第十七話 聖連合都市イリーガル
前回投稿から三日。ま、間に合った…!
西暦二五七〇年/ブリストン暦四五六年 天秤の月(七月)二六日
エデンより二二〇キロ地点
高度二〇〇メートル程を飛行する、三機の輸送ヘリとその両脇を固める戦闘ヘリ。
輸送ヘリは高機動車をぶら下げ、戦闘ヘリはミサイルとロケットポッドをぶら下げている。
大森林を抜け、渓谷地帯も通り越した五機のヘリの前方に、巨大な城壁に囲まれた都市が姿を現した。
「隊長、見えてきましたね」
「うん。あれが聖連合都市イリーガルか。流石に大きい」
輸送ヘリの窓から都市を見て上官に声をかけたのは、つい先日退院したエデン防衛軍特殊戦術部隊のゴースト2こと、ライル・ティカッツ少尉。そしてそれに応じたのが、彼の上官、エデン防衛軍特殊戦術部隊隊長ゴースト1こと、アレス・レックス少佐である。現在はエデン臨時最高統括官とかいう肩書きも増えているが。
アレス達がヘリから見下ろしているのは、エデン旧行政府が予てより加入を目標としていた聖連合、その本拠とされる、聖連合都市イリーガルである。
八つの国家と五つの自治領、そして巨大宗教で構成される大連合の中枢たるこの都市は、人口五〇〇万人というこの世界最大級の都市であり、聖連合加入国近辺では最大の交易の要所でもある。
アレス達エデン使節団は今回、前回は出来なかった調印を正式に行う為、この都市へやって来た。
「都市郊外に着陸します。高機動車を先に降ろさなきゃいけないんで、護衛部隊の方々、よろしくお願いします」
ヘリのパイロットがそう言うと、アレス達が乗る輸送ヘリはゆっくりと高度を下げ始めた。
「そう言えば隊長、何故、前回はヘリでの移動が許されなかったのですか?最初からヘリで移動していたら、あんな事態にはならなかったと思うのですが…」
「…亡くなられたレダイア長官の御意向だよ。この世界では、『馬無しで走る馬車』はマジックアイテムとして理解されるが、『空飛ぶ鉄のトンボ』は受け入れられない。聖連合の市民に無用な警戒心を抱かせないよう、高機動車での移動にこだわられたんだ」
「なるほど。…しかし、それで死んでしまったのでは意味が無いと思われますが」
「それは結果論に過ぎない。勢力圏から一〇〇〇キロ以上離れたあの場所に魔族が出現するなんて、誰が予測出来る?俺は、レダイア長官の判断は妥当な物だったと思うよ。…非常時とは言え、結局ヘリに乗っている俺が言っても説得力無いか」
降りる用意をしながら苦笑するアレス。そんなアレスを見て、ライルは準備中にも関わらず敬礼をして、アレスを真っ直ぐに見る。
「自分は、隊長の御判断は正しいと思います。どうか、ご自分の決めた事に自信を持ってください」
「…ありがとう」
一瞬ポカンとした後、アレスは先程とは違う種類の苦笑を浮かべて、礼を言うのだった。
「何者かっ!?」
ヘリから降りて三台の高機動車に分乗し、数人の護衛をヘリに残した後、アレス達はイリーガルの北方正門の前にやって来た。
彼等の服装はこの世界の常識からすると非常に奇想天外(アレス達特殊戦術部隊員に至っては、異世界人から見たらとても不気味な鎧を装着している)な物なので、当然の様に衛兵に槍を向けられて誰何された。
ちなみに、この世界の言語は当然地球のどの言語とも異なっている。
しかしこの世界の言語は国、種族に関係なく統一されており(一部特殊な言語を喋る閉鎖的部族等も存在するが、そういう者達も統一言語は通じる)、入植開始から二〇年も経てば完全に解読出来ている。エデンの市民は九割以上がこの世界の言語を地球の言語並みに扱えるようになっていた。
さてどうしようか、とアレスが思っていると、使節団に同行して来たレンディが前に進み出て、左手を胸に、右手を腰の後ろに置くという、この世界における一般的な礼を取った。
「お初にお目にかかります。私、エデン国より参りました、使節団のレンディ・ホッパーと申します。先日、設けて頂いた連合加入調印の席に出席出来なかった事に関しての謝罪と説明に参りました。責任者の方にお取次ぎ頂けないでしょうか?」
