第十二話 緊急発表
主人公、ほとんど出番無し回。
とりあえず、これで足場固まりました。
続けてよろしくお願いいたします。
西暦二五七〇年/ブリストン暦四五六年 天秤の月(七月)二一日
エデン居住区画 四七号民間用シェルター
異世界入植都市エデンは、要塞都市でもある。
周囲を巨大な防壁に囲まれ、内部には大規模な軍事区画を備え、そして一般市民の安全を守る為、市民二〇万人を楽に収容出来るだけのシェルターが用意されている。
その為、異世界の先住民達による攻撃を受けた際、市民は迅速にこのシェルターに避難する事が出来る。
さて、異世界の先住民の一種、魔族による奇襲を受けたエデン防衛司令部はすぐさま第二種緊急事態宣言を発令し、全ての市民が一時間以内にシェルターへの避難を完了させた。
そんなシェルターの一つ、第一居住区画の中央地下に存在する四七号民間用シェルターは、平日で男達が仕事に出ているという事もあり、四、五〇人の主婦達と幼い子供達で占められていた。
その中で、主婦達の中心にいる一人の女性。
長い黒髪に、純朴で清楚な美人。大和撫子といった風な容姿で、三〇代、下手すれば二〇代でも通用しそうなほど若々しい。
しかしその実は先月四〇代になったばかりで、二〇歳を迎えた息子が一人いる。十年以上前に軍人だった夫を亡くし、女手一つで息子を立派に育て上げ、それで尚、外見の若々しさとバイタリティーを保っているものだから、近所の若い奥様方からは、良きママ友、良きママ先輩、ザ・グレートマザー(グランドではない)として慕われていた。
彼女の名は、マリア・レックス。エデン防衛軍特殊戦術部隊隊長を息子に持つ、自称どこにでもいるおばさん主婦である。
「それでね、マリアさん。うちの夫ったら…」
「あら、そうなの。でもそれぐらいは…」
避難生活が数日続いた時の為に水道、電気等の生活インフレは揃っているが、その電気を使用する電子遊具などは流石に用意されていない。
なので、子供達は鬼ごっことかをして遊んで(最大一五〇人を収容出来るシェルターなので、かなり広い)おり、お母さん達はお母さん達でママトークをしている。
その時、
「あら、何かしら?」
一人のお母さんが変化に気付いて声を上げる。
他のお母さん達がそちらを見ると、シェルターの内壁に取り付けられた大型液晶モニターが勝手に点き、デフォルメされた「E」のアルファベットに意匠が凝らされた、エデン行政府のロゴマークが表示されていた。
数秒後、映像が切り換わり、普段のテレビなどでもよく見る、エデン行政府広報部のスポークスマンの女性(女性なのにスポークスマンとは、これいかに)広報官がバストアップで映し出された。
女性は一度お辞儀をして、ゆっくりとした良く通る声で喋り始めた。
『エデン市民の皆様、これより、エデン行政府およびエデン防衛軍司令部より、緊急発表を行います。ご静聴願います』
お母さん達は皆真剣な顔でモニターに注目する。
子供達は相変わらずキャッキャと走り回っているが、何人かの子供達はそれぞれのお母さんの膝の上に座り、よく分かっていないなりに、お母さん達の真似をして真剣な表情でモニターを見る。
他のシェルターでも当然この放送はされており、エデン中の市民(少なくとも成人は全員)が 注目する中、モニターの中で女性が喋り出す。
『まず、第二種緊急事態宣言の解除をお知らせします。エデンへ侵攻してきた魔族軍は撤退しました。繰り返します、エデンへ侵攻してきた魔族軍は撤退しました、第二種緊急事態宣言を解除します』
その言葉に、エデン中のシェルターで小さくない歓声が上がった。
しかし緊急発表はまだ続いており、すぐに静かになって次の言葉を待つ。
『続いて、市民の皆様にお伝えします。本日午後一時、魔族軍の攻撃により転移管理局施設が崩壊。ゲート維持設備が損傷、両界の時空位相が歪み、本国とのあらゆる物質、波長の転移が不可能となりました。復旧の目処は立っておらず、これによりエデン行政府は第一種緊急事態宣言を発令します』
-----第一種緊急事態宣言
