表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者を名のる剣聖の弟子  作者: るふと
第一章 剣聖の弟子
3/295

3話 剣聖に弟子入り

「あんた、『勇者』だったのか?」

「はい、そうですよ」


 彼女はいっそうにこにこして答えた。


「なんだよー、違ったのか?」

「何がですか?」

「俺は『剣聖』の弟子になりたくて王都に来たんだよ。てっきりあんたがその『剣聖』かと思ったのに人違いかよ」


「・・・私も『勇者』になってからまだ日が浅いですが、『勇者』と名乗って残念がられたのはこれが初めてです」


 にこにこしていた彼女が、頬に手を当てて少し残念そうな顔をした。


「いや!別にあんたが悪いわけじゃないんだよ、あんたの剣の腕前もすごかったし、むしろ『勇者』の弟子にしてもらってもいいくらいだ!」


(何言ってんだ俺は)


 彼女に残念そうな顔をさせた事に、なぜだか強い罪悪感を感じていた。


「すみません。今は『勇者の弟子』は募集していないんです。本当にごめんなさい」


 なんかすごい丁寧に謝られた。

 えらい腰の低い『勇者』だな。


「いや、今のは言葉のあやで、本気で『勇者の弟子』になりたいなんて思ってねえよ!」


 『勇者』ってのはこの世界じゃ別格だ。

 剣士を極めた頂点に『剣豪』がいて、更に上に『剣聖』がいる。

 とてつもなく遠い道だが、これらはまだ人間がたどり着ける領域だ。

 『勇者』はそれを超越している。

 人間の常識を超えた力と魔力を持ってるって話だ。

 先日も『終焉の魔物』なんて全世界を滅ぼせる存在を倒しちまったばっかりだ。


 ・・・そうか、それで『先代の勇者』が死んだからこの人が『勇者』になったのか?


「そうですね、『勇者』になんて、ならない方がいいと思います」


 なんかちょっと悲しそうな顔をした。

 きっと『先代の勇者』はこの人の知り合いだ。

 そいつが死んじまったばかりなんだから悲しくない訳がねえ。


「すまねえ、なんか悪い事言っちまったな」

「えっ?なんでですか?」

「いや、あんた悲しい思いをしたばかりなんだろ?無神経な事言っちまった」


 『勇者』の顔がぱぁっと明るくなった。

 なんか感情の起伏の激しい『勇者』だな


「きみ!本当にいい子だね!」


 『勇者』がにこにこしながら俺の頭をぽんぽん叩いた。


「俺の名前は『ゲン』だ。それと子ども扱いすんじゃねえ!」

「あはは、私は『ララ』だよ!」


 ちくしょー、それにしても笑うと本当にかわいいな!


 俺だって剣士を目指してはいるが健全な男子だ。

 かわいい女の子に興味が無いわけじゃない。

 こいつの笑顔はほんとに危険なんだよ。

 無防備に笑うんじゃねえ!


「じゃあな!俺はそろそろ行くぜ!『剣聖』に会いに行かなきゃなんねえんだ」

「ちょっと待って!ゲン君」

「なんだよ?」


「『勇者の弟子』は募集していないけど『剣聖の弟子』なら大歓迎だよ!」

「いや、『勇者』のお前が歓迎してどうすんだよ?」


「『剣聖』は私だよ?」


 『勇者』が自分を指さした。


「はぁ!何だよそれ!何で『勇者』が『剣聖』になってんだよ! あんたが『剣聖』を倒して称号を得たって事か?」


「違う違う!順番が逆。『剣聖』になった後に『勇者』を継承したんだよ」


「なんだよ、それじゃ俺の見立ては合ってたんじゃねえか!早く言えよ」

「ごめんごめん。『勇者か?』って聞かれたから。それでどうする?私の弟子になる?」

「いや、こっちからお願いするはずだったんだが?」

「じゃ!OKだね!」

「そんなあっさり弟子入りを決めちまっていいのか?俺の事何も知らねえだろ?」

「もう十分わかったよ?ゲン君がとってもいい子だって事は!」


 『勇者』(『剣聖』)が俺の頭をぽんぽん叩いた。


「だから子ども扱いすんな!」

「ゲン君、泊まるところは決まってるの?」

「まだ決まってねえ」

「じゃあ、とりあえず私の家に来なよ!詳しい事はそこで話そう!」


 『勇者』(『剣聖』)が俺の手を掴んで引っ張った。


「おい!引っ張るんじゃねえよ!」


 手を掴まれて不覚にもドキッとしちまった。


 何かすっかりこいつのペースになってんじゃねえか!


