第四十二話 爆撃
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西暦二五七〇年/ブリストン暦四五六年 射手の月(九月)十日
エデン 防衛軍航空部隊ブリーフィングルーム
「緊急招集って、何だよいきなり…」
エデン防衛軍航空部隊所属のマイク・ローランド大尉は、昼寝から起こされた不機嫌さそのままにブリーフィングルームへと足を踏み入れる。
「最高統括官の御命令ですから、仕方がありませんよ」
そんなマイクを宥めながら後に続くのは、彼のウィングマンを務める副官、リック・ベイリン中尉だ。
「しかしだな、スクランブル要員でもない俺達がいきなり呼び出されるってのはどういう事だ?」
「ですから、緊急招集ってのはそういうもんですから…」
数年来の付き合いである二人は、やいのやいの言い合いながら室内を進み、定位置である席に着席すると同時にピタリと会話をやめた。
マイクが率いるのは、エデン唯一の攻撃機部隊であるインヴィジブル隊。
隊員数は五名で、スクランブル待機要員だった二名は既に着席しており、残りの一名もすぐにやって来て、ブリーフィングが始まる。
進行を務めるのは、軍務局長であるルーサー・ケイネス大尉だ。
全員が立ち上がって敬礼を交わし、着席すると一息つく間も無くルーサーは口を開いた。
「揃ったな。それでは、簡潔にいかせてもらおう。今から十分前、アイレセンに遠征中のレックス少佐からインヴィジブル隊の緊急出動命令が下された。諸君等には直ちに出撃してもらう」
本当に簡潔に言い切ったルーサーに、リックが挙手して質問をぶつける。
「与えられる情報が少な過ぎます。もう少し詳細な説明を行ってください」
「詳細もなにも、私も詳しい事は知らないんだ。アイレセンの駐屯地に魔族軍が侵攻して来て、配備されている戦力では対応しきれないから増援としてA-20を送れ、という命令が十分前に下された。ただそれだけだ」
「なんじゃそりゃ…」
マイクが呟き、他の隊員たちも同調する様に頷く。
しかし、その顔には不満の色は無い。寧ろ、獰猛なギラギラとした笑みが浮かんでいる。それは、他の隊員たちも一緒だ。
別にこれは彼等がバトルジャンキーだとかそういう事ではない。
最近、他の部隊は出撃する回数が増えたというのに航空部隊、それも化石燃料を消費する攻撃機部隊(AH-80等の軍用ヘリコプターはバッテリーで動いている)だけが出撃が増えないどころか燃料を温存する為に、定期的に行われていた偵察行動さえ禁止されてしまったので、彼等はかなり鬱憤が蓄積していた。
その捌け口がようやく見つかったと、思わず顔に出てしまったようだ。
「貴官等には、とりあえずアイレセンへと向かってもらう。詳しい作戦内容は、現地の管制官からのオペレーションに従え。ああ、そういえば、少佐からのオーダーだが、出撃の際には対地重爆撃C装備で来い、との事だ。どうやら大分ド派手なのを御所望らしい」
ルーサーが、ふと思い出したかの様に、そしてニヤリとしながら付け加えた一言に、インヴィジブル隊の笑みがますます深くなる。
攻撃機が出撃する際には、作戦内容に応じて様々な装備が換装される。よって、様々な敵種を想定して様々な装備内容が、予めセットで決められている。
その中でも対地重爆撃C装備はエデン開闢以来一度も使用された事がなく、また、その事実から想像できるように、全ての対地装備の中でも最もバイオレンスな装備内容なのだ。
「…ブリーフィングはこれまでとする。さあ、さっさと出撃しろ!」
全員が一斉に立ち上がり、殺る気に満ちた素晴らしい敬礼を行った。
A-20攻撃機格納庫
A-20攻撃機はA-18攻撃機の後継として開発された、地球のアメリカ空軍でも攻撃機部隊の中核を担っている機体だ。
二十世紀から二十一世紀にかけて運用されていたA-10攻撃機は、地対空攻撃に備えて非常にタフな機体として有名だった。
しかし、時が流れて二十六世紀となり、攻撃機に求められる開発コンセプトは大きく変化した。
