表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エデンの王  作者: Palerider
連合加入編
15/58

第十三話 頼れる秘書は幼馴染(病)

最近、書き溜めがまったく出来なくなってきました。どうしましょう。


 西暦二五七〇年/ブリストン暦四五六年 天秤(リブラ)の月(七月)二二日

 エデン臨時最高統括府(旧エデン行政府A棟) 最高統括官執務室(旧長官執務室)



 一分前、壁に掛けられたアナログ時計の針二本が頂点を指した。

 つまり今は二二日の午前零時一分。軍隊風に言うと〇〇〇一(マルマルマルヒト)である。

 つい昨日まで、一介の特殊部隊隊長だった頃なら、報告書もとっくにまとめてお偉いさん方に提出し、安眠を貪っている時間帯だった。

 しかし、現実は無情である。

 何の因果か、今のアレスは何故かその報告書を受け取る側のお偉いさん、それも一番上、所謂雲上人という立場だ。

 そして彼のいる場所、雲の上は現在、地獄の様相を呈していた。



「統括官、次はこの書類をお願いします」


「それが終わったらこちらの書類(の山)を」


「その次はこっちの書類(の山脈)の決裁をして下さい」


「できるかああああああっっっ!!」


 あまりに止まるところを知らない書類の洪水に、遂にアレスが叫んだ。

 天秤(リブラ)の月(七月)二二日、時刻は午前零時一分。

 魔族による侵攻騒動終結から約八時間が経過しており、アレスは各部署から上がって来る報告書という名の刺客に忙殺されている。

 本物の刺客と違う点は、殺しても帰ってくれない点だ。ひたすらにアレスを嬲り殺しにしてくれる。


 レダイア長官やホーエンハイム最高司令官はこんな事を戦闘毎にやっていたのか…、と今更ながら上の人のありがたさを理解するアレスだが、実際の所、生前の長官も最高司令官もここまで激しく書類に忙殺はされていない。

 アレスが現在進行形でこんなに忙しいのは、本来助けてくれる筈の行政府と軍の首脳陣が、今回の侵攻でまとめて殉職してしまったからだ。


「俺は戦闘職だぞ!普段の報告書だってあまり得意じゃないんだから、いきなりこんなバカみたいな量の書類がこなせる訳無いだろ!」


「ええ、そうですね。統括官、次はこの書類(の大陸)をお願いします。関係各所からの報告書等です。構成員全員分です」


「ぐああああああああああぁぁぁっっっ!!」


 ちなみにエデン防衛軍の総兵員数は約五〇〇〇人。

 規模の縮小化が進んだ二六世紀の軍隊としては一個師団規模であり、更に直接的な兵站以外で軍をサポートする関係組織も含めれば、その数は約一万人。

 エデン市民の二〇人に一人が軍関係者という事になる。


 一万というのはあくまで末端数であって、その全員がアレスに書類を上げてくる訳ではない(報告書は全員が書くが、それらは末端寄りの現場指揮官、最高でも連隊長ぐらいがさばいてくれる)。

 それでも、一万という組織を動かす為にトップが処理しなければならない書類の数は半端ではなく、何度でも使い回せる電子ペーパーでなかったら、環境破壊に大いに貢献していた事だろう。


 しかも、これは軍に限った話である。

 最高統括官などというケッタイな役職に就いてしまったアレスは、旧行政府長官としての役目もこなし、エデン市民二〇万人に関する書類の相手もしなければならない。

 もっと言ってしまえば、今回の騒動で外交局長、財務局長、内務局長、民事局長達がまとめて昇天なされたので、今後の異世界先住民(魔族含む)との付き合い方、戦闘にかかった費用の集計、戦闘で出た都市内部への被害の修復発注、殉職した者の遺族への対応など、それぞれのポストの後任を選定するまでは、アレスが一手に引き受けなくてはならない。

 当然、一人の人間がこなせるであろう書類仕事の限界量など、とっくに越えている。

 アレスがデスクワークを始めてまだ一〇時間程度しか経っていないが、この調子で行けばブラック企業も真っ青な就労時間になるであろう事は、誰の目にも明らかだった。


「く…。け、ケツが痛くなってきた…!」


 アレスが座っているのは、行政府長官用の超フカフカな所謂社長椅子だが、着席時間が二桁に突入すると、その社長効果も流石に消える。

 とはいえ、生まれて始めての本格的な書類仕事の一〇時間オーバーで感想が「ケツが痛い」である辺り、流石の無尽蔵スタミナとしか言い様が無い。

 一度立ち上がりたいが、書類を片付けるまでは立ち上がってはいけないと釘を刺されている。

 しかも、その釘を刺した当人である補佐官は次々と書類を持って来る。


「な、なあラッツェ補佐官。そろそろ休憩しない?」


「フム、流石に一〇時間以上はキツイ物がありますかね」


「うん、キツイ!正直、三時間ぐらい経過した時点でとてもキツイと感じてた!」


「では、この書類の山(エベレスト級)が終わったら、一〇分ほど休憩しましょう」


「おおおおおおおお………」


 頭を抱えて机に突っ伏すアレス。

 しかしラッツェ補佐官は、構わず書類を、まるで城壁の様にアレスの前に積み重ねていく。

 そのまま数秒間フリーズした後、アレスは携帯電話(二六世紀のスタンダードである極薄カード型ではなく、軍用の無骨な折り畳み型)を取り出し、電話帳から友人、と思っていた男の番号を呼び出す。


