第二十二話 戦争は軍人ではなく政治家が起こす
総合評価ポイント、100突破!やった!
次はお気に入り登録100人を目指します。
西暦二五七〇年/ブリストン暦四五六年 天蝎の月(八月)十二日
フランシナ帝国 遠征軍編制本陣
「準備は出来たか?」
「はっ!」
革製の天幕に低い声が響き渡り、若い兵士がそれに答える。
若い兵士、副官の返事に低い声の主、フランシナ帝国軍第二席将軍ボルドロ・アゴーイルが、その素で鋭い眼を向ける。
「では、早速報告せよ」
「了解しました!」
ボルドロの眼光に萎縮する事なく、若い副官は手に持ったクリップボードに視線を落とし、そこに書かれている内容を声に出し始める。
「まず、軽装歩兵部隊が約五万人。これらは八割が徴兵による農民で、残りが正規の軍人です。次に重装歩兵ですが、ゾーラン公爵との関係が悪いクリミア首席将軍が出兵を拒んだ為、二万人程度しか集まりませんでした。当然、全員正規軍人です」
「まあ、クリミア将軍は『政治』を重要視する方だからな。仕方あるまい」
「騎兵は軽重合わせて四万。内訳は、軽装騎兵二万五千と重装騎兵一万五千です」
「特殊兵装部隊は?」
「チャリオットが五百台。重犀戦車が二百台です。あと、カイネル第三席将軍から巨鳥兵五百騎を貸与されています」
「ふん、恩を売ったつもりか。しかし、ありがたく使わせてもらおうか。他には?」
「鎧鯨部隊は海が無いので意味がありませんし、亜竜部隊は借り受けられませんでした」
「近衛の虎の子だからな。そう簡単に貸してはくれるまい。最初から期待はしていなかったさ。
…そういえば、エデン国とやらは奇妙な兵器を使うという報告が上がっていたな。遠距離に対応可能な兵力はどうなっている?」
「は。短弓兵一万、長弓兵一万、弓騎兵五千です。あと、ドルトン宮廷魔導長が三級以上の魔導士を計三百人貸し出すと」
「魔導士三百人だと!?ドルトンも随分大盤振る舞いしたものだな」
「その代わり、ゾーラン公爵によろしくと、暗に仄めかしていました」
副官が付け加えた一言に、ボルドロは胡散臭そうに鼻を鳴らす。
「ふん、そう言えば下級貴族出身のドルトンは後ろ盾を探しまくっていたな。浅ましい事だ」
その他にも、クリップボードをペラペラとめくり、副官による報告が続く。
「………以上、約十二万が今回の遠征軍の総戦力です。その他、兵站補給などの人員に関しては別途に書類を纏めました、後ほど御確認ください」
「…十二万、か。名も無い小国に対する遠征軍としては、些か珍しい大所帯だな」
「はい。皇帝陛下の勅命無しでの集兵としては、過去最大の物です。やはり、ゾーラン公爵が召集なさった事が大きいでしょうか」
「それ以外に何がある。これは領土拡大の為の遠征というのは勿論だが、政治家共の内輪揉めにおける示威行為という割合もまた、大きいのだからな」
溜め息を吐くボルドロ。彼自身もまた貴族とは言え、軍人の家系に生まれて十六歳で入隊した生粋の軍人であるボルドロにとって、大物貴族同士の策略合戦というのはどうにも眉を顰めてしまう事柄なのだ。
そんなボルドロに、同じ様に軍人家系貴族の副官が尋ねる。
「そう言えば閣下、今回の遠征はゾーラン公爵が発案なされた事ですが、発端はゾーラン公爵当人ではなく、その子息、それも嫡男でもない末子のキットン聖連合議員だという話なのですが」
「…ああ、そうだ」
先程よりも更に深い溜め息をつくボルドロ。
「お前は知っておいた方が良いだろう。今回の遠征、表向きはエデン国とやらが我がフランシナ帝国に対して敵対心を持っているとか帝国の貴族を侮辱したとか、様々な悪状が書類に纏められて陛下に提出されている。だがそれらは、著名な代筆師が適当に綺麗に整えて作った、半分はデタラメな物だ」
「で、デタラメ、ですか」
「ああ。代筆師ぐらいはどこの貴族でも使っている。上に提出するのに汚い文字や文体では不敬だからな。だが、便宜上の作成者がキットン聖連合議員であるという時点で、帝国のほとんどの有識者達がデタラメだと断定しているだろう。
…こんな事を言うのも何だが、キットン議員は、大変なドラ息子なのだよ」
「ドラ息子。馬鹿って事ですか?」
「平たく言えば、そうだ。大貴族とは言え、六人の兄弟の末弟であるという時点で貴族としての存在価値は低く、かと言って能力は寧ろ平均以下。なのに家の名前だけで大威張りして、プライドがやけに高くて問題も多数起こしている。『悪い貴族』や『ごく潰し』と言った言葉の体現者みたいな男らしい。今回の遠征だって、相手がエデンとかいう新興の弱小国でなければ承認されなかったはずさ」
