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エデンの王  作者: Palerider
帝国防衛編
52/58

第四十六話 ドラゴン・パニック

 西暦二五七〇年/ブリストン暦四五六年 射手(サジタリウス)の月(九月)十日

 フランシナ帝国 帝都パリジェス 帝城



 贅の限りを凝らして作られた、帝国の象徴たる帝城。


 いつもなら、城の主たる皇族や貴族たちによる優雅な時間が流れている筈の城内だが、今はそんな空気は微塵も感じられない。


 貴族たちは恐れ慄きながら右往左往し、鎧を着込んだ騎士たちがガシャガシャと音を立てながら走り回っていた。



「早くしろ!ルワヌア騎士団は東の城門、オンラル騎士団は西!デイビックとマルタの騎士団は中庭に集めるんだ!」


攻城槍(バリスタ)を運び出せ!南東第二城壁に四両、北第一城壁に五両足りていないぞ!」


「弓兵を各城壁に配備するんだ!矢も備蓄を全て出せ!出し惜しみは無しだ!」




 帝城は今、戦闘状態に突入していた。


 帝都から三百キロほど離れた要塞から連絡魔法で、ドラゴンの大群が帝都に向かっているという報告が上がってきたのが三十分前。


 フランシナ帝国はつい先日までエデンと戦争を行っていたので、対応は早かった。

 だがそれでも、帝城の迎撃準備の進捗状況は七割程といった所で、そして地平線には赤い雲、竜の大群が見え始めていた。


 現れた赤い雲はみるみる内に大きくなり、近付いて来ているのが分かる。

 その様子を、フランシナ帝国皇帝ルクオール・フランシナは居室のテラスから見ていた。



「………ドラゴン。それもあれだけの数とは………」


「陛下!城の中へ、お早く!もうすぐにでもドラゴンたちがやって来ます!」


 既に目に見えるぐらいの距離に近付かれている以上、馬車などでは逃げ切る事ができない。

 なので、皇族や貴族たちは城の地下に作られているホール(この世界には無い言葉だが、シェルターの様な物だ)に避難する事になっていた。


 避難を促す騎士に連れられて地下へと向かうルクオールは、ポツリと呟く。


「………最初は異世界の軍勢、次は魔族軍。そして竜の大群か。我が帝国も、私の代で終わりかもしれんな………」


 この世界で最大級の国家の絶対君主は、今、金融恐慌と親会社倒産と税率引き上げのトリプルパンチを同時に食らった地球の中小企業の社長の様なオーラを漂わせていた。









 帝都の周囲には、全長数キロという防壁が設けられている。

 他国からの侵略や地上からの魔族の侵入には、非常に有効に活用されている。


 だが、そんな壁も、空の覇者たちには意味を成さない。


 ドラゴンたちは悠々と防壁を飛び越えて、帝都上空に侵入を果たした。


 目測で数千匹というドラゴンの大軍の内、数百匹は町に急降下して破壊を始める。

 町にも避難命令は出されていたが、数百万の人口を擁する都市の全ての民がすぐに避難しきれる訳もない。


 あっという間に、数百人の民が死んでいく。



 そして、その他のドラゴンたちは一直線に帝城へと襲い掛かった。








「来たぞー!よく狙えー!」


 上官の号令で、バリスタを操作する兵はハンドルを回し始める。


 狙いは、もう一匹一匹が判別できるくらいにまで近付いてきたレッドドラゴンたち。

 キリキリという音と共にバリスタの向きが変わり、簡易照準機に中に群れの先頭のドラゴンの姿が納まる。


「まだだぞ、まだ撃つな」


 バリスタの射程は、国にもよるが、フランシナ帝国製の物は約八百メートル。

 だがこれは矢がある程度の勢いを保ったまま飛ぶ距離で、砦の城壁などから放物線を描いて地面の敵に当てる時の尺度だ。

