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エデンの王  作者: Palerider
擁立編
10/58

第九話 REASON

定期考査オワター

多分、成績もオワター

 

 西暦二五七〇年/ブリストン暦四五六年 天秤(リブラ)の月(七月)二一日

 エデン軍事区画 特殊装備格納庫



 仄暗い格納庫の隅で、アレスは黙々と作業を行っていた。

 その表情は真剣を通り越して鬼気迫るものがあり、ボビーもメルピアも声がかけ難い。


 重い空気に包まれる格納庫。

 そこへ、見るからに文官、といった雰囲気の男が入って来る。


「あ、ホッパー大尉。お疲れ様です。…ライルさんの様子はどうですか?」


「ああ、今ICU(集中治療室)で処置が行われている。予断を許さぬ状態らしいが、命に別状は無いそうだ。

 ところで、この空気は一体どうした?」


「………」


 ボビーが無言で格納庫の隅、アレスを指差す。

 そちらに目を向け、放たれる空気の重さに一瞬躊躇しながらも、レンディはゆっくりと近付き、その背に声をかける。


「…言った通り、ティカッツ少尉は無事だ。ナノマシン治療を行っているから、数日中の原隊復帰も可能だろう。お前が気に病む必要は…」


「魔族は?」


「え?」


「魔族の様子。魔術兵器と、例のゴーレムはどうなってる?」


 いつものアレスらしからぬ、低く冷たい声音に、レンディは思わず総毛立つのを感じた。

 目の前のよく見知った筈の男が得体の知れない存在の様に見え、僅かながら恐怖心が生まれた。


「…あ、ああ。魔術兵器の数が減ったお陰で緩くはなったが、長距離攻撃自体はいまだに続いている。その魔術兵器を守っているゴーレムについてだが、AH-80(戦闘ヘリ)を一三機全て出撃させて攻撃を攻撃させているが、チェーンガンはもちろん、ヘルファイア(対戦車ミサイル)もハイドラ(ロケット弾)も効果が見られない。それどころか、ロケットパンチみたいな攻撃で二機撃墜された。この世界の者達があんなに頑丈な物を作れるとは、報告に無い。戦車の主砲(一〇五ミリ電磁投射砲)なら効果があるかもしれないが、あんな大軍の中に戦車を送り込む事は出来ないし…

 それはそうとお前、さっきから何をやってるんだ?」


 報告を聞きながらも作業をやめようとしないアレスに、レンディは思わず恐怖心を押し殺し、彼の手元を覗き込む。


 大量の武器が床に並べられ、アレスはそれらを真剣な表情で吟味している。

 ハンドガンをはじめ、ショットガン、アサルトライフル、サブマシンガン、グルカナイフ、太刀等だ。

 武器の知識は軍人として最低限レベルしか持っていないレンディだが、それらの武器の共通点を二つ見つけた。


 一つは、それらの中にアレスが普段使用している武器が無い事。


 もう一つは、全て巨大で威力の高い物ばかりだという事だ。

 ハンドガンもマグナムタイプの巨大な物、アサルトライフルもアレス愛用の二〇ミリ口径ではなく最大の二四・七ミリ口径。挙句の果てには、レンディの身長に匹敵する多連装型の巨大なロケットランチャー等。

 正式な名前までは知らないが、全て本国(地球)のメイドイン・某軍事国家の凶悪極まりないシロモノばかりだ。


「…あ、アレスさん。何でそんな怖い物たくさん並べてるの?」


 再び、別の意味での恐怖心が生まれたレンディだが、それに対してアレスはあくまで淡々と答える。


「あのゴーレムだ。あれには並みの武器は通用しない。あれを倒すには、用意できる最大限の武器が必要だ」


 しかしアレスは手に持っていたアサルトライフル(一八・四ミリ口径でありながら、毎分八四〇発という連射速度を誇るバケモノ銃)を放り捨て、ゆっくりと首を横に振る。


「…だが、ヘルファイアもハイドラも効かないというのなら、これらの武器でも歯が立たないだろうな。そもそも、これぐらいの重武装なら、AAの性能をもってしても一つや二つが限界だろう。倒しきれるとは思えない。あれを倒すには、もう都市への被害も覚悟で攻撃機による空爆を行う必要があると思うが」


