表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

幼馴染もの

ツンデレな幼馴染と素直すぎる僕

作者: テル

 僕、小鳥遊 菜津(たかなし なつ)白鳥 紡木(しらとり つむぎ)は幼馴染兼カップルである。

 本当に信じられない。僕なんかが紡木の彼氏なんて。

 1ヶ月前、紡木に告られて僕も前々から想っていたので無事付き合うことになった。

 でも本当に僕で良かったのだろうか。僕は告白を呑んでよかったのだろうか。


 僕は、昔から体が弱く情けなくて運動はもってのほか、虚弱体質で風邪はしょっちゅう引くし、季節の変わり目なんかは特にである。インフルにも毎年のようにかかっている。


 おかげで出席日数が足りなくて焦ったこともある。


 運動も走ったら数分ですぐに歩けなくなって倒れる。


 せめて勉強だけでも頑張ろうと、風邪を引いている日でも少し熱が引いたら机に向かうようにしている。

 そのおかげでテストは1、2位をキープしているわけなのだが、それでは紡木の彼氏に釣り合わない。


 紡木は僕なんかが釣り合わないほど可愛いし、テストの点だって僕と同じくらい取っている。

 その上、運動神経も良い。


 小さい頃から紡木には助けてもらってばっかりだ。紡木には迷惑しかかけていない。

 今もだって。


 

 僕は転んで落としてしまった紙やらワークやらを紡木と拾う。


 そうして何とか集めることができた。


「はあ、まったく、あっ怪我ない?」

「うん、平気、ごめんね」


 そうして紡木は山積みになった紙やらワークやらを全部持ち上げた。


「私が持っててあげるから、先教室行ってていいよ」

「......また紡木に迷惑かけちゃう」


 はあ、と紡木はため息をついた。

 そして半分を僕に渡した。


「もっと甘えてくれてもいいのに」


 不満そうな顔で紡木は言った。

 でもそんなことできやしない。

 今までも紡木に迷惑をかけっぱなしである。それにこんなんじゃ彼氏として相応しくもない。


「そんなことできないよ......せめて自分の仕事は自分でやらないと」

「......あっそ」


 そうして紡木は足早に教室へ向かっていった。

 僕も何度かよろめきながらも急いで向かった。


 紡木さんは本当に僕でよかったのかな。


 ***

 燦々と降り注ぐ太陽の光。


 さらに灼熱のサウナで蒸し焼きにされているようである。

 陽炎がゆらゆらと揺らめいて立ち上っている。


 とにかく暑い。そんな中での体育祭練習である。

 体育祭自体は楽しい。クラスメイトでわいわい騒ぎあってクラス一丸となって優勝をとりに行く。


 ただ僕にとっては申し訳なさも残るようなイベントだ。

 足が遅いのでリレーや徒競走ではみんなの足を引っ張ってしまう。


 クラス対抗リレーのメンバーは4、5枠は速い人が選ばれるのだが、残りの枠は完全くじ引き。

 結構な運要素が絡んできたりする。


 なのでリレーメンバーには選ばれませんようにと祈っているものの、悪運が強いのか選ばれてしまったのだ。

 くじで決まった以上仕方ないとできる限り練習に励んでいる。



 いつもは貧血で倒れたり怪我していたり、熱中症だったり風邪だったりと練習に参加できずじまいなのだが、今回は天が味方をしてくれたようだ。僕は万全な状態で参加できている。


