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エデンの王  作者: Palerider
連合加入編
32/58

第二十九話 Force is justice

帝国との戦闘、これで本当に終了。

帝国はあくまでチョイ役なので、戦闘って言ってもこの程度で良いのです。

 西暦二五七〇年/ブリストン暦四五六年 射手(サジタリウス)の月(九月)三日

 フランシナ帝国近郊 第二通行管理所



「なんか、早速面倒な事になってますね」


「だな………」


 ボソリと呟いたライルに、ゲンナリとしながら同意を示すアレス。


 今、彼等の目の前にはフランシナ帝国国境最南端の関所、第二通行管理所が見えている。

 高さは三メートル程で、横には視界に入る限りずっと続いている長い防壁。徒歩移動の歩兵が主力であるこの世界においてであれば、これは非常に強固な国防機構となるだろう。

 無論、兵員輸送は装甲車やヘリが主体であるエデン防衛軍には通用しないが。


「(そもそも、遠距離からの迫撃なり、戦車砲撃なりで簡単に破壊出来るしな)」


 アレスがこんな物騒な事を考えているのは、別にアレスが軍人だからどんな状況下でも軍事の事が頭から離れない、という恐い病気みたいなものではない。

 こんな状況なら、誰だって頭の中で戦闘シュミレーションぐらいするだろう。


 ちなみに、どういう状況かと言うと、


「直ちに武装解除して投降せよ!さもなければ皆殺しだぞ!」


 国境防備の為に配備されていたフランシナ帝国軍が、防壁の前で横一列になって槍と弓を構えてアレス達に向けている、という状況だ。


 アレス達エデン一行がフランシナ帝国を訪問するというのは、既に聖連合経由で伝達されている。これは受け取り確認の返通(地球で言う配達通知)が返ってきたので間違い無い。

 エデンとフランシナ帝国の戦争は既に停戦しており、講和するにしろ継戦するにしろ、とりあえず一度は会談を行う事が決定している。これは、全権委任されていたフランシナ帝国遠征軍の代理司令官が持ちかけ、両国間で合意となり、聖連合も決定を確認した事だ。


 つまり、今、アレス達の目の前で起こっている事象は、フランシナ帝国が合意を無断で破棄して継戦の意志を示したという、卑怯で傲慢な事であると言える。


「まあ、その心境は分からんでもないがね」


「大国が小国に負ける訳にもいきませんからね」


 しみじみと言うアレスとライル。


 実際、その通りなのだろう。

 フランシナ帝国はこの世界において有数の軍事大国だ。

 実際に戦闘を行わなくても、ただ「軍を差し向けるぞ」と恫喝するだけで大抵の小国はひれ伏す。それを吸収して、更なる大国へとのし上がる。そんな事を五百年近く繰り返してきた国だ。エデン国なんて小国、遠征軍は何故かやられたが、いつも通り少し脅せば問題無い、とでも考えたのだろう。


 しかし、彼等にとっては不運な事に、アレス達の国はエデン国だ。

 そこらの小国ではない。エデン国なのだ。

 それだけが、フランシナ帝国の唯一つの失敗要素だった。


「おい、聞こえないのか!?さっさと武装解除して投降しろ!貴様等の様な弱小な輩など、我等偉大なるフランシナ帝国に大人しく従えば良いの………」


 フランシナ帝国軍の指揮官の言葉が最後まで紡がれる事は無かった。


 額のド真ん中。所謂脳天に柄まで深々と突き刺さっているのは、刃渡り三十センチで黒塗りのダガー。

 アレスが投擲のモーションすら知覚させずに放った先制攻撃は、これ以上無いぐらい綺麗に決まった。


「だ、団長っ!?」


「おのれ、貴様等あああ!」


「殺せ!蛮族共をブッ殺せ!」


 指揮官が先制攻撃で殺された事で、口々に罵声を浴びせながら攻撃を行おうとする帝国軍。

 しかし、


「………なあ、ライル」


「何でしょう」


「お前、人を殺す事に抵抗って覚えるタイプ?」


「自分は軍人ですが?」


「ま、そうだろうね。でもさ、合計で十万人も殺したら、流石にどう?」


「それは………。そこまでいけば、PTSDやら心の中の葛藤やらで、かなり危険になると思いますが………。しかし、そもそも私なら十万人を殺す前にストレスでどうにかなる気がします」


「そうだよな。十万人殺す事の方がおかしいんだよな。まあでも、俺はその領域に足を突っ込んじまったし。しかも、みっともなく幼馴染の胸に抱かれて泣いたりもしたし」


「隊長………」


「敵さんには悪いかもしれないけど、俺って結構吹っ切れちゃってるよ?」




 射手(サジタリウス)の月(九月)八日

 フランシナ帝国 帝都パリジェス近郊



「ご報告申し上げます!第一、第三歩兵師団は完全に壊滅!特殊兵装部隊も損耗率甚大!敵軍は依然として勢力を弱める事無くこちらに向かって進軍中です!」


 天幕の中に飛び込んできた若い伝令役が息も絶え絶えに、居並ぶ豪奢な鎧を着込んだ軍の老人将軍達に報告した。

 伝令役の最悪な状況を示す報告に、将軍達は顔を真っ赤にして口々に叫び出す。


「一体何をやっているのだ!敵は千人にも満たないのだろう!十重二十重にも取り囲んでもみ潰せ!それが出来ないのなら、遠くから弓兵数千人の一斉射撃で串刺しにしてしまえばよかろうが!」


