第十話 巨人
ネフィリム、タイタン、アトラス。全て神話に出てくる巨人の名前です。ネフィちゃんは少々マイナーですが。
にしても、最初から大した事なかったけど、章が進むにつれてどんどん駄文になってきてるな…。
西暦二五七〇年/ブリストン暦四五六年 天秤の月(七月)二一日
エデンから一キロ地点
柱の様な長距離砲撃用の魔術兵器「ゴルバートゥン」が魔法の火を噴く、その下。
魔族軍第一級魔術兵士である魔族は、自分の目の前にそびえたつ巨大なゴーレムを満足げに眺めていた。
「ああ、流石はゴグマゴグ。まるであの方がすぐお側にいらっしゃる様な心地だ」
魔操式土類傀儡人形「ゴグマゴグ」。それは、全長二〇メートルにも及ぶ、鎧を着た土人形だ。
この軍団には現在三体のゴグマゴグが配備されており、それら全てが、彼等の主たる魔王本人によって直々に創造された物である。
莫大な魔力を内包されたそれらは、素材からして並みのゴーレムとは比べ物にならない。
土には上質な御影石を砕いた粉を使用し、僅かながらダイアモンドの粉まで加えられている。それらが魔王の莫大にして高精度の魔力によって強力に結合されているのだ。
この世界のどの様な兵器をもってしても破壊する事は出来ない。
今戦っている敵、異世界からやって来た悪魔達は妙な武器を使うというので警戒していたが、それも杞憂だった。
黒い鎧を纏った兵士が襲ってきたが、ゴグマゴグの自動迎撃機能で簡単に倒せた。その直後、同じ姿の兵士がやって来て、最初の兵士とは比べ物にならない程鋭い動きを見せたが、結局最初の兵士を回収して逃げて行った。
多少ダメージを受けたが、あの程度ならゴグマゴグの許容範囲内だ。
その後も悪魔達が操る巨大な鉄のトンボがやって来たが、ゴグマゴグの敵ではなかった。二、三機落としたらすぐに逃げていった。
魔族の進攻を止める者などいない。
ゴグマゴグはゴルバートゥンを守る為に動けないが、それでも周囲には地面を埋め尽くさん程の魔族軍がいる。全て魔族の精鋭達だ。国を滅ぼせるレベルの戦力である。
異世界の悪魔といえども、一都市程度、簡単に殲滅出来るだろう。
そんな事よりも、ゴグマゴグだ。
主から直接下賜された兵器を見上げ、熱っぽい声で呟く。
「ふふふ、『ゴグマゴグ』。ああ、何と甘美な響きか。流石はあのお方が作り出した兵器。名前まで素晴らしい。…このゴグマゴグの力があれば、異世界からやって来た虫ケラ共など、簡単に…」
その時、魔族軍で覆われた地面を、一筋の青い光が駆け抜けた。
光はゴグマゴグの右足の脛の部分に命中し、そのまま何の抵抗も無く貫く。
「何っ!?」
貫かれたゴグマゴグの足には綺麗な丸い穴が穿たれており、光系統のレーザー魔法を受けた様な痕だが、こんな高威力の魔法など見た事が無い。
「くそっ、一体誰が…」
その時ゴグマゴグの周囲に、空から赤い雨が降り注ぐ。
綺麗な軌跡を描くそれはひどく幻想的で、周囲の魔族達は皆見惚れている。
その雨が地面に、魔族の頭の上に当たった瞬間、これまた美しい赤い花が生じた。
紅蓮の、摂氏二〇〇〇度にも及ぶ炎の華が。
「………っ!」
驚きが大きかったのもあるが、吹き寄せた熱風に喉が痛み、声が出せなかった。
慌ててローブで顔を覆い、数十秒経ってからソロソロと顔を上げる。
ゴグマゴグ本体は少し焦げた程度で大きなダメージは無さそうだが、周囲の魔族軍は惨憺たる有様だった。
手足が千切れている訳でも、内臓がはみ出している訳でもない。数十秒前、炎の華が咲く前と大して形の変化は無い。
ただ、真っ黒になっているのだ。
火傷とか、爛れているとかの次元では無い。超高温で焼かれ、炭化したのだ。
「い、一体、何が…」
その時、ゴグマゴグの前に一つの人影が降り立った。
飛び降りてきたかの様に膝を曲げた着地姿勢を解き、ゆっくりと立ち上がる。
「あれは…」
それは、以前襲ってきた黒い鎧の兵士に似ていた。
しかし、明らかに細部が違う。以前はあんな刺々しいフォルムはしていなかったし、武器も違うし、低いウウゥゥゥンと唸る様な音はしていなかった。
なにより、放たれるプレッシャーが並みではない。どうやら、異世界の悪魔達の新兵器か何かの様だ。
