90話 昇級試験資格
「お前ら、『上級冒険者』昇格試験の受験資格が出たぞ」
あれから数日後、先日の討伐の集計が出たというので、冒険者ギルドに行ったら、ギルド長の呼び出しがあり、執務室に行ったらその話だった。
「ええっ!早くないですか?」
シアが、驚いている。
無理もない、上級冒険者ってのは、冒険者の中でも長年の経験を積んで、頂点を極めたベテラン冒険者がなるもんだ。
俺達は最年少で中級冒険者になってから、まだ半年も経ってねえ。
「今回の討伐結果の集計がまとまったんだ。お前ら『黒曜石の剣』の討伐数が多すぎて、正確な数字は結局わかんねえんだが、少なく見積もっても・・・ココと共闘して倒した中級の魔物が50体以上、『魔女』と共闘して倒した上級の魔物が1体、『勇者』と共闘して倒した上級の魔物が3体、その他、下級の魔物が千体以上・・・これだけのポイントを加算すると、今までお前達が荒稼ぎしてきたポイントと合わせて、『上級冒険者』昇格基準を軽く超えちまってんだよ!」
「って事は、僕達上級冒険者になれるの?」
キア、気が早いな。
「いや、昇級試験の受験資格が与えられるだけだ。試験に合格しねえと上級冒険者にはなれねえ」
「試験てのは何をやるんだ?また学科試験と実技か?」
試験官と試合して勝てばいいのだろうか?
「実技試験は大体同じだ。こちらが選んだ上級冒険者と模擬戦をやる。必ずしも勝つ必要はねえが、そこで実力を判断する。もちろん倒せたら合格確定だがな」
誰が見てもわかるだけの明確な実力を見せねえと合格できねえって事だよな。
「学科試験ってやっぱり難しいのかな?」
キアはあいかわらず学科が不安みたいだな。
「学科試験はやらねえ。代わりに実技試験に合格した後に、国王陛下との面接がある」
「国王が合否を決めるのか?」
「ああ、『上級冒険者』ともなれば、外国の王室から直接指名依頼が入る事も多い。国の代表として恥じない人間か見極める必要があるならな」
この国の国王っていえば、師匠を溺愛してる甘々な印象しかねえんだが?
「実際には国王陛下立ち合いの元、この国のお偉いさん達が判定して国王陛下が承認するんだけどな」
まあ、国王と一対一で面接とか、普通に考えたらやるわけねえよな。
「ちなみに実技試験は、『上級剣士』か『上級魔法士』あるいは『中級魔術師』以上の資格があれば免除される」
『上級剣士』と、どっちが先にとれるかだな、これは。
「まあ、受験資格自体は死ぬまで有効だ。気長に挑戦すればいい」
きっとポイントは溜まっても試験に合格できない冒険者も結構いるんだろうな。
「わかった、すぐに試験相手を用意してくれ」
俺はギルド長に試験を申し込んだ。
「なんだぁ、いきなり試験を受けんのか?」
「ああ、とりあえず受けてみる」
「ゲン、いきなり試験って大丈夫なんですか?わたしはもう少し修行を積んでからにしようと思ってました」
「僕もまだちょっと早いかなって考えてたんだけど?」
シアとキアはすぐに受験する気は無かったみたいだな。
「どっちにしても次の剣術大会で『上級剣士』にならなきゃいけねえんだ。今この試験に合格できねえようじゃ話にならねえ」
まあ、半年後に『上級剣士』になれたら、面接次第では自動的に『上級冒険者』になれるって事だけどな。
「・・・確かにそうですよね・・・わかりました、わたしも受験します!」
「じゃあ、僕もダメもとで受験してみるかな?」
「まあいい、試験相手は手配するが、上級冒険者なんてそう都合よく予定が組めねえ、少し時間がかかるかもしれねえぞ」
「かまわない、予定が決まったら教えてくれ」
結局、俺達は三人とも『上級冒険者』の昇級試験を受ける事になった。
その後、ギルドの受付に行って、報酬を受け取った。
・・・ありえない金額になっていた。
「これって・・・僕達もう一生働かなくても食べていけるんじゃないの?」
「ゲン!わたし今すぐ貴族をやめてゲンと結婚します!」
二人ともあまりの金額に気が動転していた。
・・・貴族のくせに、冒険者生活に慣れ過ぎて、すっかり庶民的な金銭感覚になってるな。
「『上級の魔物』一体を単独で討伐したら、一生遊んで暮らせると言われていますから、当然です」
受付のお姉さんが教えてくれた。
いや、『上級の魔物』を単独討伐って、『勇者』でなければ不可能だろう。
・・・確かに師匠はお金には全然困ってなさそうだったが、こういう事か。
「『上級冒険者』の昇級試験の受験資格が出たそうですね?あなたたち、ほんとにどこまで行くんですか?」
受付のお姉さんも、さすがにあきれている。
「ふふふっ、上級冒険者になって、ゲンと国外に新婚旅行に行くんです!」
シア!目的がおかしな事になってるぞ!
「むふふっ!旅行先でココさんと・・・」
キア・・・それはきっと実現しないぞ。
とにかく俺は強くならなきゃなんねえ!
上級冒険者になって、国外遠征で腕を磨き、上級剣士になって、シアと正式に婚約する!
そしたら、ようやくシアと・・・
・・・俺の動機も大概不純だったな・・・
・・・それに・・・本物の実力をつけねえと、師匠の手助けができねえからな。




