四話 苗字が珍しいと名前は忘れる
デブとのゴタゴタがあった日から一日経って、今日は金曜日。今週の高校最終日だ。
昨日の帰り道は、俺と結衣は特にトラブルもなく家に帰れた。
今、高校はホームルームが終わり、いつも時間が余って教室内が騒がしくなる時間帯である。この時間帯は何もする事が無くかなり暇だ。だから、この時間は毎日机に突っ伏している。
いつもなら俺に話し掛ける人は居ない。
「あの、一条……君?」
誰の声だろう?どこかで聞いた事のあるような声だけど結衣の声じゃないし、少し高いが男子の声……かな?
俺は顔を上げ、声の主の顔を見た。
「……えっと?」
そこには、校則を破らないように少し短めな髪で童顔っぽいが整った顔立ちの男子がいた。
えっと、確か学級委員の神楽木……何だっけ?とりあえず、学級委員で苗字が神楽木というのは確かだ。
「あ、僕学級委員の神楽木海斗です」
そうそう、そんな名前だったな。
「敬語じゃなくていいよ。で、学級委員が何?」
「あ、うん。昨日、校舎の裏で太った生徒と何か揉めてたでしょ?」
「あ~、うん。って、何で知ってんの?」
「たまたま通りかかったらさ」
校舎裏に通りかかる。……どう言う事だ?まぁ、置いておこう。
「そこで一条君太った生徒と揉めてたのを見たんだ。と言っても校舎の影だったけど。学級委員でありながら同級生の手助けも出来なかったなんて、自分が情けなくて家に帰る途中色々考えてみたんだ。もちろん、家に帰ってからも考えてた。たくさんの考えが出たんだけど、その中では僕は学級委員に向いてないっていう答えが一番しっくりきたんだけど、君はどう思う?」
……話変わりすぎだろ。
「どうって言われても……。ただの考え過ぎでじゃない?そんな悩む事ないと思うけど」
そもそも俺に聞かれても。
「そうかな?でも、一条君は強いからそんな答えが出るんだよ」
「いやいや、俺は弱いから」
「そんな事ないよ。実際、あの太った生徒と喧嘩して勝ってたじゃん」
「あれはあいつが勝手に自滅しただけだしね。俺が強いってわけじゃないよ」
「ふ~ん。あ、そうだ。これも聞こうと思ってたんだ。ちょっと話変わるけど、一条君と佐々木さんってどんな関係な……」
「ちょっと待った!もうすぐで授業始まるから、続きは昼に」
「え?あ、本当だ。じゃあ、また後で」
「あぁ、うん」
危なかった。神楽木が結衣の名前を言った瞬間クラスの男子の大半に睨まれた気がした。
……ただの被害妄想だと思いたいが。