第二十三話 科学技術の差が戦力の決定的な差
俺達の夏休みは終わらない!
だって始まってないんだから!!(泣)
西暦二五七〇年/ブリストン暦四五六年 天蝎の月(八月)二十日
エデン外縁部 外壁上
「これは、錚々たる眺めだな」
高さ三十五メートルのエデン防衛外壁の上で、エデンの最高権力者であるところのアレスが、視線の先の巨大な軍団を見て、こう呟いた。
視線の先に展開されているのは、つい昨日到着したフランシナ帝国の遠征軍だ。目算でもその規模は裕に十万を超えていると思われ、更には所々にチャリオット、犀の引く戦車などの様々な特殊兵器が見られ、挙句の果てには戦闘機並みのサイズの巨鳥が五百羽ほど空を飛んでいる。
地平線を埋め尽くす様な大軍が、そこにあった。
「こっちの用意は?」
アレスは隣にいる参謀、レンディに問う。
「対人地雷は設置済み。射砲陣地も展開してある。防衛識別圏内に一歩でも踏み入れた瞬間に一斉掃射が始まるよ」
「なるほど。じゃあ、俺達は砲撃が始まったタイミングで出撃すれば良いのか?」
「ああ、そうだ」
ちなみにアレスは今、久々にAAを装着している。青い光のラインがはしる漆黒の機械鎧。『ジ・アトラス』だ。
非常にゴツい見た目で、ただでさえ体格の良いアレスが身に纏うと、何となく世紀末的な覇者か何かに見える。
ヒャッハー、みたいな。
「とりあえず、監視は怠らないように。AAを装着している俺達と違って、普通の兵士は当たりどころが悪ければ矢の一発で死ぬんだから」
「分かってるって…お?」
双眼鏡を覗き込んでいたレンディが声を上げた。
「どうした?」
「見てみろ」
『ジ・アトラス』のメインカメラを望遠モードにして、レンディが指差した方向を見る。地平線に広がる大軍から、無数の矢が放たれていた。
矢は一本たりとも防衛識別圏内のエデン防衛軍には届いていなかったが、単なる威嚇や何かにしては、その数は多過ぎた。
「始まったな。じゃ、俺は部隊と合流する」
「ああ、行ってこい。…合図は待てよ。最高司令官はお前だが、戦況をつかさどるのは管制官だぞ」
レンディの言葉に無言で頷き、アレスは三十五メートルの防壁から飛び降りる。
ヒュルルルル、ズドンッ!!
そんな音がして、アレスは地上に立っていた。
「さて、行くぞ」
飛び降りたアレスを囲む様に立っている部下達に、そう声をかけてアレスは地面に置いておいた武器を手に取る。
右手に大太刀、左手にアサルトライフル、腰に多数の手榴弾。
部下達も、それぞれが最も得意とする武器とサブウェポンを充分に装備している。
ゴースト達の出撃準備は、整っていた。
同時刻 エデンより二キロ地点 フランシナ帝国遠征軍本陣
「閣下、全ての準備が整いました」
鎧を着た副官が、これまた鎧を着たボルドロに報告する。煌びやかなフルプレートアーマーに身を包んだボルドロは、それに大儀そうに頷き返す。
「では、始めよう」
そう言うとボルドロは腰の剣を抜き、それを掲げて声を張り上げる。
「皆の者、聞けっ!!」
五十過ぎのオッサンとは思えない咆哮じみた声が放たれ、視界の隅から隅までを埋め尽くす兵士達がボルドロに注目する。
それを確認してから、ボルドロは言葉を続ける。
「前を見るがいい。あの小さな城壁に囲まれたちっぽけな国こそが、今回の我々の敵だ。彼の小国はその立場を弁えぬ行為を重ね、ついには偉大なる我等が祖国さえも侮辱した。異世界から来た者共か何かは知らぬが、この世界の掟という物を弁えぬ者には、正義の鉄槌を下さねばなるまい」
オオオオオオオォォォォーーー!!!
扇動する様なボルドロの言葉に、兵士達は呼応するかの様に雄叫びを上げる。
「時は来た!いざ、彼の国に攻め入り、その愚かなる行為の代償を払わせるのだ!そして、我等が帝国に更なる繁栄をもたらすのだ!」
オオオオオオオォォォォーーー!!!
