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勇者を名のる剣聖の弟子  作者: るふと
第一章 剣聖の弟子
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5話 剣聖の修行

 目が覚めるとふっかふかのベッドに体が沈んでいた。


(・・・もう少し硬いベッドに代えてもらおう)


 昨日から『勇者』の家に住むことになった。

 『勇者』でもある『剣聖』の弟子にしてもらったのだ。


 早速今日から修行が始まる。


 身支度を整えて中庭に出ると、師匠が待っていた。


「おはよう!ゲン!」


 師匠は早朝からにこにこでハイテンションだった。


「おはようございます。師匠。今日から宜しくお願いします」


 俺は姿勢を正して礼をした。


「あはははは!そんな堅苦しくしないでいいよ!」

「朝からご機嫌だな、師匠」

「ひさしぶりに朝練が出来て嬉しいんだよ!ジオ様がいた時は毎朝欠かさずやってたからね!」


 ・・・重い話をあっけらかんと話すなよ。


「まずはゲンの技量が見たいから、私に思いっきり打ち込んでみてよ!」

「いや、さすがに妊婦とわかってたら本気で打ち込めねえよ」

「へぇ!さすがだねぇ!『剣聖』相手に攻撃を決められると思ってるんだ!」


 師匠は手を口に当ててちょっとニヤニヤしてる。


 そうだった、相手は『剣聖』だった。

 しかも『勇者』だ。

 俺が間違ってでも一本決められるような相手ではなかった。


「そうだったな、じゃあ遠慮なくいくぜ」


 俺は練習用のロングソードを手にした。

 師匠は手にしたミドルソードをだらりと下げてリラックスした構えだ。

 というか、構えていないのではないか?


「いつでもどうぞ!」


 ・・・あれが構えらしい・・・


 俺は迷わず思いっきり打ち込む事にした。


 正面から全速力で接近する。

 師匠はにこにこしたまま全く動かない。

 間合いに入ったところで俺は右上から袈裟懸けに思いっきりロングソードを叩き込む。

 それでもまだ師匠は動かない。


 そして、刃が師匠の首筋に触れるその瞬間・・・


 俺の剣は師匠の体を素通りして地面に突き刺さり、・・・俺の首筋で師匠の剣が止まった。


(今・・・何が起きた・・・!?)

 

 俺の剣は師匠に触れると思った瞬間、引き込まれる様に加速して、持って行かれる感覚だった。

 

「ふふふっ、実戦だったら死んでたよ?」


(すげぇ!これが『剣聖』の技か!)


 一歩引いて剣を構え直す。


「そこからでいいから思いっきり打ち込んでいいよ」


 師匠は相変わらずラフな構えだ。

 今度は斜め下から上に切り上げる。


 やはり直前まで微動だにしない。


 そして剣が師匠に触れる瞬間、俺のロングソードは空高くとばされて、俺の目の前で師匠のミドルソードの切っ先が止まっていた。


 またしても何が起きたのか見えなかった。


「ふふっ!剣を拾ったらまたどうぞ!」


 それから何十回も繰り返したが結果は同じだった。

 様々な攻撃パターンを試してみたが全て返される。


(俺さっきから何回死んだっけ?)

 

 師匠に切りつけるとその瞬間に自分が死んでいる。

 どうやっても倒せる気がしない。


 しかも師匠はさっきから一歩も動いていない。

 


 まあ相手が『剣聖』なんだから当然か?



 ・・・いや、これが実戦だったら強敵に当たったからって簡単に諦めるわけにはいかねえよな?


 

 次の打ち込みでは師匠に剣が当たる瞬間に一瞬早く剣を引いて後ろに跳んだ。

 

 鼻先ギリギリのところで師匠の剣先がかすめていった。


 はじめて死なずに済んだ。

 もっとも中断したので攻撃も出来てはいないが。


「うん!今度は死ななかったね!」


 師匠は普段より更にご機嫌に微笑んだ。


(だから無駄に可愛すぎるのやめろ!)



「ゲンは、戦いに負けないために一番大事な事は何だと思う?」


「・・・? とにかく相手を倒す事だろ?」


「はずれ。自分が死なない事だよ。勝てない相手に遭遇した時、どうやったら生き残れるか考える事が一番大事なんだよ。死ななければ引き分けでも負けにはならないよね?さっきゲンもそう考えたでしょ?」


「ああ、確かにな。今の俺じゃあ師匠には絶対勝てないし、ただ正面からぶつかっても意味がねえと思った」


「それが強くなるための第一歩だよ!死んじゃったらそれ以上強くなれないからね!」


「・・・まあ確かにそうだけど、誰かを守るために命を懸けるって事もあるんじゃねえの?」


「死んじゃったらその後守れないじゃない?それに誰かを守るって事はその人の命だけじゃなくて心も守らないとだめだよ?自分のために誰かが死んじゃったらその人は悲しむでしょ?」


(・・・旦那の事を言ってるんだよな?)


 にこにこしながら話しているが、師匠はとんでもない悲しみを背負っているはずだ。


「命を賭けなきゃ守れない場合はどうすればいいんだ?」


「そのためにもっと強くなっておくんだよ。・・・そうだなぁ、ゲンが自分の命を賭けてでも守りたい人って誰かな?」


 ・・・誰だろう?・・・・・考えていたら頭の中に浮かんできたのは師匠だった。


(何考えてんだ!俺が師匠を守るって状況がある訳ないだろ!)


 そんな事を思い浮かべていたら顔が少し赤くなってしまった。


「ふっふっふっ、シアちゃんでしょ! 昨日命がけで守ってたもんね!」


 師匠は口に手をあててニヤニヤしてる。


「ちっ!ちげえよ!」

「いいって!いいって!あれだけの美少女だもの、男の子だったらメロメロになっても仕方ないって!」


 ・・・師匠・・・あんた、自分の事棚に上げて何言ってんだ?


 たしかに彼女も可愛かったが、色々ありすぎてすっかり忘れていた。


「とにかく、大切な人を悲しませたくなかったら、自分も生き残る事を考えて行動してね!」


 たしかにその通りだった。

 今後、もし俺が戦いの中で命を落とす事になったら間違いなく師匠は悲しむだろう。



(俺がこれ以上師匠の悲しみを増やすわけにはいかねえな)



 自分が強くなる目的が明確になった気がした。


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