第十九話 いやなやつ+いやなやつ=みなごろし (へえ~へえ~へえ~)
四週間ぶりです。期末考査やら何やらがあったので、まったく執筆に着手出来ませんでした。
…疲れた。
西暦二五七〇年/ブリストン暦四五六年 天秤の月(七月)二六日
聖連合都市イリーガル 連合議事堂 小会議場
「あああああああ………、本当に申し訳無い。本当に、本当に…」
涙を流して謝罪しているのは、聖連合議長のアルバート・プライム。
先程から二十分以上ひたすら謝罪を繰り返しており、レンディや外交官達が宥めても全く効果が見られない。
その様子を眺めるアレスだが、アルバートがそんな事をする理由が全く分からないので、何もしようが無い。ただひたすら、レンディ達が宥めきるのを待つしか無いのだ。
更に十分程経過して、ようやくアルバート達が理由を話し始めてくれた。
話を色々と要約すると、
「つまり、ここにいる数名は、エデンの軍事力を知っている、という事だそうです」
「それで、エデンと自分達(聖連合)の軍事力の差を正しく理解出来ている為、エデンとの敵対行動を極力避けるようにしている、と」
土下座はやめたが相変わらずオドオドしているアルバート達を尻目に、ボソボソと談義を交わすアレスとレンディ。
その顔には、隠しきれない苦笑とゲンナリとした色が浮かんでいた。
聖連合との外交は、今は亡きレダイア長官主導で行われており、その内容を知っているのはレダイア長官と元外交課の数名、あとは本国のお偉いさんだけだ。 外交は極めて平和的且つ紳士的に行われているという発表だったし、基本的にはそうだったとアルバート達も証言している。
しかし、やる事はしっかりやっていたらしい。
つまりは、軍事力の誇示である。
一年ほど前、まだアルバート達がエデンの軍事力を認識する前。
まだ聖連合側が強気になれた頃、アルバート達はレダイア達を軍事演習に招待して見学させた事があるそうだ。
内容は、約五万の二つの軍の総力戦、つまり約十万人による盛大なチャンチャンバラバラである。
アレス達は魔族軍との戦闘の印象が強かったから勘違いしがちだが、この異世界においても、実際の戦争に使えるレベルの魔法を使える者など、魔族以外ではごく少数なのだ。
魔族以外の種族の火属性魔術師で例を挙げるなら、サッカーボール大のファイアーボール(当たったら負傷するが、よっぽど打ち所が悪くない限りは一般人でも死にはしない。直接的な威力よりも、身に着けている物への延焼を目的としている)を放てる魔術師は一〇〇人に一人程度。火炎放射器クラスの魔法を使えるのは、更に百人に一人か二人。戦略級魔術師など、国に一人いれば良い方である。
ちなみに、エルフや妖精種などといった魔族並に魔法を得意とする種族も存在するが、それらの種族は聖連合とすら関わりを持たず、情報は全くと言ってよいほど無いそうである。
とにかく、実戦級の魔術師があまりいない以上、その戦いは、まるで地球における十八、九世紀の戦いの様な様相を呈する。いや、銃火器が無い点から、更に一、二世紀遡る事になる。
そう、銃火器が無いのだ。
ライフル銃はおろか、簡単なマスケット銃すら無く、そもそも火薬の研究すら満足に進んでいないそうだ。
「火薬」と呼称出来る物はあるが、単なる金属粉が数種類あるだけで、燃やしたら綺麗という事は分かっているが空高く打ち上げる事が出来ないので、花火すら存在しないらしい。勿論、爆弾なんかも無い。
この辺、なまじ魔法なんて物があるせいで(ライター程度の火とか、日常生活レベルの魔法は異世界人の八割以上が使える)、そういった技術が進歩しなかったのかもしれない。
とにかく、この世界の戦争は大体が歩兵同士のぶつかり合いで、規模が何万人に膨らもうとそれは変わらない。
二十一世紀から加速した戦争における技術進歩の集大成を見てきたレダイア達にとって、それは子供同士の喧嘩並につまらなく思えただろう。
だが、それ以外の戦争を知らないこの世界の者達には非常に手に汗握るスペクタルに見えたらしく、呆れて黙りこくってしまったレダイア達をあまりの迫力に絶句したのだと勘違いして色々と偉そうな事を言ってしまった。
その一ヵ月後、逆にレダイア達が聖連合の重役をエデンに極秘で招待して軍事演習を行った。
そういえば一年前、結構大規模な演習があったな、とアレスも思い出す。
そして、その結果、
「く、来る!やつらが来る!不気味な緑の悪魔達が!うわああああ、来るなああ!!」
「鉄の化物が、雷を放つ鋼鉄の化物が!ぎゃあああ!!」
「空から鉄のトンボが!空飛ぶ剣が!火の雨が降ってきた!世界の終わりだ!」
…見学した重役達は一ヶ月以上、寝ている間に以上の様なうわ言を叫んでいたらしい。
