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エデンの王  作者: Palerider
帝国防衛編
41/58

第三十八話 自己犠牲

 西暦二五七〇年/ブリストン暦四五六年 射手(サジタリウス)の月(九月)九日

 フランシナ帝国南端 アイレセン



「くそ、とりあえず撃て!」


 ヤケクソの様にアレスが叫び、アレス、ライル、ボビーの三人でそれぞれの銃火器を一斉掃射する。


 目標は、アレス達の目の前に聳え立つモノ。

 アンノウンから生まれた、黒い巨人。



 最後の弾薬を使い切る様な勢いの、アレス達三人による一斉射撃。

 しかし、


「………、撃ち方やめっ(シーズ・ファイア)


 アレスの号令で、ライルとボビーは直ぐに射撃を止める。

 彼が射撃を止めさせた理由は、明白だ。


「全く効果無し、と」


 先程の一斉掃射は、黒い巨人に対して、何ら効果を上げていなかった。


 アレス達は見ていた。

 それぞれの銃口から放たれた弾丸が巨人の黒い体表に着弾する直前、突然空中に出現した白い障壁が、それを阻んでいた。


「どうやら、孵化しても魔法障壁は健在のようですね」


「面倒だな………とりゃっ!」


 呟きながら、三人はダイナミックに跳躍。

 直後、巨人のローキックが、三人がいた場所を削り取った。


 ゴロゴロと受身を取りながらアレスは素早く起き上がり、通信機を起動させる。


「HQ、緊急で要請(オーダー)だ!」


『ゴースト1、何が必要だ?』


「もう一度支援砲撃を要請する!座標はV84D25、弾種は榴弾だ!」


『HQ了解。直ちに砲撃を開始する。着弾は三十秒後だ』


「頼む、うおっと!?」


「隊長!?」


 慌ててリンボーダンスの様な動きで回避したアレスの顎先三センチの空間を、巨人の足の裏が掠めていく。ライルが叫ぶのが聞こえたが、それに答える余裕も無く、そのまま連続で巨人の猛攻に晒される。


「はっ、うおっ!?くそっ、こいつ(巨人)から離れろ!支援砲撃が来るぞ!」


「しかし、隊長は!?」


「いいから、早く!」


「りょ、了解!」


 アレスが怒鳴る様に命令し、ライルとボビーは唇を噛み締めながら走っていく。


 勿論、アレスだって死ぬつもりは無い。巨人が隙を見せたら、すぐにでも遁走するつもりだ。

 だが、巨人の猛攻がそれを許さない。その巨体に見合わぬ素早さでラッシュをかけてくる。

 素早いとは言ってもサイズがサイズなので、等身大の人間の様な速度での連打はかけてこない。

 しかし、そのサイズ故に攻撃範囲があまりに広く、アレスの身体能力でも、一々全力で回避しなければならない。

 身を投げる様にして攻撃を回避して、起き上がったらすぐに次の攻撃。

 攻撃をくらう事は無くても、距離を取る事ができないのだ。


「この野朗っ!」


 転がりながら、アレスは腰のポーチから取り出した物体を投げる。

 地面に転がった緑色の円筒は、ブシュウウウウ、という音と共に白煙を噴き出した。

 煙幕手榴弾(スモーク)だ。本当は音響閃光手榴弾(スタン)を使いたかったのだが、先程までの戦闘で、破片手榴弾(パイナップル)と一緒に全て使い切っていた。


 噴出された白煙が広がり、アレスの姿を完全に覆い隠す。

 状況が悪化したら、煙幕を焚いて姿を隠しながら撤退。米軍海兵隊で教えられている事柄だ。

 アレスもそれにならい、煙の中を走り去ろうとする。


 しかし、次の瞬間、巨大な拳がアレスに迫る。


「なっ!?」


 慌てて回避するアレスだが、完全には避けきれずに、ほんの先っちょが頭を掠めた。

 ただそれだけで、アレスの体は容易く吹っ飛ばされる。


「―――――ガッ、グッ、ハッ………!!」


 頭を掠めた一撃のせいで脳震盪を起こしそうになり、さらに吹っ飛ばされた後に盛大に地面に叩き付けられて、肺の中の空気が無理矢理搾り出される。

 まるでトラックに跳ね飛ばされた様な動きだった。事実、そのダメージ量はトラックとの衝突を上回るほどのもので、地面に叩き付けられたダメージも加味して、アレスでなければ死んでいた所だった。


「ぐっ………、くそっ。あいつ、センサーでも搭載しているのか………!?」


 ヨロヨロと起き上がりながらアレスが呟く。



 実際の所、この黒い巨人には、魔力に反応して、より強い魔力持ちを優先的に狙う為のセンサーの様な機能があるのだが、それはアレス達のあずかり知らぬ事である。



 大きなダメージを負ってしまったアレスだが、吹っ飛ばされたお陰で巨人から離れる事ができた。

 悲鳴を上げる肉体にムチを打ち、後ずさりながら巨人を見る。


「さあ、こいつならどうだ………?」


 アレスが呟いた、その瞬間。

 ジャスト三十秒。ヒュルル、という音と共に数十発の榴弾が飛来し、次々と巨人に着弾し始めた。


 ズドドドドドドドドドドドドドドガガガガガガガガガガガガッッッッッ


 グオオオオオオオオオアアアアアアアオオオオオッッ!!!???


