第二十八話 魔法にシビレる、あこがれる
アレスのチートが止まらない。
どこまで行くのか、作者にも分かりません。
西暦二五七〇年/ブリストン暦四五六年 射手の月(九月)三日
フランシナ帝国近郊
「………マジで?」
「ええ、マジです。私が知る限り、ご主人様と同等の魔力総量を誇るのは魔王ぐらいのものですよ。魔法はよっぽど適性が無い限りは魔力総量が強さに直結すると言って良いので、ご主人様の魔法師としての力量はもの凄く高いと思います」
ニューフェイス・魔族のリリアナによる、誰も想定していなかったカミングアウトに、宣告されたアレスは勿論、マナ、メルピアまでもが唖然とした表情でリリアナを見る。
その表情は奇しくも、すれ違うアレス達の軍用車両の隊列を見たこの世界の住人達の表情によく似ていた。
いち早く復旧したアレスが、我が事ながら少し引き攣った顔でリリアナに向き直る。
「えーっと、リリー?俺、というか俺達、前にも言ったけど異世界人だよ?この世界の住人なのに、魔力なんて持っているの?」
「異世界人とかどうとかいうのは関係ありませんよ。肉体を保つのが生命力なら、精神を保つのが魔力です。魔法というのは、いわば自分の想像を現実に起こすという現象なのですから。この世界における全ての生命、小虫などの自我を持たない生命以外は、魔法を使えないほど少量でも確かに保有しています。ですから、ご主人様達、異世界の人々も確実に魔力を保有しておられます。そして、ご主人様はこの世界の住人から見ても異常な程の量の魔力を保有しておられますよ」
「そ、そうだったのか………」
リリアナの説明に、アレスはそう呟きながら座席に持たれこんだ。
ただでさえ、物理的な「殺し」のスキルだけでも持て余し気味なのに、更に魔法という奇妙奇天烈な力の才能もあると言われ、少々混乱してしまったのだ。
しかしそこは優秀な戦士。切り換えの早さで混乱を振り切り、身を起こしてリリアナに向き直って尋ねる。
「じゃあリリー、俺に魔法を教えてくれないかな?」
「ええ、全然オッケーです!やってみましょう!」
アレスの頼みをハイテンションで受諾するリリアナ。
そんなアレスとリリアナを、マナとメルピアは面白くなさそうに黙って見ていた。
「では、早速ですが、簡単な攻撃魔法を教授させて頂きます」
高機動車の外に出て、リリアナが早速魔法の講義を始める。
「目標は先程私が探知魔法で発見した魔法トラップ。トラップは存在を隠匿する事が出来るのが長所ですが、魔法攻撃ならどんなに弱くても命中すれば破壊出来ます。ですので、まずは威力などは気にせずにやってみましょう」
「分かった、よろしく」
アレスの素直な言葉に、リリアナは顔をだらしなくゆるめ、奇妙なクネクネとした動きをする。
奇妙な動きは、マナとメルピアが同時に咳払いをするまで続いた。
「………えー、それでは始めます。まずは初歩的な攻撃魔法、『ファイアーボール』です」
「『ファイアーボール』か。随分とストレートな名前だな」
「初歩的なのでそんなものです。本当に初歩的なので、発動も簡単ですよ。手の平を前に出し、火の玉をイメージしながら『ファイアーボール』と唱えてください」
そう言った後で、リリアナは自分の間違いに気付いた。
自分は魔族の中でもかなり上位に入る実力者なので、簡単に発動出来るのだ。通常、人間が魔法を発動させる際には、初歩的な魔法であっても起動言語、いわゆる「呪文」が必要な事をすっかり失念していた。
ちなみに、『ファイアーボール』の起動言語は『火の精霊よ、汝らの子を我が手に、大気を焼き、敵を燃やせ』、である。
リリアナがその事をアレスに伝えようとした、その時。
「『ファイアーボール』」
ボウッ!