「我々もそう思ったんだが、つい先程、滑走路が長距離攻撃を受けた。攻撃機そのものは無事だが、発進出来るように戻すには二、三日かかるそうだ。…三日後には、都市自体が滅んでそうだがな」


 吐き捨てる様に言うレンディ。その声には、実際に戦場に出てどうにかする事が出来ないくやしさが滲んでいる。

 アレスはその声を背に受けながら、再び武器の選別を始める。

 どんなに選りすぐっても、それらの武器程度では件のゴーレムに通用しない。それはAH-80が実証済みだ。

 現状、アレスに勝ち目は無い。

 しかし、


「よし、こいつとこいつだな」


「…おい?」


 手には二四・七ミリ口径のアサルトライフルと多連装ロケットランチャー、背には二メートル近い大太刀を背負ったアレスが格納庫の出撃口へと向かおうとするのを、レンディが呼び止める。


「何だ?」


「報告を聞いてなかったのか?それらの武器では通用しない。お前には万が一の勝ち目も無いんだぞ?」


「ああ、そうらしいな」


 だが、


それがどうした(・・・・・・・)?」



 そう。

 勝てるかどうか、それは関係無い。勝つ側に付きたいのなら、傭兵にでもなればいい。

 しかし、アレス達は違う。アレス達は、「防衛軍」なのだ。「勝つ」か「負ける」かではない。「守る」事が彼等の目的である。

 彼等は傭兵ではない。第一目標は任務の達成。そこに、彼等の生存は(・・・・・・)含ま(・・)れていない(・・・・・)

 傭兵は「命あっての物種」だが、アレス達には自分の命よりも優先しなければならない者達がいる。その者達を守る為に、彼等は防衛軍に入ったのだから。

 いざという時、命を引き換えにする覚悟など、とうの昔に出来ている。


 それに、


「…部下がやられて黙っていられるほど、人間ができてないしな」


 寧ろ、アレスが現在進行形で珍しくブチ切れている理由としては、そちらの方が大きいかもしれない。

 とにかくアレスがここまで怒る事など、幼少の頃からの付き合いであるレンディでも一度か二度しか見た事が無く、レアだと思うと同時に、更なる寒気が背中を走る。

 近くにいるだけで寒気が走るのだ。この怒気を直接向けられるであろう魔族に対し、レンディは僅かに同情まで覚えてしまう。


「さて、そろそろ行くか」


「あ、待て!ちょっと待て!」


 とりあえず怒気を抑えて再び出撃口に向かおうとするアレスを、レンディも再び慌てて呼び止める。


「…おい、何なんだ。まだいちゃもん付ける気なら…」


「いや、違う!そうじゃなくて、武器についてだ!」


 アレスの声が低くなり、怒気のベクトルが僅かながら自分に向けられ始めたのを感じたレンディは、手をパントマイムっぽく大袈裟に振り回しながら否定する。

 それを見て、アレスが怒気を引っ込めて向き直る。

 武器について、というのは流石に関心を持ったらしい。

 いくら覚悟や根性論を唱えてもタグボートが戦艦に敵う訳が無い(万が一という事も無いとは言えないが、あくまで一般論である)。

 アレスとて敵わない敵に好き好んでやられに行く訳では無いので、戦闘に直接関わる話には耳を傾ける。


「アレス、それらの武器ではあいつ(ゴーレム)を倒す事が出来ない。そうだな?」


「ああ、勝てない」


「じゃあ、もっと強力な武器なら倒せるか?」


「それは…、程度にもよるが、それなりの物ならいけるだろうとは思う」


「………、付いて来い」


 数秒間黙考した後、レンディは足早に格納庫通用口(出撃口とは違う)へと向かう。

 アレスはどうするか逡巡したが、ボビーとメルピアが頷きかけて来るのを見て、その後を追いかけていった。






 エデン軍事区画 高等機密管理所



 軍事区画内の転移管理局、地球と異世界を結ぶゲートを管理する施設に程近いエリア。

 セキリティレベルが高いので滅多に人が立ち入らない廊下を、レンディとアレスが歩いていく。

 アレスは勿論、レンディも立ち入った事は無いが、そもそも通路は一本道で部屋も少ないので、迷う事無く進む。

 しばらく歩いて一番奥、見るからに機密度の高そうな扉の前に辿り着いた。

 地球(本国)からエデンに持ち込まれた機密物を一時的に保管する部屋である。

 とても場違い感があるがアレスは一応臨時最高司令官なので、読み取り部にIDを読み込ませると簡単に開いた。

 機密管理所とは言っても、エデンに持ち込まれる「機密」と名が付く物など大抵が行政に関する書類で、そういった物は軍事区画に持ち込まれる事無く直接行政府長官に届けられる。つまり、この部屋が使用される事はほとんど無い。