『(プルルル、プルルル、ガチャ)もしもし?』


「レンディ!おいお前、俺の事をサポートするとか威勢のいい事言ってただろう!なんだこの惨状は!」


『惨状って、そっちに送った書類の事か?』


「それ以外に何がある!こんな、書類の壁で向こう側が見えなくなるような馬鹿げた量の書類…」


『それについては、本気ですまなく思っている』


「へ?」


 いつになく殊勝なレンディの返答に、アレスは思わず怒りを忘れた。


『上がってきた書類を、俺とルーサー、ウィンス、アーレイの四人で出来るだけ少なくして、元の一割ぐらいにまで減らしてお前に送ってるんだが、それでもその量だ。いかんせん戦後だから、最高責任者であるお前に裁決してもらわなければならない物が多いんだよ』


「一割って…」


 アレスの目の前にある大陸の如き量の書類だけで一割。ならば、レンディ達がチェックした書類はどれほどであっただろうか。一つの惑星が出来ちゃうんじゃないだろうか。

 そういえば、レンディの声に元気が無い。書類仕事が本職のエリートであるレンディ達がこんな状態になるような量である事だけは間違い無い。


「…うん、なんかゴメン。お前等が一番大変なのに、文句なんか言っちゃって。俺、もうちょっと頑張るよ。じゃあ、またな」


 勢い込んで電話をかけた時とは真逆に、すっかり恐縮して電話を切ろうとするアレス。

 しかし今度はレンディがそれを引き止める。


『ああ、待てアレス。少し大切な話がある』


「話?」


『そうだ。お前が大変な事になるのは分かりきってたから、旧行政府から一人、秘書を付けてもらえるよう、頼んでおいた。そろそろそっちに到着するんじゃないか?』


「秘書って…。補佐官ならいるけど?」


『補佐官は補佐官だ。補佐官の仕事ってのは多岐に亘るから、お前の補佐ばかりしている訳にはいかないんだが、秘書の仕事は「お前を助ける事」だけだ。少しは仕事が楽になるんじゃないかな』


「レンディ…」


 珍しいレンディの優しさに、思わずホロリとくるアレス。

 しかし、当のレンディは対照的に苦々しいというか、苦悩を含むというか、なんか憐れみが感じられる声音で返す。


『…残念だが、これはお前の事を慮っての事ではない。むしろ、自分の物理的な保身を考えての事だ』


「え?」


 部屋の外の廊下から、コツコツとハイヒールの音が近付いてくる。


『お前に付く秘書というのは、つい最近本国の国立(国際連合立)中央総合大学政治学部を首席卒業した超エリートさんでな』


「はあ」


『その人、実はエデン出身でさ。本国の国連理事会からお呼びがかかるほどのガチエリートらしいんだが、それを蹴ってエデン行政府行きを志願したんだと』


「へえ、エデン(ここ)出身か」


 どんどん近付いてくるハイヒールの音。


『それで、だ。その人、今日、ゲートが不通になる直前にやって来られたんだが、ついさっき俺達の所に来て、無理矢理おどし…いや、あまりに真剣にお願いしてきたんだよ。お前の秘書にしてくれって』


「へえ…、うん?」


 嬉しさ一二〇パーセントで聞いていたアレスだったが、次第に雲行きが怪しくなってきて、同時に背中に冷たい汗が流れ行く。

 ハイヒールの音が、部屋の扉の前で止まった。


『まあ、能力的には何の問題も無いし、何より彼女、お前と相性が良い。…うん、すごく相性は良い、と思う』


「………おい待て」


 冷たい汗が滝の様に流れる。

 ノックされる扉。


『本当にすまない。俺達も自分の命が惜しいんだ。ま、お前なら殺されはしないだろう。何だかんだ言って、あの愛は本物だし』


「まさか………」


 ギギギ、と扉の方に顔を向ける。それとほぼ同時に、扉がバァーンと開かれた。


 そこに立っていたのは、一人の女性。

 サラリとしたプラチナブロンドのロングヘアーに、大粒のサファイアの如き碧眼。二〇歳前後と思われ、顔立ちは日本女性、つまり大和撫子っぽいが少々鼻が高く、様々な血が入っている事が分かる。

 一言で要約すれば、もの凄い美人。

 その美人の笑顔が、部屋の主たるアレスへと一直線に注がれた。

 そして、その笑顔を向けられたアレスはと言うと、全身がビキリと引き攣り、携帯電話を取り落としてしまう。

 地面に落ちた携帯からは、レンディの申し訳無さげな声が流れる。


『じゃ、頑張ってくれ(プツッ、ツー、ツー)』


「アレス・レックス統括官。私、本日付であなたの秘書になりました、マナ・フローレンスと申します。…、よろしくね♪」


 見る者を幸福にさせるような笑顔。

 しかし、その笑顔を独り占めにしているアレスは、ガタガタと震えが止まらない。


 マナ・フローレンス。

 二〇歳。国立中央総合大学政治学部を首席卒業。才色兼備、文武両道、傾国の美女。まさにパーフェクトウーマン。

 しかし、幼少より彼女を知る者達は、彼女にはとにかく、一点だけ、小さな、そして重い欠点があると証言する。


 曰く-----、


「彼女は、アレス・レックスという幼馴染の男に対して、病的なまでの執着心を抱いている」と。


 つまり、


「彼女は、病んでいる(・・・・・)」と。



遂にヤンでるメインヒロイン登場。第一章以来の登場ですが、そういえば第一章では名前を出していませんでしたね。

ぶっちゃけ、暴力過多なタイプのヤンです。それでいて、勿論アレスへの超重い愛は一ミクロンたりとも揺らぐ事はありません。


次章投稿は、多分来週です。もしかしたら無理かもしれません。お気に入り登録してくださっている数少ない方々、申し訳ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