「帝国に栄光あれ!」
『帝国に栄光あれっ!!』
十数万という数の兵士達の一斉の唱和に、比喩でも何でも無く、空気が震えた。
「出陣だ!」
ボルドロの号令と共に、最前の兵士達が動き出す。
チャリオットと重犀戦車。まずそれらで、敵の前衛を蹂躙して混乱に陥れる。
次に機動力の高い騎馬隊と軽装歩兵を突入させ、抵抗力を削ぐ。
そして最後に重装歩兵で殲滅。
巨鳥部隊と弓兵は、状況に応じてサポート。
それがフランシナ帝国軍の大規模な戦闘の際の常套手段であり、事実、これで倒せなかった国はこれまで存在しなかった。
どうやら敵は防壁の近くで土嚢みたいな物を積み上げて迎撃態勢を取っている様だが、そんな物は重犀戦車の前には無意味。砂の城を突き崩すが如く粉砕するだろう。
フランシナ帝国の重犀は品種改良を重ねた特別な種で、その分厚い皮膚は大抵の魔法を無効化する。いかに異世界の特殊な兵器とやらがあったとしても、これを貫く事は容易ではない
―――――少なくともボルドロはそう思っている。
重犀戦車が敵の守りを打ち砕き、チャリオットが敵を蹂躙する。そんな光景がボルドロの眼に浮かぶようだった。
突進していく重犀戦車とチャリオット。ボルドロが、総崩れとなる敵陣に備えて騎馬兵と軽装歩兵に進撃命令、巨鳥部隊と弓兵達にサポートの命令を出そうとした、その時。
何も無い敵陣の真っ只中。
突然起きた爆発で、重犀戦車とチャリオットの一部が吹っ飛んだ。
「………え?」
同時刻 エデン防壁付近射砲陣地
「だんちゃ~く、いま!」
ベテラン迫撃砲手の宣言通り、「いま!」のタイミングで八百メートル程離れた地点、突っ込んできた敵部隊の先頭に八十五ミリ迫撃砲弾が着弾して、馬車とそれを引いていた馬、それと犀らしき生物が吹っ飛んだ。
流石のアレスも感嘆の声を上げる。
「おお…、すげえ…。どうやったらあんなに正確に撃てるんです?」
「まあ、経験としか…。よし、お前等!どんどん撃て!だが外すんじゃねえぞ、砲弾はもう有限なんだからな!」
「イエス・サー!」
よく訓練された砲撃兵達が、ベテラン軍曹の号令で迫撃砲を次々と発射し始める。
シュポン、シュポン、シュポン、
そんな間の抜けた音が連続で鳴り響き、次いで、
ヒュルルルルル、
という音を経て、最後に、
チュドン、ドゴン、ズドンッ
そんな音で敵が吹っ飛んでいく。
「平地をただ突っ込んでくるんだ、演習より楽だな」
「おら、そこ!何くっちゃべってんだ!気ぃ引き締めろ!」
「サー・イエス・サー!」
上官に怒鳴られ、おしゃべりしていた砲撃兵達も黙って砲撃に集中する。
先程しゃべっていた間も迫撃砲は一発たりとも外れてはいなかったが。
一分ほど砲撃が続いた後、アレスは『ジ・アトラス』の戦略ネットワーク機能でUAVからの映像をヘルメット内の視界モニターに映す。
「とりあえずこれぐらいかな?砲撃班長、迫撃をいったん中止してください」
「了解。総員、撃ち方やめっ!」
迫撃班長の号令と共に、さんざん鳴り響いていた砲撃音がピタリと止んだ。
「セーフティーをかけ、残弾をチェックしておけ。…で、よろしいですか?」
「ええ、ありがとうございます。今度はこちらが打って出る番ですよ」
そう言うとアレスは、待機中の部隊との通信回線を開く。
「アウトロー中隊、ラフネックス中隊、聞こえるか?防衛識別圏の中間地点まで進み、牽制を行え。車両を前に出して、負傷者がなるべく出ない様にしろ。
ヴァルキリー1、2、お前達戦闘ヘリは支援攻撃を行え。敵軍にいると思われる魔法使いを優先的に排除するんだ。分かったな?」
『アウトローリーダー了解』
『ラフネックスリーダー了解』
『ヴァルキリー了解。CASを開始します』
了解の返事と共に二つの中隊が動き出し、その上空を二機のAH-80が追従していく。
『隊長、何故歩兵部隊を進ませるのですか?ここは平地で敵は長距離攻撃手段を持っていないのですから、迫撃砲による制圧砲撃を続けていた方が効果的と思うのですが…』
通信が入り、ゴースト2、ライル・ティカッツが尋ねて来る。
