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勇者を名のる剣聖の弟子  作者: るふと
第三章 勇者の出産
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65話 剣術大会下級決勝

 剣術大会当日となった。



『下級剣士』部門は『一般』部門同様、人数が多いので前もって予選が行われていた。

 俺とキアは予選で圧勝し、本戦出場を決めていた。


 予選通過の16人はその時点で中級剣士の昇格試験の受験資格が与えられる。

 毎回その中で中級剣士試験に合格するのは半分程度だ。


 下級剣士部門の本戦参加者は学生は俺とキアの二人のみで、他は皆現役の騎士団員か冒険者だった。

 もっとも俺とキアも現役の冒険者でもあるのだが。 


 

 下級剣士部門の試合では、俺とキアの二人は他を寄せ付けず順当に勝ち残り、再び決勝戦で対峙していた。


「やっぱりこうなったね」

「他の奴らは話にならなかったな」


「今度こそ負けないよ」

「俺も負ける気は無い」



 開始の合図とともにキアが消えた。

 得意の『身体強化』による高速移動だ。


 キアの実力は数々の実戦経験を経て着実に上達している。

 特に『身体強化』の制御技術は目を見張るものがある。


 姿の消えたキアは直後に全く別の方向から打ち込んできた。 

 キアの攻撃をある程度予測していた俺は、攻撃を受け流しつつカウンター攻撃を入れる。

 キアはそれを躱して再び姿を消す。



 『身体強化』が使える剣士たちは皆、それに頼って技の鍛錬を怠る傾向にある。

 力と速さだけに頼った戦い方は大振りになりやすい。

 単調な動きしかしない『下級の魔物』などであればそれでも討伐には困らない。


 『身体強化』が使えない俺の付け入る隙はそこにあり、相手の単調な攻撃を見切ってカウンターを決めるのが俺の基本的な対人戦だ。


 だが、キアの様に『身体強化』を緻密にコントロールできる相手はそう簡単にはいかない。

 そしてキアは俺の戦い方を熟知している。

 対策を用意しているはずだ。



 キアの『加速』は以前に比べて格段に速くなっている。

 しかも高速域からの方向転換や加減速を高レベルで制御できるようになってきた。


 既に動きを目で追うのが困難なレベルに達している。


 再びキアの攻撃が来る。


 動きを目で追従するのが困難なため、音や気配さらには行動パターンの推測も含めて、キアの行動を割り出して対処する。


 背後から来たキアの剣戟を受け流し、体を旋回させて一歩踏み込む。

 キアが俺の攻撃を躱して離脱しようとした先に一呼吸早く剣を打ち込む。


 キアの方も紙一重で俺の攻撃を剣で受け止めつつ離脱する。



 距離を取ってキアが一旦構え直す。


「あいかわらず、君は攻撃しようにも全く隙が無いよね」

「こっちも結構ギリギリで応戦してるんだがな」


「このままだと僕の魔力切れで勝負が着いちゃうんだよね」


 『身体強化』を用いた戦法は基本的に一撃必殺だ。

 短時間で一気に敵を殲滅するのには良いが、長期戦には向いていない。



「だから僕も『身体強化』を使うのやめるよ」



 キアは通常の速度で俺に迫って来た。

 今までの様な視認できなくなるほどの速さではなく、十分に目で追える速度だ。


 そこから剣戟を繰り出してくる。

 これも今までの様な視界の外からいきなり剣が現れるようなものではない。




 だからと言って、弱くなったという事ではない。


 キアは俺の反応を事細かに観察し、絶妙にフェイントをかけたり、タイミングをずらしたりして、俺の隙をついてくる。


 俺もキアの挙動を観察し、行動を予測してそれに対応する。

 まさに頭を使った駆け引きと身体能力の両方を駆使した戦いとなる。


 俺にとってはこの方が厄介だ。


 『身体強化』を使った攻撃はトップスピードと破壊力は増大するが、緻密なコントロールや、急な行動の切り替えが疎かになる。

 キアは他の剣士に比べれば、これらを高度にコントロールできているので、高いアドバンテージを有している。


 しかし、それでも、質量のある剣と自分の体を動かしているわけで、急激な加減速や方向転換にはどうしても物理的な限界がある。


 俺はその限界値を見切って、キアの行動を予測していた。

 ある意味、それで行動予測が容易になっていた側面がある。


 だが、今のキアの攻撃は、限界を超えた速度ではない代わりに、技の柔軟性、多様性が増している。

 つまり次の行動の選択肢が増えるのだ。


 実はこれは正に、俺や師匠がやっている事だった。


 剣の戦いにおいて、最も重要なのは『速さ』でも『力』でもなく『タイミング』だ。


 丁度いいタイミングで、相手に攻撃を決める・・・これは早すぎても遅すぎてもだめだ。


 タイミングが掴めていれば、別に速く動く必要は無い。

 自分より速い相手、力の強い相手でも、丁度良いタイミングで丁度良い場所に攻撃を入れれば倒す事が出来るのだ。


 本来、剣の戦いにおいて当たり前の事なのだが、これを極限まで極めたのが師匠の・・・『剣聖』の剣技だ。


 

 つまり、キアも同じ道に踏み込み始めたという事だ。


「すごいな!いつのまにここまで出来る様になった?」


「だてに今までゲンやララ先生の戦い方を見てきたわけじゃないよ。君たちが『身体強化』使わなくても強いのはちゃんと理由があるはずだ。それを考えてひそかに特訓をしてたんだよ」

 

 見よう見まねの独学でここまで上達したのか?

