第十五話 裸エプロンと特殊部隊と首脳会議
サブタイと内容の因果関係=そのまんま
西暦二五七〇年/ブリストン暦四五六年 天秤の月(七月)二二日
エデン臨時最高統括府(旧エデン行政府A棟) 最高統括官執務室(旧長官執務室)
「………はっ!?」
朝陽が顔を照らし、まぶた越しでも分かるその眩しさに、アレスは飛び起きる。
最高統括官執務室。
備え付けられたソファーの上に、部屋の主たるアレスは寝ていた。
流石に最高権力者用の備品として選ばれたソファーだけあって、寝ていても全く体が痛くない。
「というか、俺は何で寝ていたんだ?」
手で頭を押さえ、一番新しい記憶を掘り返す。
………幼馴染襲来、貞操の危機、部下乱入、そして始まるキャットファイト。
「…思い出さなきゃ良かった…」
大きく溜め息をつくアレス。その間にも、記憶は勝手に甦ってくる。
キャットファイトが武器を用いたガチの殺り合いに移行した為、止めようと介入。
すると、お前達本当は仲良いだろう、と言いたくなるような抜群のコンビネーションで『『どっちを選ぶの!?』』と挟撃。アレスが口篭もると物理的に挟撃され、意識が途絶えた。
そして先程意識を取り戻した、という所だろう。
「道理で頭にコブが出来ている訳だ…。
あー、今は何時だ?」
窓から差し込む光で目が覚めたのだから、夜が明けた事は分かっている。
部屋に置かれた柱時計(アンティークな品だが、実際は原子時計で、揺れている振り子は飾りに過ぎない。インテリア的な意味合いが強い)を見ると、午前七時を指していた。
毎朝五時半に起きてトレーニングという健康的過ぎる生活を送っているアレスとしては遅過ぎる時間帯だ。こんな時間に起きたのは、小学校の頃以来かもしれない。
ふと室内を見渡すと、昨晩と比べて色々と変化した点が見られた。
昨晩、あれほど激しいキャットファイトが繰り広げられたというのに、誰かが片付けたのかホコリ一つ落ちていない。無造作に積み上げられていた書類の山脈も、いつの間にか整えられて城壁の如くそびえ立っている。
「誰がこれを…いや、彼女だろうけど…」
アレスが呟いたその時、執務室の隣、泊り込み用の生活スペースと繋がる扉が開いて、一人の女性が入って来た。
「あら、おはようアレス。朝御飯、出来てるわよ」
「あ、ああ。マナ、おは…ぶふっ!?」
反射的に挨拶を返そうとして、吹き出して失敗するアレス。
部屋に入って来た金髪碧眼の美女、マナ・フローレンス。アレスの幼馴染にして、最高統括官になった彼の秘書官でもある。
上記の通りゾッとするぐらいの美女であり、息を呑むような事こそあれ、吹き出してしまうような要素は、少なくとも彼女そのものには無い。
では何故、アレスが吹き出してしまったのか。原因は、彼女の格好にあった。
「おまっ、ちょ、なっ…」
「アレス、どうしたの?この格好、好きじゃなかった?」
可愛らしく小首をかしげるマナ。
その下、体に身に着けているのはエプロン。右手に朝食の乗ったトレーを持っているのだから、それ自体は何らおかしくない。
問題は、エプロンしか身に着けていないという点だ。
フリル付きの純白のエプロンに、下着さえ着けていない生まれたままの姿の、モデルもかくやというダイナマイトバディを無理矢理詰め込んでいる。
全ての男達の夢(個人の嗜好により、例外はあります)、所謂裸エプロンというヤツだ。
「いや、俺も男だから嫌いじゃないけど、俺が言いたいのはそういう事じゃなくて…」
朝食のトレーを机に置いたマナは、しどろもどろに言葉を紡ごうとしているアレスを不思議そうに見ながら、軽く腕を組む。
