第12話:大悪魔評議会 – パート2
(つまり、魔族の王国はシオクリトゥスというのね。いくつかの都市に分かれていて、今私がいるのは首都ティランネ。とはいえ、魔族たちが支配しているのは一つの地域だけで、全員ここに集まっているみたい。)
天音は大悪魔たちとの長い議論の後、床に広げられた地図をじっと見つめていた。
(この地図、かなり範囲が限られてる……。大陸の外、海の向こうを探索しようとは思わなかったのかしら? これが“最も発展した地図”だなんて。領土の発見が全部ここに集まってるというのに。)
「すみません……」目を閉じたままの少女、ヒグリヴが手を挙げて言った。
「この情報を得て、あなたはこれからどうなさるおつもりですか?」
「今のところ、何もしないわ。ただ、これからどうなるかを見守るだけ。」
天音は感情を揺らさずに答えた。
(とはいえ、今後の計画も決めなきゃいけない。それに、エレオノールに会ってからスキルを書いてないし。スキルはまだ少ない……もっと書かないと。)
頭の中にシステム画面が浮かび上がるが、それが見えるのは彼女だけだった。
彼女が今までに書いたスキルはたった十二個。女王の座を保証するにはあまりにも少なかった。
(とりあえず、今はこれでいい。)
天音は立ち上がり、宣言した。
「会議はこれで終わり。もう十分聞いたわ。」
大悪魔たちは一斉に立ち上がり、天音はその場を後にした。
エレオノールが後ろに続き、他の者たちも退出していく。だが、一人だけ席を立たない悪魔がいた。
テーブルに足を乗せたままのアヴァロンだ。
彼の後ろにいた老悪魔が出ていこうとした瞬間、アヴァロンは声をかけた。
「おい、じいさん。ここで一体何が起きてる?」
ザルドーデは振り返り、彼の前に立った。
「見た通りだ。彼女がこれから我らを導く者だ。」
アヴァロンは足をテーブルから下ろし、真剣な目でザルドーデを見た。
「それは分かってる。俺が聞きたいのは、あのダンジョンで何があったかってことだ。神性の覚醒なんて、普通はあり得ねぇだろ。」
「私も驚いたさ。エレオノールがヴェル=クラース様と話したそうだが、魔王陛下からは詳細は何も伝えられていない。」
ザルドーデはそう言って扉の方へ歩き出した。
「俺はすでにその力を感じた。八百年前、神の使徒どもと戦ったことがあるからな。神性を見抜く目は持っている。あの娘の到着と同時に感じたんだ、あの途方もない力を。」
「なら完璧じゃねぇか。そんなに強いなら問題ない。」
アヴァロンは挑発的に笑った。
「もしお前があの女に決闘を挑むつもりなら、止めはしねぇさ。死ぬのも自己責任だ。」
そう言って、彼は扉を閉めた。
「まったく、どれほどバカげた力なんだろうな……。」
アヴァロンは呟き、興奮を隠せない表情を浮かべた。
天音とエレオノールは並んで歩き、天音が滞在することになる部屋へと向かっていた。
「調子は戻ったみたいね。あんなに取り乱すなんて知らなかったわ。」
天音は軽い冗談を交えて言った。
「普段は落ち着いているのですが……たまに気分が沈むと……。改めて申し訳ありません。」
エレオノールは少し恥ずかしそうに謝った。
(漫画にこういうタイプのキャラ、よくいるよね……って、また漫画と比べてる!やめなきゃ。)
エレオノールは少し鋭い視線を送りながら、天音の隣に並んだ。
「すべてを信じすぎないでください。特に大悪魔たちの言葉を。」
エレノアは天音の隣に並び、少し暗い表情で言った。
「魔族は穏やかね。長命だから自然と知恵が身につくのかも。でも、その分、本性を隠すのも上手いみたい。」
(そう言うけど、それって自分にも当てはまるんじゃない?)
天音は前を向きながらそう思った。
二人が辿り着いた先で、エレオノールは扉を開きながら言った。
「こちらがあなたのお部屋です。」
柔らかい微笑みを浮かべていた。
「もういいわ。ここからは一人にしてちょうだい。」
天音はドアノブに手をかけたが、エレオノールがその手を押さえた。
「もしよければ、ご一緒に過ごしても……」
天音はその額を指ではじいた。
「いったぁぁ!」
エレオノールは大げさに頭を引き、天音はため息をついた。
「そういえば、明日は魔族の民の前で戴冠式が行われますよ。」
エレオノールは悪戯っぽい笑みを浮かべながら言った。
(私の方針は“好きに生きる”だったはずなのに、言われた通りに動かされてるじゃない……。)
この世界に来てまだ二日、王城に着いたのも数時間前のこと。なのに、魔族たちは彼女に重すぎる役目を背負わせていた。
天音は部屋に入り、ベッドに身を投げた。
窓の外には夜が訪れ、淡い光が部屋に差し込む。
足で靴を脱ぎ、片方ずつ落とす。
「……疲れたわ。」
背中を天井に向けて寝返りを打つ。
「疲れることも、眠ることもできるならよかったんだけどね。」
立ち上がってクローゼットを開くと、一枚のパーカーが目に留まった。
「……何これ? ここ、異世界よね? なんで私の世界の服が……?」
彼女は驚きに目を細めた。
ため息をつき、その服を着てみることにした。
ドレスを脱ぎ、パーカーをかぶる。
「まあ、太ももが隠れるくらいの長さはあるわね。」
ベッドに腰を下ろし、ニヤリと笑う。
「さあ、オタクらしく新しいスキルでも学ぼうか。」