「足りないというのなら、もっと兵を投入しろ!敵も生き物だ、いずれ疲労で動けなくなる。兵は元々消耗品なのだから、何千何万と死んだところで、それで敵が倒せるのなら万々歳ではないか!」


「武器を惜しむな!弓矢でもなんでも、湯水の様に使えばいい!いくらでも、使った分だけ財務局からふんだくればいいのだからな!」


 色々と好き勝手叫ぶ将軍達だが、一部を除けばそれらは全て当たり前の事を言っているだけであり、彼等が言った事など、とっくに前線指揮官達が実行し、そしてとっくに屍を量産するだけの結果に終わっている。


 今、前線に必要なのは、出来得る限り安全で、そして有効な、新しい作戦だ。にも関わらず、この天幕の中にいる将軍達は、とっくに意味を成さなくなっている保守的な手法に執着し、それで失敗しても自分達の非を認めようとしない。ただ、若い者達(前線にいる者達)の責任にして逃れようとしている。


 こういう連中は、例え異世界であろうとも存在する。その名は、『老害』と言う。


 現状、同じ権力を持った将軍でも、有能で柔軟な若年将軍達は前線に出て指揮を執っている。その為、老害将軍達を止める事が出来る者はいなかった。若い将軍達がこの場にいたとしても、「最近の若い者は…」とか言って老害達が従うとも思えないが。


「第一、誇り高き我等フランシナ帝国が負ける訳が無いのだ!」


「その通り!奴等には正義が無い。絶対の正義を掲げ、体言する我等が負けるなど有り得ない!」


「そうだ!正義は必ず勝つ!それが当たり前だ。我々こそが正義だ!」


 本格的に耄碌したのか、遂には現実の戦況について議論する事もやめ、精神論とさえ言えない様な訳の分からない主張を、誰にともなく始める始末。


「我々には正義がある!それがある限り、我々が敗北する事など有り得ないのだ!」


「へー。正義って凄いんだね」


「その通り!あんな弱小の悪しき蛮族共など、正義の名の下には、」


「ところでさ、正義って、何?」


「決まっている。正義とは、我々フランシナ帝国の………」


 そこで、将軍達は天幕の中に見知らぬ者がいる事にようやく気付く。

 空いていた席に腕組しながら座る、重厚な機械の鎧を身に纏った大柄な男。

 一度認識したら圧倒的な存在感を感じるというのに、つい先程まで欠片も気配を感じなかった。


「き、貴様っ!?いつの間に!?」


「一分くらい前かな?よくぞまあ、あそこまで気付かない物だね」


「ど、どこから入って来た!?」


「決まってるじゃないか。入り口からだよ」


「何?そ、そんな筈は、入り口には衛兵が………」


「ああ、これ(・・)?」


 ポイッ


 男が長机の上に放り投げた物。それは、兜を被った衛兵………の、生首だった。


「ヒイイイイッッ!?」


「うわあああっっ!?」


 生首の落下地点の近くに座っていた将軍達が、情けない悲鳴を上げながら椅子から転げ落ちる。

 仲間(同じ穴の狢)の将軍の悲鳴に、他の将軍達がようやく驚愕から我に返った。


「だ、誰かおらぬかっ!?」


「敵だ!衛兵、早く来い!こいつを殺せ!」


 叫びながら天幕の外に飛び出して行く将軍達。

 そして、ようやく気付いた。

 不自然過ぎる静寂に。

 周囲に人の気配が全く無い事に。


 より正確には、生きた人間(・・・・・)の気配が全く無い事に。


「な………何だこれは………」


「そんな………馬鹿な………」


 天幕の周囲には、海が広がっていた。

 真っ赤で、生臭い海が。


 その海の源流は、そこら中に転がっている。

 元は人の形をしていた無数のオブジェ。

 しかし、それらは全て不完全な物だ。


 ある物は心中線に沿って真っ二つに。

 ある物は腹で真っ二つに。

 ある物は胸に大穴が開き。

 ある物は首が無く。

 ある物は粉々に。


 天幕の周囲、陣地中が血肉の赤と防具の灰色のコントラストで彩られていた。


「ちょっとあなた達と話をするにあたって、五月蠅そうだったから黙ってもらったよ。最初は暫く黙ってもらうだけのつもりだったけど、若い兵士さん達が『命に代えてでも将軍閣下達をお守りする』とか言うから、その決意に敬意を払って永遠に黙ってもらったのさ」


