第二十一話 喧嘩大安売り、戦争押し売り
盆休み、帰省ラッシュとやらがニュースでも話題になってますね。
うちの高校はお盆とか関係無い!二十一日から授業だ!
西暦二五七〇年/ブリストン暦四五六年 天蝎の月(八月)七日
聖連合都市イリーガル
「説明して頂けますか?」
イリーガルの聖連合議事堂。その小さな(と言っても二、三〇畳はあるが)会議室にて。
エデンのミスター参謀役、レンディ・ホッパー少尉が、この議事堂で一番偉い(はずの)、聖連合議長アルバート・プライムに詰問していた。
その隣ではアレス(AAは身に着けておらず、落ち着いた感じながら豪奢な礼服を着ている)が苦笑いをしており、その隣では秘書のマナが珍しく、凛、とした雰囲気で座っている。相変わらず、机の下ではアレスの尻やら何やらを撫でくりまわしていたが。
さて、詰問口調のレンディでさえあまり緊張感の無いエデン陣営だが、対照的に聖連合陣営は惨憺たるものだった。
壁際に並んだ主たる議員達は顔を青くし、レンディの前に座るアルバートに至ってはガクガクと高速振動している。
既にこの会談の焦点である斥候兵、『鼠』のティガンとやらは証拠として引き渡している。どうやら、その道ではかなりの有名人だったらしく、すぐに本人であると確認が取れた。
今回の件で最大の問題点は、斥候兵ティガンが軍属の人間(正確には獣人)だという事だ。これが傭兵とかであったならば、依頼主が誰かは傭兵の自白以外で知る方法は無いし、自白したとしても決定的な証拠にはならない。その気になればシラを切れるからだ。
しかし、今回は特定の国家に属する軍人。それでも、名も無い末端兵とかならまだ、「我が軍にそんな者はいない」と言えたが、今回は他国にも名の知れている有名な兵士だ。誤魔化す事など出来はしない。
そして所属国家は聖連合の加盟国。
問題はつまり、
「我が国に対して、聖連合は敵対行動を取る、と?」
「いえ!その様な事は決して!」
レンディの言葉を、アルバートが間髪入れずに否定する。
表情から「なんてこった!」という声が容易に読み取れる、純度一〇〇%の狼狽。嘘をついていないのは明白だが、それで、はいそうですかと終われるほど外交というのは甘くない。
何より、レンディの顔に嗜虐的な色が浮かぶ。
「しかしながら、我が国に斥候兵が送り込まれたのは事実。証拠はそちらに引き渡しましたよね?」
「え、ええ、はい、そうですが…」
「所属国家は聖連合でも有数の大国、フランシナ帝国であると」
「は、はい…」
「それも、軍人なら誰もが知っている様なスゴ腕の者だったとか」
「………」
アルバート、涙目。
別にいい歳したおっさんの涙など見たくもないが、レンディは満足そうにウンウンと頷く。
レンディ・ホッパー大尉。実は隠れS。
さて、偉い人イビリも終わったので、そろそろ本題の外交交渉で精々好条件を引き出しましょうかね、とレンディが体勢を立て直した、その時。
バアアアン!
