小話 クリスマスの惨劇・当日編
昨日より引き続き、小話を投下。
当たり前ですが、クリスマスにこんな話をせっせと書いて投稿している筆者には彼女なんかいません。
…違うよ!外出する予定が無いんじゃなくて、指定校推薦が取れたから、外出してはいけないんだよ!
「あ、アレス~!」
エデン唯一のアミューズメントパーク『エデンの園』のエントランス前に立っていたプラチナブロンドの少女が、待ち人の姿を認めて破顔しながら手を振る。
それに対して待たせていた男、アレスは若干引き攣った顔で手を降り返した。
『おい、もっとニッコリとしろ。怪しまれるぞ」
「…この状況で笑っていられるというのならば、是非ともお手本を見せてくれ。あわよくば、俺と交代してくれ」
『俺もまだ命は惜しい』
突然の声は、アレスにしか聞こえていない。
彼が耳に引っ掛けている、肌色で他人からは視認されにくいフック型の骨伝導スピーカーで伝わっているからだ。
インカムの声の男、レンディは続ける。
『いいから、取り敢えず愛想良くしろ。彼女達を不快にさせても作戦失敗なんだから』
この場にはいないのに的確な指示を出してくるレンディだが、それにはカラクリがある。
現在、上空八百メートル程の空を隠密偵察用UAVが飛んでいて、その高感度カメラから撮影された映像を見て、レンディはオペレーションを行っているのだ。
偵察衛星からの映像で数センチレベルの解像度が得られる時代だ。UAVとはいえ、一キロも無い距離からの撮影ならば人物の皺の本数まで分かる。
『さて、そろそろ行け』
「…笑顔って、どうやって作るんだっけ…」
そう呟きながらアレスはプラチナブロンドの少女、マナのもとへと歩いて行く。
遠く離れたオペレーションルームから、上空から撮影されているアレスの様子を見ているレンディだが、その光景が処刑台に向かう死刑囚の歩みに見えるのは彼だけではあるまい。
「…さて、アレスはボギー1と交戦状態に入った。ボギー2と3への準備はどうなっている?」
「問題ありません。ボギー2はポイント『D』に、ボギー3はポイント『R』に誘導完了しました」
「よし、計画通りだな。
…そろそろ時間だな。ゴースト1をポイント『D』に向かわせるか」
「楽しかったわね、アレス!」
「あ、ああ…そうだな」
ジェットコースターの退出口から出てきたアレスとマナ。
マナは無邪気な笑顔を振り撒いているが、一方のアレスは少々憔悴した様に見える。
意外と言えば意外だが、アレスに浮気(?)の臭いが無い状況では、マナは普通の女の子と大差が無い。
寧ろ、明るく清楚で気配りの利く理想の女性と言える。
それでも現在アレスが憔悴している理由は、普通に歩いているとアレスの方が別の女性に「あの人カッコ良くない?」という話題にされてしまい、それを見たマナがバイオレンスモードに突入しかける、という事態が何度かあったからだ。
ともかく、現在はマナのバイオレンスモードも一段落して、理想の彼女モードになっている。
それでも、いつ些細な事で爆発するか分からない人間爆弾を横に連れているアレスの心労が消える事は無いのだが。
次のアトラクションを考えがてら、特に行く先も決めずに歩いていると、突然マナがアレスの前に進み出て、クルリと一回転した。
「どうした?」
「アレスからまだ聞いていない事があるなー、って。どう?」
そう言ってから、もう一回転。
それを見て、アレスも彼女が言わんとしている事が分かった。
白いツイードは、彼女のプラチナブロンドの髪をくすませるどころか更に映えさせ。
対照的な黒のスカートに、チョコレート色のストッキング、ブラウンのロングブーツ。
耳には小さな金色のイヤリングが、僅かながら確かなアクセントをつけている。
つまり、ものすごく綺麗に見えるのだ。
勿論、素体のレベルが高いというのもあるが、それを含めてもこの上なく美しく見えるのだ。
だから、アレスも一言。
「ああ、すごく綺麗だよ」
その一言で、マナは僅かに頬を朱に染めながら微笑む。
「………まあ、合格点ね。でも次からは、もっと早く言いなさい」
「ああ、善処するよ」
アレスも自然な感じで答える事ができた。
二人の間に、何やら良い感じの空気が流れる。
その時、
『ゴースト1、そろそろ時間だ。ボギー2が待っているから、ポイント『D』へ向かえ』
オペレートしているレンディからの、突然の指令だ。