「閣下が他人をそこまでボロッカスに言うのは珍しいですね」
「私だって人間だ。そんな奴の安っぽいプライドの為に出兵を強いられるとなると、愚痴の一つや二つぐらい出るものだ。まったく、これだから大貴族とかいう連中は!政治家は大人しく政治だけに勤しんで、軍事の事に口を出してくるなというのに…まったく…」
「…閣下、今夜は晩酌にお供いたしますよ」
「…すまんな」
同時刻
エデン軍事区画 高度戦略作戦司令室
「準備は?」
折しも、フランシナ帝国の将軍とほとんど同じタイミングで同じ様な事を言うアレス。
それに対する、彼の副官的存在レンディの返答は、
「三日前に終わっているぞ?」
「知っている。UAVからの情報で、フランシナ帝国が準備を終えた事が確認されたってさ。最終チャックというヤツ、よろしく」
「連中がエデンに到着するまで最短でも十日はかかるんだから、少し先走り過ぎじゃないか?まあ、いいけど。
…ゴホン、それではこれより、予想されるフランシナ帝国の侵攻に対する防衛戦力の確認を行います。前回の魔族侵攻時の被害が完全には補修しきれていない事を考慮して下さい。尚、兵站等の関係者は除外します。
まず、歩兵隊は一個連隊、つまり二千人です。もう一個連隊は現在再編成中の為、今回は出撃不可能。連隊の内訳は機動歩兵隊千二百人、砲兵隊四百人、特化兵隊(対装甲・対空)三百人、特殊対応班五十人、機動偵察隊五十人となります。
車両ですが、歩兵一個分隊に高機動車を一台、一個小隊に装甲兵員輸送車一台、一個中隊に戦車を付けます。全体で、高機動車は五百台、装甲兵員輸送車は百六十台、戦車は七十台です。本当は一個大隊に戦車五台、計百台にしたかったのですが、魔族との戦闘で特に戦車の損耗率が高かった為、こうなりました」
「尚、今回は生存率向上の為、全ての戦車に追加装甲モジュールと対人戦闘強化改修キットが取り付けられます」
補足説明したのは、戦車部隊総指揮官のローヤン・ペイド大尉だ。
「前回の魔族との戦闘で、対魔法戦闘のノウハウは取得しました。見ていて下さい、今度は魔法なんてファンタジー連中には負けませんよ」
「戦闘ヘリは運用可能な十機の内、六機を出撃させる。残りは万が一を踏まえて待機だ。今回は主戦場が都市近辺なので輸送ヘリは出撃は無しだ。勿論、緊急時に備えて待機はさせとく。重傷者が出た時は遠慮無く呼べばいい」
レンディの言葉に、歩兵連隊指揮官達の間に安堵の空気が流れる。都市、つまり治療出来る場所がすぐ背中にあるとは言え、エデンの領土、つまり防衛識別圏は外壁から一キロの範囲に及ぶ。敵と交戦中であろう事を考慮すれば、人力で一キロを運ぼうとすれば結構かかってしまい、ひどい重傷ならば手遅れになる事も有り得るだろうからだ。
「さて、次は攻撃機だが、今回は出撃は無しだ。燃料の目処が立たない現状、今回の様なあまり危険度の高くない作戦で使うのはもったいない、というのが航空防衛科の連中との協議結果だ」
レンディが言葉を切り、航空防衛科の責任者が頷く。
「…さて、最後だが…。これは一番扱いに困った。非常に面倒な協議だったが、まあ、とりあえず決定した事だ。今更どうこう言いはしまい。
…特殊戦術部隊、つまりAAだが、最前線に出す事が決定した」
その言葉に、決定をまだ聞いていなかった者達が軽くざわめく。
「おいおい、普通ならそれは当たり前だが、今は状況が状況だろ?総大将が最前線に出て大丈夫なのか?」
「俺達だってさんざんそう言ったさ。だけど、最後は最高統括官の権限でゴリ押しされてな…」
溜め息をつくレンディ。
アレスの方を見る会議の参加者達。
何と無くドヤ顔するアレス。
溜め息をつく参加者達。
「…ま、最高戦力である事も間違い無いしな。好きにさせとこう」
「だな。もうみんな諦めてるし」
「どっちにしろ、特に最高権力者っぽい事はしてないんだし」
「何か、すっごく馬鹿にされた気分なんだが。気のせい?」
戦いの時は近い。
今回は戦力を発表しただけです。実戦は次回から。
これまでも更新ペースは速くはなかったですが、いよいよ高三の夏も終わりに近付き、これからは更に更新速度が落ちる予定です。読んで下さっている方々、申し訳ありません!




