・・・」
急に前のほうを見ると・・・
「・・・ゴールは見えてきたようです」
そこにあったのは一つの扉だった。それは、とても重そうな扉で『お仕置きルーム なま物』と書かれていた。
「・・・・きっと、二人は軟体生物に襲われているに違いありませんよ」
「・・・そうかな?あの二人が軟体生物を見てびびりそうな細い神経してないと思うけどなぁ・・・」
「そういえばそうですね」
別に心配することもなく、僕らはその扉を開けて中に入ったのだった。
「・・・あ、鏡輔さん」
「鏡輔か・・・・」
やはりというかなんというか・・・・そこには軟体生物(見たことも無い物体)が軟体も軟体も転がっている。
「・・・私たちは二人を迎えにきたんです」
「そうなんだ、そろそろ帰ろうよ?もうちょっとでたぶん学校終わっていると思うからさ?」
「そうですね、そろそろ帰りましょうか?」
「そうだな、鏡輔はここから帰るまでの道順を覚えているんだろうな?」
二人を回収し、僕らは再び階段を駆け上がったのだった。
「あれ?ラルド君がいなくなってる!」
「ラルド君?ここにいたのか・・・・」
「ラルド君ってだれですか?」
「鏡輔君、きっとラルド君は消滅したのでしょう。所詮はぬいぐるみですからね。そこまで耐久度はないはずです」
それぞれがそれぞれの感想を述べ、僕らはラルド君がいたはずの場所を通り過ぎたのだった。
「やぁ、お帰り。どこも怪我をしていないところを見ると事はうまく運んだようだね?」
「先生、生徒を行方不明にしたいんですか?」
「いや、僕は君たちが運んだ熊とは思えないぬいぐるみの始末をさせただけだよ。大体、あれを生み出した人が悪いんじゃないかな?」
こうして、文化祭の数日前にめちゃくちゃ体力を消耗するような出来事がおき、ラルド君の尻拭いは大変だった。もっとも、尻拭いをしてくれたのはカオスなんだが・・・・
今回はカオスに主点を置いて書いてみました。どうだってでしょうか?さて、前回のあとがきで第二十話ほどで終わりを迎えるといっていたと思っています。実際、それぞれのENDを書きますので・・・シルバ、ダーク、カオス、ミスト・・・の予定ですので、話的には第十六話で物語は終わりの予定です。さて、次回はミストを主軸とした話です。