「忘れたか?我々はしばらく弾薬を補給出来ないんだぞ。推定十二万の敵兵全てを迫撃砲で倒せば、この戦闘だけで砲弾を使い切ってしまう。この戦闘の重要度はあまり高くないんだから、そんな状態に陥る訳にはいかないだろう」
『成程、そうですね。失礼しました』
スラスラと答えるアレスに、レンディは納得して引き下がる。
―――――全ての銃火器の中で、歩兵の使うM33アサルトライフルの弾薬の備蓄量が一番多く、例えば迫撃砲弾の三百五十倍の弾薬が備蓄されている。
その為、アサルトライフルに限っては弾薬消費を考えずに使用出来る。
『ラフネックス、敵が射程に入った。制圧射撃を行う』
『アウトロー、制圧射撃を開始する』
『ヴァルキリー、攻撃準備完了。魔法使いを確認次第、三〇ミリ機関砲で粉々にしてやる!』
歩兵部隊達からの通信の直後、アレス達から五百メートル程離れた場所でマズルフラッシュが瞬き、連続しすぎて滝の音みたいになった銃声が響き渡る。
標的は、迫撃砲弾でほぼ壊滅状態に陥った敵のチャリオットと重犀戦車部隊。
5.56ミリの銃口から毎分1000発の速度で連射される弾丸が、確実に標的を貫く。
エデン防衛軍のアサルトライフルは地球の軍隊同様フルメタルジャケット弾、つまり貫通力の高い弾丸を採用している。これは敵に命中した際に与える肉体損傷を最低限にしてひどい苦痛を与えない為という人道的見地からの理由なのだが、それが功を奏し、同じ分厚さの鉄板よりも丈夫な重犀の皮膚さえも貫いていく。
襲い来る数千発の弾丸。
どうにか当たらずに済んで逃げようとしても、次の瞬間には空飛ぶ鉄トンボが放つ弾丸の餌食となる。
使用されている弾丸自体はフルメタルジャケット弾と同様、貫通力を重視した対戦車徹甲弾だが、アサルトライフルほど甘くは無い。
超音速の弾丸は、人間の体程度なら命中しなくてもソニックブームで切り裂く。命中しようものなら、例えば腹に命中すれば上半身と下半身がお別れしてしまう。腹自体は粉微塵だ。
重犀が引く戦車、鋼鉄で頑丈に作られたその中にいた兵士達は、アサルトライフルの弾丸からは守られた。しかし三〇ミリ機関砲の弾丸の前には鋼鉄の守りも脆く、その全てが命を落とす。
ほんの数名が偶然の様に生き残るが、最早戦力として意味を成すレベルではない。
フランシナ帝国が誇る特殊兵装部隊は、ここに壊滅した。
地球の戦争ならば、燃料に引火するなりして爆発が起こって黒煙が立ち込めるものだが、ここは銃すら無い異世界。上がっているのは土煙や血飛沫ぐらいで、寧ろ被害ゼロのエデン防衛軍側の陣地の方が硝煙で曇っているぐらいだ。
「全部隊、シーズファイア。警戒を続けろ」
特殊兵装部隊がほぼ壊滅したと見計らって、アレスは攻撃中止命令を出す。アサルトライフルは弾丸に余裕があるとは言え、無限ではない。
近代化した軍隊で言う所の機甲部隊が壊滅したので、これで引いてくれないかな、とアレスは淡い期待を抱く。そんな期待は当然、裏切られる。
『隊長、敵の歩兵部隊と思しき部隊が前進を開始しました』
ライルに言われるまでもなく、UAVからの画像はアレスも見ている。
全く無駄としか思えないその行動に、アレスは思わず溜め息をついた。
「ハア…。アウトロー、ラフネックス、そしてヴァルキリー。待機だ。別命あるまで射撃は禁止だ」
『では、接近中の敵部隊は?』
「…俺達がやる」
『了解、待機します』
アウトロー中隊長との通信を終え、アレスは自分の部下達に向き直る。
「…と、言う訳です。諸君、戦争の時間だ」
キャラに合わない、少しおどけた感じで呼びかけるアレス。
それを、彼の部下達は無言で受け止めた。
アレス自身もそんな部下達の反応に満足気に無言で頷き、己の武器、四八.八ミリアサルトライフル『スイーパー』を左手に、大太刀型も高速単分子カッター『ムラマサ』を右手に構える。
ライルは二丁のサブマシンガンを、メルピアは大口径スナイパーライフルを、ボビーは重機関銃を構えた。
彼等の近くにいた全ての兵士達が敬礼を送る。
「…いくぞ」
アサルトライフルはM4、攻撃ヘリはAH-64Dをモデルにしています。連射性能と弾速はグレードアップしていますが。
次回、主人公無双。




