294話 勇者との一夜
奇しくも俺は、美少女の姿をした勇者と二人っきりで一夜を過ごす事になってしまった。
「とりあえず寝る前に食事をしておこう。少し待っていろ」
ジオはそう言うと再び海に飛び込んだ。
そして30秒もたたないうちに再び海中から人魚の姿で飛び上がってきたかと思うと、さっきと同じ様に空中で人間の姿に戻って岩棚に着地すると、手には串刺しになった数匹の魚を持っていた。
どうやらニードル系の魔法で魚を捕まえて来た様だ。
「とりあえず焼くだけでも良いか?」
「ああ、食えれば何でも良い」
「ララから簡単な料理は教わっていたのだが、今は道具も調味料もないのでな」
そう言うとジオは串刺しの魚を地面に突き立てて火炎魔法で焼き始めた。
「火加減のコントロールはマスターした。黒焦げになる事は無いぞ」
ジオは勇者の剣で串刺しにした魚に手のひらをかざし、小さな火炎魔法で器用に焼き始めた。
俺も火炎魔法でたき火に火を点けるぐらいなら出来るが、ここまで安定して同じ火力を維持し続ける事は出来ない。
俺がやったらおそらく魚は一瞬で炭になってしまうだろう。
一般的な下級魔法でたき火やかまどに火を点けるくらいの事なら誰でもやっているが、今ジオがやっている様に微妙な火力のまま変化させずに長時間維持するのは極めて高度なテクニックと集中力を必要とするのだ。
中級魔法士以上の膨大な魔力量を持っていたらなおさら難しい。
そして炎に照らし出されたジオの姿は妙に艶めかしく、俺は改めて水着姿の美少女と二人きりだという事を思い出させられた。
・・・いや、だからどうなるという事は無いのだが・・・真剣な表情で魚を焼く美少女の姿に思わず見とれてしまったのだ。
「焼けたぞ」
ジオは焼いた魚を俺に差し出した。
魚は良い感じに表面に焦げ目がついていた。
香ばしい匂いが食欲をそそる。
かなり腹が減っていた俺は遠慮せずそれを受け取った。
「いただきます」
かぶりつくと、わずかな塩味の効いた魚の肉がなんとも言えない旨さだった。
「旨い」
俺は思わず口に出していた。
「そうだろう。その魚が旨いという事はララに教えてもらった」
嬉しそうに笑ったジオの笑顔は、これまでで最高の可愛さだった。
・・・こいつ・・・自分が美少女の姿だって自覚してねえだろ?
俺は不覚にもジオの笑顔を見てドキッとしてしまったのだ。
・・・そう、まるで師匠に笑いかけられた時の様だった。
「それだけでは足りないだろう?もっと食え」
ジオはそう言って2匹目の焼き魚を俺に差し出し、自分も魚を食べ始めた。
おいしそうに焼き魚を食べる姿がなぜか時々師匠と重なった。
「普段は表情の変化が少ないのに食事の時はうまそうに食べるんだな?」
ついそんな事を聞いてしまった。
「ああ、ララに食事の楽しさを教えてもらったからな」
・・・そうか、いつも師匠と一緒に行動してるから、無意識の内に行動や表情が師匠に似てきたのだろう。
性別が同じになってそれが顕著になったのだ。
そんな事を考えながら二人で焼き魚を平らげた。
「さて、腹も膨れた事だし、寝るとするか」
ジオはそう言うと、すっと立ち上がった。
何をするのかと思って見ていたら・・・いきなり水着を全て脱ぎ捨てたのだ!
俺の目の前には・・・月明かりに照らされた全裸の美少女が目の前に立っていた。
なんだ?・・・一体ジオは何をしている?
寝るって・・・まさかそっちの意味か!
しかし、なんだって俺と?
ジオが何を考えているか分からずに俺は混乱していた。
どことなく雰囲気が師匠と重なる美少女が俺の前に全裸で立っているのだ。
俺は危うく正気を失いそうになっていた。
ジオが本当は男で師匠の旦那だという事など、現実ではない絵空事の様に思えてしまいそうだった。
「何をしている?早くお前も裸になれ」
・・・ あろう事か、ジオがいきなり俺の水着を一気に地面までずり降ろしてしまったのだ!
あまりの速さに俺は反応できなかった。
混乱していた隙にとはいえ、とんだ失態だ。
そしてあらぬ妄想を抱いていたため、水着の抑制から解き放たれた俺の股間のモノは、すっかり元気良くなってそそり立っていたのだった。
「ほう、なるほど、これは立派なものだな」
ジオは自分の鼻先に突きつけられた俺の先端を見つめながらそう言った。
これはどういう事だ?
ジオは本気で俺と寝るつもりなのか?
そもそも、あの水着は自分の意志で脱ごうとしないと脱げないのではなかったのか?
・・・いや、さっき俺は不覚にも、自分も裸になってジオとそういう事がしたいと一瞬思っていたかもしれない。
そのせいでジオにあっさり脱がされてしまったのだろう。
いや、それよりも問題なのは今俺は全裸で、同じく全裸のジオと一緒に寝ようとしているという状況だという事だ。
ジオの言動は明らかに俺とそういう事をしようとしている様にしか受け取れない。
・・・これは・・・俺が拒まなければ俺はジオとそういう関係になってしまうのだろうか?
そんな事を考えてしまったために、俺の股間は更に一回り大きくなってしまったのだった。