 だが今、この部屋には物が溢れかえっていた。


「…これは…」


「先日、運用試験をこっち(異世界)で行う為に搬入された、最新鋭の武器だ」


 保管部屋に置かれていたのは、多数の兵器群。

 目測で少なくとも五〇ミリ以上ある大口径の巨大なライフル。丸太の様な銃身と機関部を持つショットガン。巡航ミサイルでもブッ放す気かという程デカいロケットランチャー。馬でも一太刀で真っ二つにできそうな大太刀。

 挙句の果てにはシャープなデザインの大型ライフル、一度資料で見た記憶が間違っていなかったら、レーザーライフルと思わしき物まである。


「最新鋭というのは嘘ではなさそうだな」


「ああ。これなら、あのゴーレムも倒せるんじゃないか?」


「…いや、無理だ」


 トラックのエンジンみたいな機関部を持つ重機関砲をポンポンと叩きながら、アレスがゆっくりと首を横に振る。


「何故?」


「簡単な話だ。AAで筋力増強しているとはいえ、こんなデカくて重い物を抱えて走り回り、その上発砲なんて出来る訳が無いだろう。機動性が著しく落ちるし、恐らくリコイル(反動)を抑え切れない。レーザーライフルにしても、見た所外部電源みたいだが、AAのバッテリーではこんな武器のエネルギーは賄えない。俺達が運用しているAAでは、どれ一つとしてまともに使いこなせそうにないんだよ」


「ま、既存のAAならそうだろうな」


「そうだろうな、ってお前…」


「これらは」


 何でも無さそうに肯定するレンディに、アレスが呆れた様な声音で食って掛かろうとするが、レンディはそれを遮る様に発言を続ける。


「これらの兵器は、ぶっちゃけオマケだ。本国が運用試験を行いたいと送り込んで来た本命で着せ替え人形遊びをする為のな」


 部屋の一番奥。

 武器という家臣達に囲まれた玉座の様に、黒い直方体の箱が鎮座している。

 幅一・二メートル、奥行き一メートル、高さ二・二メートル。光沢のある素材で作られたそれは、アレス達が近付くとバシュッと音を立てて勝手に開いた。


「んで、これがその、着せ替え人形だよ」


 箱の中に納められていたのは、全長二メートル程の黒い鎧だった。

 重厚そうな全身甲冑(フルプレートアーマー)。アレスが今着ているAAの様に鋭角的なフォルムだが更に攻撃的で、その中にも生物的な曲線がある。全身に刻まれたスリットの中には青いライン。各所には武器を取り付ける為のパイロン。より凶悪そうなヘルメットには、より禍々しく青く光るバーアイセンサ。

 見慣れている物より遥かに物々しいが、それは間違い無く、


AA(アームズ・アーマー)…」


 自分達が運用しているAAはあくまで補助器具の様な扱いだが、「それ」からは、単体で強力な兵器の様な、圧倒的な存在感が放たれている。


「正確にはAA-S(戦略AA)。試作段階だが、乙零種身体能力超強化装備『ネフィリム』と甲零種動力炉搭載型戦闘装甲『タイタン』を組み合わせたバケモノ装備。その名も…」


 レンディが、棒読み口調プラス芝居がかった動作で、その黒い鎧を示す。


「個人装着型特殊戦闘戦略(・・)外骨格、『ジ・アトラス』だ」



戦う理由・それがお仕事だから。淡白に聞こえるかもしれないけど、それを承知で軍に入ったのだから、ちゃんと気持ちも伴っています。


新装備に関しては、某アメコミの鉄男とはちょっと違います。まず色が全然違うし。どちらかっつーと、相棒の戦争機械の方に似ていますね。

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