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1話 未来への帰還

 相変わらず意識は暗黒に覆われていたが、死んではいない。

 ただの気絶だ。

 けれど、しっかり移動した感じもする。


 「んん……帰還は、成功、したのかな……」


 おぼろげに目を開き、何度か瞬きしてから立ち上がる。

 空は黒く、煌めく幾万もの星達が浮かぶ。

 辺りはすっかり薄暗くて、少し肌寒い森がどこまでも広がっている。

 一応、雲の場所からは脱出できたようだけど、違和感しかない。

 まずレバノンと植生が明らかに違う。


 「西暦は、アイツの言ってた通りだけど……」


 久しぶりにスマホを取り出してみると、カレンダーはきちんと2053年に変わっていた。

 ……西暦は分かったからいいけど、場所が不明なのは不安を覚える。

 気温も低そうだし、暖を取る必要だってある。


 立ち止まっていても埒は明かないと、目的もなく鬱蒼としていてどこか不気味な森を彷徨い始める。


 落ち葉が降り積もっているため、歩く度にそれが潰れる音が靴の裏から鳴る。

 その音に呼応するかのように近くの木で休んでいたであろう鳥は飛び去り、いきなりなものだったから身がやや震えた。


 「ここ、どこなんだろ……」


 方位磁石がない故に方向感覚もまとめに掴めず、進んでいる内に汗が掻き出してきた。

 足場も険しい箇所が多く、ほぼ垂直の崖を何とか下りたり、デカい熊を発見して草むらに隠れてやり過ごしたりと。


 森林の探索は何時間も費やし、顔を何となく上げればまだ薄暗いが朝陽が地平線の向こう側に浮遊していた。

 真っ赤に燃えるそれは、朝の始まりを告げる象徴のようである。

 しかし開けた場所にやって来て、心配の色が若干ではあるが薄れた。


 「誰か来てたのか……」


 伐採された跡が確認でき、切り株の上に座って徐々に昇っていく太陽を眺めた。

 静かに、呆然と。


 「ここ、どこなんだろうな……」


 髪の毛をいじりながら、ただただ綺麗な朝陽を瞳に焼き付ける。

 こんだけ歩けば少しは特徴が分かるものだが、やはりレバノンの環境とは似ても似つかない。


 「行くか」


 休憩に満足すると切り株から腰を上げて、誰かに誘われるように木々が生い茂る森へと向かって行った。

 森に入ったが、朝なのに寒さが肌を襲う。

 レバノンは基本的に暖かったが、この地域には冬でも到来しているのだろうか。

 不眠不休で歩いているわけだ。

 ついに体力が極端に減少し、大幅な休息を取ることにした。


 「ん……この音は」


 水が緩やかに流れる心地よい音を鼓膜がキャッチし、頬が思わず綻んだ。

 方向を間違えることなくそちらへ足を弾ませると、予想通り小川があった。

 山の中だからか水質は清潔に保たれていて、底で泳ぐ魚の姿がはっきりと捉えられる。


 そこまで深くもなさそうだし、後で水浴びでもするかと思っていると――――辺鄙な場所だというのに、ここにあってはならないものを見つけた。

 地球に帰れたのは当然理解している。


 だが、川を挟んで少し離れた所にある立派な石の城が網膜に紛れた瞬間、思考がそこでストップしてしまった。

 あれは俗に、ダンジョン。


 異世界で何度も攻略し、潰し、慣れた頃には金儲けと一環としてダンジョンに潜り込んでいたっけ。

 経歴はともかく、何故ダンジョンがここにあるんだ。

 おかしい、おかしすぎる。

 あまりにも奇妙な事態が発生し、空腹も疲労も吹き飛んだ気がした。

 気になって渡ろうと川に足を浸けたが、


 「……ちゃんと整えないといけないな」


 虚しい音が腹から溢れ、苦笑しながら引き返す。

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