ちなみにアレス達AAソルジャーはその演習に参加しなかったのだが、取り返しのつかない精神的ダメージを与えない為の、レダイア達の優しさだったのかもしれない。
そんな事があって、その後もレダイア達は基本的には平和的という外交姿勢は崩さなかった為、アルバート達も友好的な関係を築こうとして、エデンの聖連合加入に至った。
しかし、やって来たエデンの代表は平和的だったレダイア達ではなく、彼等にトラウマを植え付けた軍隊の軍人。
更に、この世界において全種族共通で最大の敵、そして最悪の忌敵である魔族の軍団を打ち倒したという。
それも、千人もいれば小国が滅びると言われている魔族による、約一万五千の大軍団を、だ。
ひたすらに腰を低くしようとするのは当然とも言える。
「なーるほど、そんな事が」
「まあ、この世界は生活水準だけでなく、軍事技術も中世ヨーロッパ並みという報告が挙がっていましたからね。我々との軍事技術の差は単純に考えても八〇〇年以上の隔たりがある。ごく正常な反応だと思うよ」
「そうか。まあ、その辺はどうでもいいんだが、まずはこの人達をどうにかしてくれないか、レンディ?」
アレス達の前に居並ぶアルバート等、聖連合の重鎮達。
アレス達が少し長く状況整理に黙り込んでいたせいか、その顔色は真っ青を通り過ぎて真っ白になっている。二、三名の気の弱そうな人など、立ったまま気を失っている。
戦場での兵士達の鼓舞ならまだしも、こんな政治的な場でアレスが上手く喋れる訳が無いので、レンディに丸投げする。
レンディも「分かってますよ」とでも言うような調子で頷く。
「みなさん、我々エデンは確かに大規模な人事変動が起こりましたが、その統治及び外交方針は従来の首脳部と変更はありません。これからの聖連合との外交ですが…」
相変わらず、お前本当は軍人じゃなくて政治家なんじゃないか?と言いたくなるような手腕を発揮するレンディの声を尻目に、相変わらず政治面においてはお荷物なアレスはゆっくりと目を閉じた。
―――――二日後、
「それでは、参りましょう」
聖連合議事堂前、アレス達一行はレンディの一声で、やって来た時と同じメンバーで馬車(引いているのは馬ではないが)に乗り込む。
来た時と同じ、という事はつまり、アレス、マナ、レンディ、ノレド、アグロ、そして聖連合議長補佐のゴルデラだ。
来た時はゴルデラは案内という名目で同行していたので、本来は帰りも付き合う必要は無い。
しかし、二日間の会談の結果、聖連合側の人間がエデンの現状を視察する事が決まった為、その役に議長補佐であるゴルデラが選出されたのだ。
ゴルデラは二日前のショックが完全には抜け切っていないのか、少し硬い笑顔だが、それでも二日前と比べれば大分マシになっている。
これも、ここ二日間の(主にレンディによる)紳士的な会談によるものだろう。
ちなみに一番エラいはずのアレスだが、その性質上、政治的な分野において彼は何ら役には立たないので、レンディの後方でただ座っているだけ、という態勢を取っていた。その隣には勿論マナが陣取っており、二日間、計四十八時間以上、彼はひたすらマナにいじくられていた。
そのせいか、今もアレスの口からは魂的なサムシングがフワーっと、今にも抜き出て行きそうになっている。その度に、マナが強制的にアレスを覚醒させて引き戻しているのだが。
ゴルデラには当然護衛がいるが、十数名の彼等は別の車に乗るので、本当に来た時と同じ様なフォーメーションとなる。
そうやってアレス達一行が乗り込もうとした、その時。
「おやおや、誰かと思えば、例の野蛮なお猿さん達の新米王様じゃないか。まだイリーガルにいたんだな、恥ずかしくて尻尾を丸めてとっくに逃げ帰ったのだとばかり思っていたよ」
キザったらしい声で嫌味を爆発させながら現れたのは、二日前の特別臨時会議でアレス達を嘲弄した若い貴族の男だった。
相変わらず、取り巻きをゾロゾロと連れている。
男の名は、キットン・レビエティ・フォカロ・ゾーラン。長いので、普通はキットン・ゾーランと呼ぶ。
アルバートの話によると、聖連合の構成勢力の中でも最大級の物の一つ、フランシナ帝国の五大貴族とかいうお偉い家の次男坊だそうだ。
彼自身は何の能力も無く、国内では厳格な親にうるさく抑え付けられてしまうので、思う存分偉そうに出来る(と、本人は思った)聖連合の議員として潜り込んだらしい。
ちなみに、フランシナ帝国代表としては、彼より遥かに優秀な者がちゃんと他にいる。
聖連合とエデンの間には大きな軍事力の差があるのに何故こんなに偉そうなのかというと、それすらも理解出来ない大馬鹿、ではなく、アルバート達はエデンの軍事力について、あまり他の者達に喋っていないそうだ。
アルバート曰く、
