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エデンの王  作者: Palerider
砂漠を征く者編
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第五十二話 月の砂漠をサバサバと

あけましておめでとうございます。本年も次話投稿が長引きますが、よろしくお願い致します。

 西暦二五七〇年/ブリストン暦四五六年 射手(サジタリウス)の月(九月)二十七日

 カブ・ラーン砂漠 フランシナ帝国・スハク首長国国境付近




「つ~きの砂漠をサ~バサ~バと~」


「そりゃ何の歌だ?」


「知らね。親父が持ってた大昔の本のタイトルさ」


「ふ~ん」



 車両で揺られる兵士たちの話声も、今は砂に吸い込まれていくようだ。


 現代の地球の様な、得体のしれない廃棄物の溢れる汚染砂漠ではない。どこまでも広がる静謐な砂の大地。


 その大地を横切る、この世界では見慣れない車列があった。


 砂色の特殊な迷彩。17トンの重量を支える為に8本もある、砂漠専用の特殊なオフロードタイヤ。屋根に取り付けられているのは、車内からの遠隔操作となるM2X機関砲や105mm電磁投射砲、対戦車ミサイル発射装置や迫撃砲、観測装置など、車両ごとに様々。


 M1150ストライカーICVをはじめとした、M1152MGS、M1153MC、M1155FSV、M1157MEV、M1158ATGMのストライカーファミリーだ。


 30台を超えるストライカーの車列の中核となるのは、当然またストライカー。

 M1154CV。指揮車両である。

 そして指揮車両という名前の通り、乗っているのはこの部隊の指揮官たちだ。



「えーっと、あの星がここであれがそこだから、現在地はこの辺で………到着まではあと1日ってところか。いやはや、やっぱりGPSが無いと面倒くさいな」


 車両内部の決して広いとは言えない空間の中、レンディは地図を広げ、コンパスの様な器具を動かして何やら作業をしている。これは数百年近く前、まだGPSが存在していなかった時代に地球の船乗りが行っていた、星の位置などを見て現在地を知る方法である。

 非常にアナログな方法ではあるが、この世界にはまだGPS衛星が打ち上げられていない(そもそも、この世界が『星』であるかさえも分かっていない。魔法などという物が存在する世界なのだから、天動説で考えられているような平らな世界という事も有り得る)ので、エデン防衛軍における士官教育には普通に盛り込まれている。

 手法こそアナログだが、使用している地図はUAVを用いて作成した最新の正確で詳細な物だ。非常にあべこべ感がある。


 レンディが通信機を手に取り、進行方向の若干の修正を指示しようとした、その時。


『ホッパー大尉、正体不明の物体が車列に接近して来ています。10時の方向、距離1000、数は1』


 喋ろうとした通信機から逆に発せられた声に一瞬ポカンとしたレンディだが、瞬時に頭を切り替える。


「正体不明とはどういう事だ。目視できないのか?」


『猛烈な砂埃を上げながらこちらに接近して来ているのですが、姿が見えません。………いえ、僅かに見えました。ヒレです。魚の背びれの様な物が砂から突き立っています』


「背びれ?砂の中を潜っているのか?」


『そうだと思われます。魔獣の一種かと。どうしますか?』


「アレスに報告する。別命あるまで待機だ」


『了解』


 哨戒の兵士との通信を切ると、アレスの、『ジ・アトラス』への回線に切り替える(アレスは別の車両に乗っている)。


「アレス、起きてるか?寝てても起きろ!」


『起きてるよ。何か気配がしたからな。どうした』


正体不明(アンノウン)接近、10時方向、数1』


『分かった。車列を停止させろ。後は待機だ』


「了解。………全車両、停止しろ。別命あるまで待機」


 車両が停止した後、外部カメラのモニターを起動させ、それを覗き込んだ。







 ストライカーではなく輸送トラックで寝ていたアレスは、既に『ジ・アトラス』を装着し、大太刀『ムラマサ』を携えて砂漠に降り立っていた。

 地球よりもやや白い砂の砂漠は、星明かりの反射でかなり明るい。とは言え、完全に遠くまで見通せるという訳ではないのだが、自動的に複合暗視モード(光電子倍増や熱赤外線などによって得られた像を解析・合成する事によって従来より詳細な像を得られる)に切り替わった視界は、真昼の様にはっきりとしている。

