第三十六話 砲撃支援要請
ピーンチ
西暦二五七〇年/ブリストン暦四五六年 射手の月(九月)九日
フランシナ帝国南端 アイレセン
「どうしたもんかね、こりゃ………」
渋い顔で呟くアレス。
その背中を守るのは、部下のライルとボビー。
そして、その三人を囲むのは、推定五百以上はいると思われる魔族達。
アレス達の体に、AAは今、無い。
俗に言う、絶体絶命というヤツである。
「隊長、どうしましょうか?」
「どうします?」
「隊長としてどうかと思うというのは自覚しているが、言わせてもらう。………俺が聞きたい」
あまりにブッチャケ過ぎなアレスのカミングアウトに、ライルもボビーも、何とも言えない顔で正面へ向き直った。
「さて………」
既にブッチャケ過ぎなカミングアウトをかましたアレスだが、これで本当に丸投げしてしまったら、本当に隊長失格になってしまう。それは隊長、というか最高司令官としてどうかと思うので、とりあえず対応策を考える事にする。
と、言っても、そんなに難しい話ではない。選択肢が少なすぎるから。
まず、プランA。敵の殲滅。
今、アレス達の手元に、最強の兵器であるAAは無い。生身である。生身だと、結局は無傷とはいえ、先程の様にたった十数人の魔族にてこずってしまった。
周囲三百六十度を囲まれた現状、真正面からの戦闘は自殺行為である。
よって、却下。
次に、プランB。戦略的撤退。
上記の通り、AAは無い。いかにアレス達の身体能力が人類の限界に挑む(アレスの場合、突破しているかもしれない)かの様なレベルであるとはいえ、所詮は人間である。アレス達にとっての「科学」である「魔法」を使った魔族達を振り切る事は、恐らくできない。
それに、繰り返す様だが、周囲三百六十度を囲まれているのだ。突破すら難しい。
よって、却下。
プランC。搦め手パート1。
具体的に言えば、人質作戦である。
しかし、魔族のお偉いさんなど知らないし、見分けがつかない。
これが人間なら、偉そうな顔をしていたり、偉そうな服を着ていたりと、見分ける手段はある。
しかし、魔族は通常の人間、所謂ヒューマンだが、それ以外の種族が多い。例えばだが、アレス達に魚人の喜怒哀楽を含めた表情など分からない。
あと、ヒューマン型以外の種族は、素っ裸(それか腰巻のみ)というのも結構いる。かと言って、ヒューマン型の中にもそれほど飛びぬけて偉そうな服装の奴はいない。よって、服装だけで判断する事はできない。
却下。
「と、なると………プランC・改かね?」
プランC・改。
プランCの人質作戦を少しいじった物である。つまりは、人質ではなく、物質作戦である。
幸いな事に、魔族達にとってまず間違いなく重要な物体が、アレス達のすぐ近くにある。
そして、確かボビーが担いでいるバックパックの中にはC5爆弾が二キロ程あった筈だ。
後ろのライルとボビーに、ハンドサインで素早く作戦を伝える。
「(ゴースト3、爆弾を用意しろ。最悪、アンノウンを爆破する)」
「(了解)」
「(ゴースト2、魔族への警戒を強化しろ。怪しい素振りがあれば、自己判断で発砲を許可する)」
「(了解)」
そしてアレス自身は、少しでも時間を稼ぐ為に魔族達へと向き直る。
その瞬間、
「っ!?」
目の前に迫っていた拳を、咄嗟に迎撃する。
アレスの放ったクロスカウンターは、寸分の狂いも無く、奇襲してきた巨大なリザードマンの腹に突き刺さる。
「―――――ガギャッッ………」
鎧を着ていたが、アレスの拳はそれを打ち砕き、更には腹の皮を破り、腹と口の両方から青い血液が噴き出した。
「フッ!」
そのままナイフをリザードマンの首に当てる。
リザードマンは殆ど全身が鱗で覆われており、魔族となったリザードマン、その中でも特に強靭な個体ならば、その鱗の強度は地球でいうタングステン、この世界でいうダマスカス鋼(タングステンとほぼ同じ硬度で、同体積で四分の一の重量)に匹敵する。まともに切断しようと思えば、地球ならばダイアモンドのナイフが必要になるだろう。
アレスが持っているのは鋼(本人の趣味により、日本刀に用いる玉鋼)のナイフなので、まともに切断するのはやめにする。
そんなに難しい話ではない。ただ、鱗と鱗の間に刃を差し込んで、そのまま鱗に沿って動かせばいいだけだ。原理が簡単なだけで、実行はこの上なく難しいのだが………。