「雷を放つ鋼鉄の化物だの、火の雨を降らせる空飛ぶ鉄のトンボだの言って、精神異常者扱いはまだされたくない。私達だって、自分の目で見なければ信じなかった」
だ、そうだ。
ともかく、そういった理由でアレス達は二日前の会議で大いに馬鹿にされた訳だが、このキットンとかいう若造は、それだけでは物足りなかったようだ。
KYというか、ある意味お約束な登場に、レンディは面白くなってきた、とばかりに小さく笑い、ゴルデラは真っ青になって頭を抱え、マナはそもそも眼中に無く、アレスは放心状態で気付いていない。
そんな一同を(自己)満足げに見回したキットンは、その中の一点に目を留め、好色な雰囲気を醸しだして歩き出す。
そのいやらしい視線の先にいたのは、放心状態のアレス、ではなく、その腕にしがみついている…、
「うふふ、アレスったら、こんなに可愛い顔をして、そんなに私に興奮させたいの?いいわ、エデンに戻ったら一つ屋根の下で〇〇〇な事や〇〇〇な事を…」
病んでる秘書だ。
相変わらずアレス以外は眼中に無し状態のマナの前に立ったキットンは、どうやら遊び人としての素質さえも無いらしく、ただ一言。
「君、僕の愛人にしてやる。こっちに来い」
反応は様々だった。
声にならない声で叫ぶゴルデラ、ブフッと噴き出すレンディ、相変わらず放心状態のアレス、そして一ミクロンたりともキットンの存在に注意を払わないマナ。
安心の平常運転でアレスにベタベタし続けているマナを見て、キットンは少し眉をヒクヒクさせながら、
「…き、聞こえなかったのかな?そこの君、僕の愛人にしてやるから、こっちに来るんだ」
反応は、全く同じだった。
ボンボンのキットン君は二度もガン無視された経験など無かったのか、低い沸点をバーストさせて額に青筋を浮かべながらツカツカとマナに近付き、その手を無理矢理取ろうとする。
すると、
バシッ
「………気安く触らないで、汚物」
初めてキットンに意識を向けたマナがその手を弾き、絶対零度の視線と声音で罵る。
キットンは、最初は何をされて言われたのか分かっていないようだったが、徐々に理解して、顔を真っ赤にする。
「な…、このアマァ、この僕が声をかけてやっているというのに…!」
三下感丸出しなキットンの発言だが、マナはもう欠片も聞かずにアレス弄りを再開している。
手で口を押さえているが、堪え切れずにブフフと笑いを漏らすレンディ。
それにブッチーンときたのか、キットンはひ弱そうな拳を固める。
「こ、の、クソアマがあぁ……!」
殴りかかるキットン。
それでも、マナは欠片も注意を払わない。
そして、
「ごブぇ!?」
キットンは、背中から石畳に叩き付けられていた。
彼の豪華な服の襟首を引っ張るのは、細い、しかし筋肉質な手、首筋に押し付けられているのは、鋭利なコンバットナイフ。
いつの間にか、アレスによって倒され、完全に制圧されていた。
「………、あれ?俺、何やってるんだ?」
ようやく放心状態から立ち直ったアレスが呟く。意識の無い状態で自動的にやった事らしい。
ちなみに、今のアレスはAAを脱いでいる。生身でやったのだ。
一方、地面に叩き付けられるという人生初の体験をしたキットンは、我に返ると暴れ出す。
「は、放せ!放さないか!」
「ああ、失礼」
自分でやったくせに、アッサリと解放するアレス。というのも、キットンが全く脅威ではないと判断したからだが。
アレスが解放したのにキットンは腰が抜けたのか、立ち上がれずにしばらくジタバタした後、オロオロとしている取り巻きを怒鳴りつけ、手を貸してもらってようやく立ち上がる。
そしてアレスを睨みつける。
「貴様…、この僕に向かってこんな事をして、ただで済むと思うなよ…。自分達が野蛮で矮小な存在だという事を、タップリと思い知らせてやるからな、ヒイィ!?」
お決まりの捨て台詞を吐いたキットンだが、睨みつけていたアレスに逆に軽く睨み返され、面白いぐらい情けない声を上げて後ずさる。
そして最後に、マナに対して好色、劣情、そして憎悪のこもった視線を投げつけ(無視され)、キットンは取り巻き連中に手を借りたまま、立ち去って行った。
台風一過、というほどではないが、充分に引っ掻き回された一同。
ゴルデラは泡を吹いて倒れ、アレスは何が起こったのか分からない、という表情で首をかしげる。
レンディは存分にニヤニヤしながらアレスの肩を叩いて一言。
「なんか、面白い事になりそうだな」
マナだけが、全く変わらずアレスの腕やら背中やら尻やらを弄くりまわしていた。
サブタイの元ネタは、フジテレビ系の人気番組「トリビアの泉」(既に放送終了)の話です。
18782+18782=37564、だそうです。
今後の展開を暗示させます。というか、させてます。




