ベタ甘双子と帰宅
「んじゃ、とりあえず帰るか」
僕の言葉に、2人は頷いた。
香織が大きなスーツケースに手を伸ばす。
この大荷物を運んできたのか。
「僕が、運ぶよ。重いだろ」
僕がスーツケースを受け取ると、香織は目を輝かせながら僕のことを見る。
え、なんかした…?
そんな目で見られるようなこと…?
「昔っから潤くんは優しいよね!なんだか懐かしー!」
そう言って、再び僕の腕に抱きつく香織。
僕は、あははと乾いた笑みを浮かべる。
別に特別優しい人ではないのでは?
「そして香織…」
僕が名前を呼ぶと、香織は僕を見上げる。
そして可愛らしい仕草で首をかしげた。
なんだろう、香織に犬のしっぽのようなものが見える…。
「ちょっと、重い…」
僕が言うと、香織はぱっと手を離した。
香織の顔がかぁっと赤くなっていく。
まるで収穫する直前のリンゴみたいだ。
「ご、ごめんね!これでも、ダイエットして体重軽くしてるのよ?それに、あの…久しぶりに潤に会えてテンション上がっちゃって…」
香織はもじもじとしながら、言い訳を並べ立てる。
僕はその発言をうんうんと頷きながら聞く。
僕と会って、テンションが上がるなんて特殊な人だ。
「香織はダイエットしなくても、十分軽いと思うよ。重いって言ったのは今の瞬間的なことであって。それで、僕に会えたからテンション上がったって言ってたけどこれからずっと一緒なんだよ?慣れないとね」
僕が言うと、香織は口をパクパクさせている。
…?
そんな戸惑わせるようなことを言っただろうか。
「そ、そういう問題じゃなくて…。で、でも…ずっと…一緒…。そっか、ずっと…うふふ」
ブツブツつぶやきながら香織はいきなり笑い出す。
何が面白いんだ?
僕が疑問に思っていると、後ろからも笑い声が聞こえてくる。
「伊織…?」
笑い声の主は、伊織。
思わずといったふうに、口を押さえて笑っている。
はて、面白いことがあっただろうか。
「ごめん、なんだか懐かしいなって思って。お姉ちゃんと潤くんの噛み合わない感じ。帰ってきたんだなって」
そう言って、また笑う。
なるほど、僕は香織と噛み合っていなかったのか。
そう考えると、なんだかおかしくなって僕もくすっと笑った。
★ ★ ★
「ただいまー」
僕が言うと、「おかえりー」と台所の方から聞こえてくる。
僕は、2人に上がるように促して居間へ案内する。
すると、母親がぱたぱたと駆け寄ってくる。
「あらー!香織ちゃんと伊織ちゃんも一緒だったの!久しぶりね〜、会いたかったわ〜」
香織と伊織に好意的な笑みを浮かべる母親。
すると、香織が一目散に母親に抱きついた。
なんだかアメリカナイズされて抱きつくのが癖になっているみたいだ。
「私も会いたかったわ!会えて、嬉しい!!」
上品な話し方に反して、無邪気な態度。
なんだかあの頃と変わっているのか、変わっていないのか不思議な感覚になった。
僕の隣から、すっと伊織が1歩前に出る。
「今日からお世話になります。これ、つまらないものですが」
そう言って、さっと包みを手渡す伊織。
伊織の方が妹のはずだけど、なんだか大人っぽいかもしれない。
昔から、伊織は大人しくて冷静な正確だったからな。
「あら〜、こんなのいいのに〜。今日から家族みたいなもんなんだから、力いっぱい甘えてね?」
「そうするわ!」
「ありがとうございます」
母親との中は良好そうで安心する。
女同士仲がいいのに1番だからな。
僕が安心していると、母親が僕に指示を出す。
「ほら、お母さん夕飯の用意するから部屋案内してあげなさい」
母親の指示に頷く。
香織が「新しいお部屋ね!」と楽しそうに声をあげる。
伊織もニコニコとしたまま、僕についてきた。
「ここが香織の部屋で、こっちが伊織の部屋。ちょっと狭いかもだけど、大丈夫か?」
僕が聞くと、香織が首をかしげる。
…?
やっぱりなにか不満があるのか…?
「潤とは違う部屋なの?」
え!?
い、いやそれは当たり前じゃないか…?
と、思っていると、香織が顔を近づけてくる。
「寂しいわ。やっと会えたのに部屋が別々だなんて」
「い、いやそりゃ…思春期の男女が同じ部屋ってのも…な?」
僕が言うと、香織はふーんと声をあげた。
その顔は、にやにやと口を歪めている。
一体、なんだって言うんだ…。
「それはつまり、潤は私や伊織と同じ部屋だと発情しちゃうってことね?」
香織の言葉に、僕と伊織が一斉に「なっ!」と声をあげる。
何を言ってるんだ…!?
は、ははは、発情…!?
「ね?伊織、一緒の部屋がいいわよね?」
「わ、私…。荷解きしてくる!」
伊織がバタンッとドアの奥に消える。
伊織、耳まで真っ赤だったな…。
そりゃそうだ、あ、あんな発情だなんて…。
「と、とにかく3人別々の部屋!以上!!」
ばちっと目があった香織にそう言って、僕も自分の部屋にはいる。
まだ少し心臓がドキドキしていた。
こうして、僕と双子たちの波乱まみれの同居生活は幕を開けたのだった。