裏表ガールと過去(2)
「はぁーあ、……入学式だるすぎたんですけどぉー?」
……高校初日、長らく座らされていたせいで溜まった疲れに対して、大きな声で文句を言う。私以外の生徒は体験入部とかで行ってしまい、教室はがらんとしている。
「んもぅ、いーやーだぁ!やっぱりつまんない!」
「あれ、まだ残ってたのね」
机に突っ伏していた私に対して声をかけた人物、その人が私の視線の前にわざわざ移動してきて、顔をのぞき込むようにしゃがむ。
そんな彼女の髪は紫と赤のグラデーションみたいな色をしていて、前髪は……ほぼパッツン。眼は透き通るような水色だった。
「えっと……確か、榎本さん?」
「は……誰だしお前」
私が気だるそうにそう言うと、彼女は私にニコッと笑いかけながら口を開いた。
「私は、銀杏田心優……あっ、貴方確か二重……ちょっと特別な子よね!」
げっ、面倒くさ。
いやさぁ……いるんだよねぇ、面白がる奴。
そのくせして、ノアっちのことを見ると逃げていく。ふつーに不愉快だからやめてほしいんだけど。
「ねぇ、変わったりできるの?」
目を輝かせてそう言ってくる銀杏田に、私は嫌気がさしながらも頭を抱えて顔を隠した。
……ダル。
「……うるせぇーな、どっか行けよ。俺の前から消えろ愚図」
数秒後、顔を上げた私は冷めきった態度と低い声でそう言い放ち、銀杏田を睨みつけた。
「……え、あっ変わるの嫌だった?」
「……は?何言ってんだテメェ、もう変わってんだろ」
私は一層強く睨みつけ、拳を握る。
「え……いや、一緒じゃない。何を言って……」
はっと目を見開く。私は不思議そうにしている銀杏田を見つめながら目を疑った、まさか……まさかと。
なんで、どうしてわかったの?みんなはコレで勘違いして居なくなっていくのに……この女は、違いがわかるのか?
「……何なんだよ、テメェは」
「あっ変わった!外見の変化は……特にないのね、若干瞳孔が小さい?そうだ!もう一度自己紹介した方がいいのかしら」
「いやいらねぇよ!」
俺が机を思いっきり殴りつけて廊下にも響くような大声でそう言い放つ。
「そう?じゃあ……記憶共有してるって事なのね!」
「大体、人格だろうが精神だろうが二つに分裂してたところで脳みそは一個なんだから記憶別にしとくわけがねぇだろ」
俺がいかにも喉を掻っ切るような勢いで睨みつけながらそう言うと、銀杏田は特に自分の身を守るような素振りも見せず「確かに」なんて呟いている。
「テメェ……逃げねぇのかよ、俺は直ぐに手ぇ出すぞ?」
「そうなの?それはちょっとやめた方がいいかもしれないわ」
「……いや、ド正論だな!冷静かよ!」
俺はまたしても机を殴る羽目になった……地味にいてぇ。
「あと声が大きいかも、先生来ちゃうよ?」
銀杏田がそう言うから、俺はついに呆れて言葉も出なくなり全身の力が抜けていくのを感じた。
「テメェ……変な奴だな。俺を見ても避けねぇなんて」
ジトーっと目を細めて銀杏田の顔を見つめていると、何かを思い出すように話し始めた。
「なんで逃げないのって言ったよね?逆に、なんで逃げるのか私にはわからないわよ」
また、俺には眩しすぎる笑顔を彼女は浮かべる。
「だって、榎本さんのそれも個性じゃない」
それは、優しい……今まで拒絶されていた俺には甘すぎる言葉。
――やばい、俺……コイツの事好きかも。
「……好き」
「……ん、え?」
ノアっちを押しのけて表に出てきた私は、戸惑う心優ちゃんの腕を掴み、椅子から立ち上がりながらじりじりと歩み寄る。
「心優ちゃん……好き、チューしよ」
「……え、うん。嫌だけど?」