ともかく、リザードマンの首は呆気無く切断され、蜥蜴男は一風変わった噴水となった。
傷一つ無く倒せたアレスだが、その顔には焦りの色が浮かぶ。何故なら、
「「「「「「jscjxkfmんsjthzぅおgshtでえ!!!」」」」」」
今の一幕で戦端が強制的に開かれ、周囲の魔族達が一斉に様々な魔法を詠唱して放ってきたからだ。
「避けろおおおおっっ!!」
「へっ!?」
「のわああああっ!?」
アレスがライルとボビーの頭を掴んで無理矢理地面に伏せさせると同時に、伏せた三人の頭上で魔族達の魔法、雷撃やら炎の刃やら岩の弾丸やら氷の槍やらが衝突し、爆発する。
「うわっ、あっつ!背中熱い!」
「叫んでいる場合か!立て、動くぞ!」
「ど、どこへですか!?」
「アンノウンの陰だ!」
爆発の熱風に耐えながら三人は素早く立ち上がり、爆発の煙に紛れてアンノウンの、その金属の骨みたいな柱の陰に隠れる。
アレス達が隠れた直後に煙が晴れ、魔族達の魔法攻撃が再開された。
「くそっ、奴等全然遠慮しない!これは重要な物じゃなかったのかっ!?」
「た、隊長。あれを………」
ボビーが指差す先を見てみると、魔族が放った魔法の流れ弾がアンノウンの中央部のクリスタルに迫る。しかし着弾する直前に光の壁が出現し、魔法を煙の様に霧散していった。
「………成程。重要だからこそ、防衛策は万全という事か」
「どうしますか、隊長?アンノウンが重要な物だという確証は得られましたが、あれではC5でも破壊できるかわかりませんよ?」
「というより、今のままでは我々の生存さえ危ういのですが………」
「………分かってる。とりあえず、ここを陣地として反撃だ。ゴースト4との通信、ひいてはHQとの通信が復旧するまでは、ここで俺達だけで耐えるしかない」
「………耐え切れますかね?」
「できるかできないか、じゃない。やるんだ。ゴースト2は右側を警戒、ゴースト3は左側を。無いとは思うが、万が一に後方から敵が直接接近してきた時に備えて、後方警戒も怠るな。前方は全て俺が対処する」
「了解」
「了解」
アレスの指示に二人は頷き、武器を構えて(ボビーは自分のM250機関銃を回収していた)それぞれ左右を向く。
アレスもM34、そしてDE.50AEmk4を太股のホルスターから抜いて、少し歪な二丁構えになった。
「「「ロックンロール!」」」
ヤケっぱちに叫ぶと同時に、三人がトリガーを引く。
ズドンッパパパパパガガガガガッブオオオオオオ
四種類の銃声とマズルフラッシュが炸裂し、数体の魔族が薙ぎ倒された。
魔族は人間の軍団と違って殆ど全員が魔法障壁を展開できるので、効率はそれほど良くない。
デザートイーグルは一撃で障壁を粉砕できるが、弾数が少ない。マガジンに七発、予備のマガジンは五本。
M34は二、三発を叩き込む必要がある。マガジンには二十四発で、予備のマガジンは十本。
P111は十発近くを障壁に当てなければならない。ロングマガジンで八十発、予備のマガジンは八本。
結局はM250が一番役に立っており、M34と同じく二、三発、運が良ければ一発で障壁を撃ち砕く。ベルトリンクが二百発で、予備用の箱が四つ。
柱から、時に隠れ、時に撃つ、というのを繰り返す。
幸いな事に、魔族達が使う魔法は銃弾よりも精度が悪く、そして遅いので、どうにか負傷者を出さずに攻撃し続けられる。
だが、とにかく効率が悪いのだ。
―――――十分後。
「リロード!最後のマガジンです!」
「こちとらとっくにDEが弾切れだ!ゴースト3、そっちはっ!?」
「チマチマ撃ってたので、まだ二箱残っています!ハンドガンが無くなったのなら、私のベレッタをどうぞ!」
「助かる!」
ボビーが投げてよこした(注・良い子は真似しないでね)ベレッタをキャッチし、アレスが再びトゥーハンドで射撃を開始する。
たった十分。
しかし、まるで重機関銃による十字砲火を受けているかの様な十分間が経過し、弾薬は底を尽きかけていた。
手榴弾も、音響閃光手榴弾と破片手榴弾をいくつか使用したので、発煙手榴弾しか残っていない。
その甲斐あってか、アレス達が隠れているアンノウンの周囲には、数百もの魔族の死体が転がっている。しかし、最初は五百ぐらいだった魔族に援軍が来ているらしく、まったく減った感じはしない。寧ろ増えているかもしれない。