いや、当初から予定されていた事ではあるのだが、タイミングが少し悪かった。
「…そんな事を言われても、どうやって抜ければいいんだ?」
『それぐらいは適当にでっち上げろ。体調を崩したとか、そんな感じで』
「…うっ!マナ、すまないけど少し腹が痛くなってきた。ちょっとトイレに行ってくる!」
「えっ、アレス!?………まさか、他の女とかじゃないでしょうねっ!」
『おいゴースト1!ボギー1がヤバいって!こんな状態で放置していくなよ!』
「知るか!ポイント『D』へ向かう!」
「『アレスゥゥゥ!!』」
背中におぞましい気配をヒシヒシと感じながらも、アレスはその場から走り去るのだった。
「ポイント『D』、到着した。指示をくれ」
『…まず、ポイント『A』に戻ったら、ボギー1のケアをよろしくね。
で、次はボギー2だな。近くにいるはずだが』
「探してみる」
レンディにそう答え、アレスは周囲を見回す。
ポイント『D』、エデン最大のデパート。
正確には巨大複合商業施設で、地球を合わせても第四位の規模を誇る。
そこで待ち合わせをしているボギー2とは、
「あ!隊長!」
先にアレスを見付けたらしい赤毛で小柄な少女が、小走りで駆け寄ってきた。
ボギー2こと、メルピア・ソーレス少尉。
いつもは職場でしか顔を会わせないから軍服やコンバットスーツ、AA等の野暮ったい服装しか見た事が無いが、今日は流石にオシャレをしてきていた。
フワフワの赤いニットが彼女の赤毛と良くマッチし、黄色のヘッドドレスが似合っている。
スカートは白いフリルがついた物で、靴も白いモコモコなブーツと、全体的に彼女のフワフワとした小動物感を押し出している。
マナや他の女性が見れば、こう評しただろう。
あざとい、と。
だがアレスは女性ではないし、普段から服装にそこまで気を配っている訳でもないので、深く考えずに言う。
「うん、似合っているよ」
「えっ、何ですかいきなり!もうっ!」
突然褒められたメルピアは、ちょっと怒った様な事を言いながらも、見るからに嬉しそうに顔が緩んでいた。
そしてメルピアは、おもむろにアレスの左腕にしがみ付いた。
「えっと…メルピア?」
「さあ、ショッピングに行きましょう!せっかく隊長と一緒なんですから、たっくさん楽しみますよ!」
「あ、ああ…」
半ば引っ張られる様に、アレスはメルピアと共にデパートへと足を踏み入れるのだった。
「うわ~、これ可愛い~!」
「そ、そうか(居づらい…)」
一時間程が経過し、アレスとメルピアは小物屋、所謂ファンシーショップにいた。
勿論アレスの趣味ではない。メルピアが連れてきたのだ。
やって来た経緯はどうあれ、男が居づらい場所である事に変わりは無いのだが。
今、メルピアはクリーム色の子犬のぬいぐるみを手にとって見ている。
時折、何やら計算高い鋭い視線をアレスに向けているが、居心地悪げにしているアレスは気付かない。
そのアレスはというと、小声でレンディと喋る事で気を紛らわせている。
「なあ、こういう場合はどうすればいいんだ?なんか、すっごく見られている気がするんだが」
『自意識過剰だろ…と言いたい所だが、すごい見られているね、実際』
ちなみに、デパートの屋内にいる為UAVからは映像が撮れないので、店側に事情を話して、というより統括府の強権を使って、監視カメラの映像を拝借してオペレーションを行っている。
「マジか!?俺、見られているの!?うわぁ…。変なヤツって思われているのか…」
『いや、例によって「あの人イケてない?」的な感じなんだが…。おっと、ボギー2が動くぞ。しっかりやれ』
レンディがそう言うと同時に、メルピアが子犬のぬいぐるみを置いて立ち上がった。
「これぐらいにしておきます。隊長、行きましょう!」
「ああ、分かった」
アレスとメルピアは小さなぬいぐるみを一つだけ買い(勿論アレスが支払い)、ファンシーショップを出る。
デパート内はクリスマス一色で、そこら中にリースやベル、トナカイとサンタの人形等のオーナメントが飾り付けられており、クリスマスソングも流されている。
幸せそうな家族連れ、そしてカップルの姿が目立つ。
メルピアはアレスの左腕にしがみ付いており、他人から見ればアレスたちもカップルにしか見えないだろう。
「…私達、こうしてるとなんだか恋人みたいですね」
「ぶふっ!?」
メルピアの突然のジャブが、アレスのボディにクリーンヒット!