一応軍人とは言え、根っからの参謀タイプであるレンディらしい百点満点の文官スマイル。物腰低く敵意の欠片も無い(少なくともそう見える)態度に、槍を構えて誰何してきた衛兵も、警戒は解かないものの槍は下ろしていた。
レンディがさりげなく「エデン国」という表現を使っていたが、エデンの詳しい政治的ポジションを説明しようとすれば地球人でも良く理解出来ない点があるし、現在のエデンはある意味独立政府と名乗っても問題は無いので、誰も訂正しようとはしなかった。
「エデン国…、そういえば四日前に来る予定だった使節が来ていないという話があったが…。分かった、担当の者に確認させる。お前達はここで待て」
そう言うと、誰何してきた衛兵は同僚に何か耳打ちし、それを受けた同僚は門の中に走って行った。
待つ事三〇分。
この世界は一部の魔法を除いて長距離間での迅速な情報伝達手段(つまり電話)が無いので、随分と時間が掛かった。
待つ間、手持ち無沙汰なので体操でもしようかと思ったアレスだが、変な事をして無駄に警戒されないよう、部下達の手前、自重した。
ともかく三〇分後、最初の衛兵が帰ってきた。紫色の法衣っぽい物を纏った人物が一緒にいた。
衛兵が何か説明するのかな?と思ったアレスだが、衛兵は門の前で敬礼するとそのまま脇に避けて自分の任務に戻る。
代わりに、法衣の人物が進み出て、レンディに話しかける。
「聖連合議長補佐のゴルデラ・クレリアットと申す。エデン国の使節団と名乗る者の検分に参った」
ゴルデラ・クレリアットは四十路過ぎの男だった。ゴルデラはチラリとアレス達の背後の高機動車に目を向けると、納得した様に頷く。
「確かに、以前目にした『ジドウシャ』とかいう物だ。あれを真似出来る者はドワーフ連中にもいまい。貴殿等をエデン国の使節と認めよう」
ゴルデラはそう言うと、法衣を翻しながら手招きする。
「貴殿等に話がある。馬車を用意しているから、その『ジドウシャ』は都市の外に置いて、主たる数人だけ付いて来てくれ」
ゴルデラの言葉に、アレスとレンディは顔を見合わせる。
「何か、いきなりきな臭くなってきたな」
「まあ、こっちは色々とお願いする立場なんだし、聞いとけば良いんじゃないかな?」
「最高責任者がそう言うなら、それで良いが…」
少し不満そうだが、レンディも頷く。
都市に入る人員はアレス、レンディ、他二名(ノレド・ローマンとアグロ・レッサ。旧行政府の外交職員で、アレス等とはあまり面識が無い)、そしてマナに決まり、他の者達は高機動車で待機となった。
メルピアも待機組で激しく駄々をこねたが、彼女は一応アレスの言う事を聞くので厳命したらしぶしぶ、もの凄くしぶしぶ了承した。
勝ち誇った顔のマナと物理的に火花が散りそうなぐらい睨み合っていたが、アレスは知らない。
待っていたゴルデラは、不気味な鎧の男(『ジ・アトラス』を装着したアレス)が付いて来る事に嫌そうな顔をしたが、ただでさえ人数を減らさせた手前、これ以上減らすようには言えないらしく、結局何も言わなかった。
用意された馬車は、四人乗りの物が二台。不気味な鎧男と一緒に乗りたくないというゴルデラの無言の主張と、使節団の紅一点の有言の主張により、乗る組み合わせは、一台にレンディ、ノレド、アグロ、ゴルデラ。そしてもう一台にアレス、マナとなった。
全員が乗り込んで、馬車が走り出す。
馬車を引くのは馬ではなく、ボロンという異世界原産生物。地球でいうサイの様な見た目の全長五メートル、全高二メートルはある生物で、スピードはそれほど出ないが、五〇馬力近い力があるという。
走る馬車の窓からアレスはイリーガルの町並みを見て、ポツリと率直な感想を漏らす。
「…本当に中世みたいだな」
本職の歴史家がそれを聞けば異議を申し立てそうだが、細かい所以外は本当にその感想が当てはまっていた。
まず、立ち並ぶ建物のほとんどがレンガ造りなのだ。
エデンまたは地球では、レンガなど特殊な耐火レンガが特殊な研究施設等の実験炉ぐらいでしか見る事が出来ず、アレス自身、レンガなど写真でしか見た事が無い。
ちなみに、数少ないレンガ造り以外の建物は、明らかに馬等の家畜舎で、木造だった。
他には、所々で出されている露店。
これは本当は中世ヨーロッパでは見られない物だが、そんな千年近く昔の詳しい事など知る由も無く、うろ覚えの記憶で「中世らしい」などと判断を下すアレスだった。
