第四十五話 ドラゴン・テイマー
お久しぶりです。
日曜日投稿は中止にしました。登校日がめっきり無くなったので、曜日とかあまり関係なくなってきたからです。
今回の騒動は、後始末を除いて三話で終了する予定です。
それでは、『ドラゴン』シリーズ、どうぞ!
西暦二五七〇年/ブリストン暦四五六年 射手の月(九月)十日
フランシナ帝国最南端 アイレセン砦
「やれやれ、随分とまあ、ひどい事をしてくれるものだねえ」
魔族に占拠されたアイレセン砦、その中庭。
そこに立つ、一人の少年が呟いた。
病的に青白い肌、黒い瞳、そして額に生える小さな角。
身長は百四十センチ程度と小柄だが、間違い無く魔族だ。
彼の前にいるのは、体長二十メートルを超える巨大なレッドドラゴン。
生態系のヒエラルキーの頂点に立つ存在であるドラゴンだが、その胸部には巨大な傷が刻み込まれ、その左目は完全に潰れている。
そして何より、高い知能はあるものの凶暴で決して他の生物と交わらない存在である筈のドラゴンが、どう見ても強そうには見えない人間種の少年の前で、よく躾けられた飼い犬の様に大人しくしている。
異常と言えば、あまりにも異常な光景だった。
少年がドラゴンに手をかざすと、魔方陣の様な物が出現した。
その中に、特殊な言語で使用される文字列が高速で羅列され、少年はそれを見てフムフムと頷く。
一分間ほどそうした後、少年は魔方陣を消してドラゴンに向き直る。
「まあ、素材としては充分に使えるかな?やっと本国からも他の素材が届いたし」
そう言いながら少年が指をパチンと鳴らすと、中庭の四方にある門が開き、巨大な物が入ってきた。
入ってきたのは、全てドラゴンだった。
蛇の様なシードラゴン、トカゲの様なガイアドラゴン、モンOンのガブラスみたいなウィングドラゴン、そして既に中庭にいるレッドドラゴンと同種の竜。
全てが体長二十メートル以上と、ドラゴンとしてもかなり巨大な個体だ。
特にガイアドラゴンなど翼が無い代わりに、体長だけで他のドラゴンの約二倍、体重は五倍近くありそうだ。
その全てのドラゴンが、中庭に入ってきて、少年の周りで大人しく頭を垂れる。
それを見て満足そうに頷いた少年が、再び指をパチリと鳴らす。
すると、五匹のドラゴンたちの足下に巨大な魔方陣が出現した。
その魔方陣は出現すると同時に高速回転を始め、やがて光を放ち始め、その光がドラゴンたちを包み込んでいく。
そこまで見届けて、少年は踵を返して中庭を後にする。
少年の後ろでは、ドラゴンを包んだ五つの光の塊が混ざり合って一つの巨大な光の塊になっていっているのだが、少年は結果を見ずに、ドラゴンたちが中庭に入って来る時に開かれた門から外に出た。
少年は空を見上げる。
少年が見上げる先、アイレセン砦の上空は、昼間だというのに暗い。
「………ふふ、僕の可愛いペットを傷付けてくれた事。そして、この僕に喧嘩を売った事、後悔させてあげるよ。異世界の来訪者さん?」
響き渡る羽の音。
何百、何千もの生物の息遣い。
アイレセン砦の上空を、体長十二、三メートル程のレッドドラゴンが飛んでいた。
体長二十メートル級が異常に巨大な個体なだけで、このぐらいがドラゴンとして平均サイズと言える。
そして、その平均サイズの個体が、無数に。
数え切れないほどのレッドドラゴンが、空を覆い尽くしていた。
西暦二五七〇年/ブリストン暦四五六年 射手の月(九月)十四日
フランシナ帝国最南端 アイレセン近郊
「………以上です。百程度の兵員増援がありましたが、魔族達が行動を起こす様子はありません」
「今日も、特に動きは無し、か………」
UAV管制官からの報告を聞きながら、椅子に座ってコーヒーを飲んでいたレンディが呟いた。
魔族の攻勢による迎撃戦闘から四日。
エデン側にも死者が出たものの、基本的に魔族側の方が大きな被害を出しており、その分の補充等を待っているのか、あれ以降の魔族の大きな動きは何も確認されていない。
いや、確認出来ないというのが正しいか。
「相変わらず、雲は晴れないのか?」
「はい。砦の上を覆ったまま、全く移動しません」
「風は吹いているのにな。自然じゃない、間違い無く魔法の産物だ」
レンディが唸りながら見ているのは、一枚の航空写真。
位置的にはアイレセン砦が写っている筈なのだが、写っているのは真っ白な画像のみ。