個人携帯型対空兵装の性能が飛躍的に向上し、防御性能の向上が追いつかなくなった。その為、新たに開発される攻撃機は「攻撃を受けても堕ちない」ではなく「攻撃を受けない」というコンセプトで開発されるようになったのだ。
そして開発されたのが、A-18『クロスボウ』攻撃機。
外見は、ロシアのMiG-31『フォックスハウンド』要撃機に似ている。つまり、「エンジンに翼がくっ付いている」と言ったほうがシックリくる、他の戦闘機と比べたら少々独特なフォルムだ。
そう見えるのはエンジンがあまりに巨大な事が原因だが、それによってA-18は、高度百フィートでもマッハ2以上での飛行ができ、地上の敵に捕捉すらされない超音速でのヒット・アンド・アウェイを実現した。
そのA-18の後継が、A-20『バリスタ』攻撃機だ。
フォルムはほぼ変わらないが、エンジンが積み替えられたり、電子機器を更に高度な物と取り替えたりと、全く別次元の機体に進化している。
全長二十二メートル、全幅十四メートル、全高六メートル。最高速度はマッハ5.2、超音速巡航時はマッハ3.2。基本兵装は三十ミリガトリング砲が二門。
地球での西暦二五七〇年現在、最強と呼ばれる傑作攻撃機である。
―――――ちなみに、複数のレーダー施設との超高速データリンクが可能となったので、二十二世紀辺りからステルス絶対神話は崩壊している。
「イィィィィィィヤッホォォォォォォォォ!!」
獣の様な歓声を上げながらマイクは自分の愛機、垂直尾翼に赤い雀蜂のエンブレムが描かれたA-20攻撃機に飛び乗る。
周りでも隊員たちが、奇声は上げていないものの、似たり寄ったりのテンションでそれぞれのA-20へと飛び乗っていた。
コックピットに身を埋め、ベルトとHMDを装着してからマイクは正面の計器類に向き直る。
「チェック」
そう呟きながらコンソールに目を走らせる。
ジェットフューエル(燃料)コントロールスイッチ、航法装置、スロットルなどがオフの位置にある事を確認。
その他、兵装管制パネル、警告パネル、サーキットブレーカーのパネルなどを確認している間に、機付き整備員が機体の下に潜り込んで、取り付けられた兵装の落下防止用安全ピンを抜き取ってから素早く這い出し、準備完了になった事を手を挙げて知らせる。
マイクがキャノピーから右手を出して人差し指を立ててエンジン点火の合図を出すと、近くにいた整備員たちが一斉に機体から離れた。
それを確認してから、ジェットフューエル・スターターのスイッチを入れる。
右エンジンのクランキング・モーターが回転を始め、数秒で必要なトルク数に到達。警告パネルには何の表示も映っておらず、自動でスターターとクランキング・シャフトが接続される。
ドンッ
そんな聞き慣れた音が響き、直後にキイイイイイイィィィィィィン!という排気音が轟き始めた。
モニターではエンジンの回転数表示が急激に上昇し、正常値域で安定する。
そして油圧ポンプと発電機の接続も正常に完了したらしく、モニターも機体状況を表すグラフィックでは、右エンジンが正常稼働を示す緑色で染まった。
それを見届けてからもう一度ジェットフューエル・スターターのスイッチを入れると、今度は左エンジンが同様に始動シークエンスに入り、問題無く始動した。
エンジン始動の間、マイクは航法装置に必要な位置座標データを入力して、飛行可能な状況が整った。
「インヴィジブル・フライト、チェックイン」
『ツー』
『スリー』
『フォー』
『ファイブ』
他のA-20に乗る隊員たちが、それぞれに与えられているコールサインの番号で返答し、準備完了である事を知らせた。
『インヴィジブル・フライト、タクシー・トゥー・ランウェイ01(01番滑走路までタキシングせよ)』
「了解」
管制塔からの指示に答え、マイクはギアのブレーキを外す。
整備員たちの敬礼に見送られながら、格納庫から出たA-20は滑走路まで機体は進む。
滑走路に進入し、機体の機首の軸線をセンターラインに合わせる。