 その視界の中では、哨戒兵が確認に数秒かかった砂煙の中の背びれがはっきりと見て取れる。


「砂の鮫……か。フランシナで閲覧した文献の中に、そういうのがいたな」


 その文献によると、普通の砂の鮫は砂に潜る以外の特殊能力、火や毒を吐いたりはできないらしい。砂鮫のリーダー格の個体は何らかの特殊能力があるらしいが、それらは背ビレだけでも数メートルはあるらしいので、目の前に迫る個体は違うだろう。


「……この『手』を実戦に使うのは初めてだな。お『手』並み拝見というか」


 自分のダジャレにクツクツと笑うアレス。

 その目前へと迫る砂鮫。


 そして、アレスを射程圏内に収めた砂鮫が砂から飛び出した。


 体色が砂色で縞模様の事を除けば、地球の普通の鮫と大差が無い様に見える。しかしそこはやはり異世界の魔獣。海の中と砂の中を潜る事の差異か、腹びれや尾びれ、頭部の形状が異なる。

 そして何より、地球の鮫はここまで立派な牙はもっていない。


 その牙がアレスの体に突き立てられそうになった、その瞬間。

 アレスの右腕が一瞬ブレた。


 そして、砂鮫はアレスに触れる事も無く交差し、地面に叩き付けられて動かなかくなった。

 数秒前まで砂鮫だった物は、その原型さえ留めていない。


 一見すると生前のままに見えるが、地面に叩き付けられた衝撃で少し()()た。

 背中側と体の中心部と腹側で分かれている。俗に言う、三枚下ろしというヤツだ。


 新しい右腕によって神速で振られた刃は、頭から尻尾まで砂鮫の体を切り裂いた後、斬り返しで尻尾から頭を切り裂いた。

 以前なら一瞬では斬り返しは出来なかったから、単純に2倍の速度という事になる。


「ふむ……速く動かせる様になったのは知っていたが……中々に使い勝『手』が良いな」


 また自分でダジャレを言い、クツクツと笑うアレス。

 そこでふと、真面目な顔になって、三枚下ろしにした砂鮫の死体に目をやる。


「あれ、食えるのかな?」


 その時、レンディから通信が入った。


『アレス、また何か来た。7時方向、数は3。今度は人工物、船みたいだ。あと、その鮫は食えないと思うぞ』


「マジか………船?」


 言われた方向に目をやると、確かに3隻の船が編隊を組んで近付いて来ていた。

 今度は暗視モードを使うまでも無い。

 近づいて来る船自体が、煌々と篝火を焚いているからだ。


「砂上船か。実際に見るのは初めてだな」


 近づいてきた砂上船は、アレスの手前20メートル程の所で、編隊を組んだまま器用に止まった。


 甲板の上には、弓や槍を構えた船員たちが、警戒した表情でこちらを見ている。

 お世辞にも、友好的とは言い難い雰囲気だ。


「彼らが、恐らくスハク首長国の人たちだよな」


『だろうな。だがまあ、こんな見慣れない物体の車列なんか見たら、警戒するのも無理は無い』


「さて、どうするか………ん?」


 アレスの視線の先では、3隻の中で一番巨大な船の甲板で船員たちが何やら慌てふためいている。

 そしてその船の舳先に、1人の女性が姿を現した。


 女性にしては長身で、クールビューティーといった風情の眼光鋭い褐色の美女。

 地球のカフィーヤに似た白い被り物を被り、腰まである赤みがかかった長髪を活動的に一つに纏めている。

 服は白を基調としたカフタンの様な物で、所々に豪奢な装飾が見えるが、全体的に動き易さを重視している事からも、女性の性格が何となく分かるような気がする。


 女性は、三枚下ろしになった砂鮫を見て目を見開いた後、その横に大太刀を持って立つアレスの姿を認めると、口を開いた。


「そこの戦士よ!その砂鮫(サンドシャーク)を倒したのはそなたか!?」


 良く通るアルトボイスで発せられた問に、アレスは意味も無く車列の方に目をやった後、女性の方を振り返り、肯定の返事をする。


「そうだ。君たちは?」


「私たちはスハク首長国軍オルドラン旅団!そして私は、首長ドルラン・アイル・ノエインが娘、アイーシャ・アイル・ノエインだ!」


 女性、アイーシャの自己紹介に、アレスは若干驚きながら答える。


「首長の娘…という事は、スハク首長国の姫君という事か。俺はエデン国王、アレス・アゼル・レックス。フランシナ帝国皇帝の紹介で、貴国との交流を求めてこの地に参った!」



 アレスたちエデン国とスハク首長国とのファーストコンタクトは、いきなり国王(正確には統括官)と王女というハイレベルな物であった。




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