「あんまり無理しないでよね」


 横に座っている紡木が小声で僕にそう言った。

 紡木はこうして僕のことをいつも気遣ってくれる。本当に優しい。

 本当、彼女は僕にとって勿体無いくらいだ。


「うん、今回は大丈夫だと思う、色々ごめんね」

「あんたが謝ることないの、ほんっと......ありがとうでいいのに」

「あっごめっ......じゃなくていつもありがとう」


 そう言うと紡木はふいっと前を向いた。


 そして気づけばほんのりと顔を赤くしているではないか。

 熱中症だろうか。


「顔赤いよ、大丈夫?」

「っ......!? ばか! 鈍感!」


 正直紡木の内心はわからない。僕に対してどう思っているのだろうか。

 発言は少し毒舌な部分があるけど行動は優しい。

 いつも僕を助けてくれる。発言とは裏腹の行動をしてくるのである。


 それが余計に僕を困惑させていた。

 本当に両想いなのだろうか。

 たしかに紡木から告白してきた。でも僕は不甲斐ない自分にどんどん不安になっていく。自信が持てない。


 そんなネガティブな思考になっていると囁き声が聞こえてきた。


「菜津にお礼言われて顔赤くなっちゃった」

「......え?」


 そして彼女は、はにかんで笑った。

 なぜだろう。顔が熱い。


「それよ、気恥ずかしかったり嬉しいと顔が赤くなるもんなのよ」


 自然と鼓動が速くなっていた。


 本当に彼女の内心はわからない。こうして僕にたまにわかりやすくデレてくるのだ。


 ***

『頑張れー!』


 この暑さの中、何とかバトンパスの練習が終わり、最後の予行練習である。

 何度か倒れかけたものの、水分を摂ったり休憩したりと、何とか保っている。


 こんなに動けたのは久しぶりだ。


 僕の番は真ん中より少し下くらいだ。


 とまあ自分の番を待っていると、友人が話しかけてきた。


「お前らって本当仲良いんだか、悪いんだか、付き合ってるって感じのラブラブでもないだろ」

「あはは、まあそうだね......僕がいつも助けてもらってる側だから」

「お前じゃなかったらだらしねえなって言いたいところだが......お前に関しては頑張ってるから何も言えんな、授業あんまり出れてないくせにいつも定期テスト1、2位取ってるしな、すごいとは思うぞ」


 すごい......か、初めて言われたかも。でも紡木にはやっぱり釣り合わないなあ。


 リレーの2番手である紡木はバトンを受け取ったあと、素早い走りであっという間に次の走者にバトンを渡した。


「部活とか運動だけじゃ世の中やってけないって痛いほどわかるからなあ」


 そう自虐的に言う友人。でもそれも十分立派な個性だ。


「君の方こそすごいよ、頼れる存在になりたいけど......なれないから」

「ん、そうか、まあ辛くなったら俺にいつでも相談しろ、愚痴でも何でも聞いてやる、とりあえず今行ってこい」


 いつのまにかもうすぐ僕の番となっていた。

 友人に背中を押されて、僕はレーンに立つ。


 体が重い。ずっしりと背中に重圧がかかっているようだ。

 リレーメンバーになってしまった以上下手な走りはできない。

 せめて精一杯やらないと。


 胸がザワザワしているのがよくわかる。


 1個前の走者が僕に近づいてくる。

 僕はタイミングを見極めて前だけを見て走り出し、手を後ろに伸ばした。


 手にバトンの感触が伝わる。


 そして僕はできる限りの全力で走りだした。

 頭が痛い、気持ち悪い、体が重い。

 それでも関係ない。


 必死に走っていく。距離は短い。でも僕に取っては長い。


 心無しか以前よりも速くなっている気がした。練習の成果が出たのだろうか。


 ただ、僕が少し速くなったからと言って何も変わらない。


 僕は何度かそのまま倒れそうになる。

 しかし紡木の応援で何とか踏ん張れる。


「がんばれー!」


 そして終盤、俺は何とか100mを走り、目の前の人にバトンを渡すことができた。


 バトンを受け取り走り出したのを見て、俺はバタッと力尽きたようにその場に倒れた。


 ***

 小さい頃の思い出。


「菜津ー、早くしないと置いてっちゃうわよー」

「待ってー!」


 僕は後ろを向きながら走っているその少女を追いかける。


 追いつかないとどんどん置いてかれちゃう気がして僕は必死だった気がする。

 思えば子供の頃からずっと紡木を憧れにして追いかけていたのかもしれない。


 今の現状と違うようで同じだ。

 今は紡木とせめて彼氏として肩を並べられるように、あわよくば頼れる存在になれるように。

 でもどう頑張っても辿り着けない。だから勉強に力を入れた。でもやっぱり足りない。



 僕はその少女を走って追いかけていく。しかし小石に躓いて転んでしまった。

 痛い。見ると膝が少しだが擦りむいている。


 涙目になりながらも立ちあがろうとした。しかし痛みで立てない。


 すると中々追いかけてこないなと思ったのか少女が戻ってきた。

 