アレス は 噴き出し た!
「…そ、そうだな。あくまで第三者から見ればね」
「そうですよね!他の人から見てそう見えるって事は、もう既成事実って事ですよね!」
「………(助けて、レンディえも~ん!)」
『予想の範囲内と言えば範囲内だけど、唐突だねぇ~。頑張って切り抜けてくれ』
「(裏切り者!)」
小声でレンディを非難していると、メルピアのしがみ付いてくる力がいきなり強まった。
「うえぃ!?」
思わず変な声を出してしまったアレスは、ギギギ、と音が出そうな動きでメルピアを見る。
「えーっと、メルピア?」
「…そういえば、隊長は私の事を『メルピア』って呼んでくれているのに、私だけ『隊長』っておかしいですよね」
「そ、そうかな?実際に俺は隊長なんだし、別におかしな事は…」
「私も、『アレス』って呼んでも、いいですか?」
「ええ~…」
目を泳がせ、思わずメルピアから顔を背ける。
普通なら呼び捨てぐらい全く気にしないアレスだが、今回は様子が違った。
メルピアの目が、恐い。
獲物が罠にかかるのを虎視眈々と待っているハンターの目だった。
ここで呼び捨てを許可してしまったら、何かが取り返しのつかなくなる気がする。
具体的には、ある種の書類を、役所まで無理矢理持って行かされる事になる気がする。
「い・い・で・す・か?」
「ええっ~と~…」
ギラギラとした目で迫ってくるメルピアから、必死に顔を背けて後ずさるアレス。
しかし陥落は時間の問題。
そう思われた、その時。
『ゴースト1、ボギー3がポイント『R』でスタンバイ完了だ。向かってくれ』
「(よっし向かおう!今行こう、すぐ行こう!)
いてててて!すまないメルピア!急に腹が痛くなってきた!ちょっと失礼する!」
「えっ、ちょっと、隊長!?」
アレス は 逃げ出し た!
