がっでむ -”呪われました”の4作目-
”お山”に銃声が鳴り渡ります。放っているのは小柄な少女、年齢は10歳を越えたくらい。銀色の髪をリボンで一つまとめて、幅広の帽子をナナメにかぶり、鋲撃ちがアクセントの青いズボン(ジーンズです)をはいて、白いシャツに、茶色のベスト、両手それぞれに持つのは、”リボルバー”タイプの”拳銃”のようなもの。
銃口から飛び出ているのは、青白い魔法の弾丸です。弾丸の的は、キチン質の肌を持つ、大きな、人間の身長の半分ほどの全長の、甲虫の姿をした”怪物”たちです。それらは、数匹が群れになって、少女に、体当たりを仕掛けてきています。弾丸はその甲虫に当たるたびに、その身体を覆っている障壁が半透明目に見えるようになり、青色から黄色を経て、赤くなり、障壁が消えていきます。そして真っ赤になって消えたあと、魔法の弾丸が甲虫を貫きます。一瞬、ひくひくと、断末魔のダンスを踊ったあと、粒子になって、甲虫は宙に消え去っていきます。残るのは、緑色の親指の先ほどの大きさの水晶のみです。
少女に突進して近づいてくる、甲虫は、そのようにして次々と、消し去られています。”拳銃”の再装填を合間にはさみながら、数匹の甲虫をしとめているうち、かちり、という音のみで弾丸が発射されませんでした。不発のようです。甲虫がその隙に少女に突進します。
少女に直前までせまった甲虫を、横合いから、魔法の弾丸が一撃で落とします。
「助かりました師匠!」少し離れて見ていた、”銃”の師匠に、少女が礼を言います。
「いいってことよ、さあ、残りを片付けてしまえや」若く小柄な青年が、ニカッと笑って応えます。
少女の名前はシルフィさんといいます。生来の呪いのせいで、色々あって、死にかけたところを、小柄な青年、名前はビリーさんといいます、に助けられ、そのまま弟子入りしました。
今は、ビリー師匠のアジトがある”お山”(付近の住人には”魔の山”とか呼ばれている、怪物の多発出現地帯です)で、”銃”の修行中です。シルフィさんが”お山”に来て数日、出会っては半年ほど経過しています。
先日”お山”に住む鍛冶屋さんに、”拳銃”と”防具”を作ってもらったので、その慣らしを兼ねての修行中です。
「うーんやはり、数百発に一回くらいは不具合がでるなー」ビリー師匠はシルフィさんの”拳銃”を手に取り、眺めながら言います。「まあ、この辺の”怪物”なら素手で殴る蹴るでも何とかなるんだけどな!」(本来はなんともなりません、師匠の実力が異常なだけです)
「そうですね、思ったよりやわらかかったですし」(そんなことはありません、甲虫型の”怪物”はそのレベル帯でかなりの固さを誇ります、シルフィさんもとある理由で規格外の強さをもっていますのでそういう感想なわけです……本人達は無自覚ですが)
「まあ、だけどもリズムが狂うのは、良くないな。よし、明日にでも”加護”をもらいに”初代”の爺さんのところへ行くか!」
「”加護”?それは何ですか?」
「武器と防具の性能がちょっと上がるんだ、特に失敗とかが減る」
「鍛冶屋さんのスキルとは違うのでしょうか?」
「まあ、あれとは少し方向性が違うな!あと、結構すっきりするし」
「???」不思議そうな顔をするシルフィさんです。
***
翌日、シルフィさんと師匠のビリーさんは、霧が深く立ちこめた針葉樹の森を歩いていました。誰がいつ整備したのかわかりませんが、そこには、立派な石畳の道があります。
「この辺りには”怪物”が出現しませんね?」シルフィさんが尋ねます。
「そういうのは出てこないようになっているらしいぜ、ここらへんは」
針葉樹の森に近づくまでに多数でてきた、”怪物”が、森に入るとぴたりと出現しなくなっています。長くゆるやかな上り坂の石畳の道の先に、シルフィさんが見たことかない、大きな、モニュメントが道をまたぐようにして、見えてきました。それは、石材でつくられた歴史を感じさせるもので、身長の三倍ほどの高さの柱が、左右に2本、道の外側に立ち、その上に横たわるようにして渡された石の梁が平行に2本渡されてあります。梁の間の中央には、額のようなものに入れられた中に、なにやら文様が刻まれた木がはまっていました。
「なんだか、空気が澄んでいますね」モニュメントの左側の下を通りながら言います。
「そうだろう?ここに来ると、妙に落ち着くんだぜ」横に並んで、モニュメントの右側の下を通りながら言います。
しばらく歩くと、木製の建物が見えてきました、見た目、平屋でしょうか、しかし屋根が高く、身長の6~7倍ほどの高さです。屋根には陶器つくられた湾曲した板のようなものが敷かれています。屋根の先端や、角には同じような材質で作られた飾りが、屋根に自然に連なるように着けられています。
屋根の下側、軒の辺りには精巧な木彫り細工があります。各種の四つ足動物や、鳥の図案で、彩色もされてカラフルです。
壁は白くなにかやわらかそうな材質で塗られています。等間隔に窓が開いており、そこには白い紙?が格子にはまっています。