 高速で空を飛ぶ敵に命中させたいのなら、矢が真っ直ぐ飛ぶ距離、約二百メートルほどが目安になる。



 バリスタが設置された城壁よりも一段下の城壁から、無数の矢が放たれた。

 バリスタの、そこらへんの剣よりも巨大な矢ではない。普通の長弓から放たれた矢だ。

 長弓の有効射程は四百メートルほどだが、長弓ではたとえ零距離から放ってもドラゴンの鱗を貫く事などできはしないので、有効射程に入ってすぐに放たれたのだ。


 鱗は硬くて貫けないが、ドラゴンにも柔らかい部位はある。

 無数に放たれた矢はドラゴンの先頭集団の身を叩き、その内の数本が、数匹のドラゴンの目玉に突き刺さった。



「「「グギャオオオァァァァオオオオオッッッ!?」」」



 目玉を潰された竜が、絶叫を上げながら墜落していく。


 数匹は水が流れる濠に落ちたが、他は固い石畳や石造りの家屋に叩き付けられた。

 生態系の頂点たる竜がこれしきの事で死にはしないが、もう襲い掛かってくる事は無いだろう。


 だが、長弓による先制攻撃で撃ち落せたドラゴンは、ほんの十数匹。全体の一パーセントにも満たない。


 そして残りの数千匹が、帝城へと迫る。



「今だ!撃てー!」



 号令と共に発せられるのは、複数のバリスタの巨大なトリガーが引かれる金属音。


 一瞬の後に、太い弓弦の振動音が響き渡り、巨大な矢が発射された。



 放たれた矢は真っ直ぐに飛翔して目標のドラゴンの頭部に迫り、



 その巨大なアギトから侵入して、脳髄を貫通して後頭部から矢尻を覗かせた状態で停止した。



「「「「「―――――ッッッ!!??」」」」」



 ほぼ即死状態のドラゴンたちは断末魔の叫びを上げる間も無く、堕ちていった。



 射撃班の間に、歓声が響き渡る。


 だが、その声は更に巨大な声によって掻き消される。



 撃ち落したドラゴンは、精々数十匹。


 いまだ空を飛び、仲間が殺された事に対する怒りの咆哮を上げる数千匹のドラゴン。


 我に返り、次弾装填を始める兵士たち。

 その周囲に展開し、射撃班を守ろうとする重装騎士たち。


 そして、襲い掛かるドラゴン。



 数年後、フランシナ帝国で『ドラゴンの日』と呼ばれる理由となる戦いが、幕を上げた。











 フランシナ帝国 帝都パリジェス近辺



「少佐、帝都まで五分ほどです」


「ああ、分かった」



 パイロットの言葉に頷くアレス。


 時速四百キロオーバーで高速飛行するUH-99。


 アレスは今、そのキャビンにいる。



 身に纏っているのは、黒い機械鎧、『ジ・アトラス』。

 両脇に無造作に置かれているのは、『ミーティア』と『スイーパー』、そして『ムラマサ』。


 アレスにとって久方ぶりの完全武装だった。



 本来は一人で帝都へと向かおうとしていたアレスだが、今、ヘリのキャビンにいるのは彼だけではない。



「This is my rifle. There are many like it………」


 地球のアメリカ海兵隊に伝わる伝統的な歌を口ずさみながら、M3M重機関銃へのベルトリンク接続を行うボビー。

 以前はM250分隊支援火器を使用していたが、火力を考慮して変更したのだ。


 ボビーの歌を聞きながら、リズムに合わせてハミングしながらP111サブマシンガンへの装填を行うライル。



 そして、



「……………」


 カチャ、カチャ、カチャ、カチャ………



 無言で、淡々と弾込めを行うメルピア。


 愛銃であるM92A2への装填はとっくに終わっており、予備のマガジンへの装填作業に移っているのだが、メルピアの足下には既に弾込め済みのマガジンが大量に転がっている。