 

 師匠以外の相手とこの様な打ち合いが出来るとは思わなかった。

 やはりキアは戦いのセンスにおいて突出している。


 俺が繰り出す様々な技に対応出来ている。


 今までは、『身体強化』の『加速』で急速離脱して強引に躱していたが、今はそれが出来ないため、俺の次の行動を予測して回避しないと間に合わない。


 つまり常に数手先の状況を予測しながら戦っていると言う事だ。


 ここから先は相手の行動の読み合いで勝負が決まる。


 俺と師匠の格差というのは正にその部分だ。


 師匠は常に俺の読みの数手先を見ている。

 俺の取りうる攻撃パターンの全てを予測しその対策を用意し、さらにそこからの反撃の構築まで済ませいる。


 俺が師匠に全く勝てないのはそのためだ。


 

 だが、同じように俺とキアにも読みの深さの差がある。


 キアはこの戦い方において、まだ俺よりも日が浅い。

 経験値の差がここで如実に表れている。


 何度か打ち合いを繰り返したところ、キアの読みの深さが見えてきた。

 俺にはもっと先が見えている。この差が勝敗を分ける。



 キアの打ち込みを受け流し、カウンター攻撃を入れる。

 キアはこれを予測していたので、その攻撃を躱し、俺の側面に回り込み攻撃を入れる。

 それは俺も予測に入っていたので対処可能だ。

 既にその場所から移動しキアの背後を取る。

 ここまではキアも予測していたのだろう、その攻撃を受け止める。


 受け止めたキアの剣を支点にして、俺は剣を回転させ、それに合わせて自分の体をキアの懐に滑り込ませる。


 さすがにこれは予測してなかったと見える。


 回転させた剣のつばで、キアの剣のつばを引っかけ、キアの剣を弾き飛ばす。




 ・・・はずだったが、キアの剣はびくともしない。


 『身体強化』を使ったか?


 キアはとっさに『腕力増強』を最大値で発動し、自分の剣が飛ばされるのを防いでいた。


 『身体強化を使わない』というのがフェイントだった。


 勝負が決まったと思った俺は逆に動きを封じられ、不利な状況になった。



 ・・・かに見えたが、俺は『腕力増強』で不動となったキアの剣を足場してに、反動を付け、キアの背後に回り込む。


 キアは『身体強化』で俺の動きを封じた後、すぐに攻撃に切り替えるつもりだったのだろうが、『腕力増強』で動きを固めた直後は、それを弛緩してから動き出すのに一瞬のラグが生じる。


 俺はその前にすでに行動に移していたのだ。

 

 そして俺は、背後からキアを打ち付けた。



「勝負あり!勝者ゲン!」



 会場から歓声が沸き起こった。



「あーあ、やっぱり勝てなかったか」


「最後は接戦だったがな」


「いやぁ、ゲンはまだ余裕あったでしょ?何で最後に『身体強化』使うってわかったの?」

「最後まで絶対に使わないとは言ってなかったからな、どこかで使う可能性は考えていた」

「やっぱり読まれてたかぁ」

「だが、身体強化を使わない剣の技もたいしたものだった」

「あれ、すごい頭使うんだけど、ゲンやララ先生はいつもあんなに頭をフル回転させて戦ってるの?」

「まあそうだな、後は経験からくるパターン予測だな。これは経験の数がものを言う」

「それって、今からゲンを追いかけてたら追いつけないじゃん」

「俺も師匠に対して同じ事を感じている」


「あーあ、これだから真面目で勤勉な連中は!」




「ゲン、キア、お疲れ様! いい試合だったよ!」


 師匠が俺達のところへやって来た。


 だから、妊婦が走ってくんな!

 客席から見てる観客たちもハラハラしてるぞ!


 

 師匠は『剣術大会』の主賓という事で、装備を身に付けているんだが、臨月の妊婦専用にカスタマイズされた戦闘用装備という、普通に考えたら矛盾したスタイルになっている。


 臨月の妊婦が最前線で戦いに参加するって状況、ありえないからな。


 それなのに師匠が着こなすと可愛く見えてしまうから不思議だ。



「ゲン、今回もエキシビジョンの模擬戦やるから楽しみにしててね!」



 やるのか?それ。


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