この四日間、魔族軍を撃退した直後から、アイレセン砦上空を雲が覆い続けている。
雲は、ほとんど砦を包み隠す様に発生しており、戦略偵察機は勿論、UAVでも砦を偵察する事が出来なくなっている。
そんな雲の状態が、四日間続いているのだ。
魔法によって生み出された雲である事は明白だった。
「やれやれ、道を行軍して砦に入っていく魔族の援軍は確認できているが、それが内部で何をしているかが全く分からんな」
航空写真などが添付された書類をデスクの上に置き、レンディは目頭を揉む。
「そういえばアレス、いや、レックス少佐はどうした?姿が見えないようだが」
レンディ当人とアレスは上官部下関係無く気の置けない会話が出来る間柄だが、部下の手前、一応上官である事を意識して聞いた。
それに対して数人の部下達は顔を見合わせて首を傾げ、一人の部下が、ああ、と呟く。
「レックス少佐なら、確か近くの丘の方に向かっていましたよ」
「丘ぁ?なんだってそんな所に」
「さあ、そこまでは自分も………」
「まあいいや。俺が行ってくるよ」
そう言うとレンディは残りのコーヒーを飲み干し、席を立った。
アイレセン子爵邸から徒歩五分ほどの所に、小高い丘がある。
貴族にしては珍しく妾などを持たずに妻と子供を大切にしているアイレセン子爵は、週末には数名の護衛と侍従だけを連れて、家族と共にピクニックなんかに来ているそうだ。
丘を登りきると、そこにはアレスの正妻兼秘書官のマナがいた。
それを見て、レンディは部下の報告が正しかった事を確信する。
マナがいる所、確実にアレスがいると言っても過言ではない。
いや、正確にはアレスがいる所にマナがいるのだが。
「フローレンス秘書官」
マナに呼びかけるレンディ。
しかしマナは振り向きもせず、ずっと正面を向いている。
マナが見ている方向にレンディが目をやると、そこには探し人がいた。
「アレ…、」
アレスの名を呼ぼうとしたレンディを、ようやく振り向いたマナの殺気が篭った視線が遮った。
その殺気に思わず声を飲み込んだレンディは、改めてアレスの様子を確認する。
普段からよく着ているコンバットスーツ姿で、遠くを真っ直ぐに見据えている。
改めてよく観察したお陰で、その双眸から放たれる殺気の強さと、その殺気と共に何を見据えているかが分かった。
「あっちは………、アイレセン砦の方角か」
数十キロ離れているアイレセン砦だが、ここは小高い丘なので見えるかどうかで言えば、見える。
眼鏡で矯正しても視力一・〇を切るぐらいのレンディには遠過ぎて見えない。
だが、全ての身体能力が超人のアレスになら、見えているのだろう。
遠く離れたアイレセン砦。
そして、それを覆い隠す様にたちこめている暗雲も。
「レンディ」
「んっ!?………ああ、何だ?」
急にアレスの方から話しかけられたので、思わずドモってしまうレンディ。
しかし当のアレスは気にした様子も見せない。
「今日も、何も動きは無かったのか?」
「ああ。UAVからの写真では、何も無かった。一つ報告するとすれば、アイレセン砦下市街地が空になってから四日が経ったから、完全に放棄されたと見るべきだという事ぐらいだ」
「そうか」
レンディの報告に、アレスは特に何の感慨も無さそうに呟いた。
これが普段ならレンディも、あまり興味が無いのだろうな、と判断していただろう。
だが、レンディは見ているのだ。
部下達の死体袋の前でアレスが、強く握り締め過ぎたその拳から、血を流すのを。
今しがたのアレスの言葉には、何も感情が込められていなかった。
それは正の感情は勿論、憎悪などの負の感情さえも、だ。
それが逆に、レンディには恐ろしかった。
「………んっ?」
ピリリピリリピリリ………
アイレセン砦を見据えていたアレスが小さく唸ると同時に、レンディのポケットで携帯端末が通話の着信音を鳴らした。
アレスは目を凝らし、レンディは端末を取り出して素早く通話ボタンを押す。
「どうした?」
『ホッパー大尉、砦に動きがありました!UAVからのリアルタイム画像をお見せしますので、レックス少佐を見つけたら、すぐに一緒に司令室に来てください!』
「分かった、すぐに行く。………アレス!」
「必要無い。たった今、自分の目で見た」
アレスの視線の先。
ずっと暗雲に包まれていたアイレセン砦が、四日ぶりにその姿を晒す。
しかし、変化はそれだけに止まらなかった。
「………赤い、雲?」