そんな音と共に、アレスの手の平にバスケットボール大の火球が生まれた。
「………へっ?」
リリアナの口から、思わず間抜けな声が出てしまうぐらい、アッサリと『ファイアーボール』の魔法は発動した。
「おお、これが魔法か。すごい!この世界の魔法師はこんなのが使えるのか!」
呆然としているリリアナをよそに、一人はしゃぐアレス。彼の手の平の上では生み出された『ファイアーボール』がボウボウと音を立てているが、アレスの発言には一つ間違いがあった。
この世界の魔法師、人間やその他、そして魔族も含むが、彼等が発動させる『ファイアーボール』は、オレンジ色の火球だ。
しかし、今、アレスの手の平にある『ファイアーボール』は、僅かに青みがかった白の火球だ。
発動させたアレス自身は気付いていないが、その火球の周囲はもの凄い温度になっている。スピカやリゲルといった恒星の色に近く、その温度は一万度を超えていた。
「で、次はどうすればいいんだい?」
ワクワクとした表情で続きを急かすアレスに、リリアナは我に返る。
「………え?ああ、えー、次は、それを目標に向けて放ちます。最初はゆっくりでいいですから、とにかく正確に。普通は軌道を思い浮かべるだけでいいのですが、初心者は投擲のモーションをした方が命中率が高くなり、飛距離も…」
伸びます、と言おうとした、その瞬間。
アレスの手から火の玉が飛び出し、三百メートルほど離れた目標である魔法トラップに真っ直ぐ、弾丸もかくやという速度で飛んでいく。
そして次の瞬間、
チュドオオオオオオンッッッ!!!
そんな音と共に、森が吹っ飛んだ。
「………え」
「………あれ?」
「「………」」
一瞬遅れて衝撃波がアレス達のもとに到達し、アレス以外の全員が耳を塞いで地面に屈み込む。
数秒後、衝撃波も止んで、起き上がった者達の目には、モウモウと立ち昇る黒煙が飛び込んでくる。
誰もが、魔族のリリアナでさえ、アレスの放った初歩の攻撃魔法『ファイアーボール』の引き起こした事態を見て、愕然としていた。
その中で、アレスが一言。
「………、やり過ぎ、かな?」
着弾地点から半径百メートル。その範囲が、隕石でも落下したかの様なクレーターに変貌していた。
火球の温度があまりに高かったのか、まだ一部で火が燻っている。
近代軍隊の幹部候補生としての教育を受けたアレスは、これ以上の威力を持つ兵器の使用を見た事がある。一度だけだが、ネバダ地下実験場での核実験さえ見学した事がある。
だが、今回のインパクトはそれ以上だった。
アレスが見た事のある超威力の近代兵器は、使用にはそれなりのシークエンスを要する。核実験は、やる事こそ「ボタンを押すだけ」という簡単さだが、そこに込められるプレッシャーは半端ではない。
だが今回のアレスは、本当に軽い気持ちで、自分が発動させた魔法に発射を命じた。
その結果が今の、五百ポンド爆弾を上回りそうな大爆発である。
お手軽な、超威力攻撃。いくらアレスと言えども、驚くには充分な事象だった。
「………とんでもない技術を身に付けてしまったのかもしれない」
そんな事を、しみじみと呟くアレスであった。
数分後
「ご主人様、魔法について御教授させていただくと言ったばかりですが、撤回させていただきます。当分の間、魔法は使用禁止です」
「………はーい」
再び動き始めた高機動車の車内。
少女達になかなか厳しい眼で見られ、アレスは小さくなってリリアナのお達しを受諾した。
そんなアレスの様子を流石に可哀想と思ったのか、リリアナはすぐに表情を切り替えてフォローする。
「なにも、永遠に禁止ではありませんよ。ちゃんと魔法の訓練が可能な場所を確保できるまで、です」
そして今度は少し顔を赤くして、
「実技は駄目ですが、座学ならば大丈夫です。ご主人様がお望みなら、毎晩、私が二人っきりで手取り足取りナニ取り………」
「あー、見えてきましたよ、隊長!」
変な事を口走り始めたリリアナの発言を、メルピアの大声が遮る。
ちなみに、先程からマナは全く喋っていないが、もう恐ろしくてアレスが彼女の方を向けないぐらいの状態になっている。
「隊長、見てください!ほら、あれ!」
言葉を遮られて不機嫌そうなリリアナを無視して、メルピアは盛んに車窓の外を指差す。
アレスもつられて窓の外を見て、目的の物を発見した。
「ああ、あれが………」
森の木々の間から、城壁が覗く。縦は五メートル程、横は分からず、見える限りどこまでも伸びている。
フランシナ帝国国境、それを守る関所と防壁が見えてきた。
とりあえず、ここで魔法チート化は中止。流石に絶対無敵万能チートはアレだと思うので、制限は付けるつもりです。
魔法の起動言語は、思いっきり厨二。考えるだけでも結構恥ずかしいモノですね。