建物の先には、石畳の道と、砂利を敷き詰めた庭があります。
その石畳に、白髪の老人が一人、立っていました。手には、なにか植物を材料にした長柄のもの、中程から植物の枝を束ねたもの、帚の一種のようなものでしょうか、それを、両手でもち、落ち葉を掃いていました。
布でできた、ゆったりした筒のような、淡い青色のズボンを履いています。そして、白い足袋?足の親指が別れているものに、足の甲がみえるサンダルのようなものを履いています。上着はこれも白いゆったりとしたもので、ボタンとかは無く、右前の布の重ねで、帯のようなもので止めているようです。
その老人はこちらを見て言いました
「おや、ビリーさん、お久しぶりです」なんとも渋く、そして良く響く声でありました。
「よう、”初代”さん、お久しぶり」すちゃ、っと片手を上げてかるく挨拶する小柄な青年のビリーさんです。
「また、可愛らしいお嬢さんをおつれになって……娘さんですか?」
「いや、弟子だよ」
「はじめまして、師匠に鍛えてもらっています。シルフィといいます」ぺこりと礼をしながら言う、少女です。
「どうも、私はこの”神社”の”神主”の、ヤマトと申します。ビリーさんからは”初代”と呼ばれていますが、気軽にヤマトさんとか呼んでくれると嬉しいですね」にこりと微笑みながら、白髪の老人は言いました。なかなか魅力的な笑顔です。
「はい、よろしくお願いします、ヤマト……お爺さん?」ちょっとはにかみながら、少女が言いました。
「ひとの弟子をたらし込んでんじゃねーぞこの爺さん」ちょっと笑いながら、言うビリーさん
「相変わらず口が悪いですね、祟りますよ」にこやかに言うヤマトさん。
***
「なるほど、つまりシルフィさんの装備の”お祓い”をしたいわけですね」
「そうなんだ、”加護”をひとつお願いするよ。対価はいつもの通りでよいよね?」軽く荷物を揺らしながら言うビリーさん。
「今度のは何かな?」
「甘味は、”ワガシ”の”アカフク”で、お神酒は”ダイギンジョウ”だったかな?、あと、鍛冶屋の親父さんに色々作ってもらっている日常品をちょいちょいと、そろそろ新しいのがいるだろう?」
「充分ですな、じゃあこちらへ……」と案内をしようとすると、ひょいと、建物の陰から1人の男性が現れます。
「初代ー、お腹空いたー何かないー?」質の良い、落ち着いた色使の、ズボンとシャツ、ベストと上着を身につけた、20代後半から、30代前半くらいの、上品な男性は、なんともしまらない台詞とともに登場したのでした。
「ナギさん、こられていたのですか?丁度いいですね、”お山”の”ガンマン”さんから甘いものを頂きましたから、お仕事の前に、お茶にしますか?」
「えー仕事やだー。けど甘味はなに?」
「”アカフク”だそうですよ?」
「おお、好物だ。”あっち”で食べようとすると、娘がうるさいんだよなー」
「それは、参拝客と混じって並んで買おうとするからでしょう」
「いーじゃないか、もう隠居して自由の身なんだからー、おや、そこの少女は初めて見る顔だね?」
ちらっと、銀色の髪の10代前半の少女を見て言う三つ揃いの青年さんです。
「初めまして、ビリー師匠の弟子になりましたシルフィといいます」ぺこりと挨拶をするシルフィさんです。
「うーん?なるほど、結構難儀なことになっているみたいだねー」軽く見ながら言うナギさん。
「どうでしょう?」言外に色々含ませていいうヤマトお爺さん。
「……まあ、私にはどうにも出来ないかな?というかする必要が無いが正解。これはこれで自然で必然といったところじゃないでしょうかね」ひょいと肩をすくめながら言うナギさん「お仕事はこれ(少女の呪い)を何とかすることかな?」
「いえ、”お祓い”ですよ。お嬢さんの装備が新しくなったので、とのことです」
「軽い軽い、じゃあ、お茶をしたらひょいと終わらせましょうかね」
「もう少し、もったいぶったり、威厳を出したりした方がいいんじゃねーか?まあ、俺が言うのもなんだが……」苦笑いをしながら言うビリーさん。
「まあ、引退した身だし、こちらへのは”写し身(avatar)”であるから、それほど威厳というかオーラも出しにくいからねー」へらりと笑う青年さんです。
***
屋内の清められた場所に三人は、やってきました。装備一式を木製の台の上へ置いて、これからヤマトさんが、”お祓い”を行います。といっても、服装も変わらず、手になにやらばさばさと音のする白い紙のような物をつけたワンド(wand)を構えています。
「では始めます」
かけまくも かしこきいざなぎのおおかみ
祓え言葉を唱えだした、ヤマトお爺さんの背後に、半透明になったナギさんが浮かびあがります。
「あー確かに威厳ないな……」ビリーさんが内心つぶやきます
「あっ、口元にあんこ付いてる……」思わずつぶやくシルフィさんです
それでも加護は素晴らしくきちんと与えられました
Goddamn