ただでさえDカップというサイズを誇るバストが押し上げられ、強調される。更にはノーブラの為、白いエプロンに桜色の突起物が透けていたりする。
常人なら鼻血出して失神か飛び掛っていそうな光景だが、アレスは過去に結構な回数見た(見せられた)事があるので多少は免疫が出来ている。
とは言え、決して慣れる事は無く、再び吹き出しそうになりながら真っ赤になった顔を背けたが、そんなアレスにマナは小悪魔的な笑みを浮かべながら歩み寄る。
「アレス、どうしたの?顔が真っ赤よ?熱でもあるのかしら?」
そんな事を言いながらアレスの目の前にやって来たマナは、組んでいた腕を解き、その手をアレスの赤くなった頬に添える。
彼女がバイオレンスモードになったり、アレスをイジる時などによくやる行為だ。つまりこれまでの経験上、これをやられた時、アレスは否応が無しに緊張状態にならざるを得なくなる。
そして、アレスは今、新しいタイプの緊張を強いられていた。
「………」
口を噤み、更に赤くなった顔を逸らすアレス。
そのアレスの前でニヤニヤしながら屈み込むマナ。そして彼女は裸エプロン。
つまり、アレスの顔の前には、肌色決戦兵器が二つ、致死量の威力を孕んでぶら下がっているのだ。
ごくり、と唾を飲み込みながらも、決してそちらを見ようとしないジェントルマンなアレス。
そして、そんなアレスに、意図的に決戦兵器を近付ける悪魔なマナ。
逃げようとするアレスだが、接近したマナが足の関節に触れ、逃げられない様に何らかの技を極めて動けなくさせる。勿論基礎能力が違うので無理矢理動けば脱出出来るが、そうすると、恐らくアレスの腕だか顔だかがマナの決戦兵器に当たる。
いくら幼馴染で自分に好意(で片付けるには少々重いが)を寄せているとは言え、いや、だからこそ、そんな事をする訳にはいかないのがジェントルマンクオリティーである。
それを承知の上なのか、更に悪そうな顔で近付くマナ。
「ちょ、マナ…」
そろそろシャレにならないので、声を掛けて止めようとするアレス。
しかしその時、
ドゴオオオオオオンッ!!
室内、いや、エデン臨時最高統括府中に轟音が響き渡る。
数秒の間を置き、更に何度も響く。
音源は、統括官執務室、つまりこの部屋の入り口の扉だった。
昨晩アレスの部下によって破壊されたオーク材の扉の代わりに、複合素材の見るからに頑強そうな扉が取り付けられており、その扉を誰かが外から攻撃しまくっている為、轟音が響きまくっているらしい。
ドゴオオオンッとかズガアアアンッといった、鉄パイプで叩いても出ないだろう、という様な音が何度も響くが、流石に戦車の装甲にも用いられる物と同じ材質なだけあって、多少たわみはしても扉が破壊される兆候は無い。
それでも、外部の何者かはしつこく扉を攻撃しまくる。
「な、なんだ?」
「フフフ…」
扉に目をやって呟くアレスと、同じく目をやって怪しく笑うマナ。この時点で誰が扉を取り替えたのか分かるが、そこはアレスもスルーした。
そしてマナは扉から目を離すと、再びアレスへ決戦兵器を突きつける。
「ウフフフフフ…」
「あ、しまった!」
先程とは違うタイプの笑みを浮かべ、勝利を確信したかの様なマナ。
反対に、扉に気を取られている間に、鼻先一センチまで接近されたアレス。
「くっ…!」
かくなる上は…、と決死の抵抗を試みようとするアレス。
その時、アレスは変化に気付いた。先程からしていた扉を叩く音が聞こえなくなっていたのだ。
次の瞬間、
ガッシャアアアアンッ!
