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テレキャスガールと曲選


「バンド結成して約一週間ね。そこで、今日も前回同様に文化祭で演奏する二曲について話し合います」


「……で、前回は一曲も決まらなかったやん。あと、だいたいのイメージ。夏、秋系の激しい曲にしようゆーて」


「てか普通にさぁ……オリ曲しか禁止とかバグってるんだが?」


 ……視聴覚室を窓ガラスで挟んで隣の部屋、準備室の丸机を囲むように座った私たちは「夏、秋、強い」とだけ書かれた白紙を広げて顔をひきつっていた。


「心優ちゃんは……その、優しい歌い方……だよね。奥行というか……吐息混じりというか、心にくる」


「そして、もう一人のギタボである千晶は張り上げ気味の力強い声と。うーん……なんでも出来そうな気がするけどなぁ?」


「せやなぁ……ほんまに、どうしたもんか」


 ベース、キーボード、ドラムは三人揃って横に並んだ私と千晶の顔を見比べながら難しそうな表情を浮かべている。


「……ねぇー、じろじろ見るなしぃー」


 三人の視線が気に食わなかったのか、私の左手を絡めるよう抱きついていた千晶が険しい顔で頭を左右に思いっきり振る。


「……そしたら、一応ノアっちの意見も聞こうかしらね」


「「えっ」」


  瀬良と舞が声を上げた後、場が凍りついた。


 私が何かいけない事を言ったかのような雰囲気。千晶は表情が読み取れないほど俯いてしまい、私の目線も流されるように段々と落ちていく。


「え、み……みんな。どっどうしたの?」


 オドオドとしていた陽菜乃がわざとらしく沈黙を破り、一瞬にして全員を我に返した。声を発した二人は申し訳なさそうに肩を狭めて、舞からゆっくり口を開き出した。


「いや……そうだよね、うん。私たち、六人でバンドだもんね」


「……せやな!それじゃあ、変わってもらおか。千晶」


 みんなの視線が千晶一点に向けられる中、顔を伏せたままだった千晶はため息を大きくついて私たちに顔を見せる。


「しかたないなぁー、いいよ?心優ちゃんが言うなら変わってあげるー。やる気あるのかは、知らない……け、どっね」


 そう言って大袈裟に瞬きをする千晶、再び開いた眼の瞳孔が若干小さい。よく注意すればわかる違い、指先まで力を行き渡らせ、一つ一つの動作が機敏でハッキリとしている。


「……んぁ?」


 ……これが、ノアだ。


 みんなに見守られたノアっちは、辺りを一瞥した後に目を開いて私たちを威嚇し口を開く。


「……は?いや、俺バンドとかぜってぇやらねぇけど」


「「知ってた」」


「おい待てどういう意味だゴラ」


 瀬良と舞に対して怒りをあらわにしているノアっちだったが、顔の前で力んでいた拳がセーターの袖で覆われている事に対して矛先を向けジタバタと暴れ出す。


「つーか、なんでアイツこんな萌え袖してんだよ!制服でやんじゃねぇ!伸びんだろうが」


「ねぇ、ノアっち……本当にやってくれないの?」


「つかノアっち言うな!ちっ、だからやん……うっ……んな目で見んじゃねぇよ」


 私がいかにも悲しそうな表情を浮かべ、瞳をユラユラさせてノアっちの事をじっと見つめる。するとノアっちは照れくさそうに視線を逸らしながら首を掻き、少し唸った後に話し始めた。


「まぁ、心優がどうしてもっつうなら……」


「……え、ノアっち?チョロすぎやない?」


「テメェさっきからうるせぇな!ぶっ殺すぞゴラァ!」


 ノアっちは「チョロい」という言葉にカチッと来たんだろう、血相を変えて机をガコンッと蹴っ飛ばし、瀬良目掛けて拳を振りかざしている。

 舞と陽菜乃が「まぁまぁ」と両腕を取り押さえているからどうにか被害はゼロで済んだ。


「……でも、そう!ありがとう!ノアっち」


 私がそう言ってノアっちの手を取って微笑みかけると、彼女は耳をほんのり赤くして頭を搔いた。それを不機嫌そうに見ている瀬良。


「……別に、どうって事ねぇよ」


「じゃあ初めから素直にやるって言えやチョロ女」


「殺す!お前はぜってぇぶっ殺す」


 ……うちのバンドは、今日も賑やかで平和です。

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