追従してきたリックたちの二番機以降は離陸時の事故での衝突を防ぐ為、上からみて三角形を描くように滑走路にラインナップした。
『インヴィジブル・フライト、クリア・フォー・テイクオフ(離陸を許可する)』
管制塔から離陸許可が出される。
「インヴィジブル1、テイクオフ」
スロットルを押し込んでミリタリー推力に移行し、ブレーキペダルを放す。
直後に凄まじい衝撃が背中を叩き、A-20は一気に加速して滑走路を突き進み始めた。
HMDに表示された速度スケールがみるみる上昇し、百二十ノットに到達する。
「いくぜ、ヒャッハー!」
三十路のオッサンとは思えない雄叫びを上げながらマイクが操縦桿を、雄叫びに似つかわしくない優しさで引くと、機体はフワッと浮き上がった。
そのままピッチ角を四十度まで上げ、着陸脚を収納させる。
着陸脚を収納した事で速度を出せるようになり、マイクは一気にスロットルをアフターバーナーの位置まで押し込んだ。
「グッフ…」
離陸の時とは比べ物にならないほどの圧力が全身にかかり、熟練のパイロットであるマイクが、思わず息を吐く。
しかしすぐに回復し、ギラギラとした猛禽の様な目で前を見据える。
機体は僅か四秒で音速を突破し、更に六秒でマッハ2に到達。
それでも速度スケールの上昇は止まらず、A-20は爆発的に加速していく。
後方を見る余裕は無いが、データリンクで二番機以降がちゃんと加速して付いてきている事が確認できた。
そしてとうとう、機体はマッハ5に突入する。
「ははははははははは!」
久しぶりの感覚に、マイクは思わず笑い声を上げてしまった。
五機のA-20は一直線に南に向けて飛来していく。
フランシナ帝国南端 アイレセン近辺
長閑な田舎、といった風情のアイレセン地方。
その上空を、銀色の槍がマッハ5で飛行する。
初めて体感する衝撃波に、獣や鳥たちは一斉に逃げ出していった。
しばらくして、A-20が残していった余韻が完全に消え去ると、辺りは嘘みたいに静寂を取り戻す。
それでも動物たちはしばらく警戒していたが、何も起きる様子が無いので、何事も無かったかの様にそれぞれの暮らしに戻っていく。
少し南の方に行った所で何が起こるのかなど、彼等には知りようも無い。
『アイレセンCPよりインヴィジブル1、応答せよ。インヴィジブル、聞こえるか?』
「聞こえている、アイレセンCP。早速だが指示をもらいたい。こっちは早く吹っ飛ばしたくて仕方が無いんだ」
マイクが少々過激な事を言うが、管制官は「分かっているよ」と笑いながら、統合データリンクシステムを通して目標のデータをインヴィジブル隊の全員のHMDに送信する。
「………確認した。これを吹っ飛ばせばいいんだな?」
『そうだインヴィジブル。一匹も逃さず殲滅しろ、というのがレックス少佐の命令だ。遠慮無くやれ。だが、他のポイントでは他の部隊が作戦行動を行っている。彼等を誤爆しないように、細心の注意を払ってくれ』
「誰に向かって言ってるんだ、エリック?本国からの異動組であるお前が、俺の恥ずかしい二つ名を忘れたのか?」
『ははは、そうだったな。存分にやってこい、『キラー・ホーネット』。期待してるぜ』
「任せとけ。
………やっぱり、二つ名は使わないでくれ。恥ずかしい」
『ははははは』
軽口を叩きながらも、マイクは攻撃の為の用意を行う。
兵装管制パネルの操作ロックを解除し、精密爆撃の為に個別目標情報を各兵装のINS(慣性誘導装置)に入力。
更に暗証コードを入力し、最終安全装置を解除する。
「さて、そろそろ目標が見えるぞ。インヴィジブル全機、準備はいいか!?」
『ツー、攻撃準備完了』
『スリー、同じく』
『フォー、完了』
『ファイブ、同じく』
隊員たちの力強い返答に満足そうに頷き、マイクはスロットルを引いて速度を緩める。
鬱蒼とした森が眼下に広がる今、マッハ5のままで目標の有視界領域に突入すると、目標を通り過ぎてしまうという間抜けな事が起こりかねない。
そして、
