第十六話 これからの話をしよう
本日、めでたく休校になった為、書く時間が出来ました。
台風さん、明日と明後日もヨロシク!
西暦二五七〇年/ブリストン暦四五六年 天秤の月(七月)二四日
エデン臨時最高統括府(旧エデン行政府A棟) 第一会議室
「さて、現状報告を始めてくれ」
薄暗い会議室、その中央の円卓を囲む十二人の一人、レンディ・ホッパー大尉が口を開いた。
この十二人の中の最高権力者は勿論アレスだが、彼に政治能力は無いに等しいので、代わりにレンディが議長のやるべき進行役をやっている。
「まずは『ゲート』の現状を。担当者は?」
「はい」
転移局空間接合制御室の室長代理、ロスペル・ヒックスが立ち上がる。
「事態発生から四八時間が経過しましたが、依然として『ゲート』の空間歪曲率は臨界点に達しておらず、復旧の目処は立っていません」
「外部装置の干渉で、臨界点まで持っていけないのか?」
「コープランド式レーザー干渉機器で空間熱断裂を起こせば臨界点には達するでしょうが、歪曲整合用の機器との併用が出来ないので、安定しないでしょう」
「非常時なんだ、多少の危険は構わない」
「不安定な空間歪曲接合面を通過すると、内包するジュール熱がマイナスになり、物質と反物質が逆転し、あらゆる生命活動が根本から別物に変異するという説がありますが、それでもいいですか?」
「ごめんなさい」
凄むでも脅すでもなく、淡々と恐ろしい学説を提示するロスペルに、レンディは頭を下げながら引き下がった。
「…とにかく、『ゲート』は不通、本国から一切支援は受けられないという事だ。次は、それを前提として、都市内部の状況について報告してくれ」
数秒で切り換えて次の報告を促すレンディの声に反応して、この場で最年少(一九歳)の少女が勢い良く立ち上がる。
「はい!内務局長付き秘書だった、ルーニア・トルネスです!エデン内部の状況についてご報告します!
現在、都市地下の公用倉庫には二年分、民間の倉庫には一年分の食料が備蓄されており、エデン自体の食料自給性と合わせて五年は保つと思われます。
生活必需品などについては、倉庫の備蓄に加え、都市内部の工場でも生産可能です。材料に関しても、金属類や紙製品のリサイクルは勿論、農業プラントで収穫できる作物の不用な部分を加工して有機プラスチックが生成可能など、問題はありません。
電力供給ですが、中央常温核融合炉の燃料は高純度精製済み燃料は三〇年分。研究の一環として最終精製施設が建設されているので、こちらはほぼ無限と考えて大丈夫です」
ルーニアが座り、彼女の隣に座る二十代後半の女性が引き継いで立ち上がる。
「現状、都市民は落ち着いて統括府の指示に従っており、暴動等の心配はありません。食料統制や新しい政令を始める時には多少の反発が予想されますが、小規模な物で収まるでしょう。当面の都市内部の生活や治安に関しては、問題無いと言えるでしょう」
女性が報告を終えて座り、問題無しの結論に一同はホッと息を吐く。
「では次に、防衛関連の報告をしてもらいたい。ルーサー、頼む」
レンディの言葉に、中肉中背の白人男性、ルーサー・ケイネス大尉が立ち上がる。
「防衛軍は、まだ再編成が完了していない。歩兵科、次いで機甲部隊(戦車部隊)の被害がひどく、現状、普段の七割の兵力で警戒のローテーションをこなしている。予備役の稼働を急がせる必要がある。
空軍に関しても、撃墜されたAH-80の予備パーツを組んで補充を急がせている。あと、戦車、ヘリはいいんだが、A-20が問題だ。攻撃機だけはバッテリーじゃなくて内燃機関だから、燃料に限りがある。元々、この都市で化石燃料なんか使用するのは攻撃機と民間の旧式耕運機ぐらいなものだから、燃料の備蓄は少ない。三回も攻撃機全機に燃料補給を行えばスッカラカンだろう」
生活の報告と比べて暗い報告内容に、アレス、レンディをはじめとした軍事畑出身者は、イタタと頭を押さえて呻く。
「最大の問題は弾薬だが、こちらはかなりの量が備蓄されている。しかし、反乱防止の規定の為にエデンに大規模軍需工場は無いので、これも有限の物には違い無い」