 明らかに、一度の作戦で用いる量ではなかった。



 ライルとボビーは、見てみぬフリをする。


 アレスも見て見ぬフリをしたかったが、メルピアの不機嫌の原因が自分にあるので、そうもいかない。



「………メルピア?」


「何ですか、一人で勝手に行こうとしていた隊長」


「………」


 返ってきた予想以上に冷淡な声音に、アレスは思わず押し黙る。



 メルピアが言った通り、アレスは元々、帝都へ一人で行こうとしていた。

 だが、UH-99に乗ろうとした時にメルピアたちに見つかり、無理矢理乗り込んできたのだ。

 そして、今に至る。




「なあメルピア………」


「………です」


「え?」


 ボソリと呟いた声が聞こえずに聞き返すと、メルピアは顔を上げ、アレスを真っ直ぐに睨む。


「隊長は、バカです」


「バ…」


「バカです、本当にバカです。バカバカバカです」


 思わず面食らうアレスに、畳み掛ける様に『バカ』を連呼するメルピア。

 バカと呼ばれる謂れは無いが、直属の部下たちを置いて行こうとした後ろめたさはあるのでアレスは甘んじて受け入れる。


「バカバカバカバカバカバカ」


「………」


「バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ」


「……………」


「…ソーレス、隊長が涙目になってる。そろそろ許してあげたらどうだ?」


「………(ギロリ)」


「お好きにどうぞ」


 助け舟を出すも、即座に撃沈されるライル。



 だが僅かながら効果はあった様で、メルピアはバカの連呼をやめて口を閉ざす。



「…メル?」


「次は…」


「え?」


「次は、許しませんから。また私を置いて、戦地に行こうとしたら。その時は、隊長を殺して私も死にます」



 M92A2の銃口は下に向けられているが、突き付けられているかの様な殺気を、アレスは感じた。


 だが、それすらも受容して、アレスは頷く。



「分かった。次にお前を置いて行くのは、俺が死ぬ時って事だな」



 笑顔は見せないが、ようやくメルピアの表情が緩んだ。




「レックス少佐、帝都が見えました。………先客がいる様です」



 パイロットの報告を聞き、アレスは開け放たれたドアから身を乗り出して帝都を見る。



 つい数日前に見た、荘厳な大都市。


 それが今、半分崩壊の様相を呈し、あちこちで火の手が上がっている。



 それは帝城も例外ではない。

 まるでケーキにたかる蝿の様に、ドラゴンが城を襲っている。


 その帝城の、一番高い塔。


 その上に、巨大な異形の影が、いた。




「ヘリは危険だ。俺達を帝都の端で降ろした後、すぐに離脱しろ」


「了解しました。………御武運を」


「ありがとう」



 全員がそれぞれの武器を持ち、立ち上がる。



 戦いが、始まる。












「矢を射ろ!放ちまくれ!門を守るんだ!」


 守備隊長の命令で、門に接近していたドラゴンに無数の矢が射掛けられる。


 あまり痛手は負っていない様だが、矢が目の近くを掠めて苛立ちを覚えた様で、ドラゴンは翼をはためかせて門から離れた。



 帝都の南に位置する城壁の門。

 そこには避難する市民が殺到しており、同時にドラゴンも殺到していた。



「この門がやられたら市民が逃げられなくなる!何としてでも守りきれ!」


「バリスタもカタパルト(投石機)も壊されました!弓兵も半分以上がやられています!もう、防ぎきれません!」


「くそっ…うわっ!?」


 ドラゴンの炎弾が炸裂し、兵士が更に数人、焼け死んだ。


 守備隊長も爆発の余波で吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられる。



 既に門の守備部隊は壊滅し、ドラゴンの蹂躙を待つだけとなっていた。



「…ちく…しょう…」


 もう立ち上がる気力も無い。


 仰向けに横たわったまま、空を見上げる。


 だが、その空もドラゴンに埋め尽くされつつある。


 見るのも嫌になり、目を閉じる。


 それでも、ドラゴンの耳障りな鳴き声や羽の音は聞こえて来た。

 体を動かす気力も無いが、少しだけ手を動かして耳を塞ごうとする。


 その時だった。



 バババババババババババババ………



「…ん?」


 ドラゴンの立てる雑音に混じり、聞いた事の無い奇妙な音も聞こえて来たのだ。


 最初は小さな音だったが、音源が近付いて来ている様で、だんだん大きな音になってくる。



 守備隊長の男が身を起こした、その瞬間。


 彼の頭上に、ドラゴンとはまた別の、新しい化物が姿を現した。



「なっ、何だ!?」



 それは、彼が知る生物で例えるのなら、トンボの様な物だろうか。


 長い尻尾と、真っ黒な胴体。

 四枚の羽を高速で動かして、宙を舞う。


 そしてその胴体が開き、中から四人の悪魔が飛び降りてきた。



「うっ、うわあっ!?」


 別に踏み潰されるという様な事も無かったが、守備隊長は慌てて四人の悪魔の着地地点から離れた。

 距離を取ってから、改めて悪魔たちの姿を見る。



 全員、奇妙な鎧を身に纏っていた。


 四人の内の三人は同じ種類の様で、灰色の装甲に『EDEN -02-』や『-03-』、『-04-』、『PERSONAL EQUIPMENT SPECIAL COMBAT REINFORCE OUTER FRAME』などの、見た事の無い文字が書かれている。