そんな音を立てて、小会議室の扉が開く。
開いたのは、黒スーツっぽい服を着た、よくマンガとかで見かけるボディーガードっぽいマッチョな人。
マッチョい人はそのまま会議室に入ってくる、と思いきや、その場で佇む。代わりに、マッチョい人の後ろに隠れていた男が入って来た。
体格は平均的、顔はそこそこイケてる。しかし、そこに浮かぶ軽薄そうなニタニタした笑みが全てを台無しにしている。
キットン・レビエティ・フォカロ・ゾーラン。件のフランシナ帝国出身の聖連合議員だ。
「そして、こないだマナを口説こうとして盛大に失敗したイケてないメンである」
「何だと!?」
「いえ、別に」
レンディがボソリと呟いた事に過剰な反応を見せる辺り、やはり屈辱として覚えているのだろう。
目を逸らして口笛を吹いているレンディをしばらく歯軋りしながら睨んだ後、キットンはかろうじて余裕のある顔を取り繕うと、その気色の悪い笑顔をマナに向ける。
欠片も注意を払わないマナ。
少し傷付いたようだが、それでもめげずに笑顔を保つキットン。
そして、不自然なまでにアレスの方を見ずに、勧められてもいない椅子に勝手に座る。
そんなキットンに、アルバートが震える声で尋ねる。
「…あー、ゾーラン殿。少々尋ねたい事があるのだが…。既に聞き及んでいるかもしれないが、こちらのエデン国の方々が、ある兵士を捕らえて連れて来たんだが、その兵士というのが、その、つまり…」
「ええ、我が国の者ですよ。確か、『鼠』、とか言いましたか。そちらの方々の国に送り込んだのは」
「んな…!?ぞ、ゾーラン殿、貴殿は何を言っているのか分かっているのですか!?」
平然と認めるキットン。その返答にアルバートは息を呑み、更に震える声で問いただす。
しかしキットンはそれに答えず、遂にアレスの方を向き、彼を指差す。
「エデン国王アレス・レックスとか言ったな。私は、貴様等の様な者達が聖連合の一員であるなどという事は決して認めない。聖連合加盟などする前に、この私が叩き潰してやる」
「いや、加盟調印は既に終わっているので、もう加盟国なのだが…」
「魔族の大軍を撃退したなどという根も葉もない噂が出回っているようだが、凡夫達は騙せてもこの僕は騙されないぞ!」
アルバートの指摘を無視して、自分に酔ったかの様に喋り続けるキットン。対象となっているアレスを含め、周囲の者達は白い目でキットンを見ている。
しかし、完全アウェーであるという事にも気付かず、キットンは続ける。
「平伏し、謝罪するのなら今の内だぞ!既に本国に連絡して、軍備を整えている。我がフランシナ帝国の本軍だ!あと五日もしない内に編制完了して、本国を出発出来るんだ!」
エデン防衛軍緊急対応部隊は、俺が連絡すれば今すぐ出撃して六時間以内にイリーガルを制圧出来ますが。とは言わないのが、アレスの優しさである。
そもそも、最大戦力が既にイリーガルの中にいるというのは黙っておかないとアルバートがストレスで死にそうだ。
「さあ、どうする!?平伏して許しを請うか、国ごと消し飛ぶか!選ばせてやろう。僕にもそれぐらいの寛大さはある」
偉そーに腕組みなどしてアレスを見下すキットン。現実を把握している者達から見れば、そこらの道化よりも、よほど滑稽である。
「…えー、つまり、ゾーラン殿は、私どもの国に戦争をふっかけたい、という事でよろしいのですか?」
ずっと聞き役だったアレスが、恐る恐る尋ねる。
すると、キットンは「ふん、馬鹿が」みたいな顔をして、やれやれ、とばかりに首を振る。
「そうかそうか、貴国は我がフランシナ帝国との戦争を所望するのか。仕方があるまい、売られた喧嘩は買わねば大国の名がすたる」
(いや、喧嘩売ったのテメーだろ)とみんなが心の中でツッコむが、当然キットンには届かない。
「それでは、国に帰って戦の用意でもしておくんだな!精々あがいてくれたまえよ。そして貴国を滅ぼした暁には…」
キットンはそこで言葉を切ると、いつかの様な好色そうな目をマナに向ける。
キットンの「あやしいひかり」!
しかしかわされた!
「む…く…。さ、さらばだ!フハハハハハハハ!」
一瞬肩を落としながらも、キットンは安っぽい悪役みたいな高笑いをしながら、マッチョボディーガードを率いて退室していった。
残されたのは、何かもう、どうリアクションして良いのか分からないアレス達。
「…プライム議長閣下。聖連合の法的に、加盟国同士の戦争は、双方の了承と議長の承認があればオッケーでしたよね?」
「………もう好きにしてください。私は知りません、私は知りません…」
尋ねるレンディに、頭を抱えてうわ言みたいにブツブツ繰り返すアルバート。危ない人みたいである。
「だとさ、アレ…いや、統括官殿」
「…これは、買うべき喧嘩か?」
「さあ?まあ、負けない喧嘩なんだから損はしないんじゃないのか?」
「そんなもんか」
アルバート以外も頭を抱える聖連合関係者の人達の中で、エデン陣営の者達だけが暢気な口調で言葉を交わす。
その中、ある意味この事態の引き金になった少女だけが、いつもと変わらずアレスの腕にしがみついていた。
次回から、また戦争パート。つっても、あまり長くはしない予定です。だって楽勝だから。
この世界の人類国家の軍事力については次話で紹介します。期待してください。それを裏切らないくらいザコですから(笑)