 流石に魔法障壁でも防ぎきれないのか、巨人の胸板で次々と弾ける火球。雄叫びの様な悲鳴(?)を上げる巨人。

 先程の支援砲撃は対人用のキャニスター弾も混ざっていたが、今回は純粋に榴弾、つまりHEAT弾だけだ。

 戦車の装甲を一撃で破壊するだけの威力を孕んだ砲弾は、炸裂時の爆風だけでアレスを押しやり、外れて巨人の足下に着弾しても、ポッカリと巨大なクレーターを形成する。


 目の前で火薬庫を引っくり返したかの様な衝撃に、流石のアレスも地面に蹲って耐えなければならない。

 それほどまでに、要請した支援砲撃は壮絶なものだった。


 一分程が経過し、ようやく砲撃が止んで静寂が訪れる。

 舞い上がった砂埃が周囲に立ち込め、まるで煙幕手榴弾を使用した後の様だ。


「やったか………?」


 砂埃の向こうに、二十メートルを越える巨躯の気配は感じられない。

 期待を込めて呟くアレスだが、


『………いいえ、隊長。まだのようです』


 遠隔地からアレス達の様子を見てサポートしてくれるメルピア。

 彼女のいる地点からは何か(・・)が見える様で、緊張を孕んだ声でボソリと無線機越しに呟いた。


 やがて土煙が晴れ、それ(・・)がアレスの視界に映る。


 巨大な、黒い卵だ。


「シェルターかよ………」


 アレスが呟いた通り、その卵の表面は黒い金属の様な板がハニカム構造で覆っていて、パッと見ただけでも、非常に頑丈そうな事が窺い知れる。

 そして、卵の中からはドクン、ドクン、という大太鼓の様な重低音の鼓動が響いており、それ(・・)が何であれ、生存している事を証明していた。


「あれだけの支援砲撃でも死なないか。それに、このシャルターみたいな形態じゃあ、もう一度砲撃を要請してもあまり効果は無さそうだしなぁ………」


 困った様な声音でアレスが呟くと同時にパキリ、とハニカム構造の板の隙間が広がり、卵が変形し始めた。

 体積はそのまま、卵の球状から人型へと変形していくのを、アレス達には止める術が無い。仕方なく、変形する巨人に背を向けて、アレスはライルとボビーが隠れている林の中へと駆け込んでいく。


「隊長、大丈夫でしたか!?」


「ああ、どうにかね」


「あれをくらって、よく無事で………」


 アレスが部下達と合流した所で、巨人は変形を終えていた。

 こういう場合、より強化された状態で復活するのがテンプレだが、見た目には先程までの巨人と違いは無い。中身まで同じなのかは分からないが、少なくとも大幅なアップデートみたいな事は無さそうな事だけが、救いといえば救いか。


 ゴオオオオオルルルルルルルルルルルルウウウウウウウウ……………


 重機のエンジン音の様な唸り声を上げながら、巨人が立ち上がる。

 相変わらず、口も無いのにどこから声を出しているのか分からない。


「形は人型なのに、何となく獣っぽいな」


「それは今、関係無くないですか?」


「それより、この後どうするかを考えるべきでしょう。支援砲撃も効果が無かったのですから、私は撤退を進言しますが」


「そうだな。…ゴースト4、周辺の敵情報を」


『隊長達の位置から半径三キロ圏内に巨人以外の敵影はありません。三キロ以上離れた地点に集結中の様ですが、周辺を包囲している訳でもなさそうです。様子見しているのではないかと』


「成程。フム、それならばこの場合は撤退が妥当ゥおあぁぁ!?」


「うおおおぅ!」


「のわっ!?」


 アレスがシンキングタイムに入ろうとした瞬間、アレス達が隠れていた樹木が、巨人のローキックによってへし折られた。

 すっかり忘れていたが、巨人にはセンサー的な機能が備わっているので、隠れても無駄なのだ。


「妥当とかそういうレベルじゃない!この場は撤退しか無い!」


「りょ、了解!」


「りょうかっイテッ!?木片が…」


『たっ、隊長!?逃げてください!早く!』


 マナの悲鳴の様な声に急かされる様にして、アレス達は巨人に背を向けて全力疾走を始める。

 後ろから巨人がズシン、ズシンと追いかけてくるのが聞こえて、すごく恐い。

 ただ、巨人は遠距離攻撃手段を持っていないらしいので、後ろから撃たれる心配が無いのは幸いか。


「くそっ、引き離せない!」


「これでもくらえっ!この化物!」


 ブオオオオオオオオオオオオオオッ!!