「(…だが、何が来ようとこのゴグマゴグに敵う物など有り得ん。すぐにコテンパンに…)」
黒い鎧の兵士が、両手に持った武器を構える。
次の瞬間、魔族達の常識は覆された。
-----数十分前
エデン軍事区画 特殊装備格納庫
レンディとボビーとメルピア、他数名の警備兵が、運び込まれた(警備兵に手伝ってもらった)新兵器を装備するアレスを見ている。
真っ黒で厚手の、首からつま先まで覆うタイプのラバースーツっぽい物、「ネフィリム」を着込み、その上に鎧、「タイタン」を取り付ける。
普段使用しているAAのパワーアシストスーツは体温の熱エネルギーで起動するので、六〇キロにも及ぶアーマーでも簡単に装着できる。しかしネフィリムはタイタンからのエネルギー供給で起動するので、まずタイタンを着込まない事にはパワーアシストが働かない。
なので、一〇〇キロにも及ぶタイタンを、ボビーの助けを借りながらどうにか装着し、内臓された動力炉を起動させる。
最新式の超小型核融合炉が、キイイィィィンという音を立てて起動し、アーマーに刻まれたスリットに青い光が走る。数秒後、ネフィリムにも無事エネルギー供給が始まった。ネフィリム、ゴム状の最新式人工筋肉が一瞬膨張してアレスの身体を圧迫、より身体にフィットさせて起動し、体が自由に動くようになった。 しかし全身に漲る力は、普段のAAの比ではない。
「…流石にバケモノじみたスペックだな」
思わず呟くアレスだが、それも無理からぬ事だ。
以前のパワーアシストスーツの補助率は筋力約五倍、瞬発力約三倍といった感じの装着者による比例式だったが、ネフィリムは強化率が固定されている。
その力は、およそ六〇〇〇馬力。船が動かせるパワーだ。
そのパワーを生み出すタイタンの超小型核融合炉の出力は、二〇〇〇kW。どうやったらこんな小さな(核融合炉は、タイタンの胸部に内臓されており外からは見えないが、それは「胸部に収まるぐらい小さい」事を示している)物でこんなエネルギーが生み出されるか不思議だが、自分の仕事はそれを考える事ではないと、アレスは無理矢理興味を抑える。
ボビーやメルピア達も新兵器に対する興味でウズウズしているが、今はあまり時間が無いので質問タイムは戦闘が終わってからだ。
厳選した武器を装備し、FCS(火器管制システム)に登録する。
流石にFCSも凄まじいスペックだったが、それをじっくりと見るのは全て後回しである。
「…よし、準備完了だ」
立ち上がり、そう告げるとレンディとボビー、メルピアは頷き、警備兵達は敬礼する。
「ボビーとメルピア、ゴースト3、4は先程と同じ様に、通常部隊と連携して魔族軍進攻を阻止。例のゴーレムと魔術兵器は、全て俺が片付ける」
一人軍隊気取りの馬鹿みたいな(普通は不可能であるという事)指示を出すアレスだが、それに文句を言う者はいない。
今の彼がそれを言うと、寧ろ安心感が生じるのだ。
アレス自身、その言葉が不可能な事ではないと感じている。
別にナルシストな訳でも、絶対的な自信がある訳でもない。ただ、可能であると感じているだけだ。
「…行こうか」
エデンより五〇〇メートル地点
「…見えた」
魔族の大群の中、アレスの視界にゴグマゴグと、それに守られたゴルバートゥン(無論、アレスはその名前を知らないが)が映った。
魔族の大群の中を走るアレスだが、以前のAAではアサルトライフルで魔族を撃ち殺してどかしていたが、ジ・アトラスを纏った今、六〇〇〇馬力という馬鹿げたパワーで、素手で魔族達を薙ぎ払いながら疾走している。
ターゲットであるゴグマゴグ達が見え、アレスは地面に手を着き、足を振り上げてコマの様に回転して、カポエイラの様な動きで周囲の魔族達を薙ぎ払う。
ただそれだけで、魔族の身体は千切れ、血や内臓が飛び散る。
血肉で汚れた地面に立ち、左手に持ったレーザーライフル「ミーティア」を構える。
ジ・アトラスの遠距離照準システムが作動し、遠方のゴグマゴグが大きく見える。その太い右足の脛にカーソルを合わせ、射撃モードを収束、出力を最大に設定してトリガーを引く。
