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進化する女神:無限にスキルを書ける  作者: ライアン
運命を書き換える進化の女神
20/25

第20話:青に隠した本音

「ずいぶん頑張ってるじゃない」

天音は落ち着いた表情で彼に近づいた。


「ああ、気づかなかったよ」

彼は立ち上がり、片手だけを地面につけ、体を逆さにし、その一本の腕だけで身体を支え、もう片方の手は背中に添えた。


そのまま腕立てを始める。

「1…2…3…4…5……20…」


「やめときなよ。どうせ私に勝てる日なんて来ないんだから」

天音は彼をからかうように言った。他人に見せる態度とは正反対の、辛辣で強気な一面だった。


「……なんで…俺が…あの日……お前に……挑んだと思う……?」

彼は運動を続けたまま言った。

「嫉妬くらい、誰だってあるしな。まあ、お前が無傷なのに戦いをやめたのは……確かに問題だけど」


「……48……49……50」

彼は腕立てを終えると、立ち上がり、ため息をついて言った。


「俺が嫉妬なんてすると思ってるなら……もう一回戦ってやるよ。わからせてやる」


「ついでに私のことバカって呼んだら?」

天音は腕を組んで睨むように言った。


彼は彼女の横を数歩通り過ぎながらつぶやく。


「世の中には、俺より強い奴なんていくらでもいる。どれだけ必死に鍛えても、それは変わらない。それに俺は大魔公の中でも一番弱い。でもな——だからこそ、実力ある者だけが相応しい場所を取れるようにする。それだけは譲らない」


そう言ったまま、彼は振り返らずに歩き去った。


天音も彼を振り返らなかったが——

(……私、彼のことを誤解してたのかもしれない。前の悪い癖がまた出てきてる)


《要望:個体“天音”は、私に名称を付与することが可能です》


突然、心の中に声が割り込んできた。どうしてこのタイミングなのかは分からない。


天音は両頬を叩き、気持ちを切り替えた。


「よし、悩むのはもうやめよう」


目の前にキーボードのようなインターフェースが現れ、超スキルの操作画面が浮かぶ。

天音は名前を考え始めた。


「ん〜、名前って本当に難しい」

(ちゃんと呼びやすい名前じゃないと、後々面倒だし)


《提案:覚えやすく適切な名称——“ ありあす”》


「確かに悪くない。じゃあ、それで決まり」


天音は入力を開始した。


[ あ_ ]

[ あり_ ]

[ ありあ_ ]

[ ありあす_ ]

[ エンター ]


[おめでとうございます! スキル名を変更しました]

[アリア — レベル999]


「できた。元々、私のユニークスキルって“スキル名を変更するだけ”だったのに……スキルがなかった私がそれ持ってたなんて、皮肉よね」


天音は踵を返し、玉座の間へ歩き出した。

(少しは気が紛れたかな)


「さて、小説を書き始めようかな」

彼女は胸を弾ませた。(物語を書きたいと思った時に、作家向けのスキルを手に入れるなんて……これ、偶然?)



---


朝の冷たい空気が、木剣のぶつかり合う音で震えていた。

王国騎士団長ダヴァンは訓練場の中央に立ち、落ち着き払っていた。

その前に立つのは——未来の勇者候補と紹介された三名。


「行くぞ!今日は絶対隊長に勝つ!」

「おう!」

「うおおお!!」


最初に飛び込んだのはイタカ。勢いはあるが固い動きだった。

ダヴァンは横に一歩滑り、直線的すぎる攻撃を避け、木剣の先で軽く脇腹を突いた。


「突っ込みすぎるな。奇襲はいいが、“来たぞ”と叫ぶ必要はない」


次にキョウカイが動く。

隙を突いたつもりだったが、ダヴァンはほんの少し剣を下げただけでその攻撃を受け止めた。まるで戦っているというより、動きを見せているだけのようだった。


「そうだ。奇襲は悪くない。しかし冷静さを失うな。弱点を見つけるのはそのあとだ」

「くっ、今のは当たったと思ったのに!」


今度はアオコジが背後から攻撃。

その瞬間、彼の右側にだけ通知が浮かぶ。


[ 剣延長 — 発動 ]


しかし、ダヴァンの影が滑るように動き、気づけば彼の木剣はアオコジの腕に軽く触れていた。


「お前は少しは頭を使え。初撃から魔力を使うな。まず相手を観察してからだ。エネルギー管理は戦いの基本だぞ」


「よし、全員で行くぞ!」

三人は息を合わせて突撃した。


だが——

ダヴァンが一歩前に出ただけで勝負は決まった。


三人のリズムが一瞬で崩れる。


彼らの攻撃はすべて、短く正確な動きで逸らされていく。

ダヴァンは静かだが、その内側に揺るぎない力が宿っていた。まるで“不敗”という概念そのもの。


「力だけに頼るな。もっと頭を使え」

彼は戦いながら淡々とアドバイスを続ける。


イタカが息を整えて戻ってくる。

「頭を使う、か……」


ダヴァンはわずかにうなずいた。

「いいぞ。お前が一番やる気はある。だがまず理解しろ」


周囲の生徒たちも訓練をやめ、息を呑んで見守っていた。


「すご…騎士団長でもこんなに強いのに、“魔王には敵わない”って言ってたよね。あんな化け物と本当に戦うの?」

イツキが震えた声で言った。


隣のユキが答える。

「団長だもん。不思議じゃないよ。私は剣士組じゃなくてよかった〜」


「とりあえず休もっか」

ユキは話題を切り替えた。訓練でヘトヘトのようだ。


「うん」

二人はエラリア城の中へ向かった。名前入りの扉が魔力で光る。


部屋に入ると、二段ベッドとたたまれた制服、与えられた少しの私服が置かれていた。


イツキは椅子に座り、携帯をいじる。(まあ、やることはほぼないけど)


「いいな〜。あんた、転移の時スマホ持ってたんだから」

ユキはベッドのそばで服を探りながら少し羨ましそう。


「しかも“電気”スキルで充電できるしね〜」

イツキは得意げに笑った。


「はいはい、幸運さんね」

ユキは服をクローゼットにしまい、ラフな服だけベッドに置いた。


「はぁ、この制服ほんと無理。重いし暑いし」

ユキは文句を言いながら上着を脱いだ。


その瞬間——

背中に広がる青あざが目に入った。


イツキは思わず立ち上がる。

「ユキ、それ……大丈夫なの?」


ユキは顔だけ振り向き、明るい声を装って言った。

「大丈夫。もう昔のことだし」


声はいつもより低く、弱々しかった。


「治癒師いるんだし、もしかしたら治せるかもよ?」

イツキが提案すると、ユキは服を着替えながら答える。


「だめ。治ったら気づかれる。平気だよ、慣れてるから」


「……そう」

イツキは納得しきれない声を返した。


ユキは笑って見せる。

「知ってるのは、あんたとアマネ、それと……行っちゃったお兄ちゃんだけなんだから。誰にも言わないでね?」


「もちろん。秘密は守るよ」


そのあと、ユキの心にひとつの思いが浮かぶ。


(天音、今どこにいるんだろ……無事だといいけど)

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― 新着の感想 ―
アマネの能力って無限ですよね。最初は外れスキルかなと思いましたが、スキルを変えるなんて最強ですよね。作家向けスキル羨ましいです。これから物語書き出したら…とワクワクします。
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