 いっこうに差が開かない巨人との鬼ごっこに業を煮やしたボビーが、走りながらM250機関銃を後ろに向けて連射する。

 しかし、やはり白い魔法障壁が出現して銃弾を阻み、巨人の体には傷一つ付かない。


『なら、これはっ!?』


 ヒュガッ、ヒュガッ

 …タァーーーン、…タァーーーン


 通信機越しにメルピアの声がしたかと思うと、遠方から巨大な弾丸が飛来し、遅れて銃声が聞こえる。

 弾丸は正確に巨人の頭部、赤く怪しく輝く目玉を狙っていたが、やはり白い障壁に阻まれてしまった。


 しかし、頭を狙った銃撃は流石に巨人をひるませ、その速度が緩まる。


「よし、今がチャンスだ!とにかく走れ!」


「うおおおおおおおお!」


「ぬああああああああ!」


 アレスの号令に、ライルとM250をしまったボビーが絶叫で答え、流石の健脚での全力疾走を見せる。


 巨人との距離が、少しずつ開き始めた。


「たいちょおおおおおお!」


「なんだあああああ!?」


 全力疾走しながら、後方の巨人の立てる騒音に負けないよう、アレスとライル、ボビーが怒鳴りあう様に会話する。


「ちょっと、隠れたりしてやり過ごした方が良いんじゃないですかあああああ!?」


「無理だあああああ!原理は分からんが、やつにはセンサーみたいな物があるらしいから、すぐに見つかるううううう!!」


「じゃあ、この状況はどうするんですかあああああ!?」


「とにかく走れえええええ!!」


「「ちくしょおおおおお!!!」」


 アレスの簡潔な答えに、血の涙を流しそうな声で叫ぶライルとボビー。


 叫びながらも、走る走る。

 百メートル走が十秒前後の奴等が全力疾走を続けるものだから、既に五、六キロを走破していた。

 しかし、スタミナ配分を全く考えずに走り続けたので、アレスはともかく、ライルとボビーは息が上がり始めている。

 勿論、二人はそんな事を口に出したりはしないが、アレスはその様子をしっかりと横目で見ていた。


「(…普通のペースなら、装備を担いでいても仮設司令部までの六十キロの道のりを走破できるんだが、流石にトバし過ぎたか。どうする………?)」


 チラリと後方を見やる。


 速度が一時的に下がった事で少し距離が開いているが、巨人はペースを落とす事無く追いかけてきている。生物ではないのだから、当たり前か。

 時折、巨人の頭部の付近に白い障壁が出現し、少し遅れて…タァーーーン、…タァーーーンという音がする。メルピアが引き続き援護射撃を行ってくれている様だが、巨人も慣れてきたのか、最初ほど速度が落ちなくなってきている。


「(くそっ、どうする…!?)」



そしてついに、恐れていた事が起きた。



「くっ………」


「ゴースト3!」


 ボビーの走る速度が、少しずつ遅れ始めたのだ。

 彼の体格から分かるとおり、彼は元々、力仕事が専門だ。長時間走る事には長けていない。


「ゴースト3、大丈夫かっ!?」


「たっ、隊長………」


 アレスの呼びかけに、ボビーは息も絶え絶えに返事をする。


「隊長…、俺はもう、無理です…。置いていってください…」


「そう言うと思ったよ!だが、却下だ。俺が指揮官である限り、絶対に部下は見捨てない!」


 そう言うとアレスは、ボビーの襟首を引っ掴み、近くの巨木の幹の陰に叩き付けた。


「がっは………!たっ、隊長………!?」


「隊長!?一体何を………」


「ゴースト2!3を頼んだぞ!」


 ボビーの上げた叫び声とライルの声は無視し、アレスはライルに命令してから巨木から離れて、腰のポーチを探って目当ての物を取り出す。


 ブシュウウウウウウウウウッッ!!


 アレスが取り出した物の先端を捻ると、爆発的に煙が噴出され始めた。

 軍用に煙の量と燃焼時間を大幅に増大させた、特殊な発炎筒だ。

 それを振り回しながら、アレスは大声を出す。


「おーーーい、こっちだ!こっちに来い!」


 アレスが上げた大声に、巨人がピクリ、と反応した。

 それを見届けてから、アレスは発炎筒を持ったまま、ライルとボビーがいるのとは反対の方向に向かって駆け出す。


 巨人には、原理は分からないがセンサーの様な物がある。

 それが光学センサーなのか、音センサーなのか、はたまた別の種類なのかは分からない。

 だから、とにかく目立つ様にしながら注意をアレスだけに引き付けようとする。


 果たして、目論み通り、巨人は真っ直ぐにアレスを追いかけ始めた。


「隊長!」


「たいちょおおおっ!!」


 ライルとボビーの叫び声を背に受けながら、アレスは只一人での巨人との駆けっこを始めた。



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