第11話:大悪魔評議会 – パート1
天音がそう名乗った瞬間、すべての魔族が立ち上がり、拍手を送った。
天音は再び腰を下ろし、脚を組み、肘を肘掛けに乗せ、手で頬を支えた。その姿勢は、わずかな気だるさと同時に、彼女の権威を示していた。
(くっ…頭の中ではもっとカッコよく聞こえたのに!しかも英語で言っちゃったし。嘘でしょ、恥ずかしすぎる…)
歓声が響く中、ひとりの魔族が前へ進み出た。彼は年老いた魔族で、魔族にしては珍しい風貌だった。
彼は深く頭を下げながら言った。
「陛下―—。次は、どのようなご命令を?」
天音はそのままの姿勢でしばらく考え、腕を組んだ。
( まずは、もう少し状況を把握する必要があるわね。)
「五人の大公魔と私で部屋に入りましょう…えっと、会議室みたいなところ。」
「最も力を持つ者たちと直接話すのが、一番早いでしょう。」
「承知しました。“内議の間”へ参りましょう。」と老魔族が告げた。
「内議の…間?」天音は首をかしげた。
彼女は立ち上がり、老魔族の後ろを静かに歩いた。
五人の大公魔も続いた。五人とも見た目も気配もまったく違っていた。
(どれくらい強いんだろう…)天音は前方からこっそり観察した。
やがて、一行は木製の扉の前に到着した。老魔族が扉を開け、天音を迎えた。
「どうぞ、お入りください。」
「ありがとう。」天音はためらわずに中へ入った。
「おやおや、じいさんは優しいねぇ!」と一人の大公魔が茶化しながら入室する。
エレノアは軽く会釈してドアを押さえ、次の者を通した。
目を閉じて微笑んでいる少女が静かに続き、小柄な魔族は真剣な顔つきで後に続く。
そして最後に、大柄で筋肉質の魔族が言った。
「その努力、無駄にはせんことを。」
全員が入ると、老魔族はため息をつきながら扉を閉めた。
天音は長いテーブルの奥に座り、左右には五人の大公魔。だが、席にはまだ余裕があった。
天音は眉をひそめて言った。
「式を途中で止めてしまって悪いけど、私が何者かはもう知ってるはず。時間がないの。」
その声には一切の迷いもなく、確かな威圧感と威厳があった。
立ち上がった大公魔が名乗った。
「まずは自己紹介をさせていただきましょう。私の名はギヨーム。クイアート方面軍の大公魔、“頑固なる破壊者”とも呼ばれております。」
延々と話し続けるギヨーム。天音はすでに集中していなかった。
(まるで授業中に先生が自分の昔話をしてるのを聞いてる気分…退屈すぎる)
「……五百年前、我はエルフの軍勢を――」
「もう十分聞いたわ。次の人、どうぞ。」
天音はさらりと遮り、「ご苦労さま」とだけ言って座り直した。
槍を肩に担いでいた男が立ち上がった。
「俺の名はアヴァロン。“征服者”と呼ばれている。フリークス方面の長だ。」
(なるほど、それぞれが軍団を率いているのね…)
天音は手を組み、肘をテーブルに乗せた。
「私はヒグリーヴ。戦場では“呪われた少女”と呼ばれています。オイクリン方面を任されています。」
目を閉じたまま穏やかに言う少女。
次に、小柄な魔族が口を開いた。
「ファラグだ。“冷酷者”と呼ばれている。軍団の指揮はとっていない。」
(たしかに“冷酷者”って感じね。でもこの身長じゃ、部下がついてこなさそう…)
天音は、彼が椅子に立って発言する様子を見ながら心の中でつぶやいた。
最後にエレノアが立ち上がる。
「私はエレノア・クリムゾン。“影の暗殺者”。クリエティット方面を統べています。」
その声には誇りが満ちていた。
老魔族が続いた。
「我が名はザルドード。魔王陛下に仕える最古参の補佐官です。」
(みんな立派な名前ばかりね…でも、なぜエレノアだけ姓があるのかしら?)
そう思いながらも、天音は無駄な考えを打ち消した。
「ご存知の通り、私は“神格者”。名は天音、天音・セイレン。
単刀直入に聞くけど――あなたたちは、私に何を求めているの?」
その目は鋭く、場を圧するような気迫を放っていた。
「到着してすぐに女王として称えられたけど、正直、あなたたちの意図を疑っているわ。」
ギヨームが答えた。
「我らは承知しています。あなたは“召喚された勇者”の一人。しかし、通常なら我々の敵となる存在。
だが、ダンジョンであなたは“神性覚醒”を果たした。魔族にとって神格者は特別な存在。
ゆえに魔王ヴェルクラース陛下の命により、あなたを新たな主君として迎えることとなりました。」
アヴァロンが気軽な口調で尋ねた。
「で、お前の話は?どうやってここに来たんだ?」
「無礼者!」とザルドードが怒鳴った。
「いいわ、落ち着いて。」天音は手を上げて制した。
(これくらいなら話してもいいかもね。)
「すべては、私の世界で起こったことから始まったの――」
長い話が続き、最後にはこう締めくくられた。
「――そして、エレノアと出会い、今ここにいる。」
その瞬間、エレノアが立ち上がった。怒りで黒く染まった瞳が輝く。
「その女……私が始末します。」
彼女の影がうねり、空気が震えた。
「落ち着いて。今はそれが大事じゃないわ。」
天音が静かに言うと、
「……申し訳ありません。」
エレノアは深く頭を下げ、影の力が静かに収まっていった。
天音はふっと微笑んだ。
(心配してくれてるのね。…彼女は、私がここに来てから一番助けてくれた人だもの。)