 将軍達に続いてゆっくりと天幕から出てきた鎧の男が、事も無げにそう言う。

 天幕の中の衛兵は少数精鋭とは言え、百人以上はいる。

 それらを全て、天幕の中の自分達に気付かれない内に抹殺したという男を、将軍達は驚愕と恐怖の念のこもった目で見る。


「お………お前は………お前は一体、何者なんだ………?」


 一人の将軍が震える声で発した問いに、鎧の男は腰のアタッチメントに差した武器を抜き放ちながら答える。


「今、あなた達が戦っている勢力、エデン国の最高統括官、所謂国王のアレス・レックスという者ですよ」


 鎧の男、アレスのカミングアウトに言葉を失う将軍達。

 そんな将軍達に、アレスは問いを発する。


「あなた達に聞きたい。あなた達が言う『正義』とは何だ?」


「え………」


「そ、それは………」


 先程の天幕の中での会話は聞かれていたのだから、今更取り繕っても意味は無いのだが、それでも将軍達は何も言う事が出来ない。

 それでもアレスは問いをやめない。


「あなた達に絶対の勝利をもたらすという、その『正義』とは何だ?」


「………」


「………」


 最早何も言えずに、ただ口をパクパクとするだけの将軍達。

 その中で、(この老人達の中では)一番若く血気盛んな将軍が、顔を真っ赤にしながら進み出て、アレスに食って掛かろうとする。


「黙れ、この蛮族の王めが!我等がフランシナ帝国は絶対の正義を掲げる大帝国!その民である我等は貴様の様な者達など足下にも及ばない優等民族!貴様等などに語る正義などありはしない!降伏するのなら今の内だぞ、じきに貴様等を殺す為の部隊がぎゃあああああああああああ!?」


 将軍がアレスに掴みかかろうとした時。その手が地面に落ち、将軍は血が吹き出す手首の断面を地面に擦り付けながら転げ回っていた。


 それを成したのは、アレスが持つ一本の剣。僅かに反りがある片刃の剣は、地球人なら良く知る日本刀だが、この世界の人間は見た事すら無いシロモノである。

 老害に成り果てた老いぼれ達とはいえ、一応は軍人の端くれ。その初めて見る武器の美しいフォルムに、暫しの間見惚れる。


「応援の部隊を待っているというのなら、時間の無駄だぞ。俺の部下にこの陣地へ近付く部隊を殲滅する様に命令してある。助けは来ないよ」


 何か悪役みたいな事を言うアレスに、日本刀に見惚れていた将軍達は我に返り、ブワッと冷や汗が全身から吹き出す。


「さあ、答えをどうぞ?」


「ああ………ひい………」


「く、来るな………!」


 後ずさる将軍達に、ゆっくりと近付くアレス。

 距離を詰めるのではなく、将軍達が後ずさった分だけ進んで距離を維持する。


 後ずさる将軍の何人かが、そこら中に転がる衛兵の死体に躓いて転ぶ。

 それを見た他の将軍達が、転んだ将軍を囮にして逃げようと、アレスに背を向けて走り出した。


 次の瞬間には、その首は飛んでいた。


「ひいいいいいいっっ!?」


 つい先程まで会話していた仲間の死に、転んでいる将軍達は腰を抜かし、失禁する。


 その将軍の一人に視線の高さを合わせる様に、アレスは屈みこんでその将軍の顔を覗き込む。


「さ、将軍閣下?ご解答を」


 カチカチカチカチッッ


 言葉を発する事も出来ず、歯を打ち鳴らすだけの将軍。


 答えられない。言葉が発せられない。

 しかし、答えないという選択肢も取れない。その場合の未来など、見え透けているからだ。


 数秒、何時間にも感じられる数秒の後、将軍はようやく、どうにか口を開く。


「………、……ら」


「何?大きな声で」


「………、力…だ。国の…力だ」


 ギリギリ聞き取れるが、蚊の鳴く様な小さな声。だが、アレスは満足そうな雰囲気(ヘルメットを被っているので表情は分からない)で頷く。


「成程、ね。そういう基準ならうちの国(エデン)は弱小で正義が無い国だ。だがまあ、四十点ってところかな」


 そう言って、アレスは答えた将軍の手首をカーボンワイヤーで縛り上げた。


 殺されない――――。


 そう思い、手首を縛られた将軍以外の将軍達も安堵の息を吐く。


 しかし次の瞬間、手首を縛られた将軍、つまりアレスの問いに答えた将軍以外の全員の首が飛んだ。


「………え?」


 思わずそう呟いた、生き残った将軍。そして、静かに失神した。


 意識のある者が誰もいなくなった陣地の中で、アレスは呟く。


「Force is justice. 力こそ正義、か。育成学校の教授が言っていた軍事思想の一つだけど、まさか実践する事になるとはねえ………」


 そしてアレスは、陣地の近くで足止めを行っている部下達に戦闘終了を伝えるべく、通信を始めるのだった。




アレスの冷酷レベルがグングン上昇中。彼、廃人になるんでないの?

戦闘とか言ったけど、全然戦っていない………!!

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