黒い雲が晴れたアイレセン砦。
その城壁の内側から、赤い雲の様な物が湧き出し始めたのだ。
それは奇妙に形を変えながら、どんどん大きくなっていく。
「いや、大きくなっているんじゃない………、近付いているのか?」
「アレス、何が………」
言いかけて、レンディは言葉を切る。
赤い雲が、レンディにも見えるぐらいに近付いてきたからだ。
そして、それに伴い、それが雲ではない事も分かった。
「あれって………まさか、」
「レンディ、伏せろ!」
マナを抱き寄せて庇う様に身を屈めながらアレスが叫び、レンディも反射的に地面に伏せる。
数秒後、彼等の上空を赤い雲が飛び越えていく。
いや、それは雲などではなかった。
身を屈めながら、チラリと空を見上げたアレスは、確かに見た。
何千何百という赤い竜が、群れを成して空を飛んでいくのを。
レンディはベッタリと地面に伏せたままだったが、聞こえた。
何千何百という赤い竜の、重機の様な翼のはためく音と、その息遣いを。
やがて、竜の群れは完全にアレスたちの上を通り過ぎて行き、更にしばらく経ってからアレスはゆっくりと身を起こす。
「………どうやら、かなりヤバい事になりそうだな」
そう言ってマナを抱き起こした所で、レンディが起き上がった。
「い、今のは何だよ…」
「あれが『竜』だ」
「あれが!?くそっ、初のファンタジー・オブ・ファンタジーとの遭遇に、ケツを向けて終わらせてしまうとは………」
レンディが何やらブツクサ言っているが、アレスの耳にはそんな事は入って来ない。
竜の群れが飛び去っていった方向を見て、顔をしかめていたからだ。
「レンディ」
「次こそは、どうにかして写真とかに………、ん?何だ?」
「今すぐ司令室に戻れ。そして第一級戦闘配備だ。最低限の防衛戦力だけ残して、ここからもエデンからも即応部隊を出撃させろ。VADSとSAMを各部隊に最低一台以上随行、歩兵には一個分隊につきジャベリンを五発携行させるんだ。攻撃ヘリ部隊は発進準備を整えて、別命あるまで待機」
「分かった」
「あと、アイレセンに待機しているUH-99を一機だけ、すぐに発進できるようにしろ。だが、兵士は乗せなくていい」
「は?じゃあ、誰が乗るんだ?」
「俺だよ。乗るのは俺だけだ」
「なんじゃそりゃ?まあいいけども…。それじゃあ早速命令を………って、肝心の出撃目標を聞いていないんだが?」
レンディの言葉に、マナを連れて丘を降りようとしていたアレスがゆっくりと振り返る。
「ドラゴンの群れが飛び去っていった方向にある所だよ。フランシナ帝国との条約を履行せざるを得ない場所だ」
「んで、どこだ?」
「………恐らく、帝都パリジェスだ。奴等、本格的に帝国を潰すつもりらしいな」
我が物顔で空を飛んでいく竜の群れ。
どの個体も大体十二、三メートル前後と、レッドドラゴンとしては平均的な個体だ。
だがその中に、一匹だけ、化物がいた。
ただ体長が巨大というだけではない。
レッドドラゴンたちと比べて、あまりに異形な見た目もしている。
その竜の背中、それだけで他のレッドドラゴンよりも巨大ではないか?というサイズの両翼の、その付け根の間。
そこに、少年が立っていた。
「さっきいたのが、件の異世界の来訪者さんたちだったのかな?殺しておいた方が良かったかな?」
しばらく思案した後、少年は天使の様な笑みを浮かべながら首を横に振る。
「ま、いいや。今は陛下の命令通り、帝都パリジェスを破壊するのが最優先だ」
そう言って少年はしゃがみ込み、自分が乗っている竜の背中を撫でた。
「さあ、頑張っておくれ。君は僕の最高レベルの傑作なんだから。
………この僕、魔帝国軍四大将軍、『ドラゴン・テイマー』ドラゴリア・ヴェーイ・オルクアナの、ね」
―――――ゴオオオオオオオォォォォォォォォォアアアアアアアアアアァァァァァァァァァッッッッッッ!!!
少年が魔力で耳栓をしていなければ鼓膜が破れていたのではないか、という程の咆哮が、少年の呼びかけに答える様に響き渡った。
ついに出しちゃいましたよ、四天王的なヤツ。某借金執事君が言うには、こういう設定のヤツを出した連載マンガは、打ち切りの秒読みがスタートするそうです。
………この小説をやめる気は、しばらくありませんが。
思いつきで書いた短編小説を投稿しました。この小説とは全く関係ありませんが、よろしければ覗いていってください。




