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山を頂

作者: 一色 良薬

 ピッケルを杖にしながら、白い山脈の道を進んでいく。全身に掛かるリュックの荷物に悲鳴を上げそうになりながら、悲願である山頂を目指してピックを渦巻いた氷壁に突き刺した。

(見た目に反して柔らかい。雪崩を起こさないように注意を払わないと)

 この山を登るために特注で制作したシューズで表面を踏みしめる。山登りは呼吸一つで、足取り一つで命取りになる可能性を秘めている行為だ。その分登りきったあとの達成感は代え難い感動ではあるが。

(落下なんてして地面とキスしておさらばなんてことだけは避けたい)

 慎重に、丁寧に、山の息遣いに耳を澄ませて、一体となるように登っていく。

 大丈夫だ。これまで到達してきた山たちと同じように登れば、何の問題もないはずだ。

 吹雪いた雪の甘さが口に飛び込む。砂糖に近い食感を溶かし、束の間の栄養補給のようにして体内へと取り込んだ。

(エネルギー不足は危険だが)

 このあとの事を考えると積極的に休息をとって簡易的な食事を取る気分にはならない。空腹状態がこの山を登る条件というのもおかしなものだと思う。

 そもそもこの山を俺自身は登るつもりも気力もなかった。

 山岳隊の紅一点である畑中のように率先して「私が登りたいです!」と挙手したのだから、彼女を登らせてやれば良かったのに。リーダーは経験値の高さだけで俺を指名してきた。有難迷惑なものだ。

(応援部隊を派遣するといっても、それまでは俺一人で完遂しなければならないのが苦痛だ)

 ピックを氷壁の頂に突き刺す。これでこの山は登りきったはずだ。足をかけて一気に頂上へ乗り出せば、茶色の堅い岩に似た栗が俺を出迎えた。

「食べられる山・モンブランの人類初登頂は達成された。あとはこの山を完食さえすれば」

 ブレードで側面を削り、雪を口へ運ぶ。栗ペースト似た甘さが身体を回っていく。しかし芯から体温を奪っていく冷たさも駆けていった。

 応援部隊が到着する前に食べ凍えないか。不安でしかない。

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