第三十七話 第二ラウンド
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…やっとです。
西暦二五七〇年/ブリストン暦四五六年 射手の月(九月)九日
フランシナ帝国南端 アイレセン
ズドドドドドドドドドドドッッッッ!!!
凄まじい爆音と共に、十発は下らない自走砲による遠距離支援砲撃が着弾した。
柱の陰に隠れていたアレス達でさえ、その爆風に耐える為に身を固くする必要があり、その直撃を受けた魔族など、最早どうなったか分からない。
砲撃部隊が張り切ったのかどうかは知らないが、支援砲撃は一度では納まらず、その後、一分近く続いた。
砲撃が止んだ後も、それから更に一分程、舞い上がった砂埃が納まるのを待たなければならなかった。
砂埃もようやく納まり、辺りに沈黙が立ち込めた所で、通信が入った。
『HQよりゴースト1。支援砲撃は完了した。他に要請は?』
「………いや、特に無い。ありがとう」
『了解。待機している』
「ああ。………さて、ゴースト2、3、無事か?」
「………なんとか」
「ゲホッゴホッ、同じく」
アレスが自分の斜め後ろの砂の山に尋ねると、山が崩れ、中から蹲った姿勢で現れたライルとボビーが咳き混じりで答えた。
「よし、重畳。………ゴースト4、聞こえるか?」
『聞こえています、隊長』
「周囲に生き残った敵はいるか?」
『こちらからは、まだ砂埃が完全には晴れていないので絶対ではありませんが、少なくともサーマルスコープの映像では、アンノウン以外の熱源反応は消えています』
「分かった。引き続き援護を。怪しい動きがあれば、すぐに撃て」
『ゴースト4、了解』
メルピアとの通信を切り、アレスは立ち上がりながら後ろを向く。
「………さて、問題はこいつの処分だな」
メルピアが言っていた、熱源反応のある物体、正体不明構造物。生物の様な鼓動を伴って明滅する、巨大なクリスタルだ。
その周囲には魔法による強力な障壁が張られているらしく、先程の遠距離砲撃の後でも傷一つ無い。まあ、直撃した訳ではないのだから、当たり前と言えば当たり前だが。
「近くで見れば見るほど、気味の悪い物ですね…」
「………これ、本当に生きてるんじゃないのか?」
そう言いながら、生理的な嫌悪感の篭った目でアンノウンを見るライルとボビー。彼等の視線の先には、アンノウンと地面との境界線がある。
脈動しているのだ。
材質は全体と同じクリスタル(みたいな物質)だが、表面が肉の様な凹凸になっており、ピクピクと小刻みに動いているのだ。
材質が違うのだから、例えば心臓が動いている様なのとは明らかに違うのだが、それでも、何と無く生物的な脈動を想像してしまう。
「隊長、これ、どうしますか?」
判断を仰ぐライル。
アレスは暫く黙考した後、結論を出す。
「………まずは詳細なデータ採取。リリアナに解析を頼むという当初の目的は変わらない」
そこでアレスは一端言葉を切り、嫌悪感を押し殺した目でアンノウンを見上げる。
「その後、C5で破壊する。もしもアンノウンが爆弾の類だった場合の事を考慮して、時限式信管を取り付けて、俺達が安全圏に脱出してから爆破させる。
………さっきは少々騒ぎ過ぎた。じきに魔族の援軍が来るだろうから、出来得る限り素早く作業を行う」
「了解しました」
「了解。では、スキャンを行います」
ボビーが頷き、バックパックからハンディカメラの様な見た目のスキャン機器を取り出した。
被っている多機能ヘルメットと無線接続して、アンノウンの解析を開始する。
「それじゃあ、俺達はC5の設置をしよう」
「はい」
アレスとライルはバックパックを下ろし、ケースに入った灰色の粘土の様な物、C5高性能爆薬を取り出す。
続いて、C5をケースから取り出して少し捏ね、形状を変化させてから、アンノウンに貼り付けていく。魔法障壁は一定以上の破壊力を孕んだ事象に対してのみ発動する様で、アレス達が近付いて触れる事には問題無かった。
やっている事の見た目は、子供の粘土遊びとあまり変わらない。だが、扱っている物が凄まじい破壊力を秘めた物質であるという点で、やはり彼等が卓越したスキルを持った超人的な兵士だという事が分かる(特殊戦術部隊員は様々な戦闘に関する資格を取得するように要求されており、その中には軍用特別危険物取り扱い資格も含まれる)。
スキャンを行っているボビーの邪魔をしないようにしながら、アンノウンをグルリと囲む様にC5を取り付けた。
C5は、今尚地球の軍隊で最も使われている爆弾、TNTの約二十二倍の破壊力を持つ。
今回使用したC5は約二キロ。全長十メートル以上のクリスタルはおろか、ブルジュ・ハリファを粉々にして、尚余りある。
些か過剰な量だが、アンノウンが魔法障壁を備えている事を考慮すれば、これでもまだ不安が残るぐらいだ。
「隊長、一応データ採取が完了しました。全く訳が分からない内容ですが」
ボビーがスキャン機器をバックパックにしまいながら、クリスタルから離れた。少しでも長く近くにいたくない、といった表情をしている。
「分かった。それじゃあ、後はこれを爆破するだけだな」
アレスは腰のポーチを探り、タバコみたいな物を数本取り出す。
C5を起爆させる為の電気信号を発する、時限式信管だ。
小さいので少々イジり難かったが、どうにか操作をして、五本の信管全てを十分後に発動する様にセットした。
信管を、貼り付けたC5の中に埋め込んでいく。等間隔に五本、取り付けた。