「おっ?これって…」
『何やってるんだ?早くポイント『R』へ向かえ』
「分かってるって。その前にだな…。すいません、これとこれとこれを………」
「ポイント『R』に到着した。…なあ、これは本当にこの服を着てなければいけないのか?」
『ドレスコードがある店なんだから、仕方が無いだろう。それに男の俺が言うのもなんだが、結構似合っているぞ?』
「そいつはどうも…」
「お客様、こちらへ」
「あ、はいどうも」
ポイント『R』、高層ビルの最上階にある高級レストラン。
黒のスーツに着替えたアレスは、ナイスミドルなウェイターに先導されて個室のVIP席へと足を踏み入れた。
『さあ、最後の敵だ。気張っていけ』
「あ、ご主人様、お待ちしておりました」
部屋にいたのはボギー3こと銀髪褐色の美女、リリアナ・フォリオル特務技官。
彼女は元魔族で、現在は魔族の特徴である角や青白い肌は無くなっているものの、万が一にも市民に不信感を与えない為にも、貸切のレストランでのクリスマスデートとなった。
「すまない、待たせたか?」
「いえ、そんな事はありません」
謝罪しながらリリアナの対面の席に座るアレスに、リリアナは微笑みながら答える。
彼女の今日の服装は、初めて見るドレス姿だった。
背中が大きく開いたセクシーな黒のイブニングドレスに、机の下なので見えないが黒のハイヒール。
耳には銀のイヤリング、首にはプラチナのネックレスが輝いており、彼女の美しい銀髪と良く合っている。
大人っぽい(年齢的にも大人だが)色気を感じさせる服装は、彼女に似合っていた。
「すごく似合っているよ、リリアナ」
取り敢えず、挨拶代わりにと褒めるアレス。
それに対してリリアナは、花が咲いたかの様に喜色満面となる。
「ありがとうございます!ご主人様も、とっても格好良いですよ!」
「え?ああ、ありがとう」
思わぬカウンターに、普通に返事をしてしまうアレス。
『何やってんだよ。もっと攻めていけよ!』
「…何がだよ」
そんな事をしていると、料理が運ばれてきた。
運んできたのは、例のナイスミドルなウェイターだ。
「前菜の、スモークサーモンのマリネで御座います」
ウェイターさんは、料理だけ手早くセッティングすると素早く退室していった。
「…えっと、取り敢えず食べるか」
「ふふっ、そうですね」
慣れないながらも最低限のマナーは修得していたので、アレスはどうにか大きなヘマをせずに食事を済ませる事ができた。
ウェイターがメインディッシュの「子牛のロースト バターナッツとブラックオリーブ添え」の皿を下げて、VIPルームはアレスとリリアナだけになった。
リリアナはといえば、異様に様になっている作法で料理を綺麗に食べ、今は壁一面ガラス張りになっている窓から外を見ている。
夜景と言えば聞こえが良いかもしれないが、エデンの夜景というのは地球の百万ドルの夜景とかいう物とは比べ物にならないぐらい貧相で、見ていてあまり楽しい物ではない。
それでも外を見ているリリアナに、気の利かない男であるアレスは何も声をかける事ができず、黙ってその様子を見ていた。
すると、
「…もう、こういう時は男性の方から何か気の利いた事を言うものですよ、ご主人様」
「えっ?あ、ごめん」
突然口を開いたリリアナにアレスは素直に謝ってしまい、それを見たリリアナは悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「いいですよ。私は、ご主人様がいてくれるだけで満足ですから」
「でも、今…」
「一般論の話です、私は違います」
「あっ、そう…」
毒気を抜かれた様な表情になったアレスを、クスクスと笑うリリアナ。
そして突然、真剣な表情を作る。
「ご主人様、お話があります」
「はい」
「先程言った通り、私はご主人様がいてくだされば、それで幸せです。今の私は、過去に無いぐらい幸せに満ち足りた毎日を送っています」
「はあ」
「そこで、大変不躾ではありますが、私は更なる自分の幸せを追求したいと思うのです」
「そうか。いいんじゃないかな?」
バンッ!
「うおっ!?」
リリアナがいきなりテーブルを叩いた音に、飛び上がりかける。
しかしリリアナはそれに構わず、ズイッ!っと身を乗り出し、アレスへと迫る。
「ご主人様!私は、永遠にご主人様のお傍に置かせて頂きたいと思っています!」
「はっ?永遠?それって…」
「そうです!私は、ご主人様に………」
ドガアァァァァンッッ!!
バリィィィィィンッッ!!
「アレスゥゥゥ!!」「たいちょおおお!!」
「えっ!?」
「………(ダッシュ)」
ドア から 幼馴染 が あらわれ た!
窓 から 部下 が あらわれ た!
リリアナ は 驚いて いる!
アレス は 逃げ出し た!