その上、最初はただ魔法を放ってくるだけだったのだが、
「ちっ、ジャムった!」
「隊長!」
「グルゥゥオゥ!!」
「うおわっ!?」
弾詰まりしたタイミングを見計らった………訳ではなさそうだが、一瞬で接近して来た犬型の魔獣が、アレスの喉笛めがけて飛び掛ってきた。尻尾を差し引いても全長二メートル以上、体重三百キロはありそうな、犬というより小型の熊みたいな怪物だ。
だが、
「小賢しいっ!!」
一声怒鳴ると、アレスはその細腕からは想像もできない剛力で魔獣の顎を掴んで止めて、逆に魔獣の喉笛にナイフを突き立てる。
「ギャオオオンッ!?」
魔獣が断末魔の悲鳴をあげるのも構わず、ナイフでグリグリと肉を穿り返し、腹を蹴って吹っ飛ばす。
既に絶命しており、魔獣はそのまま地面で動かなくなった。
よく見ると、たった今殺した魔獣の他にも、アレス達の足下には複数の死体が転がっている。
そう、魔族達はただ魔法を放ってくるだけでなく、魔獣や肉弾戦特化の魔族による近接戦闘も仕掛けて来るようになったのだ。
アレスの近接戦闘スキルが半端ではないので、問題無く倒す事ができる。しかし、アレスがナイフで応戦している一瞬の間でも、銃火器による弾幕に穴が開いてしまう。その隙を突いて、魔族による包囲網がどんどん狭まってきてしまっているのだ。
気分は、先住民と戦う孤立したイギリス軍である。
そして、付近に援軍はいない。
「隊長、流石にマズいと思うんですが…」
「………ああ、俺もそう思っていたよ。リロード!」
せっかくボビーからもらったベレッタだが、DEと違って魔法障壁を破るのに数発撃ち込む必要があるので、すぐに撃ち尽くしてしまった。M34も、遂に最後のマガジンに突入した。
絶体絶命である。
そして、
『………た………う、………ま……』
そんな状況だからこそ、
『隊…ょう、聞…えま…か!?』
救いの主は現れる。
『隊長、聞こえますか!?隊長!』
「…ゴースト4?メルピアか!?」
沈黙を保っていた通信機から聞こえた声。それは、遠隔地からアレス達をサポートしてくれている部下、メルピアだった。
「ゴースト4、無事なのか?今までどうしていたんだ!?」
『申し訳ありません、奇妙な形状の魔族と交戦していました。電子照準サイトに異常が発生していたので、その魔族が一種の電磁波の様な物を発生させていたのだと思われます。既に撃破しました』
「そうか、ご苦労だった。じゃあ、HQとの電波状況は復旧したんだな?」
『はい、交信可能です。すぐに繋ぎますか?』
「頼む!」
柱に身を隠してM34を撃ちながら、アレスは通信機に向けて、殆ど怒鳴る様に叫ぶ。
メルピアの声が途切れ、暫くノイズが走る。
そして、
『ゴースト1、聞こえるか?こちらHQ。応答を』
「HQ、こちらゴースト1。聞こえている!」
『HQよりゴースト1、状況を知らせ』
「現在、敵の真っ只中で集中砲火を浴びている。もう持ち堪えられそうにない!」
そしてアレスは、深く息を吸い込んで、彼のそれなりに豊富な実戦経験の中でも始めての単語を叫ぶ。
「直ちに砲撃支援を求む!座標はV84D26。弾種は特殊キャニスターと榴弾だ!」
『了解。復唱、座標V84D26に遠距離砲撃型キャニスター弾とHEAT弾による混成砲撃支援。直ちにM210自走榴弾砲によるMRSIを開始する。着弾は三十秒後、衝撃に備えよ』
「了解!砲撃が来るぞ、二十五秒後に対ショック姿勢!」
「了解!」
「了解しました!」
叫ぶ様な声で言葉を交わして迎撃に戻るアレス達。
時折、撃ってもいない魔族が弾け飛ぶ様に死んでいくが、恐らくメルピアによる援護射撃だろう。
そして、きっかり二十五秒後。
ヒュルル、という音が、空から聞こえてきた。
「来たぞ!伏せろぉぉぉ!」
ライルとボビーが耳を塞いで地面に伏せ、アレス自身も伏せるのとほぼ同時。
ほぼ同時に、数十発という砲弾が着弾した。
「直ちに支援砲撃を求む!」って、一度言ってみたいですよね。
キャニスター弾というのはWW1の頃に使用されていた対人弾で、進撃の巨人のブドウ弾がこれに当たります。
作中のキャニスターは最新式の物で、目標地点との距離が十メートル以下になったら炸裂して子弾を撒き散らす仕組み。