ジ・アトラスから供給された莫大な電力が青い光の筋に変換され、タイムラグ無しでゴグマゴグの足を貫いた。射線上の無数の魔族も貫いた上で、更にミサイルさえ通用しないゴーレムを易々と貫く出力に、撃ったアレス本人も若干引く。
だが、そこで立ち止まる事無く、再び走り出してゴグマゴグに接近する。
八〇メートル程の所に来て、跳躍する。
それほど強く跳ねたつもりは無かったが、それでも一〇〇メートル近く高度が出た。
最高点に達した所で、腰に付けたキューブ型の物体を手に取り、眼下の魔族に向けて投げる。
高温燃焼分裂手榴弾「スターレイン」。一二五個(五x五x五)に分裂した欠片は赤い雨になり、着弾した地点一帯を火の海に変える。
火自体は数十秒程で消えた。
その後には、ゴグマゴグにはあまり効果が無かった様だが、その周囲の魔族達は黒い炭のオブジェとなっていた。
高温に晒されて黒く変色した地面に、ズドンッと音を立てて降り立ち、目の前のゴーレムを見上げる。
ゴーレムも、生命感の感じられないノッペリとした目でアレスを見る。
相変わらず馬鹿でかい図体だが、以前よりも威圧感を感じない。それが、アレスが強くなった事を示すのかどうかは分からない。
それでも、アレスは不敵に微笑み、両手の武器、左手のミーティアと、右手の四八・八ミリ口径アサルトライフル「スイーパー」を構え、一言。
「よう、土人形」
トリガーを引くと同時に、凄まじいリコイルと輻射熱が生じた。
ネフィリムがリコイルを抑え、タイタンが熱から肉体を守る。
スイーパーから放たれたホーローポイント弾がゴグマゴグの体を削り、ミーティアから散弾モードで放たれた青い光がその体を焼く。
生物ではないゴグマゴグは驚いたりしないが、それでも今までに無い量のダメージを受け、大きくのけぞった。
そのタイミングでスイーパーとミーティアをパイロンに固定して両手を空け、その場から弾丸の様な勢いで飛び上がる。
その先にあるのは、直径二メートルはあるかというゴグマゴグの左腕。
空中ですれ違う瞬間、背中に差した大太刀を抜き放ち、一閃させる。
アレスがゴグマゴグの後方に着地した瞬間、ゴグマゴグの左腕が綺麗に切断されて地面に落ちた。
「…流石に硬いが、これならいけるか」
高速振動単分子カッター「ムラマサ」。
非常にデリケート且つ脆く、本来は一度や二度の切断で刃が駄目になる様な武器だが、アレスという達人級の人間が扱う事によって、その刃は全くと言って良いほど歯こぼれしていない。
ムラマサを背に戻した所で、体勢を立て直したゴグマゴグが振り向き、残った右腕を振り上げる。
放たれるのは、隕石もかくやという剛拳。それにアレスは、真正面から向き合う。
そして、
「せああああああっっ!!」
足が地面に深くメリ込むほど踏ん張り、アレスもまた拳を繰り出す。
ジ・アトラスによって強化された小さな鋼の拳と、巨大な土の拳が正面からぶつかり合い、
粉々に砕け散った。
ゴグマゴグの右腕が。
粉々に砕けたのは拳の部分だけだったが、連鎖反応の様に一気に肘までズサアアと砂になって崩れる。
アレスもゴグマゴグも大きく体勢が崩れたが、アレスは一瞬で立て直してゴグマゴグの右足に肉薄する。
そして、最初のレーザー攻撃で開けた穴にスイーパーとミーティアの銃口を突っ込み、躊躇無くトリガーを引く。
ズオオオォォッというくぐもった音が立ち(ミーティアはレーザーライフルなので音を立てているのはスイーパーのみ)、同時にゴグマゴグの右足が内側から吹っ飛ぶ。
飛び退くと、ゴグマゴグは無くなった右足を地面に付いて更に体勢を崩した。
アレスの目の前に、差し出される様に垂れ下がるゴグマゴグの頭。
その頭にスイーパーの銃口を突きつけ、五割自然に、五割カッコ付けて一言。
「くたばれ」
毎分六〇〇発の速度で四八・八ミリの弾丸が放たれ、ゴグマゴグの頭が粉々に吹っ飛んだ。
AA無双。装備すれば誰でも無双出来る訳ではありません。アレスだから出来るんです。
次章、戦闘終結。そういえばハーレムものを書くつもりだったのに、バトルパートばっかだな。
俺、この戦いが終わったらラブコメ書くんだ…(フラグ)