「「しかし回り込まれてしまった!!」」
「何ぃ!?」
マナにはククリ刀、メルピアにはスナイパーライフルを突きつけられ、アレスは投降を余儀なくされた。
「…おい、レンディ!どうなってんだよ、これは!」
『返事が無い、ただの屍のようだ』
「あの野郎、逃げてやがった!しかも変な対応プログラム組んでいきやがった!」
「アレス!」「隊長!」「ご主人様!」
「はいっ!」
「「「説明しなさいっ!」」」
「ちょっと待て、説明はしますけども、それは説明を強要する時の装備ではないって。ちょっと待て、おいっ!ちょ、イイイイイイヤアアアアアアアアッッッ!!??」
エデンの下町的なエリア、そこの小さな居酒屋。
レンディを筆頭とした、ドキドキ☆クリスマスデート大作戦の実行員一同は、静かに酒を飲んでいた。
「結局バレちゃいましたけど、統括官殿は大丈夫ですかね?」
「うん?まあ、大丈夫だろう。彼女達は、何だかんだ言ってアレスにラブだからな。やる事をやった後は、勝手にチュッチュして終わってくれるだろう」
年下の分析官の質問に、半分ぐらい出来上がったレンディが答える。
半分出来上がってもやり手のキレ者、といった雰囲気を失わない点は流石と言うべきか。
しばらく他愛の無い話をしていると、突然誰かが叫んだ。
「でもさー、統括官殿がちょっと羨ましいなー!あんな美女達に追いかけまわされてるんだからさー」
「じゃあお前、統括官殿と代わってもらうか?」
「いや、あんな重度に病んでる方々は流石にお断りですが。それでもさあ!一部は羨ましいだろ!」
「確かにな!」
それを皮切りに、盛大な愚痴とやっかみと自虐が始まる。
「俺だってな、彼女ぐらいいたんだからな!」
「えっ?いつ?」
「…ちょっと前だよ」
「だからいつだよ」
「……………十四、五年くらい前、かな?」
「それお前、四、五歳の頃だろうが!」
「ちくしょー、やっぱり女は顔が良いヤツがいいのか!」
「男は顔じゃねえぞ!」
「統括官殿だってなあ、顔意外は別に…」
「最高統括官、超高給、士官学校卒業、特殊戦術部隊隊長………」
「……………」
「「ちっくしょおおおおおっっっ!!」」
「もういい!俺達は彼女なんか作らずに一生を過ごす!」
「「「おー!!」」」
「こら、俺を同類扱いするなよ!」
「でも中尉、彼女いませんよね?」
「そ、それはそうだが…」
「中尉って、何歳でしたっけ?」
「………三十四歳だが?」
「「「………魔法使い」」」
「うるせええええええっっっ!!」
皆が思い思いにふざけあったり、怒鳴りあったり、笑いあったり。
とても楽しそうで、それを眺めていると「こんなクリスマスもありだな」と思うレンディ。
そんな事を考えながらレンディが酒を飲もうとした、その時。
ドッガアアアアアンッッッ!!