準備完了になって、離れようとする。
しかし、
「………あ、そういえば、まだ起動させていなかった」
当たり前と言えば当たり前だが、信管は時間をセットしただけでは電気信号を発しない。時間をセットして、メインスイッチをオンにする事ではじめて、セットされた時間に信号を発するのだ。
「くそ、自業自得とはいえ、面倒臭い………」
「隊長、私がやりましょうか?」
「いや、俺がやるよ」
まず五本の内の一つを取り出し、カチッと音がする様に少し捻る。
すると、
「あれ?セットした時間がリセットされてる。くそっ、面倒だな………」
ブツブツ言いながらアレスがもう一度時間をセットしようとした、その時。
ドグンッ
「ん?」
ドグンッ
「………おい、何か聞こえないか?」
「ええ………」
ドグンッ
「イヤな予感がするんだが」
「私もです」
「これ、アンノウンから音が………」
ドグンッ
アレス達三人が、示し合わせた様に同じタイミングで、ギギギという音がしそうな動き首を回し、アンノウンを見る。
巨大なクリスタルが。
鉱物のはずのアンノウンが、蠢いていた。
ウゾウゾと。
「「「きっしょ!!」」」
三人が同時に叫び、飛び退く。
その時アレスは信管を放り投げてしまい、C5に突き刺さった。
アレス達は全速力で、金属の骨組みの外側まで走って逃げる。
そこで初めて振り返り、異変の起こったアンノウンを見た三人の感想は、
「「「きっしょ!!!」」」
同じ感想だが、その感想を抱かせたアンノウン自体は変化していた。
アンノウンが、まるで卵の様に上下に割れ、中から黒いモノが噴き出してきた。
液体の様だが粘性が高いらしく、よく見れば、勝手にウネウネと動いている様にも見える。
噴出の勢いの割には流動が緩やかで、いつまでたっても骨組みの外まで流れ出してこない。
その様子を見ていたアレスは、気付いた。
「いや、違う。これは………」
液体は流れ出してこないのではない。流れ出さないようになっているのだ。
骨組みの外側に流れ出そうになると、見えない壁があるかの様に堰き止められ、骨組みの内側に黒い液体が溜まっていく。
そしてクリスタルから、クリスタルの体積を越える量の黒い液体が流れ出て、骨組みが形作るドームを完全に満たした。
骨組みだけだったドームが、真っ黒な完全体のドームに変貌した。
「………何なんだ、こりゃ」
ボビーがそう呟いた、その時。
ビキリッ
「うえっ!?」
ビキビキ
「なっ、何だ?」
「この音はっ!?」
嫌な予感がビンビンにして、アレス達はアンノウンの上部に目をやる。
果たして、予感的中というか、お約束というか、黒いドームと化したアンノウンの頂上部にひびが入っていた。
ビシッメキメキ
「おいゴースト3。俺、お前の疑問に答えられそうだぞ」
「奇遇ですね。私も自分の疑問に、自分で答えられそうになってますよ」
「私にも、何と無く今後の展開が読めてきましたよ」
バリッビキッメキリッ
「チェックだ。武器弾薬は?」
「P111が、あとマガジン一本。あと、ナイフが一本」
「M250は、ベルトリンク一本と半分。ナイフが一本に、煙幕手榴弾が二つ」
「M34は、マガジンが一本。ナイフ一本、スモーク一つ。
………非常にマズい事態だな」
バガンッ
爆発の様な音と共に、アンノウンが吹っ飛んだ。
天井が崩落したドームの様な形になったアンノウン。
そのアンノウンの天井に開いた大穴から出て来たのは、
ぐうオオオオオオオおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオおおおおおおおおおおおおおおっっっっっッッッッッッッっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!
「黒い、巨人…?」
見た目は、ライルが呟いた内容が全てを表していた。
真っ黒い、巨人。
身長は二十メートル程。七頭身ぐらいの太くも細くもない体格で、その皮膚(?)はツヤの無い漆黒。
頭部に髪は無く、どうやって先程の咆哮を発したのか、顔には口や鼻が無い。代わりに巨大な赤いガラス質の物体が、まるで眼球の様な存在感で、内側に妖しい光を湛えている。
その胸部からは例の金属の骨の様な物が、人間の肋骨の様な配置で飛び出しており、黒い巨体の中でそこだけが鈍い金属光沢で輝く。
子供に書かせた出来損ないの人間、の様な姿が、そこにあった。
「おいおい、マジかよ。今時、デカい人型決戦兵器なんて流行らないぜ………?」
アレスが呟いた軽口に反応したかの様に、赤い目(の様な器官)がギョロリ、と動いた。
その不気味な目が、真っ直ぐにアレス達を見る。
「………隊長、マズくないですか?」
「ここはお約束的に、目からビームとか、普通にありそうなんですけど」
「………俺もそんな気がしてきた」
『何をノンビリ話しているんですか!早くその場から退避してください!』
メルピアの言葉で我に返り、脇目も振らずに撤退しようとするアレス達。
しかし、巨人の方が先に動いた。
目からビーム、ではない。
ヌウッ、という効果音が出そうな動きで、右腕を振り上げた。
そして、
『横に飛んでっ!』
「「「うおおおおおおおおっっっっ!!??」」」
真っ直ぐに、振り下ろした。
ドッゴオオオオオオオンッッッ!!
「まさかの肉弾攻撃っ!?」
どうにか回避したアレスの叫び声が、新たな戦いの幕を開けた夜空に響き渡った。
アレス、AAが無い状態では初となる強敵との遭遇。さあ、どうする?