そう締め括って座るルーサー。
その後も様々な報告が挙げられ、時間の経過速度だけがどんどん加速していく。
「…さて、色々な報告を聞いたが、これからの方針がいくつか決まったと思う」
報告開始から約三時間、元々こういう場慣れしていない議長殿がコックリコックリと舟を漕ぎ始めた頃。
報告を聞き終わり、それらを頭の中で纏めて整理したレンディが口を開いた。
「まず『ゲート』に関してだが、これは完全にお手上げ。自然に接合面が安定して臨界するまで待つ他無い。強いて言うなら、神に祈るというのが今後の対応策だ。幸い、この世界には本物の神様がいるらしいしな。
都市内部の生活と治安維持に関しては、今の所はほとんど問題無いものの、食料については一、二年の内に解決する必要が有り。
最後に防衛だが、これから魔族との戦闘が多発する恐れがある状況で、弾薬に限りがあるというのは非常にマズく、どこかから補給する必要がある。化石燃料についても同じで、無くなれば有力な迎撃手段である攻撃機が運用不可となるので、これもどうにかして入手しなければならない。
…纏めるとこんな感じだ。では次に、具体的な方法を考えたい」
挙げられた内容に、皆が(議長除く)一様に唸る。
「どこからか、と言っても…」
「伝手も何も無い状況じゃあな…」
唸り続ける一同。
その時、アレスは意識を覚醒させ、会議室内が重い空気に満たされている事に気付いて、こっそりレンディに今の協議内容を聞く。
そして、実にアッサリと言い放った。
「そういう事なら、この世界の人々と交易でもすればいいじゃないか」
全員がその言葉を一瞬吟味して、すぐさま首を横に振る。
「まあ、それはそうですが…」
「ですから、伝手が無いと…」
否定的な声を上げる一同。
しかしアレスは、そんな一同を不思議そうな顔で見回して言った。
「いや、つい二日前、俺達は聖連合への加入調印に向かう所だったんだけど?」
「「「「「あ」」」」」
「え?」
………どうやら、ここ二日間のゴタゴタですっかり忘れていたようだ。
「確かに、この世界最大級の国家連合体なら、食料の交易ぐらい楽勝だな…」
「石油とかも、どこかの国で採掘できるかも…」
「ドワーフとかいるなら、火器そのものは無理でも弾薬ぐらいは作れるんじゃないか?」
「お前等、そうポンポンアイディアが出るのに、何で聖連合の事忘れてたんだよ…」
ボヤくアレス。気にしたら負けである。
それをスルーし、一同は今後の方針を本格的に決定する。
「じゃあ、早速イリーガルに向かうべきだな」
「大遅刻だが、魔族の襲撃って事なら納得はしてもらえるんじゃないか?この世界の住人にとって、魔族は仇敵らしいし」
「そういう事なら、早速明日にでも行った方が良いな。新しい使節団を編成しなければ…」
ガヤガヤと話し合う一同。それをボーッと眺めるアレスだが、突然話に引っ張り込まれる。
「そういえば、アレスの扱いはどうする?」
「え?俺は使節護衛部隊長だろ、普通?」
「いや、お前はエデンの最高責任者だろうが。最高責任者が使節団に同行しているのに調印しないって、一種の侮辱と思われるかもよ?」
「あ、そうだった」
いまだに自覚の薄い最高統括官である。
「でもこいつ、護衛に守られてジッとしているタマかね?」
「そりゃそうだ。じゃ、使節団代表兼護衛部隊長、って事で」
「はい、決まりー」
「…好きにしろ」
こうして、第一回エデン首脳会議は終了し、当面の方針が決定した。
ちなみに、
エデン臨時最高統括府(旧エデン行政府A棟) 最高統括官執務室(旧長官執務室)
「と、いう事になりまして。明日、出発する事になった」
「そう。じゃあ、私も行くわね」
「え、それはちょっと…」
「あら、秘書である私があなたに同行するのは自然な事でしょ?それとも…、個人的に嫌なの?」
「滅相も御座いません」
「そう♪」
ベタア、とアレスに抱きついてくるマナ。
九割五分予想していた事なので、アレスはもう、小さく溜め息をつくしかなかった。
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