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進化する女神:無限にスキルを書ける  作者: ライアン
運命を書き換える進化の女神
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第10話:悪魔を統べる者

エレノアは天音の部屋の扉の前で待っていた。中からは水の流れる音が聞こえてくる。

やがてアマネが髪を後ろで束ね、タオルを手にして出てきた。


(やっと……きれいになった)

長い間ダンジョンにいた後のその感覚に、天音は小さく息をついた。


エレノアは黙って丁寧に立ち、天音が衣を身につけるのを見守っていた。

「それで、この儀式って一体どういうものなの?」とアマネが尋ねる。


「すぐに分かりますよ。」

エレノアはわずかに微笑み、意味深に答えた。

天音は肩をすくめたが、準備を終えると、エレノアが扉を開けて言った。


「行きましょう。」

「……うん。」天音は少し緊張した声で答える。

負の感情を遮断できるはずの自分が、今はなぜか知らない感情に揺れていた。


廊下は果てしなく続いており、黒と金の石が淡い灯火の下で鈍く光っていた。

高い柱の間には、悪魔族の紋章が描かれた長い旗が床まで垂れ下がっている。


エレノアは手を組み、静かに前を歩く。天音の足音が爪のように廊下に響いた。


(悪魔族って、もうこんなに発展してるの……?)

(“悪魔の都市”なんて話、少し不気味ね……。)


「魔王陛下は軍を預けるとは言っていたけど、都市の話なんてなかったわ。」

(……もしかして、他の種族と同じような生活をしているのかもしれない。

この儀式が終わったら、情報を集めよう。)


そう思いながらも、胸の奥に小さな不信が忍び寄る。

(でも、もしかしたら罠かもしれない……。)

エレノアに視線を向けながら、天音は思う。

(もしそうなら――)

考えが固まる前に、廊下の向こうから一本角の男が歩いてきた。

太っていて腹が出ているが、意外にも上品な服装だった。


人間であるアマネを遠目に見るときも、男は落ち着いていた。

そして彼女の前に立つと、深々と頭を下げた。


「再びお会いできて光栄です、大悪魔クリムゾン様。そしてお初にお目にかかります、神性なるお方。

私はグラドン、王国の経済を司る魔公爵にございます。」


(悪魔族って……想像以上に組織的なのね。)

(それに、皆私が来ることを知っていたみたい……気味が悪いわ。)


「公爵、準備は整っているか?」とエレノアが尋ねた。

「はい、すべて整っております。ただ残念ながら、私は別件があり同行できません。」

そう言ってグラドンはアマネに向き直る。

「この人生で最も記念すべき日に立ち会えぬこと、何卒お許しくださいませ!」

拳を握りしめながら叫んだ。


(……この人、何をそんなに興奮してるの?)

「は、はは……気にしないで。」と天音は少し慌てて答える。

その声音には、いつもの威圧感がなぜか欠けていた。


グラドンは手を振りながら去っていった。

数秒後、アマネはようやく安堵の息を吐いた。


(うそでしょ……今までこんなに言葉に詰まったことなんてないのに……。)

「今、何と?」とエレノアが問いかける。


「なんでもない。でも……どこへ行くの?」

エレノアは小さく微笑んで振り向いた。

「玉座の間です。」


(玉座の間……つまり魔王ヴェル=クラースがいる場所。

彼女が何を考えているのかまだ分からないけど、

少なくとも悪魔族は私を受け入れている。――なら、それでいいわ。)


廊下の終わりに、巨大な二枚の扉が見えてきた。

二人が近づくと、両脇に立つ二体の怪物が槍を構えていた。


「着きました。」エレノアが少し後ろへ下がる。


(魔王が最後に言っていた言葉……“導け”って、まさか……?)


扉がゆっくりと開き始めた。まだ半分ほどしか開いていないのに、

中から押し寄せる空気は重く、圧迫感すらあった。


(いや、違う……あの時の言葉の意味は――)


扉が完全に開かれると、二体の怪物は即座に跪いた。

アマネは一瞬だけ動けなかったが、すぐに前へ進み出た。


(分かった……そういうことだったのね。

魔王が私に望んでいるのは――統べること。)


広間の奥まで赤い絨毯が敷かれ、

その先に黒と紅の大理石で作られた玉座があった。

両側には悪魔の貴族、騎士、魔術師、参謀たちが並び、

道を空けてアマネの進む先を見つめている。


(これが……彼らの望み。)


玉座の近くには四人の悪魔が深く頭を下げていた。

天音の足音が、雷鳴のように反響する。


彼女が玉座に腰を下ろした瞬間、

広間は息を呑むような静寂に包まれた。


(私に望まれているのは――悪魔の女王になること。)


エレノアは一段下から声を張り上げた。

「女神よ、我ら悪魔族は、強き者のもとにこそ集う民です。

神性を持つあなたを見過ごすことはできません。

ゆえに我らは謹んでお願い申し上げます――

どうか、我らの主となってください。

あなたの意思こそ、我らの意思です。」


(“主になる”……最初に召喚された時も、似たような歓迎を受けたっけ。

でもあの時、私は見えない存在だった。)


(今の私は違う。注目される側。

女王になることで何かを掴めるなら、やってみせる。

たとえ他の種族を敵に回しても。)


天音は微笑んだ。その笑みは確信に満ちていた。

今度こそ、彼女は“権威”ではなく、“自分の声”で話す。


「悪魔の民よ、私はあなたたちの主となりましょう。

私の望みはすべて叶えられなければなりません。

そして今日をもって、悪魔族に敗北という言葉は存在しない!」


彼女の声が広間に響き渡る。


(さて……“女神”なんて肩書き、少し軽いわね。

もう少し響く名が欲しい……。)


そして彼女は立ち上がり、宣言した。


「今日から私は新たな魔族の女王となります。」

ここまで読んでくれてありがとう!作品を評価してもらえると、すごくうれしいです!

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