テレキャスガールとバンド
ジェット機のエンジンのように勢いよく視聴覚室内にブチ撒かれた真空管アンプ独特の歪んだ心臓を揺らす音、テレキャスターの奏でるオールダウンピッキングの素早く力強いブリッジミュート。
嵐のようにクラッシュシンバルを轟かせ、キックとスネアが曲のテンポをエイトビートで支えるドラム。
曲全体の雰囲気をしっかりと底から支え、一定に刻まれたビートで空気を大きく揺らすベース。
それらに負けないよう、魂から訴えかけるように発せられる思いのこもった力強い歌声。
――複数の音色が、ひとつの音楽になっていた。
私が最後のフレーズを終えて六弦でグリッサンドを決めると同時に映画館のような部屋の中で唸っていた曲は余韻を残しながら幕を閉じた。
「銀杏田 心優さん……心優でええんやっけ?ギターの上達まじ早いやん」
「そ、そう?ありがとう……」
ドラムの奥から頭をひょこっと覗かせて私にそう声をかけてくれたのはドラム担当の井櫻 瀬良、小学生の時から金管バンドでドラムだったらしく、かなり上手いと思う。
「ね、ねぇ……他の曲も、練習しない?わっ私、この曲役割なくて……その、やることが……」
「ドラム候補で軽音愛好会に入会、瀬良の実力に負けて移転した先のボーカルは抑揚がなくてヘタクソ?あぁ、神様もたまには利き手じゃない方で人を作ったりするんだね。おつ」
「ん、そんなぁ……うぅ」
オドオドしているいかにも陰キャって感じがする子がキーボード担当の菊野 陽菜乃、その子に対して楽しそうに噛み付いている性格の悪い子が片桐 舞というベース担当だ。
「もうさぁ……うるさいよねー、心優ちゃーん。あたしぃ、もぉ疲れちゃったよぉー……チューってして?」
「ちょっ、千晶……?近いんだけど」
私にやたらとベタベタしてくるこの子が、私と同じギターボーカルの榎本 千晶。
私たちのバンドは結成してから間もない。その為、今は各自が基礎を鍛えるために簡単な曲をなんとなく練習している……けど、それももうおしまいだ。
「……はい、みんな!聞いて聞いて!」
「ほぉーらぁ!心優ちゃんが話すってよぉ!」
後ろにいる瀬良や、二人で話している舞と陽菜乃に大声で呼びかけると、それに合わせて陽菜乃がマイクを使って皆の注目を私一点に集めてくれた。
「……ありがとう、千晶」
「えへへ、どういたしましてぇー……じゃあ、チューしよ?」
「……ドラム以外は全員、二週間前に楽器を始めた訳だけれど、もうみんな初歩的な部分は問題なさそうね」
ベースをスタンドにかけながら舞が口を開く。
「うん、様になってるよ。いい感じ?」
各々くつろげるよう手に持っているピックやらスティックやらをどこか高い所へ置いて私の周りへと集まってくる。
「せやなぁ……あ、私はできて当然やろって?」
「ねぇーさ、どうでもいい所で引っかかるなし……」
瀬良が冗談半分で放った言葉に、千晶は一々突っ込んでくる。
「……あ、ありがとう千晶。私のことを庇ってくれて……でも大丈夫よ」
「そお?ならいいんだけどさぁ……じゃあチュ」
「それで!それで、十月にある文化祭の曲決めしましょ!」
千晶の言葉を遮るように言葉を急かしてそう告げると、千晶は私のことをジトーっと見つめながら頬を膨らませた。
「ねぇ、チューは!」
「後でね!」
「え……やったぁ。えへへ」
私たち以外の三人は私と千晶の掛け合いに揃い揃って大きくため息をついた。