マナはエリートなのでそれぐらいは世界史の知識として知っているが、特に訂正しようともせず、ニコニコ顔でアレスの腕にしがみついている。
「…あの、マナさん?ちょっと離れてくれないかな…?」
「何で?」
マナが万力みたいに更に締め付けてくる。『ジ・アトラス』を装着したままなので大して痛くは無いが、無駄なテンションがかかる為、僅かながら血が止まる。
「いや、ちょっとこわ…いや、熱くてさ」
「AAには自動温度調節機能が付いてるでしょ?」
「あー、いや、あ、はははっは…」
一瞬で論破、まさしくダ○ガンロンパされ、冷や汗を滝の様に流しながら乾いた笑いを浮かべるしかないアレス。更に腕を締め付けてくるマナ。
…本気で血流が滞って腕が痺れてきたが、我慢以外の選択肢は、アレスには与えられていなかった。
馬車が走る事二〇分。目的地に到着し、アレス達は馬車から降りる。
―――――アレスの片腕は血が完全に止まって、最早痺れすら感じなくなっていたが。
アレス達の目の前にそびえるのは、イリーガルの中心地とおぼしき巨大なドーム状の議事堂。ヨーロッパ圏の城とイスラム圏のモスクを合体させた様な外見の、高さ四〇メートル程の建物だ。
資料によれば、この議事堂が異世界最大レベルの建物らしいから、この世界の建造技術はそれこそ地球の中世並みなのだろう。
そこそこ立派なメインエントランス(格好良い呼び方をしたが、ようは正面玄関だ)があるが、ゴルデラはそこには向かわず、少し外れた場所にある小さな勝手口的な扉からアレス達を招き入れる。
倍増した怪しさを感じながらも、文句を言わずに付いていく一行。
勝手口的な所から入ったのに、何故か広くて立派な廊下にダイレクトで繋がっていた。
赤絨毯の敷かれた廊下を歩いて行くと、巨大で立派な扉に行き当たる。
高さ五メートルはあろうかという巨大な金属製の扉だが、本国でバトルドール(全高一〇メートルの人型兵器)の格納庫の十二メートルぐらいのシャッターを見た事があるアレスは、特に驚きもしない。
レンディが「ここ?」という風にゴルデラに目配せをすると、ゴルデラはそれに頷く。
そして、別の廊下から数名の衛兵らしき男達が走って来て、扉に取り付いた。 どうやらこの扉は見た目通りの質量があるらしく、大の男数人掛かりで開ける物らしい。
開閉装置も無いその非効率さに溜め息をつきながら、アレスは衛兵達をどかして扉に手を付け、少し力を籠める。
すると、ゴゴゴ、というそれらしい音を立てて扉が開き始めた。『ジ・アトラス』のヘルメット内のモニターに、扉の質量が表示される。その重さ、約五トン。たった数人でよくこんな物を開けようとしたな、と思ったが、よく見ると、衛兵達は亜人、それもゴリラっぽい感じの獣人だった。
そんなゴリラ達が、唖然とした表情で不気味な鎧男、即ちアレスを見る。ゴルデラも同じ様な表情で見ていたが、それらを無視してアレスは扉を完全に開け切った。
そこは、逆円錐状を半分に切った様な形の、かなり広い会議場だった。アレス達が二一世紀の日本人なら、自国の国会議事堂を連想しただろう。
議場は満員とはいかなくとも、かなりの人数が着席していた。全員がそれぞれの出身地の正装らしき服装をして、厳かな表情をしているが、ヒト種以外にも獣人、鳥人、魚人その他諸々という辺り、ファンタジーっぽかった。
アレス達が議場に入ると、ザワザワという声が上がり始める。特にアレスに向けられる視線と囁き声は露骨な物だった。
アレス達が案内された席(一番低い場所にある議長席の目の前)に座ると、かなり高齢なヒト種の議長が木のハンマーで机をガンガンと叩いて「静粛に」と叫ぶ。一五秒程で静かになった。
静かになった議場を見回し、議長は厳かな声で告げる。
「件の者達が揃った。ここに、聖連合臨時議会の開廷を宣言する」
今回は単なる移動回。あまり会話がありません。
次回は会議回なので、おおいにセリフが飛び交います。戦闘回はまだまだお預けなので、ご了承下さい。
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