280話 港の町
貧民街では大恥をかいてしまったが、住民の子供たちや母親たちに感謝されて貧民街を後にした。
もっとも女の赤ん坊を抱えた母親たちは、あの後そそくさと俺の前からいなくなってしまった。
どうやら俺は幼女趣味の変態だと思われてしまったらしい。
確かに俺の様に体が大きくて筋肉質の男が、胸の小さい女が好きだと宣言したら、そう思われても無理は無いのかも知れない。
あの時の、周りの白い目がそれを物語っていた。
巨乳好きと思われたままでいるのと、どちらが良いかと言われると微妙だが・・・
そんな事はもうどうでもいい。
一方で10歳前後ぐらいの少女が数名、もじもじしながらしばらく俺の後をついて回っていが、あれは一体何だったんだろうな?
貧民街を後にした俺たちは、目的地の港へと向かった。
町から少し離れた場所にある港は、それなりに栄えていた。
数日に一便は海峡を渡る定期便が出ているそうだが、それ以外にも商人の個人所有の商船も行きかっているらしい。
港周辺には宿屋や店舗が集まっており、独立した港町を形成していた。
「わあ!こっちの方がにぎわってますね」
「元城下町は治安が悪そうでしたから、商人達はこちらを利用しているんでしょうね」
「確かにここの方が治安は良さそうだな」
国としては利用価値の無くなった旧市街よりも、貿易の拠点である港の方に支援をしているのかもしれない。
とはいってもここに長居する必要もないので俺たちは船着き場に行って乗れる船を探した。
「砂漠の大陸に渡りたいんだが、次の定期便はいつ出るんだ?」
俺は船着き場で船の手入れをしていた男に尋ねた。
「定期便は今のところ出る予定はねえよ」
「どうしてだ?」
「海峡に魔物が出る様になっちまったんだ。既に何隻も船がやられている。魔物が討伐されるまで次の便は出ねえだろうな」
「海の魔物か・・・そいつはどんな魔物なんだ?」
「正体は分からねえ、船が粉々に破壊されて生き残った奴は誰もいねえんだ」
・・・海の魔物か・・・これは、俺達で魔物の討伐をしないといけないって事だよな?
「じゃあ、俺達で魔物を退治してやるよ。討伐のための船を出してくれ」
「お前たちで?って、たった5人でか?バカを言うな。つい先日、50人で構成した討伐隊が全滅したばかりだ。5人じゃどうにもならねえよ。そんな事に船は出せねえな」
「これでもか?」
俺は上級冒険者の冒険者証を取り出して男に見せた。
「なっ、上級冒険者だと?本物か」
「こっちも持ってるよ」
ギルとシアも冒険者証を取り出して見せた。
「さっ、三人もか!ちょっと待ってろ」
男はどこかへ走っていってしまった。
しばらく待っていると、男は誰か偉そうな太ったおっさんを連れて戻ってきた。
「こいつらがそうです」
おっさんに俺達を紹介した。
「おい、冒険者証を見せて見ろ」
俺たちは再び冒険者証をかざした。
一応ヒナとジオも、中級と下級の冒険者証をかざして見せた。
「確かに本物だ。なんでこんなところに上級冒険者が3人も揃ってるんだ」
「海を渡った向こうの大陸からの要請だ。魔物の討伐の依頼を受けている」
「・・・そうか・・・もしかして海の魔物もその影響なのか?」
「それは分からねえけど、依頼の遂行の妨げになるならついでに討伐していくぜ」
「それは助かる・・・俺はこの港の商工会の元締めだ。この件はあらためて港の商工会からの依頼とさせてもらう」
「そういえばこの辺には冒険者ギルドは無いのか?」
「ああ、町はあの有様だ。まともに機能しちゃいねえ。この港は町と独立して運営しているんだが、近くに冒険者ギルドはねえな」
「わかった、ギルドへは事後報告しておく」
一応俺たちは冒険者ギルドに所属しているので、本来こういった依頼をギルドを介さずに受ける訳にはいかない。
ただ今回の様に以来の遂行の最中に派生的に発生した依頼についてはあとでまとめて報告すれば問題ないはずだ。
「そうと決まれば船を手配してもらえるか?」
「もちろんだ。明日には船を用意しよう。早いとこ魔物を片付けてくれ、期待してるぞ」
交渉は成立し、商工会の方で俺たちの今夜の宿を手配してくれた。
「今日はこれからどうするんだい?日没までまだ時間があるが?」
「わたし!海水浴がしたいです!」
ギルの問いかけにヒナが即答した。
「ここは別に観光地じゃねえだろ、海水浴場なんてあるのか?」
俺はヒナに尋ねた。
「さっきあっちの方にきれいな砂浜を見つけましたよ!」
「そもそも水着なんてないだろ?」
「今回海を渡るという話でしたので、こんな事もあろうかと、用意しているんです!」
ヒナが荷物の中から水着を取り出した。
「わたしも一応持ってます」
「シアもか」
「俺もララに持たされている。海に入る時は全裸にならずに、これを付けるように言われていた」
・・・確かにジオは水着が無ければ迷わず全裸になるだろうな。
「ほほう、これはこれは、女性陣の水着姿を拝めるという訳だね?これは泳がない訳にはいかないね!ゲン君」
ギルが妙にやる気になっている。
「まあいいか。魔物討伐の前に息抜きもいいだろう」
「やったあ!早速泳ぎに行きましょう!」
ヒナは大はしゃぎで砂浜へと走っていったのだった。




