287話 水着の機能
「とにかく岸まで泳ぐぞ。しっかりつかまっていろ」
海上に着水した俺たちは、ジオに引かれて一気に砂浜まで戻った。
シアを抱きかかえて砂浜に上がると、同じくヒナを抱きかかえたジオは砂浜にヒナを寝かせると姿が変わり始めた。
魚の尾びれの様だった下半身が、スゥっと人間の脚に変化したのだ。
変化する際に腰の部分にはベルト状の布地が現れ、体形の変化に合わせてそれは水着へと変化した。
それを見ていた俺は、次第に呼吸が苦しくなってむせこんだ。
ゲホゲホと肺に入った水を吐き出すと呼吸が楽になった。
するとシアとヒナも咳込みだした。
「二人の水を吐かせろ」
ジオにそう言われてシアの背中をさすって、水を吐きださせた。
「けほっ、けほっ」
咳をしながらシアは意識を取り戻した様だ。
「大丈夫か?シア」
「ゲン、ここは?・・・あれからどうなったのですか?」
「ジオが助けてくれた。ここは砂浜だ」
「こほっ、こほっ」
隣でジオに介抱されていたヒナも、目を覚ました様だ。
「あれっ?ジルさま?・・・わたしはゲンさまと結ばれたのでは?」
ジオに抱きかかえられたヒナが周りをきょろきょろと見ながら戸惑っている。
「直前でジオが助けてくれた」
「そんなぁ!あと少しだったのに!ジルさま、どうしてそんな余計な事を!」
「・・・そうか?すまない」
「いえ!ジル様、あのタイミングで助かりました!」
「シアさま、ひどいです!」
「ひどいのはヒナさんです!どさくさに紛れて抜け駆けしようなんて!」
「だからあれは不可抗力ですってば!」
シアとヒナが口論を始めてしまった。
「それより二人共、どうして水着を不可視にしているのだ?」
・・・そう、先ほどから二人は全裸のまま言い争いをしていたのだ。
正直俺は目のやり場に困っていた。
「えっ!やだ!」
「やん!恥ずかしい!」
自分たちの姿に気が付いた二人は慌てて胸を手で隠した。
大胆な事を口で言ってはいても、やはり裸を見られるの恥ずかしいらしい。
シアとヒナのこういうところは本当にかわいい。
「水着は消滅したのではないのですか?不可視ってどういう事ですか?」
シアがジオに尋ねた。
「その水着は装着者の意志で見えなくする事が出来るのだ。しかし、どうして戦闘中に水着を不可視にしようと思ったのだ?」
「えっ?・・・いえ・・・その・・・」
魔物との戦闘中にもかかわらず俺とエッチな事をしようと思っていたとは流石に口に出せない様だ・・・
「水着が姿を現す様に念じて見ろ」
「ええと・・・やってみます」
するとシアとヒナの体に水着が現れたのだ。
「ああっ!水着が現れました!」
「ほんとだ!こんな機能があったんですね?」
ヒナが面白がって水着を出したり消したりしている。
「ヒナ!いいから隠せ」
ヒナはペロッと舌を出して、水着を見えるままにした。
「それ以外に、外部からの刺激やダメージを遮断するかそのまま受け入れるか選択する事が出来る。ただし、致命的なダメージや強烈な痛みは強制的に遮断される様になっている」
それでさっきはまるで何も着ていないかの様に素肌の感触が伝わって来たのか。
「なんで師匠はこんな水着を作ったんだ?」
「それは今回の様な水中での戦闘のためだ。普通の附加装備では水中では動きにくいからな。それにさっき俺が使った変身魔法を解いた時に下半身が裸になってしまうのを防ぐためだ」
さっきの人魚の姿はやはり魔法で変身したものだったのか。
「それは分かったが、透明になる必要はあるのか?」
「その機能だが・・・遠征中に野宿をしている時などでも、そういう雰囲気になる事もあるだろう?だが屋外で装備を全て外し、無防備になるのもどうかという事で、ララがこの水着に機能を追加したのだ」
・・・つまり附加装備を付けたままで、全裸と同じ感覚で事に至れる様にしたって事だよな?
「厳密に言うと透明になっているのではなく、肌に密着した裏側の色を表に投影しているから、裸そのものが見えている訳ではないらしい。装着すると水着以外の素肌に見える部分もそうやって覆って全身を保護している」
なるほど・・・それで見た目は露出が多くても防御力は充分な訳か。
「更に、この水着を付けていれば感覚は裸の時と同じでも、完璧に避妊出来るそうだ。今の俺が不用意にララの子を身籠るわけにいかないからな」
・・・ん?・・・今のジオの発言、何か変じゃなかったか?
「ああ、そっか!ジルさま、魔法で男性の体になったララ様とエッチしたりするんですね!」
・・・俺が聞きづらくてスルーしてた事をヒナがダイレクトに聞いてしまった。
「・・・まあ、そんなところだ・・・」
ジオが少し照れながら肯定した。
・・・師匠・・・ジオが成長するまで我慢すると言っていたが・・・我慢出来なかったんだな・・・
それにしても・・・ジオが成人男性に戻れないからと言って男女逆転するとは・・・・・やはり師匠の発想はどこかぶっ飛んでいる・・・
「ゲンさま!聞きました?この水着を着ていれば妊娠の心配なくエッチが出来るそうですよ!」
ヒナがそう言って水着を不可視にして俺に迫って来た!
「あっ!ヒナさん!抜け駆けはダメです!」
シアも続いて水着を不可視にして俺に抱きついた。
「お前たち、こんな時に何をやってる。早く隠せ!」
「おーい!みんな無事か?魔物はどうなった?」
そこにギルがこちらに向かって走って来るのが見えた。
シアとヒナは、慌てて水着を元に戻した。
さすがにギルには裸を見られたくないらしい。
「あれっ?さっき一瞬シア殿とヒナ殿が全裸に見えた気がしたんだけど・・・気のせいかな?」
「はい!気のせいです!」
「こんなところで全裸になるわけありません!」
シアもヒナも、顔を少し赤らめながらすっとぼけていたのだった。




