第2話:召喚された者と見捨てられし者
彼らの目の前で大きな扉が開いた。鋼鉄の鎧をまとった騎士が立っており、低い声で言った。
「巫女様と勇者たちよ、入られよ。」
この壮大な都市に感嘆しながら、生徒たちの中には笑顔を浮かべ、目を輝かせている者もいた。
門をくぐると、道の両脇にはさまざまな種族の人々がずらりと並び、中央には誰も立っていなかった。
人間、エルフ、亜人、獣人、ドワーフ……あらゆる種族が、勇者たちの到着を静かに見つめていた。
彼らは軽く頭を下げ、世界を救う者たちを迎えた。
辺りは静まり返り、風に乗って小さな囁きが流れた。
前にいた巫女へ、生徒の一人が不安げに近づいた。
「いったい何が起こってるんですか? どうして皆こんなふうに……?」
巫女は柔らかく微笑みながら答えた。
「何世紀にもわたり、悪魔はあらゆる種族の共通の敵でした。
あなた方が召喚されたことで、人々に希望が戻ったのです。華やかにお迎えできず申し訳ありません。」
そう言って、巫女は杖を持つ手を少し上げ、列に並ぶ人々へ視線を向けた。
「今は戦の準備の最中です。ですから、喜びよりも敬意をもってお迎えするしかないのです。」
一行は静かにうなずき、理解の色を見せた。
「あなたの名前は?」巫女が尋ねる。
「イツキ。みんな、そう呼んでます。」
巫女はわずかに笑みを浮かべ、前を向いた。
「リジ、俺たちもチート能力、手に入ると思うか?」
「当たり前だろ! 炎とか雷とか、そういう派手なやつがいいな!」
(どうして私は何も感じないんだろう。)
天音は列の最後尾で小さくつぶやいた。まるで、そこにいない誰かのように。
ユキはそんな親友を心配そうに見つめていた。
この異世界に来てもなお、天音は心のどこかで別の“暗い世界”に閉じ込められているようだった。
街は塔や市場、石畳の道が入り組み、まるで迷宮のようだった。
住民は多種多様で、子どもたちまでもが勇者たちに頭を下げる。
やがて一行は城の中庭に通じる大きな門に到着した。
中は豪華で、庭園が美しく飾られていた。訓練中の騎士たちが笑顔で出迎える。
巫女は一人の男を紹介した。
「王室近衛団長、サー・ダヴァンです。魔王の再誕までの六ヶ月間、彼が皆さんを指導します。」
男は静かに頭を下げた。
「これから共に努力していきましょう。」
「六ヶ月!?」「……ちょっと長くない?」とざわめきが広がる。
イツキが手を挙げて尋ねた。
「すみません、その“六ヶ月”って、俺たちの世界と同じなんですか?」
巫女は優しくうなずいた。
「はい。皆さんの元の世界と、この世界の時間の流れは同じです。ご安心ください。」
ざわめきが広がる中、ユキは沈んだ表情の天音をちらりと見た。
彼女の心の奥底は、いまだ闇の中に閉ざされたままだった。
巫女が杖を掲げると、空気が静まり返った。
「皆さん一人ひとりには、“ユニークスキル”と“進化システム”が与えられています。
頭の中で思い浮かべれば、自身のステータスが見えるはずです。」
生徒たちは一斉に目を閉じ、驚きと興奮の声を上げた。
「やばっ、“スカーレット・フレイム”!? チートすぎ!」
「Exp×10? なにこれ、経験値倍増ってこと?」
「“王国剣士”だって! 大当たりじゃん!」
ユキは微笑みながら自分のステータスを見た。
(未来覚醒。唯一無二のスキル。)
(……どうやって使うんだろう。でも、これで強くなれるといいな……)
希望の光が瞳に宿った。
一方、天音は静かに息を吐き、自分のステータスを開いた。
【現在の状態:進化システム】
【名前:天音セイレン】
【種族:人間】
【職業:未定】
【レベル:1】
【HP:100/100】
【MP:200/200】
【力:6】
【敏捷:7】
【耐久:4】
【魔力:0】
【運:1】
【固有スキル:《ライター》──あらゆる能力の名前を変更できる】
【状態:戦闘不適合】
【潜在力:低下】
あまりにも低い数値に、彼女は視線を落とした。
攻撃も、防御も、支援もできない。何も……。
ユキがそっと手を握った。
「大丈夫。きっと……大丈夫だから。」
天音の頬を、一筋の涙が伝った。彼女は顔を上げ、無理に笑ってみせた。
巫女は青く輝く魔法陣を目に宿し、生徒たちのステータスを見渡した。
「皆さんのスキルをもとに、三つのグループに分けます。」
「え、分けるのかよ!?」「マジで?」
動揺が広がる。巫女は杖を軽く振り、静寂を取り戻した。
「これは罰ではありません。あなた方を鍛えるための道です。」
その言葉には、奇妙な説得力があった。
――そして、運命の分け目が訪れる。
天音は「落ちこぼれ」と呼ばれる第三班へ。
ユキは第一班へ選ばれた。
「お願いです、巫女様。私も第三班に……!」
「残念ですが、それはできません。あなたの力は有望ですから。」
「……そう、ですか。」
ユキは唇を噛みしめた。
「一緒にはいられないけど、二人分、強くなるから。」
「うん……ユキ。」
グループがそれぞれの道へと分かれていく中、巫女は第三班を導いて言った。
「ここが、あなた方の訓練場所です。」
広い部屋の中央には、古びた魔法陣が描かれていた。
生徒たちがその中へ足を踏み入れた瞬間――
巫女の表情が一変した。冷たい笑み、傲慢な瞳。
「……あなたたちはただの“ゴミ”よ。転送陣、起動。」
光が爆ぜ、空間が歪む。
そして、彼らは光の中に飲み込まれていった。




