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中編:可愛いアスラン様

 



 夜はありえないほどぐっすりと眠れた。広いお風呂にふかふかのベッド。少し寒いけれど、布団があるから特に気にもならない。今のところなんとなく寒いくらいで、冬の神様の『呪い』がどんなものなのか、よく分からなかった。


 翌朝、身支度を整えて厨房に行き、朝食を作っていると、アスラン様が食糧庫に入って行った。そしてリンゴを一つ持ち、お皿と小さなナイフを持って厨房の隅のテーブルに座った。

 もしやあれは朝ごはんなのだろうか? いや、食後のデザートの可能性もある。


「おはようございます」

「ん」

「あの、それは……デザートですか?」


 アスラン様がきょとんとした顔で、手に持っていたリンゴをこちらに見せて首を傾げた。


「これ?」

「はい」

「朝食だが?」


 アスラン様はそんなものでどうやって昼までお腹を持たせているのか。さっき横を通られて気づいたけど、かなり背が高い。リンゴ一個とか、普通なら一時間くらいでお腹が減るはず。


「昨日のスープを温めてパンを焼くんですが、アスラン様も食べませんか?」

「昨日の? …………食べる」


 提案した瞬間、眉間に皺がグッと寄ったので、余計なお世話だったかと焦ったけれど、アスラン様がコクリと頷いてくれた。


 ――――ちょっと可愛い。


 アスラン様の分のパンも焼き、レタスやニンジンで簡単なサラダを作り、スープをよそってお出しした。


「どうぞ」

「ん」


 最初は頑なに拒否するような方なのかな、といった印象だったけれど、そうでもないのかもしれない。




 朝食を終え、早速掃除に取り掛かった。先に食べ終えたアスラン様は、自分の分のお皿を洗って部屋に戻ったようだった。数日前まで前任者がいたようで、一階の倉庫に真新しい手紙があった。

 アスラン様は、特に何も言わないので埃が溜まっている部分だけ掃き掃除しておけば問題ないとかいてあった。


 ――――本当に掃除してたの?


 倉庫の中は埃っぽいし、階段部分の隅には明らかに埃が溜まっていた。各部屋も綺麗にはされているものの、空気が淀んでいる気がしていた。

 とりあえず、午前中は空気の入れ替えと掃き掃除からしよう。

 全ての階の全ての部屋の窓を開け放った。

 

「うーん! 気持ちいい!」


 塔の中に溜まっていた淀んだ空気は、冬のパリッとした朝の空気に変わり、とても清々しくなった。

 

「さて次は……」


 上の階から掃き掃除をしたい。アスラン様の部屋もしていいのよね?

 部屋の扉をノックし、アスラン様に掃除をしていいか聞くとコクリと頷かれた。そして、掃除のじゃまにならないようになのか、脚を座っていたソファの上に乗せて、蹲るように小さくなっていた。


 ――――いちいち可愛い人だ。


 なんだか小さな子どもを見ているような気分になってしまう。どう見てもいい大人で十歳近く年上なはずなのに。


 掃き掃除と拭き掃除をしようと思い、閉め切られていたカーテンと窓を開けると、アスラン様が「雪が降り込むから窓は開けるな」と言った。雪? と思い、窓の外をみるが雪など降っていない。寒いは寒いが、かなり晴れていて、太陽光が暖かくもある。


「いい天気ですよ?」

「……は?」


 アスラン様がソファから慌てたように立ち上がり、窓の外をポカンとした顔で見ていた。


「晴れてる。暖かい」

「はい、そうですねぇ。昨日も今日もいい天気で良かったです!」

「………………あ、あぁ」


 アスラン様は、眉間に皺を寄せた難しそうな顔でソファに戻ると、掃除を続けるよう言った。掃除の間、ジッと見られているので、何か用があるのかと聞くけれど、何もないと視線を逸らされる。でも暫くするとまたジッと見てきていた。

 ずっと塔に閉じこもっているので、コミュニケーションが苦手なんだろうなと思い、それ以降は気にしないことにした。


 アスラン様の部屋の掃除を終わらせ、八階の廊下を掃除する。八階はアスラン様の部屋しかないので楽だ。自分の部屋のある七階、そして六階まで掃除したところでお昼の時間が近付いて来ていることに気付いた。

 バタバタと走ってアスラン様の部屋に行き、お昼を作るがアスラン様の分も作っていいか聞いた。


「気遣いはいらないと言ったし、食事は各々で取ればいいと言った」

「そうですが……」


 昨日の夜と今朝を見て、アスラン様の食事に不安しか覚えない。嫌いなものを無理やり食べさせる、とかではないこと、気になって仕事に手がつかない。どのみち自分の分を作るついでだから! と無理やり押し通した。そして好き嫌いを聞くと、まさかの「分からない」という答えだった。

 今までどんな食生活だったのよ。そして、よくそんな恵まれた体型に育ったな、と変な方向で感心してしまった。




 早速厨房へ向かい昼食を作る。

 ミネストローネがもう少しだけ残っているけど、これは夜ご飯に転用するとして、お昼はミルクとチーズを見つけたからパスタを作りたいなと思っていたのだ。


 先にサラダから作ることにした。バジルの葉っぱをしっかりと刻み、オリーブオイルやナッツ類と一緒に乳鉢ですり潰す。茹でたブロッコリーに和えて完成。

 ぶ厚めに切ったベーコンをカリカリに焼き、カルボナーラソースを作り、パスタ麺にしっかりと絡める。

 アスラン様に出来上がったと伝え、どこで食べるか聞くと、『どこで』というのは、部屋で食べてもいいのかと聞かれた。


「え? 部屋で食べてもいいと思いますけど……なんでです?」

「厨房のテーブルで食べて片付けるのが普通じゃないのか?」

「…………えと……使用人でしたら、そうかと。アスラン様はここの主人ですし、好きにされていいと思いますよ?」


 そう伝えると、アスラン様は目を見開いて固まってしまった。おーいと目の前で手を振ってみるが無反応。とりあえず、厨房に戻りパスタとサラダを二人分用意してアスラン様の部屋に向かった。

 アスラン様の部屋には、食事ができるテーブルがちゃんとあるのだ。隅に寄せられているけども。

 テーブルを壁から少し離して、パスタとサラダを並べカトラリーを添える。


「お待たせしました」

「え、あ、うん。…………それは君の? どうするんだ?」

「私もお部屋で食べようかなと」

「…………そう、か。うん」


 何か言いたそうにしているアスラン様を見て、なんとなく気付いてしまった。


 ――――一緒に食べてくれるのかな?


「あの、一人で食べるのが寂しいので、一緒に食べてもいいですか?」

「…………ん」


 幼い少年のようにコクリと頷くアスラン様はやはり可愛かった。




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