「タリホー!!」
森の中の道を進む、二千近い異形の軍勢。
距離があるのでまだゴマ粒程度の大きさにしか見えないそれをいち早く見付けたマイクが、お決まりのセリフを叫びながら一気に機体を降下させ、低空からの爆撃態勢に入る。
地球では、迎撃される危険性があるので攻撃機・爆撃機関係無く、低高度から侵入しての爆撃は滅多に行われない。
だが今回の敵は、航空機すら見た事の無い異世界の軍勢だ。
巨鳥やワイバーンに対抗する為の対空兵器や攻撃魔法も存在するが、その巨鳥やワイバーンに対しての命中率でさえ、とても低い。
低高度侵入爆撃時のマッハ3、それも初見のA-20攻撃機が撃墜される事など、万に一つも有り得ないだろう。
高度を下げたマイクの一番機を追って、リックたちの二番機以降も追従して高度を下げて、攻撃態勢に入る。
『統合データリンク、セット。攻撃目標を分担、HMDに送信します』
「確認した。いくぞ!」
ターゲットの魔族軍は既に兵装の射程距離に入っており、HMDに出現したシーカーが目標を示すカーソルと重なり、カリカリと音を立てている。
「攻撃、開始!」
親指で操縦桿のスイッチカバーを開け、その下の赤いスイッチをカチカチと二回押す。
直後、ガクンという衝撃と同時に、機体が僅かに高度を上げる。
兵装を切り離して、機体が少し軽くなったからだ。
投下されたのは、JDAM五百ポンド爆弾。
各機が二発ずつ、合計十発のスマート爆弾が投下された。
A-20から切り離された直後は、慣性でA-20と同じ速度で進んでいた五百ポンド爆弾だが、やがて減速し、正確に地上の目標へと迫る。
着弾するより早く、A-20が魔族軍の上空を通過した。
半分以上の魔族がA-20に気付いてすらおらず、気付いた魔族も空を見上げ、一瞬だけ視界に入ってまた飛び去っていった物体を、ポカンとした表情で見送る事しかできなかった。
直後、そんな彼等のもとに贈り物が届く。
JDAM五百ポンド爆弾、スマート爆弾、GBUなどの呼び名を持つその物体は、数人の魔族を押し潰しながら地面に突き刺さった瞬間、内包された五百ポンド、約二百三十キロの特殊爆薬を炸裂させ、数百の命を一瞬の内に奪い去った。
「ドンピシャぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!」
叫ぶマイクだが、さすがに操縦中なのでガッツポーズはしていない。
『インヴィジブル1。ご機嫌のところ申し訳ありませんが、まだ攻撃の第一波が終わっただけです。気を抜かないで下さい』
「わかってるよ!さ~て、次は何かな~?」
リックの忠言に適当に答えながらA-20を旋回させ、兵装管制パネルをいじる。
HMDに表示されるのは、残っている兵装の種類。
「JDAM五百ポンド爆弾が四発、スタンドオフ・クラスターディスペンサーが四発、高圧燃料気化爆弾が二発。あと、機関砲の弾が二門で合計二千八百発。さすがは対地重爆撃C装備、偵察用の対空A装備とは火力が違うぜ、火力が!!」
五機のA-20全てが旋回し、再び魔族軍へと迫る。
魔族軍は先程の攻撃で混乱しているようだが、そんな事に気をつかう必要は無い。
彼等を皆殺しにする事が、マイクたちの目的なのだから。
「さあ、ここからが本当のショー・タイムだ!インヴィジブル全機、続け!」
『ツー』
『スリー』
『フォー』
『ファイブ』
テンションの高いマイクの掛け声に、部下達が簡素に、しかし確かな闘志を秘めた声で答えた。
五本のA-20が、魔族の軍勢へと突き立てられようとしていた。
新年一発目だけど、主人公どころかメインキャストが一人も出ない!でも、サブストーリーじゃないよ!
発進の様子は、航空自衛隊のF-15Jの発進を参考にしています。
その他も実在の戦闘機の事を参考にしていますが、小説なので創作も一部あります。ご了承ください。
A-10攻撃機とMiG-31要撃機は実在する戦闘機です。MiG-31の形状が気になる人は、適当にググッてください。