 武器らしき物も手に持っているが、剣でも弓でも魔導士の杖でもない。形は違うが全てグレーの金属の筒みたいな物で、どれも戦闘に役立ちそうには見えない。



 最後の一人は、他の悪魔とは違った。


 漆黒の鎧に、二メートルはあろうかという体躯を駆け巡る青い光。『NUN-MTL X-SAA-00 TheATLAS』という、読めない文字。

 両手には、他の悪魔の物よりも巨大な金属の筒の様な物を持っているが、背中には、見慣れない形状だが明らかに剣と分かる物を背負っている。

 そして何より、全身から放たれる濃密な殺気。


 まさしく、悪魔と呼ぶに相応しかった。



 黒い悪魔が手を振ると、トンボの化物は帝都の外へと飛び去って行く。

 しかし、その後を一匹のドラゴンが追いかけ、炎弾を放とうとする。



「あっ………」



 守備隊長が思わず「危ない」と叫びかけたが、実際に口に出す前に、灰色の悪魔の中でも最も小柄の一人が、手に持っている長大な金属の筒をドラゴンに向けた。


 次の瞬間、耳をつんざく様な音と共に、金属の筒が僅かに火を噴く。


 音の割には小さな火だし、その程度ではドラゴンをどうにかする事などできない。


 一瞬そう思った守備隊長だが、更に次の瞬間には、そんな常識が覆される。



 グシャリッ


「―――――ッ」


「えっ………」


 断末魔の叫びを上げる間も無く、ドラゴンの頭が吹き飛んだのだ。


 頭を失って絶命したドラゴンは、地面に落ちてそれきり動かない。

 守備隊長は、その様子を呆然と見届ける事しかできなかった。


 言葉を失う守備隊長をよそに、悪魔たちは何やら話し合っている。



「やはり、リリアナさんの言った通りでしたね」


「ええ、二十メートル級の強靭な個体でもない限りは、我々の火器が充分通用するようです」


「私のサブマシンガンでも、翼を撃ち抜いて墜とす事ぐらいはできるでしょう」


「よし。ゴースト2は帝都の西側、3は東側をそれぞれ回ってドラゴンの掃討を行え。4は適当な場所に陣取ってそれを援護しろ。市民の救助は基本的に帝国の騎士に任せればいいが、どうしても自分以外には助けられないという場合は、人道的見地からの判断を優先しろ」


「了解」


「了解」


「了解。………隊長はどうするんで?」


「俺は、帝城を奪還する。ゴースト4、俺への援護は不要だ。恐らく、あまり意味が無い」


「…了解」


 悪魔たちはフルフェイスヘルメットを被っていたし、声がくぐもっていたので、どれが誰の声かは分からない。


 だが、誰かが不服そうに「了解」と言った、その瞬間。

 一匹のドラゴンが、四人の真上から急降下して襲い掛かってきた。



 一閃、



 今度こそ、守備隊長が口を開くよりも更に早く、悪魔が動いた。

 黒い悪魔が、いつの間にか背中の剣を抜き放っていた。


 襲い掛かろうとしていたドラゴンは、細切れになって四人の周囲に降り注ぐ。



「汚い雨だ。………さて、始めようか」




作中で出た英名は、ライルたちが使用しているノーマルモデルのAAの物です。和名は個人装着型戦術強化外骨格です。

『ジ・アトラス』にペイントされている文字の『NUN-MTL X-SAA-00 TheATLAS』ですが、NUN-MTLはNeo United Nations-Military Technological Laboratory の略、新国連軍事技術研究所という意味です。

X-SAA-00のXは実験機を表すコードで、SAAはStrategical Arms Armor です。

こういうSF厨二的設定って、考えるの楽しいですね!

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