 ・・・それにしてもいちいち可愛いな!くそっ! 






 そこに王都の方から人が二人やってきた。

 『身体強化』を使っているのか移動速度が速い。


「ララ!速いよ!やっと追いついた!」


 ヘーゼル色の髪の姉ちゃんと銀髪の兄ちゃんだ。


「ルナ!レン! お疲れ様! もう終わって帰るとこだよ」

「うん、さっき馬車の人たちから聞いたよ、中級の魔物倒したんだってね?」

「もう!ララってば妊婦のくせに何やってるのよ?おなかの子に何かあったらどうするの?」


(えっ? 妊婦!?)


「大丈夫だよ、ルナ。おなかの子には負担かけない様に戦ってるから」

「どんな戦い方よ?」

「それにこの子は頑丈だから大丈夫だって!」

 

 彼女は自分のおなかをぽんぽん叩いた。


「妊娠初期の胎児が頑丈って、言ってる意味が全然分かんないんだけど? 先代勇者様の忘れ形見にもしもの事があったら一番悲しむ事になるのはララ自身なんだからね!」


「大丈夫だって! いつだってこの子の事を一番大事に考えてるよ!」


 またしても自分のおなかをぽんぽん叩いた。

 ・・・結構強めに・・・



「ちょっと待てよ!あんた妊娠してたのか?」

「うん!そうだよ」

「馬鹿なのか?あんた!腹に子供いんのに魔物と戦ってんじゃねえよ!」

「それ、たった今ルナにも言われたばかりなんだけど・・・」



「ララ、この少年は誰だい?」

「ああ、この子はゲン君で、私の弟子になったの!」

「ララ・・・『勇者の弟子』はとらないって言ってなかったっけ?」

「ゲン君は『勇者の弟子』じゃなくて『剣聖の弟子』になったんだよ。とってもいい子だから!」

 

 

「なあ、あんたの腹には先代勇者の子供がいんのか?」

「うん、そうだよ、私とジオ様は『終焉の魔物』討伐の直前に結婚したんだよ!」


 彼女は満面の笑みで、ちょっと自慢気に答えた。

 先代勇者と知り合いとは思ったが、まさか旦那だったのか!


「すまねえ!さっきはつらい事言わせちまった!」

「大丈夫だよ!ジオ様は今でも私の中で生きてるから!」


 彼女は自分の腹に手をあてて、幸せそうに微笑んでいる。


(・・・? ふつう胸に手をあてるもんじゃないのか?)


 それにしても、旦那が死んだばかりなのにこんなに元気そうに振舞えるんだな。

 これも『剣聖』であり『勇者』でもある強さか?

 俺もこの領域まで行けるのだろうか?



 そして俺は、自分の胸の痛みに気づいちまった。



 どうやら俺は本気でこいつの事を好きになっていたらしい。

 これが自分の初恋だったと気が付いたのが失恋が確定した瞬間だった。

 何なんだろうなこれ。

 

 こんな事で傷ついているようじゃだめだな。

 俺に比べたらこいつの方が何倍も辛い思いしてるってのに!



「ララってこんな感じだから大変だと思うけど頑張って!剣士を目指すのならこれ以上ないってくらい良い先生だから」


 兄ちゃんの方が話しかけてきた。

 たしかレンって言ったっけ?


「ありがとな、あんたいいやつだな?」

「僕はレン。これからもよろしくね、ゲン君」



「さあ!こうなったら家に帰ってゲン君の歓迎会やるよ!腕によりをかけておいしい料理作るから楽しみにしててね!」

「って、あんた、料理も作るのか?」

「ララは一流の料理人だよ。なんたって『上級調理士』だからね」


 『上級調理士』って言えば宮廷料理も作れる最高峰の料理人で国内に数人しかいないんじゃなかったか?


「『勇者』で『剣聖』で『上級調理士』っていったいどうなってるんだ?」

「ははは、あんまり追及しない方がいいよ。他にもいっぱい出てきちゃうから」


「とにかくうちに帰りましょう!さあ!ゲン君」


 彼女は俺と腕を組んで引っ張り始めた。


 うっわ!腕やわらけー!

 やっぱりめちゃくちゃ可愛いし、すっげーいい匂いすんだよ!


 この人俺をどうしたいんだよ?



 ・・・俺は一体、何の弟子になったんだ?



「ははは、彼も前途多難だな?」

「ララってばもっと自分の攻撃力を自覚しなさいって、いつも言ってるのに!」




 期待と不安が入り乱れる王都の生活が始まろうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