「ブフッ!?」
「なっ!?」
「んっ!?」
「だっ!?」
男達が音のした方を向くと、そこには三人の修羅がいた。
「ギャーーーッ!?」
壁を破壊して入って来た三人の修羅。そしてその後ろからついてきた、一人の男。
プラチナブロンドの修羅が男達を見回して、自分の後ろについてきている男に尋ねる。
「アレス、この人達?」
「そうです」
男、アレスの返事を聞き、三人の修羅は頷いてそれぞれの得物を抜き放つ。
「さて、あなた達」
「随分と楽しい事を仕組んでくれましたね?」
「お仕置きします」
「………頑張れ(合掌)」
「なっ、何でアレスが無事で俺達がムゴッ!?」
何かを喋ろうとしたレンディだが、メルピアが蹴って飛ばした壁の瓦礫が顔に直撃して昏倒する。
「「「さあ、覚悟はいい…?」」」
「「「「「いっ、イヤアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァッッッッッ!!」」」」」
男達の野太い絶叫が、クリスマスの夜に響き渡るのだった。
―――――数十分前
「さて、まずはどんな調教をしようかしら?」
「ルビをふっても全然ソフトになっていない!」
「うふふふ………、あら?」
カーボンワイヤーでグルグル巻きにされたアレスの服のポケットから、何かが転がり落ちた。
それをメルピアが拾い上げる。
「箱…?それも三つ」
「あっ、それは…」
「泥棒猫、何なのそれ?」
「うるさいですよ女狐。…それぞれに名前が書いてあります。Dear Mana. Dear Melpire. Dear Liliana. ここにいる三人のようです」
「それぞれに渡したらどうです?」
リリアナの提案によって、小さな箱がそれぞれの手に渡った。
「開けてみましょうか」
「そうですね」
「いやー、それはちょっと、それぞれ一人の時に開けて欲しいなー、って…」
「黙りなさい、アレス。それじゃあ………」
三人が箱を開け、そのまま姿勢で固まった。
十秒、
二十秒、
「…おーい?」
流石に不安になってきたアレスが声をかけると、我に返ったマナが突然アレスの胸倉を掴んで引き寄せた。
「アレス、正直に答えなさい」
「はっ、はいっ!」
「これは、それぞれへのクリスマスプレゼントって事でいいのね?」
「ああ、そうだよ」
「それじゃあ、これはそのクリスマスデート大作戦とやらの一環?」
「え?いや、これはデパートの宝飾店でたまたま見付けたから、三人に似合うかなー、って…」
「………ふーん」
そう呟いたマナはいきなりアレスの胸倉を放し、アレスはベシャリ、と地面に落ちた。
「いっててて………。ん?三人とも、どうしたんだ?」
顔を上げたアレスが見たのは、何故かアレスから顔を背けてこちらを見ようとしない三人だった。
「………ねえ、あなた達」
「言わないで下さい。分かります」
「そうですね、そろそろいいでしょう」
「?、何を言っているんだ?」
いきなり優しげな声音になった三人に、アレスは逆に恐怖感が募る。
すると、リリアナがアレスを優しく立ち上がらせ、メルピアがカーボンワイヤーを切断してくれた。
「…おい、何を企んでいるんだ?」
急に自由になった体をさすりながら、アレスは何となく不安感が倍増したのでゆっくりと後ずさる。
しかし、そんなアレスに対して、三人は優しげな微笑みを向けるだけだった。
「もう何もしませんよ、隊長」
「寧ろ、私達もちょっとしたクリスマスプレゼントをあげます」
「という事で、アレス、ちょっと目を瞑って?」
「…こうか?」
ここは逆らわない方が良さそうだ、と判断したアレスは、大人しく目を瞑る。
すると、
「―――――っ!?」
突然、唇に感じた三連発の感触に、アレスは驚いて後ずさる。
思わず目も開けたアレスが見たのは、なにやら蠱惑的な笑みを浮かべる三人の美女達だった。
「「「メリー・クリスマス、アレス!」」」
「えっ、あっ、うん。メリー・クリスマス…」
先程の現象の意味が分からないほど鈍感にはなれず、恥ずかしくなったアレスは、小さな声で答えるのであった。
恥ずかしげに顔を伏せてしまったので、アレスは気付かなかった。
三人の美女達も、恥ずかしげに頬を染めていた事に。
(割れている)窓の外に、雪が舞い始めた事に。
後日、マナ・フローレンス秘書官はダイヤモンドのネックレスを、メルピア・ソーレス少尉はルビーのネックレスを、リリアナ・フォリオル特務技官はエメラルドのネックレスを肌身離さず身に着けるようになるのだが、その由来は三人と、一人の男しか知らない。
Merry Xmas!
こんなエンド。
いつも通りのアレスDEAD ENDを期待して下さっていた方々、ごめんなさい。たまには彼にも良い目を見させてあげてもいいんじゃないでしょうか!
正月編の小話も書こうかと思いましたが、しんどいのでやめにします。
でも、暇とバイタリティーが余っていればちょくちょく書くので、何か小話リクエストなどが御座いましたら、気軽に言ってください。