 そして僕の姿を見て走ってやってくる。


「ちょっと菜津、大丈夫? 血出てるじゃない」

「うっうん......」

「ほら泣かないの」


 そう言って彼女はハンカチを僕に渡し手を差し伸べた。


「ごめん......」

「ごめんじゃなくてありがとう、でしょ? ていうか1人で抱え込まないで転んだら転んだで早く私に言ったらいいのに」

「......迷惑だと思ったから」

「はあ? 誰が? 甘えたい時は甘えればいいの、ほら肩貸してあげるから、あっえっと勘違いしないでよね、別にこれは仕方ないから......」

「ありがとう」


 そして少女は気恥ずかしそうに視線を逸らして言った。


「......どっどういたしまして」


 小さい頃から助けられっぱなしだったな。


 ***


 段々と意識が覚醒していく。

 あー、何だか懐かしい夢見たな。


 ゆっくりを瞼を開けると、いつも通りの保健室の天井と、そして紡木が顔を覗き込んでいた。


「あっ起きた、おはよ」

「......紡木?」


 僕は体を軽く起こす。

 様子を見にきてくれたようだ。

 

「もう大丈夫なの?」

「うん、平気、治ってる」

「そう、よかった......あーえっと私はたまたま居合わせただけだからね!? そう、別に心配で様子を見にきたわけじゃないから、勘違いしないでよね」

「うっうん」


 何を言っているかは聞き取れなかったものの、顔を赤くして焦っている。

 少し可愛い。でもそう思うたび心が痛む。


「......ごめんね、不甲斐ない彼氏で、僕なんかじゃ釣り合わないや」


 僕は自虐的にそう言って笑った。


「はあ、ちょっとだけ口閉じて?」

「ん、口閉じる? えっとこう?」

「んー、もっと自然に」


 なぜだかわからないが口を閉じてと言われたので口を閉じる。

 

「うん、そう」


 そしていきなり紡木は僕の頬に手を当てて顔を近づけ、キスをした。


「ん......」

「っ......!?」


 付き合って1ヶ月、今まで口付けなんてしたことがなかった。

 というか生きてるなかでしたことがなかった。


 柔らかい感触が唇に伝わる。


「えっちょっ何やって......」

「あっ......突然やっちゃったけど嫌だった?」

「むしろ紡木なら嬉しいし、そんなことはないけど......」

「ん......そう」


 そして今度は後ろに腕を回して僕を抱き寄せた。

 胸が自分でもわかるくらい早鐘を打っている。


 それに紡木の心拍も微かだが感じる。


 何だろう、安心できる。


「甘えたい時は甘えて、1人で抱え込まないでって言ってるでしょ? 釣り合う釣り合わないの話じゃない、私が菜津のこと好きだからこうしてるの、昨日だって1人公園で練習してたでしょ?」

「......見てたんだ」

「私は頑張り屋な菜津が好き、体が弱いことを理由にしないで頑張ってる菜津が好き、こんなにも私のことを考えてくれる菜津が好き、菜津私のこと嫌い?」

「っ!? 全然そんなことない、むしろ好き、大好き」

「なら、私に甘えて? 支え合うのがカップルってものでしょ?」

「支えてもらってばっかだけどね」

「いいのよ、別に、それに菜津にはたまに勉強教えてもらってるし、毎年プレゼントとか、1ヶ月しかまだ付き合ってないけど愛情とかちゃんといっぱいもらってるから」


 紡木の優しい言葉に僕は包み込まれていく。


「不甲斐ない彼氏でごめ......いや、こんな彼氏の彼女としていてくれてありがとう、これからも彼女でいてくれますか?」


 僕は改めてそう言った。


「もちろん、私は菜津だけの彼女だからね」


 そうしてもう一度、僕たちはキスをした。


「僕なんかじゃ釣り合わない」でも彼女はそんな「僕」が好き。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 釣り合う釣り合わないは当人が考えれば良いのであって、周りがとやかくいう話ではないと思っているので、主人公は逃げずに受け止めるところは良いと思います。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