第7話:タイタンの試練
暗いダンジョンの通路を歩いていると、床には鉱石のようなものが転がっていた。
「本当にいろいろ落ちてるな……。今、何階にいるんだろう?」
少し辺りを見回しながら、上層への道か出口を探そうと考えていたその時――
青いオーガの群れが突進してきた。
「グラァァァ!!」
「終わりがないわね……孤独に死ね。そして死の中で、私の赦しを見つけなさい。」
声のトーンがまた変わる。彼らが突っ込んでくる瞬間、彼女の周囲に火の玉が浮かび上がった。
今度は普通の大きさだ。それらは発射され、触れた瞬間、標的の身体を炎が包み込む。
「権能が表に出ている時の私は冷静だわ。その分、スキルの制御もずっと上手くいく。」
そう思いながら、焼け焦げたオーガたちに近づく。
一体の胸に手を突っ込み、魔核を取り出した。
「……やっぱり、言葉遣いがどんどん悪役っぽくなってる。」
彼女の手には、紫色の中型クリスタルが輝いていた。
【分析開始】
【名称:オーガの核】
【説明:4500MLのマナを含む。原始マナを人間用マナに変換して補充することができる】
「無限MPを持ってる私には、あんまり意味ないわね。」
魔核を後ろに放り投げる。
「売れば金になるけど……正直、金にも困ってないし。」
果てしない通路を進む。刃は優雅に、正確に、そして無慈悲にモンスターの群れを切り裂いた。
やがて、彼女の目の前に階段が現れる。
「え……なにこれ?! 下に続いてる……?!」
何時間も歩き続け、やっと出口を見つけたと思ったのに――それは下層への階段だった。
「私の人生そのものね……終わりのない下り坂。」
冷たい床に座り込み、膝を抱えながら呟く。
「♪ラ〜ラ〜ラ〜ラ〜……人生クソだ〜ラ〜ラ〜ラ〜……退屈だなぁ〜♪」
虚ろな瞳のまま歌う。乾いた声が壁に反響し、皮肉な笑みがその唇に浮かぶ。
数分の自嘲のあと、彼女は立ち上がる。
心の中で「もううんざり」と叫びながらも、無理やり笑顔を作って。
「……幸せって、どこにあるんだろ。」
そう呟きながら、階段を降りていく。
階段の最下層に辿り着いたとき、巨大な扉が目の前にそびえ立った。
目を見開き、息を呑む。
「こ、これは……!」
次の瞬間、彼女は飛び上がって叫んだ。
「ボス部屋だ!!」
胸に手を当て、長い苦労が報われることを祈るように微笑む。
「普通の人なら怖がるだろうけど、むしろ気分がいい。」
そう言って、本当の笑顔を見せた。心臓が高鳴る。
靴を脱ぎ、そっと扉に触れる。
「さあ、本当の冒険を始めよう――」
だが、何かがおかしい。
「……え? 開かない?」
彼女は首を傾げ、扉を見つめた。
「うそでしょ。ファンタジー世界なら、こういうのは自動で開くでしょ!」
扉は沈黙したまま。
「もし開く条件があるなら……このダンジョン作ったやつ、絶対ぶっ殺す。」
【おめでとうございます! レベル設定完了】
→【身体強化・レベル99】
→【身体強化・発動】
「開けてやるよ……」
拳を構え、厚い扉を狙う。
身体が紅く輝き、瞳に怒りの炎が宿る。神聖な静けさを破るように。
――これが本当の彼女なのか?
「このドアぁぁぁ!!!」
叫びと共に拳を振り下ろす。
爆音と共に扉は粉砕され、地面が揺れ、岩が崩れ落ちた。
ゆっくりと中へ進む。
そこに立っていたのは――
岩の巨人。全高六メートル。
肩から突き出した赤い結晶が、まるで溶岩の鎧のように輝いている。
部屋は広大な洞窟で、岩の間を溶岩の川が流れていた。
熱気で肺が焼けるようだ。
咆哮が響き渡る。天音の瞳がまた変色し、蒼く輝く。
【名称:マグマ喰らいのヴァルクラム】
【レベル:120】
【説明:マグマ属性のモンスター。炎を操り、原始的だが目的意識を持つ】
「さあ、せいぜい私を楽しませてみなさい。」
鋭い視線を向け、呟いた。
次の瞬間、天音の足元が割れ、溶岩の柱が吹き上がる。
まるで噴火する火山の中にいるようだった。
巨人の拳が振り下ろされ、岩片が飛び散る。
天音は身体強化で加速し、岩をすり抜けるように回避した。
火炎弾を避けながら、冷静に考える。
「休む暇もない……ふふ、結構強いじゃない。」
走りながら火球を放ち、爆発が洞窟を揺らす。
「残念ね、あなたじゃ私に届かない。」
だが、爆煙の中から青い炎が噴き出した。
天音の腕に直撃し、焼け焦げる。
彼女は眉一つ動かさず、岩陰に身を隠す。
「炎じゃ効かないか……。」
【回復・発動】
焼けた腕が瞬時に再生していく。
巨人の攻撃は止まらない。だが彼女の動きは次第に退屈そうになっていった。
「……もう飽きたわ。」
氷の槍が数百本、ヴァルクラムの周囲に現れる。
天音の手のひらが動くと同時に、それらは吹雪となって放たれた。
巨体ゆえに回避は不可能。瞬く間に氷に包まれ、動きを止める。
「よくやったわ。私に一撃でも当てたことを、まずは褒めてあげる。」
氷の中で魔核が緑に光り、そして消えた。
「わぁ……すごい! 本当に氷漬けになった!」
目を輝かせながら呟く。
「ボスを倒したし……今度こそ出口かもね。」
軽い足取りで歩き出し、ほっと息をついた。
『……長かったけど、終わったわね。』
眩い光が彼女を包み込み、部屋には静寂だけが残った。