第二種緊急事態宣言が、異世界先住民による攻撃を受けて物理的に危機に瀕した際に発令されるのに対し、第一種緊急事態宣言は目に見えない危機に瀕した際に発令される。
即ち、本国との交流断絶。
本国統括部で何らかの異常事態が発生するかゲートに異常が発生するか、今回は後者だが、それらの際に本国からの指示が受けれなくなった場合に発令され、エデン行政府が全権限を掌握、事態収束までエデンの統治を行う(普段から行政府が統治しているが、大まかな政策などは全て本国の統括部から指示されている)。
第二種緊急事態宣言はそこそこ頻繁に発令されてきたが、第一種の発令はエデン開闢以来始めてである。
しかし、エデン市民はそれほど騒いではいなかった。
確かにゲートの不通は動揺を誘う事態だが、行政府が統治を行うというのなら不安は無い。行政府長官であるオーセス・レダイアは良い政治家として高い支持を集めているからだ。
しかし、続く発表に、エデン市民達は一気に混乱状態に陥る。
『続きまして、悲報をお知らせします。本日正午頃、エデン行政府オーセス・レダイア長官及びエデン防衛軍最高司令官クライブ・ホーエンハイム准将、他、行政府と防衛軍司令部の主要構成員合計七九名が、魔族軍の攻撃により殉職なされました』
エデン中の市民が、は?となる。
たった今発表された事が良く理解出来ない、といった感じだ。
自分達の所属する統治組織のリーダー達が片っ端から死んだ、というのだ。無理からぬ事である。
そして、良く理解出来ないなりにも、察しの良い人間は、それによる現状の危機的状況に気付いていた。
リーダー達が死んだ。そして本国との行き来が出来なくなった。
それはつまり、本国から新しいリーダーを招く事が出来ないという事である。
本国から指示が受けれない、頼れるリーダーは死んでしまった。今は撤退したが、魔族は再び攻めてくるかもしれない。
エデンは今、開闢以来最大の危機に瀕していた。
市民が徐々に状況を理解し始め、悲鳴に近い声が上がり始める。
その中で、察しの良い者達は黙ってモニターに注目する。この緊急発表がそれだけを告げる物ではないと察し、続く発表を待つ。
果たして数秒後、広報官の女性は再び喋り出す。
『防衛軍最高司令官殉職に伴い、臨時最高司令官には現状最高位の防衛軍人が就任いたしました。行政府の臨時長官ですが、第一位から第十四位までの権限継承者が殉職した為、第十五位の権限継承者である防衛軍最高司令官、臨時最高司令官が兼任いたします。その為、エデン行政府及びエデン防衛軍司令部は解体、臨時最高司令官兼行政府長官を最高統括官とした、エデン臨時最高統括府を設置いたします。第一種緊急事態宣言発令下における原則により、エデンにおける軍事権、警察権、行政権、立法権、司法権は全て臨時最高統括府が掌握いたします』
広報官の新リーダー就任発表によって、市民のリーダー不在による混乱は多少回復した。そうなると、次は別の混乱、不安が生じる。
新リーダーが誰かという事だ。
今の発表を聞く限り、軍事・警察・行政・立法・司法権全ての掌握とはつまり、その新リーダーがエデンの独裁者的なポジションになるという事である。これで新リーダーが悪人だったり愚者だったりしたら目も当てられない。
『それでは、新しく就任されたエデン臨時最高統括官にご挨拶を願います』
広報官の女性の言葉に、全市民が固唾を呑んでモニターに注目する。
そして画面が切り換わり、映し出された臨時最高統括官という人物の、見た目(実際も)二〇代の男のあまりの若さに、エデン市民達は絶句する。
その中、四七号民間用シャルターの一人の女性だけは、ただ一言、普通に驚きを込めて呟いた。
「あら、アレス」
『…えー、俺、じゃなくて私が、この度エデン臨時最高統括官に就任いたしました、アレス・レックス少佐です…よろしく』
次章、ついにヤンデレが登場…!
と、言いたい所ですが、ちょっと趣向を変えてAAの説明を挿みます。アレスが無双な理由の説明ではなく、誰もがAAを操れる訳ではない理由を説明します。
明日更新予定。
ヤンデレは来週で。