「たいちょおおおおおお!!」
「な、何だっ!?」
「チイッ!!」
ガラスの破砕音、少女の叫び声、悲鳴じみたアレスの叫び、マナの大きな舌打ち。
粉砕されたガラスの破片がアレス達に少量ながら降りかかると同時に何かが、いや、誰かがゴロゴロと転がってきて、ガバッと起き上がる。
フワフワとした赤毛の少女。アレスの部下、メルピア・ソーレスである。
「隊長、ご無事ですかっ!?」
「………」
問いかけてくるメルピアを無視し、アレスは割られた窓の外に目をやる。
垂れ下がっている一本のロープ。
それだけで、目の前の小柄な少女が屋上からロープを垂らしてそれを伝い、窓を蹴り割って突入してきたプロセスを悟る。
そんな特殊部隊じみた(事実、現役の特殊部隊だが)方法で侵入してきたメルピアだが、彼女はアレスの無事を確認すると、部屋にいるもう一人の人間、マナに視線を移して悪鬼の如き形相を浮かべた。
「貴様、こんな卑劣な真似をっ…!」
それに対し、マナも表情を変えてメルピアを見返す。
彼女の表情は笑顔といってよいものだったが、その中に凄まじい怒気や覇気やらが込められており、アレスとしてはこちらの方が怖いかもしれない。
「あら、恋の鞘当てにルールなんか無いわ。卑劣、卑怯は敗者の戯言よ」
アレスは、両者の間に火花が見えた様な気がした。
そして、
「昨日の決着をつけてやる、この女狐っ!」
「上等よ、泥棒猫っ!」
床を蹴り、取っ組み合いを始める猫二匹。
舌戦を繰り広げながら高度な近接戦闘を繰り広げる二人だが、それを見守るアレスにはそれを止めるつもりは無い。
見たところ、二人は武器らしい武器を所持しておらず、死人は出ないだろうと判断したからだ。
昨晩の出来事で諦めた、とも言う。
二人のヤンでる女が戦う横で、アレスはマナが用意してくれた朝食をモソモソと食べる。
ベーコンエッグの目玉焼きの黄身は、アレスの好みな半熟だった。
「…うん、旨い」
その後、朝食を食べ終わったアレスは、部屋の中で繰り広げられるキャットファイトには構わず、ただひたすら黙々と書類を片付けていくのだった。
西暦二五七〇年/ブリストン暦四五六年 天秤の月(七月)二四日
エデン臨時最高統括府(旧エデン行政府A棟) 第一会議室
「アレス、久しぶグベラッ!?」
統括府地下二階にある第一会議室。
中央に円卓が置かれた少し薄暗い部屋に入ったアレスは、とりあえず先に入室していた眼鏡の男を殴り飛ばした。
殴られた男は宙を舞い、ベチャッと床に落ちて動かなくなる。いや、叩かれたGみたいにピクピクはしているが。それはつまり生きている証である。
ピクピクしている男の横を素通りし、アレスは自分の席、議長席に着く。
「…みんな、ここ二日間、仕事お疲れ様」
席に着いてそう言ったアレスの顔は、普段の彼を知らない者でも分かるぐらいに憔悴していた。
部屋にいた全員が、「あんたが一番お疲れだ」と心の中でツッ込む。いや、一人だけ例外がいた。
「ぬぐおおお…。アレス、いきなり何を…?」
人類の永遠の敵Gよろしくピクピクしていた男、レンディ・ホッパー大尉が起き上がり、しかしやはりダメージが大きかったらしく生まれたての小鹿よろしく足をプルプルさせている。
それに対し、アレスは苛立たしく鼻を鳴らす。
「ふんっ、自分のやった事を思い返してみろ。お陰でここ二日間の俺の睡眠時間は三時間だ」
ちなみに起きてた時間は正味四五時間だが、その内訳は仕事四割、マナとメルの仲裁三割、その他(一八禁指定内容)三割である。
「いや、それは俺も自分の命が惜しいし…。その様子を見るに、予想通りの展開になったのかな?」
「…まあ、な。分かってたんなら、マナはまあ無理だとして、メルぐらいどうにかしてくれなかったのか?」
「それこそ無理だ。フローレンスの方は俺に任命権があったから脅され…頼まれて秘書官に任命したが、ソーレス少尉は最高司令官直属だった部隊所属なんだから、俺にどうこう出来る権利は無い」
「ま、そうだろうな。それでもやっぱり、文句ぐらい言いたくなるんだよ…」
レンディがなんとか自分の席に着くと同時に、アレスはゴン、と額を強打しながら円卓に突っ伏す。その様子を、円卓を囲んでいた他のメンツ達は苦笑しながら見守る。
一分ほど経過して、アレスとレンディがそれぞれ精神的、物理的ダメージから立ち直って席に座り直す。
アレスは咳払いをすると真面目な表情になり、それを見た者達は背筋を延ばす。
「…さて、これからの話をしようか」
第一回エデン統括府首脳会議の始まりである。
やっぱり、エロ路線は書き難いので苦手です。発想が貧困なんです。
次章は、アレスをトップとしたエデン暫定独立政府(?)の今後の方向性を模索。つまり、アレスの無双&ハーレムの方向性ですね。
感想・ご指摘募集。キツい酷評でも(自称)鋼の精神で耐えるので、気にせず送って下さい。




